メイナスブルクが民主国家連合によって解放された後、戦線は全てに渡って膠着した。
レオン帝国は、持てる全てを尽くして、アグロムノイ軍、民主国家連合、大陸に再び軍を派遣したジェルト=ケッチ連合王国、カルメリア連合の軍を押し止めていた。
備蓄していた資源から生産されるグラディエーターをはじめとする兵器の活躍によって、圧倒的不利な状況でも、本土へと侵攻を抑止することに成功していたのだ。
それでも、最終的にレオン帝国が敗北するであろうことは誰の目にも明らかであった。
まだ数年時間はかかるだろうが、確実に、レオン帝国の命運が付きようとしていると、殆どの国家は判断していた。
故に、戦後に向けて、各国は動き始めるのだった。
ーカルメリア連合 首都 ニュージェラルニアー
カルメリアの大統領が閣議の最中に放った一言は、閣僚達を困惑させていた。
「閣下。申し訳ありせまん。もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?」
閣僚の言葉に、まだ若々しさのある大統領は、頷き、口を開いた。
「カルメリア連合は、民主国家連合を承認し、同盟関係を結ぶべきだと考えている」
カルメリア連合は、民主国家連合が領土を主張している地域の亡命政府と同盟関係にあり、それら地域に大きな利権を有しているジェルト=ケッチ連合王国と同盟を結んでいる。そんな状況であるにも拘らず、民主国家連合と協力を深めるということは、世界最大の植民地を有する大国との対立を産む可能性が高まってしまう。
だから、閣僚達は驚いていた。
大統領が、そんなことも分からない人ではない、と知っているからこそ、理解出来なかったのだ。
「何故、民主国家連合と?ジェルト=ケッチと対立してまで承認、ましてや同盟を結ぶメリットなどないはずです」
そう国防長官が、諭す様に発言する。
「君たちは、戦後もジェルト=ケッチが世界帝国であり続けると考えているのかね?」
大統領は、余裕のある笑みを浮かべながら、国防長官に尋ね返した。
「世界最大の植民地帝国です。資源も揃い、経済力も凄まじい。凋落するなど考えられませんな」
「今のまま、ならね」
「と、申しますと?」
国防長官や他の閣僚は、まだ不信感を抱きながらも、大統領の自信に溢れた態度に、興味をひかれていた。
「まず、かの国は、今回の大戦前から経済不況に苦しんでいた。そして、植民地では独立への欲求が高まってもいる。そこに、この大戦だ。レオン帝国に本土を爆撃され、本土の経済は崩壊寸前、工業力も激減している。そして、植民地から人員や金を確保していたわけだが、これは大戦が終わった後、植民地が独立を要求する大きな根拠となるだろう。更に、負債の大きさと元からの不況、海軍こそ健在だが、陸上兵力は大きく磨耗した。衰退の兆しはそこかしこにある」
「ですが、植民地を支配するくらいの武力は健在です」
それぐらいのことは分かっている。とでも言いたげな様子で国防長官は反論する。
「そうだな。だが、国民の士気はどうなるだろう?今回は防衛戦争であるし、敵がはっきりしている。故に、士気は高いが、植民地の武力弾圧に、どれ程国民が賛同するだろうか。それも、本土が壊滅的打撃を受けた戦争の直後に」
それに、と大統領は付け足す。
「ジェルト=ケッチ内では革命派が勢力を伸ばしているという情報もある。国内の対処にも終われることになるだろう」
なるほど確かに凋落の可能性はある。と国防長官は納得していた。
「ですが、民主国家連合と、同盟まで組む必要はないのでは?承認だけでも充分でしょう」
そこが気がかりであった。
ジェルト=ケッチと袂を別ち、彼らを孤立させてしまえば、それこそジェルト=ケッチ内での革命勢力に勢いを与えかねない。
故に、民主国家連合によりすぎるのは危険なのではないか、と国防長官は考えていた。
「アグロムノイ連邦は、自身が占領した土地に、革命政府を次々建てていることを知っているだろう?」
そう、アグロムノイ連邦は、レオン帝国から領土を奪い返し、元は別の国であった地域へと既に進出していたのだが、そこに、自国政府の傀儡である革命政府を次々に樹立させ、勢力圏を広げていたのだ。
「あの国は、戦後、我々と対峙する強大な敵となるだろう。その際には、直接国境を接し、更には彼らが領土を主張している地域にも傀儡政権が建てられている以上、民主国家連合もアグロムノイと対峙せざるを得なくなる。衰退するであろうジェルト=ケッチよりも余程有用な同盟国となるだろう」
大統領の予測、それの筋が通っていることは、閣僚達誰もが認めざるを得なかった。
だが、あくまでも推測混じり、確定的ではない。そのギャルブルに伸るか反るか、まだ多くの閣僚には迷いがあった。
大統領の次の言葉までは。
「そして、尤も重要な点。戦前まではジェルト=ケッチ、アグロムノイ、ウェスティンレオーネが市場を支配していた民主国家連合の地域に、我々が進出することが出来るということだ。それも独占的に進出できるやもしれない。これだけでも、充分過ぎるほどではないかね?」
その通りだった。戦時中にも関わらず、大量生産は続き、物に溢れつつあるカルメリア連合の製品を売り付ける場所、それも広大で、かなりの購買力が保障された土地が、手に入るということは、願ってもないことだったからだ。
こうして、カルメリア連合の方針は決まった。
上手く民主国家連合を経済支配下に置き、軍事面では前線基地として利用する。
対面上は、そんな本音はひた隠し、志同じくする同志との協調を掲げて、協力の誘いを民主国家連合に投げ掛けるのであった。
もう一つの重要情報と共に。