メイナスブルクは、呆気ない程簡単に落ちた。
主戦力は既に撤退していたのだ。
故に、アベル達は、拍子抜けしつつも、労せずして入城することが出来たのだった。
残っていた守備兵力と交戦し、撃滅。
行政庁舎を抑えたことで、メイナスブルクは自由連合軍の占領下に置くことが出来た。
多くの兵士は、楽に占領出来たとこを喜んでいたが、アベルはそうではなかった。
ウェスティンレオーネの首都であり、レオン帝国西部占領地の重要都市をこうもあっさり手放したことに、危機感すら覚えていた。
恐らく、より奥地に撤退し、防衛線を強固にするために、西部占領地を捨てる決断をしたのだろう。
しかし、ジェルト=ケッチの軍隊をも大陸に呼び込むということに他ならず、この撤退は、時間稼ぎにしかならないはずなのだ。
にも拘らず撤退した。
つまり、時間稼ぎを優先するべき何かがある、ということではないのか?
アベルはそんな底知れぬ不気味さを感じつつも、当初の目的通り、メイナスブルクの市民に向けて、演説を行う。
ウェスティンレオーネの政府が帰還し次第、全領土の返還を行い、占領を終了すること、そして、諸民族の団結こそが、レオン帝国打倒において、最重要であると、訴えたのだ。
ウェスティンレオーネは元々多民族国家であり、アベルの主張は受け入れられやすかった。
それもあり、スムーズに占領は進められた。
同時に、ジェルト=ケッチに亡命しているウェスティンレオーネ政府に帰還を促し、市民の対自由連合軍、民主国家連合への感情を良好なものへと変えるために必要な手段を講じていった。
こうして、一週間もすると、メイナスブルクは完全に安定し、ウェスティンレオーネの領土で、既に自由連合軍によって解放された地域における行政の中心地としての役割を取り戻したのだった。
アベルは、市民から英雄と持ち上げられ、自由連合軍も、帝国が大幅に撤退していたものの、市民にはそれを伏せていたようで、強力なレオン帝国軍を撃ち破り、メイナスブルクを解放した勇敢な軍隊として、人気が高まった。
更に1ヶ月後、ウェスティンレオーネ政府が帰還を発表。
ジェルト=ケッチからは難色を示されたが、ウェスティンレオーネは直ちに独立を取り戻し、ジェルト=ケッチ等他列強の言いなりとなっていた状態を一刻も早く抜け出したいと、帰還を強硬することにしたのだ。
発表からまた1ヶ月後、ウェスティンレオーネの政府代表がメイナスブルクへと帰還する。
市民から歓喜と共に迎えられ、彼らは、自由連合軍が用意した式典会場へと赴いた。
「ウェスティンレオーネ合同帝国政府を代表して、貴卿らの勇気と、奮闘に敬意を、そして祖国を解放し、即時に我々ウェスティンレオーネ合同帝国政府に統治権を返還してくれたことに、最大限の感謝の意を表する」
ウェスティンレオーネの臨時宰相が、式典会場で、民主国家連合の代表として隣席するアベルに、礼を述べた。
「我々は、レオン帝国の侵略と圧政、暴虐に苦しむ全ての人々の味方です。貴国が、この土地に再び帰還し、諸民族を纏め、共存する国家を再建なされたことに、祝意を表します」
2つの政府の代表は固い握手を結ぶ。
聴衆は、熱狂した。
ウェスティンレオーネの領土をレオン帝国から取り戻しただけでなく、元々の政府へと、スムーズに統治権を返還した民主国家連合、ひいてはアベルを完全に彼らは信頼していたのだ。
そして、かつてウェスティンレオーネ政府が亡命する直前、最後まで大陸に残って戦ったかつての宰相の活躍もあり、亡命政府への好感度も高かった。
この両者が手を取り合う光景は、熱狂を産み出すには十分であったのだ。
そして、ウェスティンレオーネ政府は、発表する。
ウェスティンレオーネの世論を完全に味方につけ、下手をすればウェスティンレオーネ政府よりも支持が高まっている民主国家連合の要望に応えた。応えざるを得なかったのだ。
『ウェスティンレオーネ合同帝国政府が民主国家連合を承認』
そのニュースは、ウェスティンレオーネ合同帝国帰還の報から僅か1日で流れ、多くの衝撃を生んだ。
世界で初めて民主国家連合を承認した国が、曲がりなりにも列強とされている国であったからだ。
当然、民主国家連合が主張する領土を支配していた他の亡命政府はウェスティンレオーネを非難したが、意味はなかった。
領土も軍もない亡命政府達の味方を、ジェルト=ケッチはしなかった。
むしろ、多くの市民の歓迎を受け、高い支持と共に国土を取り戻したウェスティンレオーネとの関係を優先するべきだったからだ。
殆どウェスティンレオーネの判断を黙認する形となり、ジェルト=ケッチが無言を貫いた結果、いくつかの反レオンの国家が承認を直ぐに発表。
一気に国際社会の舞台へと、アベル達民主国家連合は駆け上がっていった。
「上手くいったな」
メイナスブルクにて、ウェスティンレオーネ首脳との会談を行う為にやって来たヴェルナーは、アベルとメイナスブルクに臨時で設けられた大使館にて話していた。
「トントン拍子でしたね。ジェルト=ケッチもだんまりで、理想的です」
「だが、ジェルト=ケッチは裏では、他国に承認しないよう圧力をかけているようだ。承認のための会合を申し入れていた国が幾つか話を白紙に戻してきた」
「まあそりゃ、自分達が利権を握っていた土地が失われようとしているんだ。そう来るのは当然です。だが、表向き黙っているというだけで、随分やりやすくなります」
それよりも、とアベルは話題を変える。
「ここから、我々は暫く停滞を味わうことになるかもしれません」
アベルの言に、ヴェルナーは驚く。
「君の分析によれば、レオン帝国は何やら時間稼ぎをしようとしているって話だったな」
「ええ、それが何かは分かりませんが、多くの戦力を、本土へと集中させ、全力で守りに入られると、さすがに突破は厳しいです」
「だから停滞する、と?」
「はい。故に、戦略の練り直しが必要だと思います」
アベルの説明を聞き、ヴェルナーは頷いた。
「そうだな。君の懸念が当たれば、まず間違いなく今の戦略では破綻する」
こうして、二人は新たなプランの協議を始めるのだった。
そして、アベルの懸念は当たる。
レオン帝国は各占領地の多くを捨て、本土へと戦力を集中させ始めたのだ。
そうして形成された強固な防衛線によって、北方のアグロムノイ、ヨアヒムの軍、民主国家連合、全ての戦線で、動きが無くなったのだ。
どうにかヨアヒムの軍と民主国家連合は僅かな道路で合流を果たしたが、それ以上の動きはなく、戦争は再び、長期化の様相へと戻っていった。