七夕、それは色々あって宙で離れ離れになった織姫と彦星が天の川を通じて年に一度だけ会うことのできる日、とかなんとかそういう日で
そこからどう派生したのか、地上では短冊に願い事を書いて願うという風習になっているとかいないとか。
かくいう俺、夕凪奏にもその風習があることの認知はしていた
だが、それはそれとして短冊に願い事を書くというイベント自体やった記憶もなければ街中でちょっと見かけた程度でしかなく、七夕という日の実感は無い。
正確には、
当日、やけにうるさい呼び出しを受けるまでは。
奏たちの家
side:奏
夕方、ギター練習をしていると携帯の通知が何件も届く。
Afterglowのグループではよくあることだけど、通知はそれでは無い人物から何度も送られてくるメッセージを表示し続けている。
『かなた!今日暇!?』
『暇なら返事してね!』
『モカちゃんも来るから!来るね!来てね!』
と、物凄い速さで打ち込まれるメッセージと感涙しましたとかいうパンダのスタンプを連投。
既読を付けるとそれはパッと止まる。
『うるさい、要件なら電話でもいいだろ』
『取り込み中だったら迷惑じゃん?』
『スタンプも変わらん』
『あそっか』
送り主に返信すると次は電話をかけてきた。
渋々出ると開口一番メッセージの一番最初とおなじ文言が投げられた。
『暇なら商店街に集合!』
と、こちらの意見を聞くこともなく電話は切られ、数秒後に図ったようにモカからもメッセージが来て俺は拒否権を失い仕方なく呼び出された商店街へ向かった。
「待ってたよー」
「ったく、変な時間に集合かけるなよ」
商店街にある羽沢珈琲店の前に着くとちょうど店の中から俺を呼び出した人物──岡村柚月がモカと共に顔を出した。
「だって知り合いみんな暇じゃないって言うから」
「それで何を企んでるんだ?」
店から出てきた柚月が手招きしてどこかに向かっていくため、それを追いかけつつ呼ばれた理由を聞く。
モカは何かを知ってる、というか隠してる顔だからよからぬ事を企んでそうな気配はする。
「かなたを呼んだのはね、これ!」
「これは……短冊?」
「そ、短冊!」
柚月はポケットから取り出した短冊を渡すと立ち止まり指をさす。
さした先には短冊を吊るした笹竹があり、それが意味するのは……
「書けと」
「イェス!」
柚月がサムズアップしてくるのに合わせてモカもウンウンと頷いてくる。
二人して期待の目で見てくるためものすごく断りにくい。
「それこそお前の家でやればいいんじゃないのか?最近は後輩もいるんだって言ってただろ?」
「あー、蓮?断られちゃった」
「なら俺も断る」
「「そこをなんとか〜」」
二人してさらに目をキラキラと輝かせる。
モカに関しては上目遣いまでして頼んでくる、それはさすがに
「……はぁ、わかった、かくよ」
「チョロ〜」
「かなた本当にもかちゃんに弱いよね」
「うっさい、とりあえず書くから待ってろ」
まるでこの流れになることがわかっていたかのようにモカはペンを渡してきた。
柚月がモカを誘った理由を今何となく察したが、許諾した以上はもう何も言う必要がない。
それにしても短冊、つまりは七夕というやつをまともに参加するのは多分初めてだ。
両親が基本いなかったり、自前で用意するには後始末が面倒だったり、見かけても短冊が無くて書けなかったり、色々な要因があり高三になるまで触れてこなかったイベント。
それをこうして同級生と彼女に嵌められたとはいえ参加するというのは、それはそれで悪くない、のかな。
「……よし、かけた」
「お、見せて見せて」
「ダーメ」
書き終えた短冊を柚月たちに見られないように隠す。
結局飾るからバレるけど、書いた直後は妙に恥ずかしいためとりあえず隠しながら飾る。
「「おー!」」
隠すのを辞めた俺の横から覗いた二人が同時に歓声を上げる。
柚月は茶化すように肘で脇腹をつついてくるし、モカは肩に手を乗せてきた。
「あー、もう、だから嫌なんだよこういうの」
「えー、いいじゃんかなた」
「そーだよ〜、そーくんの《願い》、あたし好き〜」
「用が済んだなら帰る!」
これ以上2人に茶化されるのも嫌な為、俺は二人に挨拶だけしてそのまま帰った。
奏が帰ったあと。
モカは奏がわざとらしく落として行ったもう一枚の短冊を拾いそっとそれを自分の書いた短冊の横にかける。
『モカと』
『そーくんと』
『ずっと一緒にいられますように』
と、奏が隠した短冊と共にモカはそれを見て静かに微笑んだ。
『みんなとこれからも仲良く楽しく過ごしたい』