ダイヤのネックレス-Necklace of Diamond-   作:コンスタンチノープル

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第1話

「高島先生、お願いします!」

 

二人の真っ直ぐな眼が高島を一点に見つめる。その眼差しには鬼気迫るものもあった。

 

「高島先生しかいないんです。どうか…」

 

なぜこの様な状況になっているのか。それは半年以上前、高島の与り知らぬ処でことは動き出していた。

 

-前年八月 東京ドーム-

 

この日、全日本中学野球選手権大会の決勝戦が行われていた。東京の南沢シニアと宮城の仙台城東シニアの試合は一対一の緊迫の展開のまま五回裏、南沢の攻撃を迎えて仙台城東の先発投手を攻め立てて一死走者一、三塁の好機に攻守の要である捕手の多田野樹を迎え、仙台城東が守備のタイムを取って捕手と内野陣がマウンドの投手の下に集まった所であった。

 

「大丈夫だよ。まだ投げられる」

 

開口一番、先発してここまで投げてきた明神(みょうじん)嘉邦(よしくに)は続投を口にする。当然である。ここまで好投してきているのだから最後まで投げたい。

しかし捕手の川端(かわばた)要一(よういち)はベンチの監督と視線を交わした。

監督の松岡(まつおか)(きよし)は投手交代を決断する。ベンチにいた一人の少女を呼び寄せた。

 

「頼んだぞ」

「はい!」

 

少女はハキと答えグローブを手にマウンドへ向かっていった。そうこの少女こそ救援の投手なのである。

 

名前は松坂(まつざか)(もも)、ただの一控え投手ではなく彼女こそが仙台城東シニアのエース投手なのである。

 

「後は任せて」

「頼むわ」

 

明神はボールを松坂に渡すとマウンドを降り、ベンチに腰掛けた。

 

「ご苦労さん。アイシングしとけよ」

「了解です」

 

松岡が明神に言葉をかける。言葉だけであって明神は投げた後は肩を温める主義である。

 

「ここで松坂か…明神のままだったらまだ望みはあったけど…」

 

多田野がネクストバッターズサークルで苦虫を噛み潰したような表情で投球練習をする松坂の球にタイミングを合わせて素振りをする。

 

試合は松坂がこのピンチを乗り切り、六回表に南沢の二年生投手赤松(あかまつ)晋二(しんじ)を捕らえ、七回表に追加点を挙げてそのまま松坂が最後まで投げ切って優勝を決めた。

 

全日本中学野球選手権大会の決勝戦はテレビ中継が入るため女子の優勝投手は話題となった。それから半月ほど経った時の事である引退しても明神と松坂は後輩たちにアドバイスを送るがてら自主トレを重ねていた。

 

「へぇ、じゃあ川端君は白龍に決まりそうなんだ」

 

今日は捕手の川端も一緒である。

 

「うん、向こうの監督さんが熱心に誘ってくれてね。お世話になるつもり」

「キャッチャーで走れる選手は貴重だから白龍なら喉から手が出るほど欲しかったんだろ?」

「そういう明神君は横学か相良に行きたいみたいなこと言ってたけど、どうなのさ」

 

川端は群馬の白龍に進路を決めていたが明神はまだ進路を決めかねているようだった。

 

「キミ、昨日青道からも誘いが来てたよね?」

「へぇ明神君結構人気じゃん、私の控えなのに」

「そういうお前はどうするんだよ。女子野球部のある学校は少ないじゃん。っていうか、やっぱ岩手に行くのか?」

 

明神は横浜港北学園と紅海大相良という希望があったがそこに青道新たに声をかけてきたのであった。松坂は岩手に男子野球部では岩手県下一、女子野球部も新設されたばかりだが強豪という学校があるのでそこに行くのかと聞かれた。

 

「おーい、松坂ー。またお前のファンだって()が来てるぞー」

「あ、はーい。今行きまーす」

 

松岡が松坂のことを呼んだので彼女はベンチ前まで行った。

 

「なんか日に日に増えてないか?松坂(アイツ)のファン」

「最低でもボクとキミよりはいるね。なんせ女子の優勝投手なんて初めてだったらしいいからね」

 

仙台に帰ってからというものの、松坂のファンという野球人や野球をする女子を子供に持つ親から度々声を掛けられるようになっていたのであった。

 

「あ、帰って来た」

「なんだって?ん、なんかあったのか」

 

松坂は少し浮かないような難しい顔で帰って来た。誰しもが好意的という訳ではなく中にはファンと偽って近づき心無い言葉を浴びせていく者も少なからずいた。

 

「またなんか言われたの?」

「あうん、違うのそういう訳じゃないの…はぁ~」

「だからどうしたんだい?」

 

今回松坂の下を訪ねてきた人物は、これまでとは毛色が違ったのであった。

 

「うん、いやー、あぁー、うん、あのね、どこかに野球に理解のある女の人いないかなって」

 

松坂は二人に話しても仕方の無いことだろうと思いながらも思わぬことを話したのであった。

 

「やっぱり理解の薄い人から変なこと言われたんだね。ん?ヨシ、どうかしたの?」

「ん?いや…いるぞ」

「え?」

 

しかし、その仕方の無いことだろうと思っていたことに明神は心当たりがあったのであった。

 

「いる、って。野球に理解のある女の人だよ!?」

「おおう、どうしたんだよ急に?そうだよ、この前会ったよ」

「明神君!ちょっと来て!」

 

松坂は明神の左腕を強く引きグラウンドから飛び出していった。

 

「古田さん待って!!」

 

松坂はグラウンドを後にしようとしていた一人の少女を呼び止めた。

 

「ハァハァ、良かった間に合った。ねぇ、明神君さっきの話、この娘にもう一回話してもらっていい?」

「構わないけど、この娘は…」

「私は、古田(ふるた)絢凪(あやな)っていいます。松坂さんのファンっていうか、一緒の高校で野球をしたくて誘おうと思って…」

 

古田絢凪と名乗った少女は松坂のファンという言葉こそ若干偽りがあったが一緒の高校に進んで野球をしたいと言ってくれる貴重な同志であった。

 

「それがさっきの話とどうつながるんだよ?俺の知ってるって言った人は青道の…」

「なら尚のことヨシです!」

 

古田が一気に食いついてきた。

 

「古田さん、女子野球部の無い学校に進んで一から部を立ち上げようって私の事誘いにわざわざ岐阜からやってきたの!だからフリーの人を誘おうと思ったけど…」

「え?俺が言ってた野球に理解のある女の人って、俺をスカウトしに来た青道の副部長の人のことだよ?」

「古田さん!青道にしよう!青道に行こう!明神君!私青道に行く!」

 

古田は溢れるフロンティアスピリットを抑えきれず、わざわざ岐阜から仙台までやってきた志士変人であった。その勢いに松坂も乗り気だったが如何せん監督になってくれる人がいなかったのであったがそこに降って湧いたのが明神からの一言であった。

 

「ちょっと待て待て、一から女子野球部を作るのはいいけど二人の他にいっしょにやってくれるやつはいるのか?」

「それなら心配御無用ですっ!」

 

こうして、高島の知らぬ所で少女たちの企みは動き出していたのである。

 

そして時は翌年の四月、場所は青道高校の校長室。

 

「高島先生からも一言いってもらえませんか?」

「なんせ、高島先生を連れてくるまでここを動かないとまで言って」

 

校長の森昌平と教頭の林慎一は急なことに当惑していた。

 

「ちょっと待ってください。話がよくわからないのですが…あなたは、松坂さん?」

 

高島も困惑していたが事の主の二人の内一人が知った顔であったことに驚いた。

 

「高島先生、お願いします!」

「高島先生しかいないんです。どうか、女子野球部の監督になってください!」

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