御本家様
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残暑が過ぎて昼間も過ごしやすくなってきた秋頃。風が涼しさと共に虫の鳴き声を運んでくるお昼前にアルフリートは二度寝をしていた。
「んーそろそろ起きるか〜、よっと」
ベッドから降りて固まった身体を大きく伸ばしてカーテンと窓を開けると暖かい陽射しが眠気を覚ましてくれる。今日のお昼は何かと想像しながら寝間着を着替えようとしたら庭から誰かが作業する音が聞こえた。下を見るとサーラが掃除していたようだ、枯葉の山の横に立って手にホウキを持っているのが見える。
「最近は忙しいから体がこりますね…」
そういうと腰まである長い黒髪を揺らしながら身体をほぐしていく。普段は皆の前では見せない油断した姿なのでちょっとだけドキッとしたな。でも髪があれだけ長いと重そうだよね、何もしなくても首がこりそうだ。いつも頑張ってくれてるしここは労っておこう。
「サーラ、掃除お疲れ様ー」
そう声をかけると上から突然呼びかけたからか、少し驚いたように顔をこちらに向けてきた。心なしか普段より顔が赤いような気がする。
「あ、ありがとうございますアルフリート様。お目覚めになられたのですね」
「ちょうど今ねー。それでお願いなんだけど隣の枯葉、土魔法で箱作るからその中に入れといてくれない?後で焼き芋したくなっちゃった」
「分かりました、もうすぐ昼食の時間ですので降りてきてくださいね」
「分かったよ」
サーラの隣に土魔法で箱を作ってそう適当に返事すると服を着替えてリビングに向かう。にしても身体が凝るかー筋肉痛ならともかく7歳児の身体じゃこりとは無縁だから忘れていたな…マッサージ機でも作ってあげれたらいいけどさすがに魔道具の知識がいるし困ったな…と考え事をしながら階段を下っていたら肩を叩かれた。
「ボーっとしながら階段を下りるのは危ないよ、アル」
「あ、ノルド父さん、おはよう」
「おはようアル、今日は休みだからいいけどもう少し早く起きようね」
「それは無理だね、こんな絶好の二度寝日和なのに」
「二度寝に天気はあまり関係ないと思うけどな…」
ノルド父さんと軽くじゃれながらリビングに着くとエリノラ姉さん達が既に席に着いていた。
「やっと起きてきたのねアル、休みだからってぐうたらしすぎよ」
「おはようエリノラ姉さん。休みの日くらい見逃してよ」
「あんたは休み関係なくいつもぐうたらでしょうが」
「アルは相変わらず」
いつも通りの会話しながら席に座るとミーナたちが料理が運んできた、今日はどうやらご飯に焼き魚ときのこ汁のようだ。体を温めるのにきのこ汁から頂くと味噌の風味とキノコの香りが鼻をつきぬけていく。
「やっぱ秋は食べ物が美味しいね」
「そうだね、バルトロの料理は普段から美味しいけど秋は特別だよね」
「そ、そうね。美味しいわよね」
シルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんが賛同してくれたけど絶対エリノラ姉さんは分かってないだろうなこれ。まぁ元から期待してなかったけど。
食事も終わって食休みしながら皆で話している時に、サーラが部屋に入ってきたのでさっきの落ち葉の山を思い出した。
「そういえばさっきサーラが落ち葉集めてたから後でオヤツに焼き芋しようと思ってたんだ、皆も食べるよね?」
「いいわね焼き芋!稽古の後にちょうどいいのよ」
「僕も食べようかな、作る時は手伝うから呼んでね」
「ありがとうシルヴィオ兄さん」
俺がそう言うと姉さんは食休みはもういいのか自主稽古に向かって居なくなった。少しはシルヴィオ兄さんみたいに手伝う素振りを見せたらどうなんだ。
「せっかくだし私も頂こうかしら、貴方はどうする?」
「みんな食べるなら僕も食べようかな、お願いしていいかいアル?」
「分かった、どうせ芋は入れるだけだし全員分作っとくよ」
「一応燃えすぎないように周りに気をつけてね」
× × ×
「そろそろ焼き芋作るか」
お昼の後に本を読んだりしてダラダラしていたが小腹がすいてきたので計画通り焼き芋を作ろう。全員分作ることになったのでサーラに落ち葉の場所を聞くついでに芋運びを手伝ってもらうかな、この時間なら休憩室に行けばいるかな?
休憩室に向かうと皆休憩しているのか中から話し声が聞こえてきた。
「この時期の外掃除は疲れますね、朝掃いても夕方にはどこからか落ち葉がやってきますし量も多いですし」
「そりゃ仕方ないだろー秋は葉が散るもんだからな」
「ですが収穫祭の準備などもありますしこうも忙しいと身体が硬くなってしまいます」
「あ〜それはわかるよ、首とか結構来るよな」
ふむ、どうやら朝の1件の話をしているようだ。サーラは姿勢がいい方とはいえ日本のように家電ですぐ終わる訳でもないしアニメみたいに腰まであるあの髪は意外と負担だろう。バルトロもいるとはいえなんだかんだ力仕事はメイドにもあるしな。
「わたしは身体がこるってよく分からないんですよね、どんな感じなんですかサーラ?」
「そりゃミーナは分かんないだろうな、普段から元気が有り余ってるし」
「そうですね、身体に板がついてるように動かすのが億劫というか…説明しにくいですね」
「あれは身体がこったとしか言い様がないよね」
「アルフリート様も分かってくれ─アルフリート様!?いつのまにこちらに?」
声をかけると驚いてこっちを振り返って礼をするサーラ達、一応ノックもしたんだけどそんなに影薄いかな。
「ちょうど今ね、サーラに焼き芋作るの手伝ってもらおうと思って」
「お昼に言ってたヤツですね、かしこまりました」
「いや、手伝って貰おうと思ったんだけど場所だけ教えてくれればいいよ。疲れて休憩してるんだし」
「いえ、それが仕事ですから」
「でも身体がこってるんでしょ?」
「それは…ですがメイドとして働かせていただいて十分なお給金も頂いてますので」
休んでいいと言ってるのに働くだなんて相変わらずサーラは真面目だな。だけど働きすぎは許せないからここは折れてもらおう。
「疲れが残ったままじゃしっかり働けないよ。それにサボりじゃなくて休憩中に声をかけたんだからしっかり休んで」
「そうですよサーラ、お言葉に甘えて休みましょうよ」
「しかし…」
サーラも中々頑固だな…しかし肩こりなんかは疲れが溜まってきているサイン、ここで見過ごす訳にも行かないしまだマッサージ機もないし…ん?マッサージ?
「じゃ焼いてる間お喋りに付き合ってもらおうかな、その代わりマッサージしてあげるよ」
「マ、マッサージですか?アルフリート様が?」
「マッサージなんて出来るんですかいアルフリート様?出来るならあたしもお願いしたいんですが」
「もちろん。魔力を効率よく使うのに体調は大事だから身体にはちょっと詳しいんだ。メルもやってあげるよ」
そう、魔力を練るのに身体へ魔力を循環させると怪我なんかをしてる場所は魔力の通りが悪くなる。つまり魔力を使えば身体の状態がわかるのだ。後は前世の有名なツボは魔力の通りが多かったりする。もしかして魔力とリンパは似た物なんだろうか?
「流石にアルフリート様にマッサージして頂くのは…」
「大丈夫だよ、普段のお礼だと思って」
「サーラが受けてくれないとあたしが頼みづらいじゃないか、甘えときな」
「メルさん…分かりました、アルフリート様。お願い出来ますか?」
「もちろん!それじゃその前に焼き芋焼こうか」
「わたしの身体はマッサージ必要ないのでお芋が焼けたら行きますねー」
「ミーナはそろそろ休憩終わりだろ?私はエルナ様に紅茶入れてくるからアルフリート様の部屋の掃除頼んだよ」
「そんな〜!!」
ミーナの悲鳴を残して俺とサーラはバルトロからお芋をパクって裏庭に来ていた。既に落ち葉は山になってるので箱に空気穴を作ってノルド父さんが書くの失敗した紙で包んで焼いていく。魔法があれば一瞬だ。
「焼き芋は後で放置でいいとしてマッサージなんだけど…」
「…私の格好が何か問題でしょうか?」
「流石にメイド服じゃねー」
やはりマッサージをするとなるとある程度薄着が望ましいがサーラは足首までスカートのあるヴィクトリアンメイドと言われるタイプに近いものだ。流石に夏服仕様で薄いとはいえマッサージに向いているかと言われれば否定するしかない。
「着替えるとなると私服しかないですがどうしますか?」
「流石にまだ仕事もあるのにそれは申し訳ないから今回はそのままにしよう。椅子を作るから座ってくれる?」
「分かりました」
返事を聞いて俺はさっそく土魔法で椅子を作り始めた。スカートが汚れないように1段上げて土台をしっかり固めておこう。それでマッサージしやすいように背もたれは無しで、倒れないように椅子の足は土台とくっつけてっと。
「はい、出来たよ」
「相変わらずアルフリート様は魔法が上手ですね」
「ドラゴンスレイヤーの子供だからね、このくらいはね」
「ふふ、そうでしたね」
そういって笑いを零しながらサーラが椅子に座る。服さえ違えば綺麗な髪と姿勢の良さから貴族令嬢と言ってもバレないかもしれない。なんならエリノラ姉さんより貴族らしいや。
「それで、この後どうすればいいですか?」
「とりあえず症状の確認かな、具体的にどこが辛いとかある?」
「そうですね…やはり肩から腰にかけて背中全般ですかね」
ふむ、割とありがち症状だな。だいたい猫背の人だけどやはりしっかり働いてたらなるもんね
「分かった、それじゃ見てみるね。魔力を流すからくすぐったいかもだけど我慢してね」
「わかりまし─んっ!」
「あ、ごめんいきなりだったね。平気そう?」
「は、はい。背中を筆で撫でられたような感覚がして驚きましたが来ると分かれば大丈夫です。」
いきなりやってしまったせいでサーラにしては珍しい熱の篭った吐息がこぼれてしまった。どうやら相当くすぐったいらしい、気をつけねば。
「んじゃもう1回調べてみるね」
「よろしくお願いします…んっ」
「ふんふん、確かに魔力の流れが悪いね。肩が原因ぽいや」
「そ、そうです…か。…もう大丈夫ですか?」
魔力を流して調べてみたけどやはり肩甲骨周りが悪そうだな。そして細身に見えるサーラだが意外と筋肉がしっかりついているな、スレンダーで男が好きな身体かもしれない。調べるのに夢中になっていたら我慢しきれずにサーラが声をかけてきた、まずいまずい。
「ごめん、もういいよ」
「はぁ…私は殆ど魔法が使えないのでこんなにハッキリと魔力を感じたのは初めてなのですがとても不思議な感覚ですね」
そういえばサーラが魔法を使うところは見たことがなかったな。普段から使ってないと違和感なのかもしれない。
「慣れてないとそうかもね、でも身体を血が流れてるのと大差ないよ」
「そういう感じなんですね。それで、マッサージはこの後どうなりますか?」
「本当は薄着でうつ伏せになってもらってほぐすのがいいんだけど今回は座ったままでできるやつにするね」
「よろしくお願いします」
「それじゃまずは揉んでほぐしていくね、痛かったら言ってね」
「分かりました」
最初は普通に肩もみからしていく。この時に首から肩への筋肉も一緒にほぐすことで上下の血流をよくしていく。
「あ〜効いてる感じがします。思ったより力がありますねアルフリート様」
「身体強化使ってるだけだよ、流石にメイド服の上からは魔法無しじゃまだ無理だよ」
「んっ。まだ7歳ですもんね、忘れていました」
それからたまに聞こえるサーラの吐息を無視しながら10分ほど肩や腰をほぐしてあげた。姿勢がいいだけあってマッサージされて痛いレベルではなかったみたいだ。サーラが痛くて暴れる姿ちょっと見たかったな…
「ふぅ。だいぶ楽になりました、ありがとうございますアルフリート様」
「おーいアルフリート様やってるかーい?」
「お、メルもちょうど来たねそれじゃ自分で出来る柔軟を教えようかな」
「自分で出来る柔軟ですか?」
「へぇ、そんなものがあるのかい?」
「あるよ。こう片腕を頭の後ろに回して反対の腕で無理しない程度にヒジを引っ張る」
「こう、でしょうか?」
「そうそう。それを毎日お風呂入ってる時や寝る前にやればだいぶマシになるはずだよ」
やはりこういうのは普段の積み重ねがものをいうからな。日本では運動もしないせいでカチカチに固まっていたからね
「早速今日から試してみようと思います」
「アルフリート様、サーラが終わったならあたしも頼むよ。サーラは焼き芋の様子を見ておいてくれ」
「はいはい、今行くよ」
「それじゃよろしく頼むよ」
「メルはどこら辺が辛いの?」
「やっぱ腰かな、中腰で作業することが多くてね」
「ふむふむ、ちょっと触るよ?」
「ああ、優しく頼む─きゃぁ!?」
腰を触ってさっきと同じように魔力を流した瞬間、普段は姉御肌のメルからは想像のつかない可愛い悲鳴が聞こえた。
「な、な、なんだい今のは?!」
「ごめんごめん、言うのを忘れてたけど身体を診るのに魔力を流す時くすぐったいかもだけど我慢してね」
「変なことをする時は先に行ってくれよアルフリート様!」
「だからごめんってば。今度は手加減するから」
「しっかりしてくれよアルフリトさ─まぁ!?」
「うーん、これは結構来てるね。メル、姿勢直した方がいいよ?」
思ったより上と下で流れが繋がらないな、これは早めに治さないと若いうちから苦労するぞ〜。
「そんなことより早くしてくれよアルフリート様!くすぐったくてたまらないよ!」
「もうわかったから大丈夫だよ。それじゃマッサージしていくね」
「マッサージしてすらないのに疲れたよ…」
「メルがくすぐったいの苦手とは意外だね」
「忘れてください…」
メルの新しい面を発見しつつマッサージを開始していこう。腰は流石に寝てもらわないときついからここは背骨周りをほぐすことで間接的に腰を解していく。
「お、結構上手いじゃないかアルフリート様」
「だから出来るって言ったでしょ?」
「そうだったね、疑ってすまないね」
その後はサーラと同じで10分ほどマッサージしてあげて、柔軟を教えたら焼き芋がそろそろ焼ける時間だ。
「アルー焼き芋は順調─てなにこの土の塊?あんまり裏庭に余計なの作っちゃダメよ」
「あ、エルナ母さんもうすぐ出来るよ。これはちょっとサーラ達にマッサージしてたんだよ」
「マッサージ?アルが?」
「はい、なんでも魔力を使って身体の様子がわかるとか」
「マッサージで大事なのは押す場所だからそれさえ分かれば子供でも出来るよ。さすがに服の上からは力足りないから身体強化したけど」
そう、マッサージでは力よりも血管やツボなどを把握してピンポイントに刺激する方が大事なのだ。
「いったいどこで覚えたのか分からないけどサーラたちも喜んでるみたいだし今度私も頼もうかしら」
「もちろん!とりあえず今は出来たての焼き芋を食べようか」
「そうね〜メル、みんなを呼んできてちょうだい」
「かしこまりました」
やはりスローライフにマッサージは欠かせないからな、今度マッサージの本でも探してみようと焼き芋を食べながら思うアルだった。