ーヨアヒム=ドーペルト軍司令部ー
「以上が報告となります」
民主国家連合から派遣されてきた報告官からの報告を聞き終えたヨアヒムは、副官のルーカス=ウェーバーに、報告官を送るように命じ、ルーカスと報告官は、部屋を去っていった。
そこに、もう一人部屋にいた参謀が、ヨアヒムと二人になったのを見計らって、不満を漏らした。
「ヨアヒム将軍。良いのですか?このままで。民主国家連合に付き従えば、我が国は連合国家の一地域となってしまいます」
それを聞いたヨアヒムは溜め息をついた。
「何度も言っているだろう。現状、オストレオンという国を生き残らせるにはこれしかないのだ。報告官から聞いたろう?ついにレオン帝国は、唯一のアドバンテージを失ってしまった。今までは、帝国が敗北した場合に、総帥に反抗した帝国軍人もいる、というアリバイ作り程度に戦ってきたが、それも終わりだ。総帥を打倒するしか、オストレオンを生存させる方法はないのだ。奴らに従わず済む方法があるなら当に其方の手段をとっているさ」
ヨアヒムは、そう苦々しげに、参謀へ説諭するのだった。
―レオン帝国 リーベ前線基地近郊―
「くそっ!くそっ!」
レオン帝国軍グラディエーターのエースパイロットであるシュヴァルツ=フォン=クルシュヴィッツは、悪態を付くことしか出来ずにいた。
今まで散々蹂躙して来た敵が、彼と同じ土俵に上がり、その上数の面でも圧倒して襲いかかってきていたからだ。
仲間のグラディエーターは、次々と、敵のグラディエーターの群れに落とされていき、今や空を駆けている帝国軍の紋章は、彼のものだけだった。
「くそっ!劣等どもめ!我々の技術を盗み、こんな...!」
彼の眼下には、民主国家連合のグラディエーター部隊の攻撃によって壊滅した軍勢や墜落した航空機、グラディエーターの残骸が広がっていた。
「あはははは!!」
怒りと、絶望に覆われた彼は、ふっきれたように笑いだし、グラディエーターの操縦桿を握りしめ、機体を反転させた。
後ろを追ってきていた敵のグラディエーターと向かい合う形になるが早いか、彼は、魔力砲を発射した。
直撃。
彼を追ってきていたグラディエーターはその場で大きな爆発となった。
しかし、まだまだ敵はいる。
何機もの機体が、次々に彼の方へと向かってくる。
クルシュヴィッツは、なおも笑いながら、敵に向かっていくのだった。
地上では、グラディエーターによって撹乱されたレオン帝国の軍勢が、間髪入れずに襲いかかってきた民主国家連合の地上軍の攻撃を受けていた。
カルメリアからの支援、レオン帝国の兵器の蘆角。民衆からの支援。これらによって大きな兵力を確保している民主国家連合に、レオン帝国は完全に形勢不利となっていたのだ。
「反乱軍ごときに..!」
司令官は、そう恨み言を吐くが、もはや、ごときなどでないことは、誰の目にも明らかである。
体勢を建て直しきれない帝国軍に、容赦のない攻撃が加わり、戦線は崩壊していた。
しかし、司令官は撤退を命じることは出来なかった。
死守命令が出ていたのだ。
撤退したところで、処刑されてしまう。
もはや、勝ち目のないまま戦い続けるしかなかった。
砲弾の音が、彼の耳に届く。
ああ、当たるな。
そう司令官が直感した直後、彼の意識は途絶えた。
―民主国家連合 リーベ前線基地―
「帝都に飛空船で乗り込むですって!?」
最終攻勢と言うことで、アベルらと合流していたエミリアが驚いた声を上げた。
「ああ、撹乱としてこれ以上ないだろう?」
アベルは事も無げに言ってのける。
「ですが、それは...」
「うん。危険な作戦になる。飛空船は間違いなくおじゃんになるだろうね」
「乗員の命も...」
アベルは、それに分かっているという様に頷いた。
「だから、私と志願者だけで行く」
「貴方は今、自由連合軍の司令官なんですよ!?」
エミリアは更に驚いたようだった。
「だからといって、死の可能性が高い場所に、志願者とは言え命じて行かせるだけ、なんてことは出来ない。それをしないからこそ、私はここまでこの軍を纏めてこれたんだ」
アベルは、ただ冷静に、自身の立ち位置を踏まえて決断していたのだ。
実際、多くの組織を統合し、その軍事のトップに立っている以上、何か支持される行動が必要となってくる。
アベルは、常に自身も戦闘に参加することで、それを示してきた。
それを、捨て身に近い撹乱作戦に限り、他者を行かせるだけで、自分は安全な後方に、などということをしてしまえば、この大事な時期に、軍の士気に影響を及ぼしかねない。
「だから、行かなくちゃならないんだ」
アベルの決意を変えられそうにもないと悟ったエミリアは、少し寂しげな表情を浮かべるだけで、もう反論はしなかった。
「生きて帰ってきてくださいね」
「死ぬつもりはさらさらないさ。私は魔力もかなりあるしね。目的を達成したら、逃げるつもりだよ」
心配するなと、エミリアの肩を叩き、アベルは笑った。
「それに、まだ先のことさ。今は、帝都近郊にたどり着くためにも、目の前の前線を突破しなくちゃならん」
リーベ前線基地近辺の戦線は、最早民主国家連合の勝利が疑い様のない様相となっていた。
最早、帝国軍はバラバラに散発的な抵抗をしてくるのみで、完全敗北を喫していた。
そう、アベルの言う前線とは、リーベ前線基地のことではない。
次なる帝国の防衛線、帝国本土内に作られた最終防衛線とも呼べる戦線へと彼らの目は向けられていた。
さすがに、本土に侵入された以上、兵力も出し惜しみすることなく展開されており、今まで以上に厄介な戦いになることが予想されている。
「さて、ここを早く突破せねばならんが、果たして上手く行くかな」
さすがのアベルも、不安を隠しきれずにいる。
「敵の士気も、もう奴らの本土である以上、今までの比にはならないだろう。だが、裏を返せば、もう少しで勝てるということだ」
やるぞ。とアベルは気合いを入れ直し、エミリアに向き直った。
「勝つぞ。絶対に」
「分かっています。頑張りましょう」
アベルとエミリアは頷き会い、各々の持ち場へと向かうのだった。