Unser Kampf   作:ライト鯖

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帝都決戦

 

 レオン帝国の政治機能を停止させるというアベルの目論見は上手く行かなかった。

アルマン=フォン=ケンプが事前に政府職員の多くを別の場所へと退避させていたため、差程政府機関にダメージは与えられなかったのだ。

だが、それでも、帝都市民の衝撃は凄まじいものであった。

 

彼らの政治の中心地であったロイヒテンダー宮が反乱勢力の手によって崩壊した事は、心理的ダメージとして最大級のものだったからだ。

ケンプが想定していたよりも、遥かに巨大な衝撃を受けた市民は、総帥不在の噂とロイヒテンダー宮が崩壊した事実が組み合わせられたことで生まれた、総帥死亡の噂にも踊らされ始めてしまった。結果的には、帝都の騒乱によって、政府機関の停止と変わらない程の混乱が生み出されたのである。

 

そして、自由連合軍は、ついに帝都に向けて進軍を開始した。

カルメリアからの支援と、鹵獲によって充実した装備を携え、解放した地域で新たに志願し、軍に加わった者達も含めた大軍が、隊列を組んで、前進する。彼らの前進と共に、レオン帝国は瓦解していく。

 

ついに、彼らは帝都の目前へと迫った。 

帝国軍は、最後の抵抗を試み、可能な限りありったけの兵力を帝都へと集結させていた。

とはいっても、全盛期の帝国軍からすれば、問題にならないほどの数でしかなかったが。

歩兵二個師団、半分も動かない戦車部隊二つ、僅かに残ったグラディエーターが30機程、そしてなけなしの航空機、後は親衛隊師団が二個。それだけの戦力で、彼らは最後の防衛を試みたのだ。

対する自由連合軍は、歩兵五個師団、戦車部隊一個、最新鋭のグラディエーターが50数機、航空機も40機、更に援軍も続々と帝都に迫りつつある、といった状況である。

趨勢は決ししていた。

後は、どれだけ早く、帝都を陥落させられるかの戦いであった。

 

先ずは、自由連合軍の航空機が帝都を襲撃し、帝国のグラディエーターや航空機と戦闘。

グラディエーターの参加を確認した自由連合軍もグラディエーターを投入し、空での大規模空戦から帝都攻防戦はスタートした。

 

当初は純粋に数の力で押しきれるかに思われたが、それを分かっていたレオン帝国軍が、市民を国家防衛隊として素人とは言え多くの民衆を軍として徴集し始めた為、数の上では同等、いやレオン帝国の優勢となりかねない情勢となっていった。

それ故に、自由連合軍も戦略の転換を迫られる。

自由連合軍側にも素人は多いのだ、数の上で帝国軍に上回られると、劣勢へと転じかねない。

それに、他国が占領地を広げる前にレオン帝国を降伏へと追い込まねばならないのだ、悠長に攻略している時間はなかった。

 

「私も出る」

周囲の制止を押しきって、アベルは、自身の高魔力を活かすために前線へと出た。

彼は、次々とグラディエーターで敵軍を撃滅していき、凄まじい活躍を見せる。

だが、それでもまだまだ足りない。

援軍が来れば問題はないだろうが、可能な限りスピーディーに占領する必要があるのだ。

そこで、彼は賭けに出ることとした。

 

「志願者は着いてこい。グラディエーター部隊で、敵司令部を制圧する」

既に司令部の位置は割れていた。

旧首相官邸、総帥がロイヒテンダー宮に住むようになってから使われていなかった、かつての行政府である。

「あそこにしか宮の他には地下施設がない。この状況で利用するなら官邸だろう」

密偵からの情報と、その分析によって、アベルは標的を官邸へと絞ったのだ。

そして、アベル含め五機のグラディエーターが、首相官邸へと向かう。

 

道中、親衛隊や国防軍の戦車部隊と交戦したが、奇襲によって一機が軽い損傷を負った以外はほぼ無傷で突破した。

だが、官邸の目前で、帝国のグラディエーター四機が待ち構えていた。

「やはりここに司令部があるようだな」

厳重な警戒に、アベルは確信する。

「行くぞ!」

彼はグラディエーターを直進させ、敵と真っ向勝負を挑むかのような体勢を見せる。

それに、横一列に並び道を塞いでいた四機の内、右から二番目の一機が乗ってきた。

「よし」

帝国軍の一機が飛び出た瞬間、アベルは、直進から右向きの斜行へと切り替える。

そして、まだ様子見をしていた右端の機体との間に自身の機体を滑り込ませる。

飛び出していた機体は、思わずといった様子で、反転の動きを試みるが、ワンテンポ遅れてしまったことで、アベルに先制で魔力砲を撃ち込まれてしまう。

突然割り込まれた右端の機体は、突然のことに、混乱したためか、動き出しこそ遅れたが、即座に反撃を試みた。

だが、アベルは、割り込んだままのスピードを落とさずに、一機分空いてしまった隙間の方、左への斜行に切り替え、彼らの後背へと通り抜けた。そのせいで、右端の機体の反撃は、アベルに攻撃され、動きを止めていたアベルに向かって飛び出した彼らの仲間へと当たってしまうのだった。

アベルに後方を取られる形となった左側を守っていた機体も、慌てて方向転換をしようとしたが、その隙に一機はアベルに、もう一機は、アベルの動きによって彼らの注意から消えてしまっていたアベルの仲間によって破壊され、残る右端の機体も、別のアベルの仲間によって撃破された。

 

こうして、一機の損失もなく、官邸目前の防衛戦力を突破したアベル達は、勢いそのまま、首相官邸へと突入するのだった。

 

-レオン帝国 首相官邸 地下-

 

 地下にも響く、ドゴンという鈍いが、大きな音によって、ケンプらは官邸に自由連合軍が突入してきたことを悟った。

「ここまでか」

護衛らと共に地下に逃げ込んではいたが、時間の問題だろうことは明らかだった。

 

「総帥からの指示は?」

どうにか連絡が繋がっていたため、帝国としての形式を貫くべく、彼は総帥に指示を仰ぎ続けてきた。

余り返事は返ってこず、返ってきても、殆どが「お前に任せる」であったため、大した期待はしていなかったが、最後まで、忠義を尽くすという小さなプライドを満足させるためにも、ケンプは総帥からの指示を待った。

返事は、返ってきた。彼が予想していたよりも遥かに早く。内容は、更に彼を驚かせるものだった。

果たしてこれは、気休めなのだろうか。ケンプはそう疑った。だが、次々と領土拡大を成功させていた頃の、覇気に溢れた総帥を思い出し、僅かに、期待したくもなっていた。

気休めであれ、どうであれ、この言葉があったなら、我々の抵抗も無駄では無かった。と胸を張ることが出来る。ケンプはそう考えることにした。

 

「諸君。総帥閣下からの最後の命令である。今より、全文を代読する」

 

『勇敢なる兵士諸君。そして、帝都防衛の任に当たっている偉大なる将官諸君。君たちの奮戦に感謝する。君たちの勇気ある、そして頑強なる抵抗によって、我々レオン帝国指導部は、この戦争で最終的な勝利を収めるために必要な時間を稼ぐことが出来た。諸君らの奮戦には、必ず厚く報いるであろう。そして、これが私から諸君らへの最後の命令である。もう少し時間を稼いでくれ。一秒でも、二秒でも猶予が出来れば、それだけ我らの勝利は確実なものとなる。帝国万歳』

 

総帥から、これだけの長文が返ってきたこと自体が始めてであり、それ自体が、彼らを興奮させた。内容は言わずもがな。誰もが気休めだとは思っていたが、予想外のその返信と命令に、彼らの士気は、最盛期の如く再び沸き上がっていたのだ。

 

「最後の抵抗だ」 

 

-レオン帝国 首相官邸 地上階-

 

「地上部分の制圧完了!」

「よし。援軍が間もなく到着するからそれを待ってそのまま地下に突入する」

グラディエーターで官邸周辺を制圧し、アベルの魔力による機動力でもって、官邸の地上部分を完全制圧した彼らは、地下への突入準備を着々と整えていた。

 

五分もすると、連絡を受けて周辺にいた部隊が官邸に合流し、一個小隊とアベル達五人の計45人が地下への入り口に集結した。

「さあ、行くぞ。目標は司令官だ。情報によればアルマン=フォン=ケンプがいるはず。奴を拘束し、帝都の軍に降伏の宣言を出させる。いいな?可能な限り殺すなよ」

「はっ!」

全員が、二列縦隊となり、地下へと続く階段を駆け降りていく。

かなり曲がりくねっており、少し降りると、直ぐに踊り場が現れた。

そこを、勢いそのまま曲がってしまった先頭の兵士の側頭部が、砕け散る。

帝国軍が、待ち伏せしていたのだ。

後ろにいた者は、即座に踏みとどまり、一旦後退し、壁を盾にし、隠れた。

 

「あくまでも抵抗するつもりか」

合流してきた小隊の兵士が、迷いなく閃光弾を踊り場の向こうへと投げ入れる。

光。

反応が遅れた自由連合軍の兵士も何人か目をやられてしまったが、これを利用し、踊り場に陣取っていた兵士を上手く倒し、彼らは先へと進むことが出来た。

その後は、階段での待ち伏せはなく、レオン帝国軍の潜む、地下壕へと突入する。

 

そこでは、待ち伏せがあった。

柱や扉の影から次々と銃弾が飛んでくる。

自由連合軍は、通路に置いてある棚や壁から突き出た柱に身を隠しながら、応戦するも、予想以上の激しい抵抗に、足止めを受けてしまう。

「ここまで全力でくるとは...」

この状況を打開するために、アベルは魔法を撃ち込もうかと考えたが、地下が崩れる危険性を考えると、易々と取れる手段ではなかった。

だが、敵は容赦しない。

ここで埋もれる覚悟があるのだろう。

応戦する自由連合軍の足元に、幾つかの手榴弾が、転がり込んできたのだ。

「伏せ...」

アベルが命じるよりも早く、それは炸裂し、通路を大きくえぐった。

煙が晴れると、表面のコンクリート壁は消し飛び、地下を支えている内側の武骨なコンクリートを露出させ、そこに血渋きや肉片が散らばっていた。

 

勝利条件が違う。

この攻撃によって、アベルはここの帝国軍と自分達の目指すところが違うことを確信した。

 

我々は、制圧と捕縛。奴等は、撃退ではなく、時間稼ぎ。

地下を崩しかねない、少なくとも地上へと繋がる経路を破壊しかてない、つまり、死を恐れない今の攻撃、間違いない。

「言ってる場合ではないな」

 

悠長なことはしていられない、とアベルは、魔法を使うことを決意した。

勿論威力は絞ってだが、相手が地下を崩してでも戦うつもりなのであれば、自分達だげか気を遣っても致し方ない。

銃弾をより多く飛ばしてきている扉を見極め、其方に向かって魔力を放出する。

轟音と共に、銃声が止む。

 

「崩れずにすんだか」

天井からパラパラと小さな瓦礫は落ちているようだったが、出力の調整は概ね上手くいったようだった。

しかし、まだ全ての敵が無力化されたわけではない。

次々と銃弾が、再び自由連合軍に襲いかかる。

だが、先程よりも勢いは確かに衰えている。

行ける。

そう確信したアベルは再び魔力を放つ。

 

 

「ここまでか..」

徐々に自陣の兵士が減っていくことを、視覚的にも、銃声の数によって、聴覚からも理解せざるを得なかったケンプは、しかし、覚悟を決めていたことで、落ち着き払っていた。

「諸君。恐らく奴等の狙いは、私を捕え、私の名で帝都の軍を降伏させるところにあるのだろう。だが、そうはさせん。私は帝国の勝利を信じている。いや、総帥閣下を信ずることにすると決めた。故に、すまないが、一足先に逝かせてもらう」

ケンプは自身のこめかみに銃口を当てながら、周囲にいた兵らにそう言い残した。

 

五分後、その部屋に、ついに自由連合軍が突入する。

だが、そこには一人の兵士以外、誰一人として息のある者はいなかった。

「....遅かったか」

アベルが拳を握りしめたのをみて、生き残りの兵士は、愉快そうに笑った。

「我が帝国は、貴様ら劣等の思い通りになどならん。絶対に!貴様らは、帝都に残る全ての兵士を相手とせねばならんのだ!!」

一頻り高笑いをした彼は、ぎゅっと歯を噛む仕草をした後、苦しみ出した。

急いで何人かの自由連合軍兵士が彼に駆け寄り、毒を体内に行かせないよう首を絞めたが、遅く、そのまま死んでしまった。

 

「やられましたな。地下司令部の生き残りは0です」

部下の報告に、アベルは思わず、苦虫を噛み潰したような顔をするのだった。

 

そうして、地上へと戻った彼らに、慌てた様子の連絡兵が驚きの報告をもたらした。

「帝国政府の、だ、大臣から降伏の申し出が!」

「何!?」

願ってもないことだった。軍人、将官でない以上、反発する兵士や親衛隊は当然出てくるだろうが、帝都にいる帝国軍のかなりの戦力を削れることは間違いない。

「誰だ?どの大臣からの申し出だ?」

「財務大臣、フィンツェンツ=フォン=ノーブルです」

ノーブル。アベルは脳内で瞬時に思考を巡らせる。

そうだ。ヨアヒムからの報告にあった、こちら側に引き込んだ政治家。

ニヤリと、アベルは笑った。

やはり、手を組んでおいて良かった。

「直ぐにお会いしよう。彼から降伏の宣言を出してもらい、此方の完全な優勢を確立する」

 

帝暦1934年8月3日

レオン帝国の帝都は、民主国家連合の手に堕ちた。

その後も、散発的な抵抗は続くが、大勢は、帝都に残る唯一の高位の政治家である財務大臣ノーブルの降伏宣言によって、決したのだった。

 

 

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