最強バギー伝説   作:バギ次郎

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第15話:てめェにゃむしろ感謝してたところだよ

「出てこい小僧ォ!!」

 

 勢いよく開けられた門がストッパーに激しくぶつかる。肩を怒らせ敷地内に入ってきた大柄の男。クリークだ。

 

「また来やがって………どういうつもりだ?」

 

 朝食をとり終え、ロビーでくつろいでいたバギーは再三にわたる訪問に苛立たしげだ。騒ぎを聞きつけ、ほかの面々も集まった。

 

 クリークは鼻息荒く、じろりとあたりを見渡した。

 

「どうもこうもねェ………今日こそてめェをぶちのめす!!」

 

 やる気満々な様子で歯を食いしばり、フーフーとその隙間から息が漏れている。一方のバギーはというと、本当に困ったような、うざったいような眉をハの字にして手を顎にあてていた。

 

「てめェがまだどんなメンタルでやって来たのか知らねェが、やるってんならやってやらァ」

 

 ソファーから立ち上がり門前の広場へと出たバギー。そこへクリークは一直線に飛び込み殴りつけた。

 

 だが、またしてもちょうど殴られる箇所は体から切り離され、当たることはなかった。つい先日に見た光景だ。

 

「馬鹿の一つ覚えが………そんなんじゃいつまでたってもおれに勝てるわけが………」

 

 クリークの拳は本来ならば体のある場所。正確に言えばバギーの左胸付近にある。

 

 マントで自らを覆い隠し、右腕の振りぬいた拳、その手をパッと開いた。

 

「手の平返しボム!!」

 

 瞬間、二人を中心に広場が爆発に包まれた。

 

「「バギー船長!?」」

 

 それまで静かに見守っていたカバジたちが驚きに声を上げる。

 

 煙の中から出てきたクリークは右腕に重傷を負いながらも、広場の隅に捨て置かれていた大戦槍を左手で拾い、一度距離を取った。

 

「ハッ!!どうだ、少しは効いたか?」

 

 額には脂汗が浮かんでいるが、してやったりとその口角は上がっている。

 

「あァ、効いたな………」

 

 周囲が見守る爆炎の中から声がした。煙が晴れ、バギーの姿があらわになった。爆弾のすすで全身が黒く、服は所々焼け落ち、左肩からは血が流れていた。

 初めて血を流している姿にカバジたちは目を見開いた。

 

 それを見たクリークが興奮気味に声を荒げた。

 

「てめェは自分から仕掛けず、最初の一発は必ず受ける!!強者の余裕だか何だか知らねェが………みっともねえな!」

 

 一撃を入れることはできたが、彼の右腕は力なくだらりとたれ、流れ落ちる血で地面に血だまりができていた。

 クリークは何も考えなしにのこのことやって来たわけではなかった。仲間が去り、一人になったアジトで二度の敗北を振り返っていた。正直、勝つビジョンは思い浮かばなかったが、何とか一矢報いたい。

 

 その答えが自爆だった。

 

「バギー船長、負けたりしないよな………」

 

 モージはまさか、とは思いつつも不安げな表情で戦況を見つめている。

 

「黙って見ていなさい!!その答えは直に出ます」

 

 カバジはそう答えるも、その声は少し硬かった。

 

 

 バギーはフーっと息を吐き、左手の感触を確かめるように拳を開いて閉じる。力の差はだれの目から見ても明らかだった。だというのに、かすり傷では済まされないダメージを負わされた。

 

(気を引き締めていたつもりになっていただけか………奴の言う通り、なんてザマだこりゃァ………)

 

 沈黙を破ったのはバギーだった。

 

「クッ、クク………ギャハハハ!!」

 

 突如肩を跳ね上げ笑い出した。

 

「何がおかしい!!気でも狂ったか!!」

 

 クリークは困惑しつつも大戦槍を握る手に力がこもる。

 

「あーいや、なに。なんでもねェ………違うな。てめェにゃむしろ感謝してたところだよ。こんなんじゃ海賊王どころの話じゃねェな」

 

 ひとしきり笑ったバギーは憑き物が取れたような顔をしていた。クリークにはいまの発言の中に聞き流すことのできない言葉があった。

 

「海賊王?………てめェが?」

 

「正確にはこの世のお宝全てを手にする!もちろんひとつなぎの大秘宝(ワンピース)もな………必然的に海賊王になるって寸法だ!!」

 

 海賊王、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)。それらを知ったときには心が震え、いつか自分も、と海へ出た。しかし気づけばごろつき共の町に居着き、最後には去っていく仲間にその夢を語りかけていたが………いまにして思えば自分も本気ではなかったのかもしれない。

 だが、目の前のこの男。自分よりも背丈は低く、ふざけたピエロメイクをしたバギーの言葉を聞くと、あの日の感動に似たなにかが心の中を駆け巡った。

 

「ちくしょう!なんだってんだ!!」

 

 自分でも理解できない感情を振り払うように大戦槍を横なぎに振るう。

 

「改めまして首領(ドン)・クリーク。おれ様の名はバギー。覚えておけよ?この世のお宝をすべて手に入れる男の名だ!!」

 

 両者駆け出し肉薄する。

 

 頭上から降ってくる槍の柄を、腰を落とし右腕でガードするとガキィンと金属音が鳴った。

 

「なんだその黒い腕は!?」

 

 驚くクリークにニヤリと笑って答えた。

 

「そのうちわかる。………バラバラリアット!!」

 

 己の未熟さを気づかせてくれた男に感謝を込めて。落とした腰を回すことでその勢いを左腕に乗せたラリアットがクリークの首に直撃し、すごい音と共に背面が地面に叩きつけられた。

 

 倒れたクリークに動き出す気配はない。

 

「「バギー船長!!」」「バギーさん!」

 

 決着のついたバギーにカバジたちが駆け寄る。モージとリッチーなんかは半泣きで鼻水を垂らしていた。

 

「ついこの間おめェらに偉そうなこと言った矢先にこれだ。心配かけさせちまったなァ」

 

「いえ、必ず勝つと信じていました!」

 

「でも汗だらだらだったよ」

 

「ロビン嬢!!」

 

 彼らも心のどこかでバギーがいれば大丈夫だと、そう思っていた。しかし、いつ何が起きるかはわからない。軽口をたたき合いながらも彼らの心の内はみな同じだった。

 

(((もっと強くならないと)))

 

 

 一つの油断が命取りになるこの世界で、今日の戦闘はよい教訓となった。

 

(広場で気絶させちまったが………あとで門の外に投げとくか)

 

 その日の夜、バギーはレイリーから教わったことを思い出し、久しぶりに一人鍛錬したのち就寝した。

 

 

 

 翌日の朝

 

「出てこい小僧ォ!!」

 

「またてめェか!!」

 

 右腕に包帯を巻いたクリークが門を勢いよく開け放ちガシャン!とストッパーに激しくぶつかった。

 

「おれと勝負しろ!!」

 

「昨日もその前も………何回負けたら気が済むんだてめェは!!」

 

「おれが勝つまでだァ!!!」

 

 そこで言葉を切りバギーへ突撃するもあえなく撃沈した。

 

「どうするの?」

 

 早起きしていたロビンが気を失い広場で突っ伏しているクリークとバギーとを交互に見てそう問う。

 

「放っておけ。意識が戻りゃ勝手に消えんだろ」

 

 そう言うとバギーはクリークをつかみ外へ放り出し門の扉を閉めた。

 

「この分じゃまた明日も来るかもな………おれはもうひと眠りしてくる」

 

 一つ欠伸をすると自室へと戻っていった。ロビンはバギーの言動から殺すつもりはないし、何なら多少は気に入っているなと思ったがそれをわざわざ口にすることはなかった。

 

「まあいいや」

 

 クリークが明日また来るのかは知らないが、とりあえず朝食をとるために食堂へと行くことにした。

 

 

 

 

 

 それからというもの、毎日クリークがやってきてはバギーに返り討ちにあうというルーティンが出来上がった。雨の日も風の日も、ということは春島で基本的に天気のいいジャヤでは少ないが。ともかくめげることなく勝負を挑み続けた。

 

「ここで右………よけてもう一回………」

「いや、あそこは前に出たほうが………」

 

 カバジたちも最初のころはまたか、という感想しか抱かなかったが、いまではむしろ二人の戦闘を見るために早起きするようになっていた。

 

「ロビンも対人格闘は覚えておいて損はねェだよ」

 

 本を読むロビンに声をかけるサウロは二人の勝負がつくまでの時間が少しづつ長くなってきていることに気づいていた。あの日からバギーが血を流すことはないが、バラバラの能力で避ける頻度がわずかではあるが減ってきている。能力で避けるのではなく、防御せざるを得ない攻撃が少なからずあるということだ。

 

(粗野な男かと思っていたが………こりゃバギーが気に入るのもうなずけるでな)

 

 そう思ったところでクリークがダウンし、きょうの勝負は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますとまた同じような光景。地面の向こうに青空が広がっている。立ち上がり体についた土埃を払うと住処へと歩きだした。

 

(ちくしょう………だがだんだんつかめてきた。鎧があろうがなかろうがそれを上回るパワーの前じゃ紙に等しい。鎧もねェのにあの男の体は()()。それに一度だけ見たあの黒い腕………あれがおれにもできれば………)

 

 ブツブツ言いながら歩くクリークを木陰から覗く一人の少年がいた。いつも意識が戻ると思索にふけるクリークは気づいていないが、この少年は随分と前からクリークを観察していた。

 

(何度負けてもそのたびに立ち上がり勝負を挑む………決して逃げない)

 

 少年の名はギン。モックタウンに流れ着いた海賊の子だったが、この町での生存競争に敗れ逃げ出した両親に取り残された孤児だ。

 

(よし、きょうこそは………)

 

 そのままあとを追い住処についたクリークと共に中へ入った。

 

 いつものように扉を後ろ手に閉め、ベッドに腰を掛けると目の前に見知らぬガキが一人いた。

 

「………なんだてめェ?」

 

 眉が少しばかり上がったが、すぐさま切り替え目の前の少年をにらみつけた。

 

「ずっと見てた………」

 

 状況がわからない。クリークはひとまず少年の言葉を待つことにした。続きを離せとでも言うように顎を上げる。

 

「化け物みたいに強い相手でも立ち向かう………あんたみたいになりたい、おれを子分にしてくれ!」

 

 見るからにボロボロの服。モックタウンで子供を見かけたことはほとんどなかった。十中八九この子には親などいないであろうことは想像に難くなかった。そこで見つけた宿木がクリークであった、と。

 そこまで考えるたがやはりわからなかった。頼るのであれば評判もそこまで悪くはない上にクリークよりも腕が立つバギーを頼るのが普通なのではないか。それにいくら子供とはいえ………あの言葉がフラッシュバックする。

 

 

 

『それ、本気だったんですか?』

 

 

 

 

「帰れ、二度と来るな」

 

 そう言い放つと軽々とギンを持ち上げ外に出した。再びベッドに腰を掛け目をつむった。

 

(あんなガキに………)

 

 幼い少年相手に何を取り乱しているんだ、と頭では考えるがイライラが消えない。今日はそのまま眠ることにした。だが………

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 またいつものようにバギーに倒され住処へと戻ると、気づけば部屋の中にまたしてもギンの姿があった。

 

「てめェ、いつ入り込んできやがった!!」

 

 さすがに驚きを隠せず声を荒げた。しかし、そんなことは気にも留めず昨日と同じように頼み込む。

 

「おれをあんたの子分にしてくれ!!必ず強くなるから!」

 

「バカにしてんのか!帰れ!!」

 

 ギンをつまみ出すとバンッと勢いよく扉を閉めた。

 

(なんだあのガキは!?………住処を変えるか)

 

 その夜、場所を変えるためにクリークは家ごと持ち上げるとズシンズシンと歩き出した。




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