Fragment glow   作:桜花 如月

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せっかく用意したものを渡せなかった時、その後の後悔は取り戻せない。
ほんの少し勇気を出せば、その結果は変わったかもしれない。
ならば、行動しよう。


迷いとゆうきとそのお返し

ライブハウスRiNG

 

ここに一人、迷いを持つ少女がいた。

名を倉田ましろ、今をときめくガールズバンドのひとつ、Morfonicaのボーカル。

基本的に拠点をメンバーの家にしている彼女だが、今日はとある目的のためにここに来たのだが──

 

「香澄さん、バイト中だもんね……」

 

彼女は商店街で買ったお菓子の入った袋を持っていた。

それをここでバイトしている先輩、戸山香澄に渡そうと立ち寄ったのだ。

 

「でも、迷惑だよね……?」

 

そんな独り言をかれこれ数分間続けていた。

用意して渡そうとしたのはいいが、バイト中に渡していいものかということに対しての迷いを何度も繰り返して。

傍から見れば怪しい少女に見えてしまっている。

そしてそんな彼女の迷う様子に耐えきれず彼女を呼び止めたのが……

 

「ましろちゃん?」

「あ、奏先輩……こんにちは」

「うん、それでこんなとこでどうしたの?」

「実は……」

 

彼女の先輩でバンド、SunsetMemoriesのギターボーカルを担当している夕凪奏、彼が声の主だ。

タイミングよく現れた先輩に事情を説明し、どうしようかアドバイスを貰おうと相談をもちかけた。

 

「渡すかどうか迷ってる、ね……ならとりあえず一旦中行こうか」

「え、でも……」

「俺も中で待ち合わせしてるから、ほら行くよ」

 

悩むより先に、と言わんばかりに中に入っていく先輩のあとを小走りで追う彼女の後ろには、とある人影があった……

 

 

 

 


 

ましろちゃんの相談を受けた俺は一先ずということてRiNG内にあるカフェスペースへと向かった。

相変わらず態度の悪いバイトに注文を伝えてから席に座り、ましろちゃんもそれに続いて席についた。

 

「先輩の待ち合わせって、誰とですか?」

「ん、そこのドラマーの知り合い」

「何も聞いてないんですけど」

「言ってないからね」

 

注文した紅茶を持ってきた店員を見ながらそう言うと驚きと何言ってんだこいつ、と言いたそうな顔をする。

言った通り、俺がここに来たのはこの店員の知り合いであり同じバンドのメンバーの子なのだが、約束した時間より少し早くついてしまったためどうしようか悩んでたら入口であたふたしてるましろちゃんを見つけた、というわけだ。

 

「私の知り合いって、まさか愛音じゃないですよね」

「大丈夫そっちじゃない、ギターなのは間違いないけど」

「ってことは野良猫ですか……なんであいつに?」

「それは来てから、それよりまずはましろちゃんの問題を解決しようか」

「やっぱり香澄さんに迷惑じゃないかな……って思うんですけど」

 

ましろちゃんの問題、それはここで働いている先輩──俺は同級生だが──の戸山香澄へ差し入れをしたいけど仕事中に渡していいのか、という心配。

バイト中に差し入れ渡すことが迷惑じゃないか、でも渡したい、といった気持ちが揺れ動いてるらしく、それで渡せずにいるとのこと。

 

「せっかく持ってきたなら渡した方がいいと思うけど」

「それはそうなんですけど……」

「……それ、なに?」

 

一向に迷いの晴れないましろちゃんの持っている袋(差し入れ)を持ち上げたのはいつの間にか来ていた俺の待ち合わせ相手、野良猫こと要楽奈。

彼女の横には毎度おなじみの大きいギターケースが置かれている。

 

「えっとそれは……」

「『香澄さんへ』って書いてある、差し入れ?」

「そう、だけど」

「そこにいる、渡さないの?」

 

袋をくるくる回しながらそういう楽奈に戸惑いながらも彼女が見た先にいる絶賛バイト中の香澄に視線を移す。

ホールの清掃中みたいで同じくバイト中の山吹沙綾と一生懸命テーブルを拭いてる。

 

「渡さないなら、食べていい?」

「ダメだよ!?」

「だって、渡さない」

「渡すよ!渡したい、けど……」

 

楽奈の言葉に答えながらもあと一歩踏み出せないましろちゃんは俯いてしまった。

それを勘違いしたのか一度カウンター内に戻った店員がこっちに来て楽奈をカウンターの方へ連れていった。

 

「こら野良猫、先輩困らせないで」

「えー……あ、抹茶」

 

カウンターに用意された抹茶パフェに食いついた野良猫を横目にどうにかしてましろちゃんに勇気を出させる方法を考える。

彼女が用意した、ならもちろん渡すのは彼女の役目。

それを後押しするためには、やることは一つ。

 

 

「ちょっと呼んでくる」

「えっ、奏先輩!?」

 

本人をここに呼べばいい。簡単な事だ。

 

 

 

「来たよー!それで、用って何?」

「えっ、と……」

「んん?」

 

香澄に用があるからと話したら二つ返事でOKしてくれて直ぐにこっちに来てくれた。

本人が目の前に来たらすぐに渡せるかと思ったが、ましろちゃんはまだ勇気を出せないようで。

少し在り来りだけど、俺は無言で彼女の背中を押した。

 

「……香澄さん、これ──」

「えっ、何これ!私に!?」

「はい、差し入れ……です」

「すっごい嬉しい!ありがと、ましろちゃん!」

 

もちろん渡されるなんて想像もしてなかった香澄は嬉しさのあまりましろちゃんに抱きついた。

突然のその行動にましろちゃんは混乱した様子だが、それでもどこか嬉しそうにしている。

 

「休憩時間に食べるねー!」

 

香澄はそう言うと一度裏へ入っていった。

あっという間の出来事に放心状態のましろちゃんは我に返って椅子に座る。

 

「勇気出して渡して正解だっただろ?」

「はい、差し入れ喜んでもらえて良かったです」

「それなら良かった」

「ありがとうございます、奏先輩」

「お易い御用だよ、あと……」

 

視線を少し逸らした先で抹茶パフェを無心で食べ続ける楽奈を見る。

無心で食べ続ける彼女は視線に気づいたのかスプンを止めてこちらを見てきた。

 

「ん、終わった?」

「待たせたな、やるか?」

「やる」

 

一瞬で抹茶パフェを食べ終えた楽奈は立ち上がりギターケースを引いて俺たちの前に移動した。

この切り替えの速さは中々真似出来ないところだ。

そして、やる気に満ちた楽奈から視線を移しましろちゃんに提案をする。

 

「それじゃあ、ましろちゃんもどう?」

「えっ、わたしもですか…?」

「やろ、ボーカルいるとギター楽しい」

「じゃ、じゃあ少しだけ……」

「決まり、行こ」

 

ましろちゃんの決定を聞いた瞬間、楽奈はスタジオに向かっていった。

 

 

「……勇気出して良かっただろ?」

「はい、そのおかげで香澄さんに渡せました」

「ハグされてたしな」

「……早く行きましょ、奏先輩」

「濁したな……」

 

話を逸らしたましろちゃんは小走りでスタジオに向かっていく。

香澄の大胆な行動、濁す必要は無いと思うけど……なんて考えながら俺もスタジオに向かった。

 

 

 

この後、それぞれのバンドメンバーに怒られるのだが、それは語らないでおこう。




思ってたんと違う。


お久しぶりかな
今回はガルパ内に出てくるエリア会話「RiNGに差し入れに来たけど渡せず帰る倉田ましろ」をアレンジしまくりました。もはや別物。

そして今回、あの子達も出ました。多くは語らん。
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