第13話:ハデに死ねェ
島というよりも巨大な塔。そこに住まう生物もまた巨大であった。生い茂る木々が足元にも及ばぬほど大きなキリン。その横には縄張り争いだろうか、威嚇しあう巨大なライオンとワニガメ。陸であるのにもかかわらず、そこらを這いずり回る巨大なイカなど。
秘境と呼ぶにふさわしい独自の進化を遂げた生態系が、そこには広がっている。そんな生物たちを見下ろせるほど一際高い丘に二人の男が立っていた。
「Dr.インディゴ!!研究は進んだか!?」
“金獅子”のシキにDr.インディゴと呼ばれた男。白塗りの顔にラッキョウのような体。白衣にそでを通し、首にはマフラーを巻いている。彼、Dr.インディゴはシキに歩み寄り成果を報告した。
「発見が一つありまして………どうやらこの島はとある植物がカギを握っているようでして………」
「この期間で進捗が発見一つか………」
発言を遮られて告げられた言葉に、Dr.インディゴは口を噤んだ。葉巻をふかすシキの背中をただじっと見つめる。
「インディゴ。あの計画を実行に移すのにはあと何年必要だ?」
「そうですね、10………いや、早くても20年かと」
「おめェを信用してねェわけじゃねェが、やはり一人だとそれだけ時間もかかるか………助っ人を用意しよう」
「助っ人……ですか?」
「あァ、それと計画は一部変更だ。ニューゲートの時代も悪かねェが………あいつの実力は本物だしな。だが、ロジャーに似て甘ェとこがある。なによりミーハー共をこの海にのさばらせておくのは我慢ならねェ」
先日の赤ッ鼻の小童共を思い出す。
「では、どうするので?」
肺いっぱいに吸い込んだ葉巻の煙を吐き出すと、世界に宣言するかのように組んでいた腕を広げた。
「おれらの………本物の海賊の時代は終わってねェんだよ!!ロジャーにできておれにできねェはずがねェ!!………古代兵器はおめェの研究で代替可能だ。海賊王……?そんな生やさしいもんじゃねェ………さらに兵力を増強し、この海の、全世界の支配者となる!!!」
獰猛な笑みを浮かべたシキがその手を地面に触れると、島全体が震えだした。
人為的な災害とは思いもせず、獣たちはそれぞれの巣穴へと隠れる。しばらくすると揺れも収まったので、外へ出てしばらく歩くと眼前の光景に驚愕した。そこには見慣れたはずの大地ではなく、どこまでも続く海が広がっていたのだ。
彼らの暮らすメルヴィユは塔の上部が切り離されて、海の上を浮かび移動していた。
「ジハハハハ!!!まずはてめェらからだ」
驚く獣たちは、後ろからの突然の声に振り向くところでその意識は闇へと落ちていった。暗くなり行く視界の隅に、獅子かと見まがう金色が見えた。
数年後、
四皇、と。
“ビッグマム”シャーロット・リンリン 43億8800万ベリー
“百獣”のカイドウ 46億1110万ベリー
“白ひげ”エドワード・ニューゲート 50億4600万ベリー
“金獅子”のシキ 49億9240万ベリー
ジャヤ島、その島の西にある町モックタウン。そこは夢を見ない無法者たちが集まる政府介せぬ無法地帯。
「港にある船、あれ全部海賊船?」
「たしかにここなら政府の追手から身を隠すにはうってつけだでな」
そんな海賊だらけの島にバギーたちは上陸しようとしていた。
「しばらくはここいらを拠点にする。サウロも言っていたが、いまのおれ達じゃこの先の海でとてもじゃねェがやっていけねェ」
船の船首に立ったバギーは彼の仲間たちに向けて語る。
「おれ様も海軍の中将一人相手にするのも、正直キツイ」
「バギー船長でも!?」
「あァ、そうだ。圧倒的に力が足りねェし、数も必要だ。この島を中心として力を蓄えつつ、クルーも増やしていく。わかった野郎共ォ!!」
「はい!」「わたし野郎じゃない………」
「デレシシ!!」「サウロ笑わないで!!」
真剣に聞くカバジ、野郎と言われ拗ねるロビン。そんなロビンがほほえましくて思わず笑うサウロ。モージとリッチーに至っては甲板の上で寝ていた。
(仲間にしたはいいが、カバジも含めりゃガキが三人………時間がいる。おれもなァ………)
そんなやり取りをしていると船着き場に到着した。錨を下ろしバギーとカバジは港に降り立つと、一目見ただけでモックタウンがどういう町か大体想像できた。
建物は壊された跡だろうか、つぎはぎだらけで港の桟橋には所々穴が空いている。一歩踏み出せばそこかしこで人々は笑い、刀を抜き、酒をあおっていた。
「おれたちゃ拠点になりそうなとこを探してくる。くれぐれもチビたちのこと、頼んだぞ」
「わかっただ。留守は任せてくれ」
船に残るサウロと一言交わし、バギーたちは町へと入っていった。
先ほどまでの喧騒はどこへやら、海賊たちは道の端にはけてヒソヒソと話している。おかげでバギーたちは道のど真ん中を堂々と歩けていた。
「船長のこと、ここにも伝わっているみたいですね」
「小物共のことなんざ気にするだけ無駄だ。こんなもん無視だムシ」
海賊たちはバギーたちとなるべく目を合わせないようにしていた。しかしそんな中、ちょうど酒場から出てきた男たちがバギーたちに気づいた。そして、彼らを背にしてひそひそ話をしだした。
(おい、あれ。“道化”のバギーだろ。なんだって億超えがこんなとこに)
(だな、でも手配書見たときゃみんなで笑っちまったもんだぜ。実物見るとより一層………ププッ)
(ヒヒッ、たしかに赤っ鼻の上にデカいなんてよ。ピエロじゃねェか、あんなん)
酒も入っており会話に夢中になっていた彼らに影が差した。はて、今日は雲一つない青空が広がっているはずじゃあ、と振り向くと話題にしていた当人の姿があった。まさかこの距離で聞こえていたのか、と顔に書いてある二人をバギーは見下ろした。
「ずいぶん楽しそうじゃァねェか。おれ様も混ぜてくれよ」
「あ………い、いや!別にアンタのことを言ってたわけじゃ………」
男たちの一人がバギーの圧に耐えられず泡を吹きその場に倒れた。
「ひっ!て、てめェいったいなにしやがっ………うっ!」
バギーは腕を組んだまま切り離した右手で男の首をつかみ、そのまま空高く上げていく。
「悪魔の実の能力者か!?」
野次馬からそんな声が聞こえてくるがいまはどうだっていい。
「おれ様のこの鼻をバカにした奴ァ、全員ハデ死刑にするって決めてんだ………」
「ご………ごべんなさい………ゆるし………」
何とか吐き出した懺悔もむなしく、男の体は頭から真っ逆さまに急降下し、地面に激突した。
「脳天カチ割れてハデに死ねェ」
騒ぎを聞きつけた者たちが酒場からわらわらと出てきて、バギーの顔を見るなり大声で笑い始めた。
「ガハハハッ!なんでえあの鼻!!本物かよ!」
「おいバカ!やめとけ!!」
「なんだよお前らもこの前一緒に手配書見て大笑いしただろ?」
「いやあ、いい酒の肴になったもんだ」
一連の騒動を見ていた周りの者が慌てて制止するも時すでに遅し。人は群れると気が大きくなるものだ。また、酔いが完全に回っていた。通りが嘲りの笑いに包まれる中、静かに怒り狂う道化が一人。
異変を察知したカバジは宙を蹴り、上空へと避難する。
「てめェら全員………ハデ死刑じゃァ!!!」
怒りの叫びと共に彼の体がこぶし大に分かれ、分かれたパーツがバギーの足を中心にして回り始めた。柱をへし折り壁に穴をあけ、その勢いはグングンと増していく。逃げようとした者も同様に、全身打撲になりながら宙を舞った。
「バラバラ特大フェスティバル!!」
人も建物も、全てを巻き込む大回転。あたり一帯は文字通りバラされ更地と化した。
静寂がその場を支配する。
パーツを元に戻したバギーの隣に、カバジが空から降り立った。
「上から見たのですが、あちらの方にリゾートらしき屋敷があるようです」
「そうか、案内しろ」
後になぜか無傷であった酒場の店主が語った内容とは、
「いきなり目の前の、いや周り全てがバラバラになったんだ!とりあえず目と耳を塞いでカウンターに身をかがめていた。体が持っていかれそうなほどの突風だった。しばらくしたら衝撃も収まったんで、そっと顔を上げると………そこにはなんもなかった!そこにだけ、どデカい嵐でも来たんじゃねェかってぐらい、跡には建物の残骸しか残ってなかったよ」
その日、モックタウンには暗黙のルールが誕生した。人の、いやバギーの容姿をバカにしてはならぬ、と。
「おれもいっぱい食ったらサウロみたいにでっかくなれるかな?」
「ガルルォ?」
「デレシシ!!きっとなれるでよ。」
「ほんとか!?」「ガオッ!?」
「噓よ」
「「な………!!」」
ショックでひざを折るモージとリッチーであった。