「なんか暇だし、組手でもするか?」
そうリッチーに声をかけると、いままでダレて寝そべっていたのにバッと起き上がり、シャドーボクシングをし始めた。リッチーも暇を持て余していたのだろう。やる気満々だ。
「こんぐらいでいいか」
お互いに距離をとり向かい合うと、モージは四つん這いになりフッと体に力を込めた。するとその身が真っ白な毛で覆われしっぽが生える。口からはみ出るほどに伸びた牙がキラリと光った。
ネコネコの実:モデル“ホワイトタイガー” 獣型
「グルルゥ………」「ガルルォ………」
四足歩行の二匹は一定の距離をとりながら、円を描くようにじりじりと機をうかがう。小石が崖の上から二匹のそばに落ちてきた。
カラッ……カコンッ!!
それが戦闘開始の合図となった。
たちまち相手目がけて一直線。始まりの一手は頭突き。歯を食いしばり互いに一歩も引かない。踏ん張った足の爪が岩でできた地面をギリギリと引っかく音が響き渡る。
再度距離をとり、またもにらみ合うが今度はリッチーから仕掛けた。振るわれた前足を顔の前スレスレで避け、お返しとばかりにタックルをするが体を捻りかわす。
それは組手ではなく、さながらトラとライオンの縄張り争いと言った方が正しいのかもしれない。
「「グルルァッ!!」」
一際大きく吠えると、二匹ともその場で高速に回転し始めた。二つの回転した毛玉がその鋭い爪で地面をギャリギャリと削る。
ダンッとしっぽを地面に打ち付け勢いよく飛び出した。両者は尻尾を上手く使い、右へ左へと不規則な動きで近づいていく。
「
二つの毛玉はぶつかり、弾けた。
二人は空中で体制を整え地面に着地した。
「だーー!今回は引き分けだな!!」「ガルッ!!」
汗をぬぐい、お互いの健闘をたたえ合った。リッチーは前足をペロペロとなめ、モージは体についた砂ぼこりを払う。
「ちょっと疲れたな。………それにしてもサウロのやつ、すぐ戻るって言ったのに遅いな。ロビンをどうとかって言ってたけど」
サウロの帰りを毛づくろいしながら待っていた二人の耳に、遠くからズーンとなにやら音が聞こえてきた。
「なんの音だ……?」
しばらく聞き耳を立てているとその音の間隔がだんだんと狭く、また大きくなってきた。さらに何かが燃えているようなにおいもしてきた。リッチーも何かを察知したのか耳をピンと立たせ、背中を高くして体を丸めている。
「あのデカい木が燃えてる!?……うわっ!!」
二人のそばに砲弾が着弾した。
「リッチー!大丈夫か?」「グルォッ!」
爆発で飛び散った破片が体に当たり、所々から血が流れているものの大きなけがはないようだ。
「なにが起こってるんだ!?………こっちからたくさんの音がする!」
モージとリッチーはただならぬ気配を感じ取り、少し混乱していたが、音のする方向に人がいるだろうと思い海岸に沿って走り出した。
「サウロと………ロビンだ!!」
走り出して角を曲がると、すぐそこに二人はいた。サウロはアフロ頭の大柄な男と対峙しており、ロビンはサウロの名を叫んでいた。サウロの体は出会ったときと同じかそれ以上にボロボロである。また、海岸には一隻の船が浮かんでいて、たくさんの人が乗っているようだ。
手前側にいたロビンに事態がどうなっているのかを聞こうと近づくと、ズドォオーーン!!という音と共にたくさんの人を乗せた船が爆発した。
「な………なんでいきなり!?」
モージとリッチーは状況が呑み込めず動きが止まり、ロビンは力なくその場に座り込んでしまった。
「クザン!!これでもまだ誇りが持てるのかッ!!?」
怒りのこもった巨人の右腕が海軍本部中将クザンを襲う。地面が大きくへこむほどの威力だが、クザンはそれを後方に飛んでかわして見せる。そのまま戦闘に入るのかと思いきや、サウロは踵を返して走り出した。
「ロビン!!モージたちもおったか、はよ逃げるど!!あいつの強さは異常だで!!」
三人をその大きな両手で優しくすくうと一目散に駆けだした。しかし、そうやすやすと見逃してくれるような相手ではなかった。
「アイスタイムカプセル!!」
クザンのヒエヒエの実の能力で左足を凍らされ、地面に這いつくばってしまうサウロ。こけた拍子に三人が手のひらから放り出される。
「おめェら………逃げるんだで!!」
サウロは放り出された三人に向かい、息も絶え絶えに訴えた。
「どうなってんだよ!」「やだよ!!」
左足から徐々に冷気が体を伝ってきている。
親友だからこそわかるのだ。彼の実力が。自分はもう助からないだろう。だがここで倒れればオルビアとの約束を果たすことはできない。何よりロビンの命も助からないだろう。
諦念が心を覆い死を覚悟した、そのときだった。サウロとクザンの間に大きな衝撃と共に何かが着地した。
「バラバラ緊急着陸」「ただの不時着だよ!!」
姿を現したのは、ピエロのような男と彼にツッコミを入れる和装の少年。
「おいおいおまえさんは………
クザンは突然現れたバギーを見て、ずれたサングラスを直した。
「やっと見つけたと思ったらおめェら。いったいどういう状況だァ?沖に海軍の軍艦が何隻もたむろしてるしよォ」
「「バギー船長!!」」
歓喜の涙を流す。ああ、やっぱりこの人は、自分がピンチの時には必ず駆けつけてくれる。
バギーは二人のけがをした姿を確認すると、こめかみの血管が怒張した。
「あらら………なにしてくれちゃってんの」
「そいつァこっちのセリフだ海軍の犬っころォ。うちのモンに手ェ出して、ただで済むと思ってんのかァ!!」
握りしめた右のこぶしが黒く染まった。
「犬はあっちだよ………ルーキー!!」
ひとっ飛びでバギーを置き去りにし、サウロの氷を吹き出した火で溶かしていたカバジに肉薄する。さすがは海軍本部中将といったところか。
氷でできた槍をカバジに突き立てようと振りかぶった。
「てめェの相手はおれ様だァッ!!」
そこへバギーも負けじと追いつき、クザンの横腹を殴り飛ばした。
「え………なんだあれ……?」
殴り飛ばされるはずの体が氷の塊となってボロボロと崩れ落ちているではないか。
「
「そうだ、やつは
崩れていた体が元に戻り、また人の形を成す。
「その子をかばうだけに飽き足らず、海賊に手を貸すとはな………」
「もう政府を………海軍を信じることはできんでよ!!」
再び両手に冷気を纏わせ近づいてくるが、その間にバギーが立ち塞がった。
「ところで海兵さんよォ、あれはいいのか?」
バギーの指さす方へ目を向けると、避難船の生き残りだろうか。いまにも溺れそうになっている人たちがいた。
「だ……だれか!」
「うちの部下は優秀なんでねェ……」
そうは言うものの、額には汗が浮かんでいる。
「たすッ………!!」
「くっ………
クザンは跳躍すると両手を海にかざし冷気を放った。たちまち海は凍り付き、溺れかけていた者たちは首から上だけの状態で固まった。
「いまだ!逃げるぞお前たち!!」
先ほどのやり取りから、クザンを相手にすれば骨が折れる程度では済まないと感じたバギーは逃走を選択した。おまけに後方には軍艦が何隻も控えている。
一瞬のスキを見逃さずイカダへと急ぐ一同。
「逃がすかァ!!」
そのあとをクザンが追いかけてくる。
「よし、全員乗ったな!」
全員の乗船を確認すると、バギーは懐から片手に収まるほどの爆弾を取り出した。
「おめェらしっかりつかまってろよ!一度きりのド派手ショー!!かますぜ、特製ブギー玉!!!」
着火した爆弾をイカダの最後尾に投げつけた。瞬間、大気が震えるほどの大爆発。反動でバギーたちは空の彼方へと飛んで行ってしまった。
イカダが停泊していた海岸は、そこの部分だけがぽっかりと抉り取られ、空いた穴を塞ぐように海水がなだれ込み新しい海岸に激しくぶつかった。打ち上がった海水の飛沫を浴びながら、残されたクザンは彼らが吹き飛んでいった方向を見つめる。
「あの歳で覇気を………こりゃ始末書もんかな」
平和の象徴たる海軍から出た裏切り者と、その場に居合わせた海賊に逃げられ、任務失敗を嘆く発言にしてはどこか険の取れた表情をしていた。最後に呟かれた親友だった者の名前は、波の音にさらわれ海へと消えていった。