兄妹がいれば、妹と2人だけのこともあるかもしれないでしょ?
「メリー」
「クリスマース!」
何故かキャンドルとロウソクの光だけの中、テンションの差が激しすぎる俺と叶恵の声が虚しく響き、手に持ったクラッカーを鳴らすがそれも同時に破裂音を出してちょっと豪華な紙吹雪が起きるだけで部屋は静かになってしまう。
「お兄ちゃんノリ悪い」
「この状況でどうハイテンションでいろと」
不機嫌に頬を膨らませる叶恵の対面に座る俺はクリスマスツリーぐらいしか用意されてない部屋を見回してから頑張ってテンションを上げようとする叶恵につっこむ。
「やよいも他のみんなも用事あるって言うから……せめてお兄ちゃんと楽しみたいんだよ!」
「気持ちはわかるけど……」
去年はAfterglow、ブルームーン、SunsetMemoriesの3バンドによるクリスマスパーティーがあった。
それに対し今年はAfterglowは商店街のイベントで全員が忙しく、柚月達も各々用事があり誰も誘えず、うちのメンバーもバイトやら商店街のイベントに巻き込まれたりでスケジュールが見事に合わなかった。
そういう経緯があり手の空いてる叶恵と俺、つまりは兄妹だけでクリスマスを過ごすことに。
商店街のイベントとやらに参加すればよかったのだが、何やら複雑な参加条件が定められていたためこうやって寂しくなっている。
「お兄ちゃんクリスマスらしいこと!」
「ギターしか出来ない」
「ギターセッション……はいつもやってるし……」
部屋の雰囲気作りのためにつけていたロウソクの火が消え、代わりに叶恵が電気をつけた。
クリスマスパーティーの時みたいな明るい雰囲気が出せるようなものを準備してないせいでやることに詰まってしまう。
「……仕方ない、今度のお楽しみにしようと思ったけど」
「えっ、何かあるの?」
どう見ても退屈し始めた叶恵の為にリビングの隅に隠しておいた紙袋を机の上に置く。
本当は今日出来なかった代わりにやる予定だったプレゼント交換会のために用意していた物だけど、クリスマスプレゼントであることに変わりは無いから叶恵にあげよう。
「これ……髪留め?」
「そう、ちゃんと冬仕様の装飾付き」
誰に行き届いても大丈夫なように小一時間悩んだ。
その結果、クリスマスらしさをおまけしてみようとなり、選ばれたのは髪留めだった。
「ほんとだ、雪の結晶ついてる」
「クリスマスらしいことこれぐらいしか用意出来なかったけどな」
まぁ、自宅クリスマスパーティーを開催するって言われたのが今日の昼なんだけども。
もっと早く言ってくれればそれなりの用意はできた、はず。
「お兄ちゃんからのプレゼントだからすっごい嬉しいよ」
「喜んでくれたなら何より……なら」
顔だけでなく動きからも喜んでるのがわかる叶恵に更なるプレゼントとして唯一商店街のイベント前に用意出来たものを取り出す。
「クリスマスケーキ!?」
「と手羽先だけどチキン」
「無いよりいいよ!ほらたべよ!!!」
先程までとは一気にテンションが変わった叶恵の笑顔が見れてホッとした。
「何年経っても変わらないな」
「んー?」
楽しそうに手羽先を食べる叶恵を見てふとそんなことを呟いた。
高校生になってからの叶恵が新しい生活やバンド活動といった目まぐるしい環境変化に呑まれてこういった無邪気な顔をしっかり見るのは久しぶりだった。
朝夜のいつもの生活以外でこうやって2人で過ごすこと自体が少し懐かしく思える。
そんな久しぶりに見た妹の楽しそうな顔は、幼い頃にサンタからプレゼントを貰った時と何も変わらない。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでも」
「えー、気になるー」
「ほら、早く食べ終えるぞ」
「あー、話逸らした」
モカ流の話の逸らし方をしたら少しムスッとされたが、そんなことは気にせずに手羽先を食べ進める。
2人だけの寂しいクリスマスだが、今はこの時間を楽しもうと心に決めた。
メリークリスマスらしいですね