ーMdV本社 ミリー島ー
MdVのCEOであるルーク=ストレンベルは、本社ビルの最上階に位置する自身の執務室から、本社のある島に降り立ってくる、巨大な飛空船を呆然と見つめていた。
島にある自社の防衛部隊は、既に殆どが突如来襲したグラディエーターと飛空船の攻撃によって崩壊させられてしまっていた。
海上警備隊は、丁度ジェルト=ケッチの艦隊が近付いている折、警戒と哨戒のために、彼らが来たのと反対方向に集中しており、易々と侵入してきたのだ。
更に、帝国の依頼で、かなりの数のグラディエーターを売り渡していたため、ミリー島を防衛する部隊の所有するグラディエーターの数は少なく、まともに抵抗が出来なかった。
自由連合軍のグラディエーターが先行して島に降り立ち、飛空船を護衛するようにして、本社ビルに砲を向け、威圧してくる。
「なぜ、奴が再び?」
ストレンベルは混乱していた。
自身の醜聞を広めないため、そしてあの場で会社を守るために、あの飛空船を"自由連合軍"に譲った。それで終わったはずだったからだ。
それ以降関わらないと彼は言い、実際に数年間、何事もなかった。
それが、今日、突然、再びストレンベルの目の前に現れたのだ。
ストレンベルの困惑と絶望を他所に、飛空船はしっかりと着陸し、降り立った自由連合軍がそのままミリー島の制圧に取りかかった。
アベルも制圧部隊についていき、数年前に訪れた、MdV CEOの執務室へと向かう。
幾人かの護衛と共に執務室の前へと到着したアベルは、扉をノックする。
「失礼致致します。ストレンベルCEO」
わざとらしく慇懃な態度でアベルは執務室へと足を踏み入れた。
「貴様。何のつもりだ?」
ストレンベルは、開口一番、怒りを顔ににじませながら、アベルに詰問した。
「我々に手出しはしないのではなかったか!?」
つかつかとアベルの方へと詰め寄りながら、ストレンベルは怒りをぶつける。
「貴殿方の醜聞を外に漏らさないとは言いましたが、将来に渡って一切手出ししない、等とは約束していませんよ」
アベルの挑発的な物言いに、我慢の限界を迎えたストレンベルは、魔力を瞬時にアベルに向けて射出した。
だが、数年前と同じく、アベルはそれを避け、ストレンベルを押さえつける。
「不意打ちなら勝てると思いましたか?」
「くそっ!このゴミクズ共め!わが社をどうするつもりだ!」
悔し紛れにストレンベルが叫ぶようにして言った。
「死の商人にゴミクズ呼ばわりはされたくないですな。我々としては、帝国の主要な兵器供給源であり、軍事技術研究の中枢を担うといっても過言ではない貴殿方が邪魔だからですよ。帝国を打倒するにあたって、貴殿達を放置するわけにはいきませんから」
「はじめから、このつもりだったのだな」
アベルの説明を聞き、唇を噛み締め、後悔を滲ませながら、ストレンベルは絞り出すように呟いた。
「当然。帝国の兵器工廠を残しながら戦って勝てると思う程、我々はバカではないのでね」
そう言いながらアベルは、ストレンベルを立たせて、腕を拘束する。
「さて、ここは我らの拠点とさせていただけましょう。帝国軍は海軍を失っていますから、ここはお誂え向きだ」
「......」
ストレンベルはアベルの言葉を背に受けながら、数人の自由連合軍兵士らに連行されてゆくのだった。
MdVは戦争中も、帝国によって認められた独自の軍事力でもって、ミリー島を防衛し、帝国軍として参戦しない代わりに他の交戦国にもミリー島を攻撃しないよう要請していた。
これによって、戦時中でも中立国などとの取引を可能にしていたのだ。
MdVの海軍戦力は、中小国並であり、下手に参戦を誘発するよりも、放置する方が得策であると列強も判断していたのだった。
帝国が貿易によって利益を上げたとしても、それを破壊することによって生じる、MdVと取引をしている国との外交的摩擦や、MdVの軍事力の無力化の必要性などを天秤にかけ、放置していたのだ。
その戦力を構成していた兵器を、MdVの降伏によって、自由連合軍は自らのものとした。
海上警備隊も、島へと戻ってきた頃にはCEOや本社社員を人質に取られた状態であったため降伏せざるを得ず、アベル達は海上戦力をも手にしたのだ。
「これで準備は整った。後は、帝国を墜とすだけだ!」
CEOの執務室であった部屋で、アベルは一人、全てが上手く行った喜びを、噛み締めているのだった。
数日後、MdV本社の陥落は世界中に報じられた。
レオン帝国では衝撃と、総帥の激しい怒りを招き、他の列強諸国では、喝采を招いた。
列強諸国政府も、帝国側で参戦してもおかしくはなかった勢力が崩壊したことを大いに喜んだ。
目の上のたんこぶが、労せずして消え去った。他国との外交的摩擦を生み出すこともなく、勝手に、という言葉そのものかのように突如として消滅したのだ。当然だろう。
こうして、レオン帝国は完全に海上戦力を失った。MdVから購入、もしくは参戦させるといった最終手段で手に入るはずであったものが消え去り、彼らは更に追い詰められることとなった。
ーミリー島 民主国家連合自由連合軍司令部ー
『しかし、よく上手く行ったな』
無線機で、既に既知の事実となったMdV本社制圧を、アベルはリベラシュタットにいるヴェルナーに正式に報告していた。
「ジェルト=ケッチが協力してくれたおかげです。彼らにとっても鬱陶しい存在だったのでしょう、今回は2つ返事で受けてくれましたよ」
『なるほどな。だが、問題はここからだな。ジェルト=ケッチにいる各地の亡命政府を差し置いて、我々を承認してくれるとは考えにくい。しかし、彼らの承認は必要だ』
「ええ、その為にも、まずは戦争における協力を推し進めて、少しずつ距離を縮めていくことに注力するべきかと私は思います」
『おおよそ同意見だ。そして、もう一つ、提案があるんだ。大丈夫だとは思うが、これは万が一にも盗聴されちゃ不味いから、念のため、会って話したい』
「了解。ミリー島の整備が落ち着き次第、直ぐにそちらに戻ります。恐らく三日後くらいにはそちらに行けるようにします」
『ありがとう。では、また』
ヴェルナーとの通信を終えたアベルは、今度は、机に溜まった、ミリー島の整備計画の書類に目を通し始めるのだった。