「そんな現実見たくなーーーーーーーーーーーい!!!」
叫ぶと同時にはっと目が覚めた。
「ど、どうしたティアット!?一体何を見た!?」
…あれ、ヴィレムだ?どうしてわたしの傍にいるの?
うー、何だか頭がぼーっとするなあ。今わたしは何処にいて、さっきまで何をしていたんだっけ?
脳が回らないなりにがんばって現状を把握しようと努める。
まず今のわたしは──背が高くて顔も悪くないのに、どうにも冴えなくて情けない妖精倉庫のお父さん役──胡座をかいたヴィレムの膝に、背中を預ける形で腰掛けていて。
多分床に倒れてしまわないようにだろう、軽く抱きしめるようにして体を支えられていた。
目線を下ろし彼の手元を見ると、刃のない剣の柄らしきものを握っていて、それが淡い光を発している。
続いて周囲をきょろきょろと見渡すと、子供の手の平サイズの鉄片がおよそ数十個ふよふよと浮遊して、わたし達を中心にゆっくり旋回して回っている。
それらもヴィレムが手にしている柄同様、淡く発光しながら光の線で繋がり合い、うちの個室をすっぽり飲み込めるくらいのドーム状の結界を構築していた。
───ああ、ようやく思い出してきた。
今日は朝から遺跡兵装の使い方の訓練をしてて、休憩中にわたしがイグナレオで気配を消してみんなを驚かせて遊んでいたんだけど。
ヴィレムが突然ものすごく驚いた顔を見せたと思ったら、今度は普段のへにゃへにゃ顔とは全然違う、真剣な大人の顔で問い詰めてきたんだ。
『お前どうしてイグナレオの特筆能力を使えるんだ!?変に欲出したら訓練に集中できなくなりそうだからあえて特筆能力の存在は言わずにおいていたのに!言え!一体誰に教わった!?』って。
で、びっくりしつつも『振り回してる内に、なんとなくそういう事が出来そうな気がしたから』って素直に答えたら、さっきの『一点だけは天才的だけどそれ以外は並』という微妙に喜びづらい評価を受けて──
今ここ、妖精倉庫地下にある、遺跡兵装の格納庫まで連れてこられたんだった。
「すまねえな、何か見たくない記録でも見ちまったんだな。お前がやりたくないっていうんなら今日はもう取り止めに──」
「ううん、全然平気。まだ続ける」
さっきまでより少し強めに抱きしめられている。
もー、心配性だなあヴィレムは。
わたしはもう成体調整を受けて、一人前のレディの仲間入りをしたんだからね?扱いには気をつけてくれなくちゃ。
わたしがお願いされたのは、その特筆能力とやらを取り戻す為のお手伝い。
ヴィレムの調整能力のおかげで、五百年以上整備もせずに使いっぱなしでボロボロになってたっていう遺跡兵装は、元の威力を取り戻した。
だけどヴィレムに出来るのはあくまでも簡易的な応急措置止まりらしくて、壊れきった特筆能力まで修復するのは無理だった。
そこにわたしが──自分ではあんまり、天才的だとか伝説の勇者並みにすごい事をやってのけたっていう実感はないんだけど──誰にも教わらず、能力の存在すら知らずにそれを使いこなすという、離れ業をやってのけた。
その遺跡兵装に対するカンの良さがあれば、失われた特筆能力を取り戻す為のヒントが得られるかもしれないんだって。
もう一度、ヴィレムが握っている剣の柄に手を添える。
目をつぶって、大きく一つ深呼吸。意識をぎゅっと集中させて、柄を介して数十のタリスマンに分解されたヒストリアに同調し、声を聞き、壊れた箇所を探っていく。
ヴィレムが最優先で能力を取り戻したいのは、ラーン先輩に適合している遺跡兵装ヒストリア。
これの特筆能力は『過去現在のヒストリアの使い手の記録を全て蓄積し、それを自在に引き出す』事。
ティメレは植物型や甲殻型など様々な形態を持つ、得体が知れない謎だらけの怪物だ。以前使えた戦術が次に使える保証はない。
もし軍がこれまでの戦いを書類として残し続けてきたデータに、歴代ヒストリアの使い手が実戦として戦い抜いた五百年分のデータが加われば、確実にこれまでよりも獣に対応しやすくなる。
それに加え、かつての人間達の戦闘技術や、各種遺跡兵装の振るい方まで引き出せたなら、ヴィレムの指導もより精度が高い物になる。
今後のわたし達が戦いを生き延びられる可能性は更に上がる。
…というのがヴィレムの弁。
つまり今のわたしには先輩達と同期達、そしてこれからの未来を担う無数の後輩達の命運がかかっていると言えるんだ。
さっきはおかしな所がないか探っている内に変な記録を読み取っちゃったんだけど、あれは変な解釈をして無駄に驚いてしまったわたしが悪い。
だっていくらラーン先輩か日頃からドジばかりだからって、パンツを履かずに出歩いていつまでも気が付かない筈がないじゃん。
あれはきっとスカートと下着の間に履く見せパンを持ってくるのを忘れちゃったから、ノフト先輩のハーフパンツの予備を貸してくれって意味だったんだ。
その方がずっと辻褄は合う、普通に考えれば90%それで正解だ。
…だけども残りの10%。
あのドジっ子ラーン先輩と、ガサツでテキトーなノフト先輩の幼馴染コンビなら、パンツの貸し借りくらいやりかねないという疑念が頭の隅っこに黒くこびりついている。
いやああ脱がないでわたしの脳内ノフト先輩ー!
ラーン先輩も何で一緒になって脱いでるんですか!お互い履いてるんなら交換する必要ないでしょ意味わかんないよー!
ああもう静まれわたしの想像力!
とにかく今はヒストリアとの対話に集中だ。
同調し、手を伸ばし、耳を澄ます。
不自然な手触りがしないか。
濁った音が鳴ってはいないか。
丁寧に根気よく、剣の中の宇宙を決して傷付ける事がないように、敬意を以て探り続ける。
そうしているとまた、わたしの意識とヒストリアの一部が繋がり解かれ、蓄積された記録が流れこんでくる感覚があった。