Fragment glow   作:桜花 如月

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なんでもない日常《Birthday.Moca Aoba 2026》

 

ある日、ショッピングモールにて。

 

「……どれがいいんだろ」

 

一人、慣れないアクセサリーショップにてかれこれ小一時間唸り、悩み続けていた。

恋人の誕生日、贈るものとして毎年パンとちょっとした特別な時間というのも、なんか違うと思い考えた結果、形の残る、身につける何かを渡そうとなった。

が、その《形の残る身につけるもの》に疎い俺にとっては、それを探すのですら一苦労。

もちろん、モカなら何を渡しても喜ぶだろうけど、誠心誠意を込めた贈り物をしたい。

 

「ならなんで俺らなんだ」

「そうですよ、他に適任はいるでしょ」

 

相談役として連れてきた萩澤と桜丘が揃って文句を言う。

俺だって、他にも頼んだ、でもサンメモのメンバーはみんな相手が選んだものならなんでも喜ぶ、と非常に困る回答を出してきた。

Afterglowに聞いても同じ答えだと思うため、相談はしてない。

そして、残されたのがこの二人。

 

「絶対俺らじゃない」

「わかってる、それくらい」

「酷くないです?」

 

でも一人で考えるよりは誰かの意見を貰うほうがいいから連れてきただけで、ものすごくしっかりとした回答を期待はしていない。

 

「ネックレスとかはギター弾くのに邪魔になりそうですよね」

「そうなんだよな、だから困ってる」

「なら、髪留めじゃないか?」

「「……天才か?」」

 

桜丘の意見に難色を示していると、少し離れたコーナーにいた萩澤が珍しくいい提案をした。

衣装によってはちょっとした装飾はあっても、長く演奏の邪魔になりそうなものを渡すより、影響のないという選択はかなりいい。

 

「よし、これにする」

 

 

 

 

二人のちょっとした活躍により選ばれたものを購入し、綺麗に梱包された袋を持って週明け。

学校へ向かう途中、合流してすぐモカにプレゼントを渡す。

 

「誕生日、おめでとう」

「これは……髪留め?」

「……どう、かな」

 

渡したのは小さくマーガレットの花が彫られた少し大きな髪留め。

花言葉は……特に気にしてないけど、少なくとも悪い意味ではないはず。

 

「……すごく嬉しい」

 

モカはいつも以上にふにゃっとした笑みを浮かべた。

どうやらお気に召したようで、既に髪につけて嬉しそうに触っては誇らしげな顔を見せてくる。

 

「ありがとう、そーくん」

「どういたしまして」

 

 

 


 

 

羽丘学園/中庭

 

「ふんふーん」

「上機嫌だな」

 

珍しく屋上が使えない昼休み。

蘭達も忙しくて二人だけでご飯を食べてる最中、モカがやけに機嫌がいいみたいで、鼻歌まで歌っている。

 

「そーくんに()()貰ったから〜」

「お気に召したようで何より」

 

 

朝からずっと髪飾りを付けているらしく、この調子だ。

 

「あとね〜、これも〜」

 

いつもより大きい紙袋から取り出したのは、いつも食べているメロンパン……ではなく、チョココロネ。

だけど、なんか見た目が違うし、数も多い。

 

 

「さーやがお試しって言いながら沢山くれた、名付けて──モカちゃんコロネ〜」

「モカちゃん、コロネ……?」

「正確にはモカコロネ〜」

 

モカ、コロネ。

彼女の言葉を自分の中で繰り返す。

もちろん、その『モカ』はカフェモカの方、それくらいはわかってる。

そもそも、(青葉)モカは食べ物じゃない、俺の彼女、うん。

 

「ん〜?」

「……な、なんだよ?」

「そーくん今変なこと考えてたでしょー」

「ソンナコトナイヨ?」

 

モカがモカコロネを手にしながら俺の顔を横から覗いてくる。

たしかに(青葉)モカはもちもちしてるし、ふわふわしてるけど、パンじゃない。

 

「……そーくん、食べる〜?」

「う、うん、貰う……なに?」

 

ずっとジト目でこちらを見てくる。

別に、何も変なことは考えてないし、バレてないと思うんだけど。

 

「はい、あーん」

「急だな……あーん……ん、美味……」

 

全くなにを考えてるのか読み取れない表情の彼女に流されるまま彼女が差し出してきたコロネを口に含む。

やまぶきベーカリー特製のパンに、これまた特製だろうカフェモカの風味が合わさり、チョココロネとはまた違う味わいが口に広がってくる。

 

「どう〜?」

「うん、すごく美味しいよ、()()

「……だよね〜、さっすがさーや」

「……?なんか顔赤くない?」

 

素直に感想を伝えただけなのに、何故かモカの顔が赤くなった。

本人は誤魔化すように顔を背けて紙袋の中のコロネを取り出して食べ始めるが、特に何も言ってないのに耳まで赤くなってきて、どうも様子がおかしい。

 

「お、おい大丈夫か?」

「そーくんのばか」

「なんで!?」

 

やっと振り向いたモカは理不尽な罵倒を口にしてきた。

あまりにも突然の罵倒に傷つきかけたが、急いで沢山のコロネを食べたからか、モカのほっぺたにクリームが付いているのに気づき、そっと手を伸ばす。

 

「ほら、変なことするからクリームついてる」

「えっ、どこ……って、え?」

 

本人が気づくよりも先にクリームを拭き取り、もったいないと思いそのまま無意識で手に着いたクリームを舐める。

 

「ったく、モカもたまに抜けてるよな………って、なんでポコポコ殴って……痛い痛い」

「そーくんのばか、まぬけ、あほ……」

「だからなんで!?」

 

 

この後、モカが本調子に戻るには、放課後までかかるのだった。




モカ、誕生日おめでとう。
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