Unser Kampf   作:ライト鯖

92 / 102
完成

 

 カルメリア連合の政府方針が決まった頃、同国で、魔導研究の権威であるジェームス・スミスが、研究を完成させていた。

ついに、魔力を長期間に渡って貯蔵する技術を発見したのだ。

今まで、魔力を長期間貯蔵する方法が無かったが故に、人間をそのまま燃料として薪の様に扱ってきたレオン帝国を除き、魔力を大量消費する兵器を作れずにいた。

しかし、この技術があればレオンによる独占はもう終わる。

 魔力を多く持つ人に、少しずつ魔力を分けてもらい、それを貯蔵することで、人間を燃料とすることなく、大量の魔力消費が可能となるからだ。

スミスの報告を受け、カルメリア連合政府は、自国内で、魔力保持量が大きい人々を何百人か集め、実験を行った。

彼らに少しずつ魔力を分けてもらい、貯蔵。

 

 それを、帝国から鹵獲し、一部改造したグラディエーターに燃料として設置し、問題なく稼働するかを確かめた。

 

 そして、それは成功裏に終わる。

人間を燃料として詰め込まずとも、魔力消費が莫大なグラディエーターを稼働させることに成功したカルメリア連合政府は、直ちに同盟国へとこれを通達。

民主国家連合にもその情報は伝えられた。

更に、カルメリア連合政府は、民主国家連合へ秘密裏にこの技術を供与したのだ。

 

―民主国家連合 臨時首都 リベラシュタット―

 

「どう思う?」

ヴェルナーとアベルは、カルメリアからの申し出について、協議していた。

「こんな機密を何の代償もなく我々に伝えてくるのは不自然ですね..」

「ああ、何か狙いがあるのだろうが、一体なんだと言うのだ..」

二人は暫く唸っていたが、やがて、ほぼ同時に口を動かした。

 

「経済支配の布石?」

「戦後、我々を前線に?」

二人は同時に、別の答えを導きだした。

顔を見合わせた彼らは、頷き合い、ヴェルナーがまず口を開いた。

「戦後、我々が上手く独立を維持できれば、今までは他の列強が支配していた土地に、巨大な空白地が産まれる。そこに漬け込む布石なのではないか?今の内に恩を売り、優先的に経済進出を可能にすための」

なるほど。とアベルは頷き、彼も説明を始めた。

「カルメリアとアグロムノイのイデオロギー対立、アグロムノイが傀儡政権を制圧地に次々建てていること、そして、その地域には、我々民主国家連合に所属している民族の土地が幾つかあることを踏まえると、我々を対立の最前線にしようとしているのでは?と私は考えました」

「それもありうるな」

ヴェルナーが頷く。

アベルはまた少し考え、こう言った。

「もしかしたら、両方かもしれません」

「両方?」

「確か、カルメリアは最近になって国交樹立にも前向きになっていたのでしたよね?」

「ああ。少し前まではのらりくらり躱されていたのだが、突然話が進んでな...」

 

 そう話したヴェルナーも、ハッと顔を上げた。

「ええ。国交樹立と機密の提供、これを補って余りあるリターンがあると考えているのだとしたら、辻褄が合います」

二人は、カルメリアの意図に気付いた。

だが、気付いたからといって、断ることも出来ない。

大国が後ろ楯となれば、国際的な地位の安定に資するだろう。

更に、カルメリアの提示した機密情報は、アベルらに取って、喉から手が出る程欲しいものでもある。

リスクを承知で、受け入れざるを得ないことも、二人は分かっていた。

「彼らに経済支配だけはされないように、細心の注意を払わねばならんな..」

「そうですね。今は、レオン帝国の打倒が最優先ですし、致し方ありません」

そして、数日後、カルメリアからの"美味しい話"が、最高評議会にかけられ、賛成多数で採択された。

これによって、カルメリアと民主国家連合は国交樹立に向けた交渉を更に加速させ、レオン帝国打倒の為に重要な新技術、魔力貯蔵の技術が、民主国家連合に伝えられることとなる。

 

10ヶ月後

 

 長らく停滞していた前線が、ついに動き出す時が来た。

カルメリアから譲られた技術でもって、民主国家連合は、制圧下にある地域の住民から少しずつ魔力を、寄付の形で集め、大量の燃料を確保していた。

 更に、国交をカルメリアと樹立し、それと共に、多くのカルメリア産の新型グラディエーター、とはいっても、燃料の仕組みが新技術に合わせられたに過ぎないが、のレンドリースを受け、強力な戦闘部隊を幾つも作り上げていたのだった。

 こうして、人間を燃料とすることなく、強力な魔導兵器を扱うことが出来るようになった連合国側は、レオン帝国唯一のアドバンテージを打ち消すことに成功した。

つまり、最早レオン帝国の消滅は、時間の問題であった。

 

―民主国家連合 最前線の街―

 

「最早、レオン帝国の降伏は時間の問題である。我々自由連合軍、民主国家連合のこれかの目的は、何処よりも早く、帝国を制圧することにある。列強、特にアグロムノイに領土を取られるわけにはいかない。諸君らの奮戦に期待する」

アベルは、最後の出撃として、式典を開き兵士らに激励を飛ばした。

もうすぐ戦いが終わるという希望と、祖国を取り戻すためという義勇、この二つが、完全に一致する状況となったのだ。

それを彼らに自覚させ、士気を上げるためだった。

だが、そんな式典は不要だったようだ。

 

「うおおおおお!!!自由連合軍万歳!民主国家連合万歳!」

彼らの士気は充分過ぎるほどに高かった。

「ウェスティンレオーネとジェルト=ケッチは、まだ半分程残るウェスティンレオーネ領の解放にかかりきりだ。この隙に我々が一挙にレオン帝国帝都を制圧し、我々の国家を完成させる」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せ、アベルは拳を突き上げた。

「行くぞ!我らの勝利は目前だ!」

 

―レオン帝国 リーベ前線基地―

 

 この基地は、帝国本土の手前にある最後の防衛線を指揮する司令部となっている基地だ。

ここを突破されると、レオン帝国はついに、敵勢力の本土への侵入を許すこととなってしまう。

故に、死守が厳命されていた。

だが、既に基地は壊滅に近かった。

レオン帝国唯一のアドバンテージであったグラディエーターが、魔導技術が、連合軍の技術革新によって失われたことによって、圧倒的威力を誇ったグラディエーターの部隊も意味をなさなくなってしまったからだ。

 

 連合軍も同じものを用意出来るようになった以上、資源、工業力、共に余力のある連合軍の側が優勢になるのは必然である。

そうして、ほんの数ヶ月前とは打って代わった、絶望的な防衛戦を強いられた末に、レオン帝国軍は一部を残して全滅。残りも逃亡か、降伏を選んだ。

こうして、レオン帝国本土の目と鼻の先に、民主国家連合は、前線基地を獲得し、レオン帝国はその広大な本土を、敵にさらけ出すこととなったのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。