12月31日。
夕凪家は年の瀬も特に変わりなく、何の変哲もない一日を過ごす──はずだった。
「あ、そーくんお邪魔してまーす」
「モカ……叶恵は?」
「お部屋の掃除してるってさ〜」
買い出しを終えて自宅に帰るとリビングに置いていたコタツに何故かモカが入ってくつろいでいた。
よく耳を澄ますと二階からバタバタと忙しそうな音が聞こえている。
「それで、なんでここに?」
「蘭はお家で忙しいし他のみんなも年末年始は家族で過ごしたりするからね〜」
「ならモカも家でお母さんと過ごせばいいだろ?」
「許可は貰った〜……あ、みかんいただき〜」
連絡無しで現れたモカに質問をするが買い物袋から取り出したみかんを取り出しながら適当に流されてしまう。
許可貰ったとはいえモカの家族も年末ぐらいは家で過ごさせても……そう思ったところでモカの普段の動きから許可されたんだろうと納得と同時に諦めた。
「で、何をご所望で?」
「そーくん」
「……はい?」
「お隣きて〜」
何かしら企みがあると思い聞くと想像してない回答が飛んできた。
かと思えばこたつの自分の横をポンポンと叩き手招きしてくる。
「はいはい……狭くないか?」
「大丈夫だよ〜、それでそーくん」
「な──モカ?」
みかんを食べ終え手を拭き終えたモカは突然俺の名前を呼んだかと思いきや横から抱きついてきてそのまま俺を押し倒してきた。
よくある添い寝の形で倒された俺は抱きつかれたまま胸に顔を埋められ身動きが取れなくなってしまう。
「そーくんの心臓うるさーい」
「いきなり抱きついて押し倒されたらそりゃそうなるだろ」
「やっぱりあたしのこと好きなんだね〜」
「彼女だし……約束もしたんだから」
モカの意図が分からないが基本こういうことをする時は何かしら抱えてたりすることが多いから拒否せずに抱きしめ返しながら背中を撫でる。
「えへへ〜」
「落ち着いたか?」
「なにが〜?」
「なにか企んでなきゃこうしないだろ、年末に」
「バレてたか〜……このままでいい?」
「うん」
モカは少し寂しそうな顔をするともう一度顔を埋めながらなぜこうしたのかを口にした。
「蘭との喧嘩……二回目ね、あそこからすぐAfterglowが一度解散して、それからずっと蘭の戻ってくる場所を守り続けて……あの時、そーくんが支えてくれたから頑張れた」
「ずっと頑張ってるのはモカ自身だよ、他のメンバーの変化に気づくのもそれを支えてるのもお前がやってることだろ?俺は何も……」
「そーくん、あたしたちが解散してからも何も変わらずいてくれたじゃん?」
「……俺にはAfterglowのことをどうにか出来るだけの力は無かったからね」
「それでも……あたしはAfterglowも、そーくんもそばにいてくれたからずっと頑張れたの」
モカはいつの間にか泣いて、それでも尚俺へ感謝を伝えてくる。
あの時、G.B.T決勝を見届けた後、メンバーの後ろで解散するという話を聞いて、それからはサンメモの練習をしつつメンバーの……蘭の為に奔走するモカ達の背中を見るだけだった。
それは、Afterglowと関わり始めてからずっと、俺は見守ることしかできてなかった。
それでも
「そーくん、あたしはずっと支えられてたよ」
「そう、なのか……?」
「うん、だからあたしもそーくんが好きなんだよ」
モカがこうやって弱いところを見せること自体珍しい。
いつもののんびりとした雰囲気の中で伝えられる感謝とは違う、弱音も全て吐き出した言葉。
「こちらこそ、いつもありがとうな」
「どういたしまして〜」
「これからも、色々足りない彼氏だけどよろしくな、モカ」
泣き止んだのに再び泣きそうになるモカの頭を撫でながら感謝を伝える。
何故かまた泣き出してしまいそれに気づいた叶恵に怒られたがなんとか慰めて一緒に年越しそばを作った。
「そーくん」
「……ん?」
蕎麦を食べ終えて片付けも一区切りついたところでモカに呼び止められる。
振り向くと抱きしめられ、そして口を塞がれる。
「……大好き」
「お前な……」
たまたま叶恵には見られなかったが、不意打ちすぎて反撃の言葉も出なかった。
来年も、ずっとその先も
一緒にいると約束した、あの日から。
それは潰えることのない、青い葉を奏でる夕凪。