第20話:なめるなよ………
「すげえー!!雲の上に浮かんでる!!」
あたり一面真っ白な空間にポツンとビッグトップ号が一隻漂っている。モージとリッチーをはじめとした船員たちが、周りを見渡して興奮していた。
「ここは白海?いや、白々海までぶっ飛んだか………?」
以前ロジャーたちと来たとはいえ土地勘は全くない。
「ひとまず船をつけて一休みできそうな場所を探しましょう」
カバジの提案に賛同した一味はとりあえず船を進めることにした。
傷の手当てをして腹ごしらえをしながら航海していると、陸地と言えるようなヤシの木らしい植物の生えた白い大地にたどり着いた。
「おー!!陸地だ!」
「おい待て!!まだ………」
ギンの諌める言葉を聞くことなく真っ先にモージとリッチーが船から飛び出した。
「なんだこれ!なんか思ってたよりカチカチだ!!」
「ガルゥオ!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて大丈夫だとこちらへ目を向けている。あぁ、と皆一様に手を額にあてる中カバジはこめかみを引くつかせていた。
「「ごべんなさい………」」
「ここは雲の上ですよ!!なにが起こるかわからないというのに………もう少し考えて行動しなさい。そもそもあなたたちは………」
カバジにきつくしぼられている二人を尻目に一味は上陸していた。船を陸地に生えていた木と繋げて流されないようにし、荷物を下ろしていく。
「空島………こんな感じなのか………」
「これがアリならこの先何が来ても驚きそうにないですね………」
クリークとギンが空島の感想を口にした。
「たしかにすげェが空島はこれだけじゃねェ。おれ様が欲しいのはそう!!黄金都市!!………つってもまずはここが空島のどの位置なのかを調べる必要があるな」
船の修理や療養など、すぐには動けそうにないのでしばらくここを拠点として日を置くことにした。
そうして船員たちは思い思いに過ごし、数日が経ったある日のことだった。
「傷も癒えたしそろそろ行動を開始するか」
バギーの声に頷いたカバジがパンと手を鳴らし皆の注目を集めた。
ぞろぞろと集まった船員たちへ向けてこれからのことを話そうとしたとき。
「なんか聞こえねえか?」
「あぁ、聞こえる。なんか腹の底に響く感じだ」
「音?………おれにはなんも聞こえねえな」
船員たちがざわつき始めた。音、と聞き他のものたちも耳をすました。するとどこか遠くの方から小さくゴロゴロと何かが唸るような音が聞こえてきた。
「これは………雷?」
誰かがつぶやくのと同時にドン、と一際大きな音がしたかと思うと船員の一人が顔を蹴られ吹き飛ばされ木に激突した。
「なんだ?何が起こった!!」
「テメェ………いきなりなんだってんだ!!」
蹴られたとわかった船員たちが色めき立つ。得物を抜き仲間を襲撃した犯人めがけて飛びかかるもまとめて倒されてしまった。
「てめェ………なにモンだ?」
すでに戦闘態勢に入ったバギーたちから睨まれても下手人は表情を変えず、ただ淡々と名乗りを上げた。
「ヤハッ我はエネル。こんな辺鄙なところで声がしたと思って来てみれば………貴様ら青海人だな?」
白い頭巾をかぶり、黄金の棒を構えた異様に耳たぶの長い男がバギーたちへ問いかけた。
「おれらを青海人と呼ぶってことァてめェはここの人間か………ここは空島のどこだ、なんて島だ?」
「この島の名はビルカ、その端。
エネルは尊大な態度で見下すように言い放った。
「おめェら、離れてろ」
船員たちは左右に割れ、バギーとエネルが対面した。なにやらよくわからないが先に手を出してきたのだ。一発返さねば示しがつかない。
バギーがこの集団のトップだと認識したエネルは手にした棒で背中から生えている太鼓をドドンと叩く。するとバチバチと音を立てて叩かれた太鼓に雷が集まり出した。
「3000万
叩かれた太鼓が雷でできた鳥に変わりバギーへ襲いかかってきた。
「バ〜ラ〜バ〜ラ〜……せんべいっ!!」
バギーはぐっと身をよじり力を込めて射出した下半身を回転させ雷鳥を縦に両断した。
「体が分離した?いや、それよりも切った、だと………雷だぞ。貴様、なにをした?」
先ほどまでの見下したような余裕のある表情から一変し、眉を顰めた。
「だれが教えるかってんだバカやろう。てめェは所詮田舎の大将ってことよ」
「船長はバラバラの実を食べたバラバラ人間で覇気が使えるんだ!!お前なんかケチョんケチョんにやられちまえ!!」
「「「モージィーー!!!」」」
モージは全員からツッコミを受け隅の方で縮こまった。
「覇気………なんだそれは」
エネルは初めて耳にした言葉に眉間のシワが濃くなった。バギーはモージの派手バカさ加減に頭が痛くなった。
「知ったところでどうにかなるモンでもねェ………おれ様のかわいい子分に手ェ出した報いだ。死んで詫びろ!!」
「「「船長………」」」
かわいい子分と言われ、船員たちの目に光るものが。
「ヤハハ………我は神なり。先ほどのカラクリはわからぬが、ただの人間がどうやって雷に勝つというのだ!!」
またも背中の太鼓をドドンと叩いた。
「6000万V………
二つの太鼓が雷の龍となって飛んでくる。
「不規則に蛇行する龍だ!!これでは避けられ……」
「バラバラフェスティバル!!」
バギーは体を全てバラバラにした。雷龍はバギーを通過して虚しく霧散した。
「ならば………!!」
遠距離攻撃では意味がないと判断したエネルはバギーへ接近する。
「肉弾戦なら武があるとでも思ってんのかァ!!」
バラバラにしたパーツを再集結させたバギーが不敵に笑った。
「ハァッ!!」
エネルの繰り出す棒術はキレがあり、半端なものでは手も足も出なかっただろう。事実、これまでエネルは敗北はおろか苦戦したことすら一度もなかった。
しかし、今回の相手はバギーであった。
「貴様………まさか
まるで先が読めているかのように己の攻撃をかわすバギーに驚きの声を上げた。
「そうだったなァ………見聞色の覇気のことをここじゃ
(覇気………
「呑気に考えごとか?」
今度はバギーが仕掛けた。
「
目を瞑り集中するエネル。
(なぜかはわからんがこいつは雷が切れる。ナイフに気をつけさせすれば………)
「!!?」
完全にノーマークだった生身の攻撃。バギーのボディブローが入りミシィと嫌な音がした。
「ギャハハハ!!やっぱりなァ!!
たまらず膝をついたエネルは信じられないといった表情をしていた。
来るとわかって受けた攻撃と意識外から来た攻撃では、威力が同じでもそのダメージは言うまでもなく後者の方が大きい。
慣れぬ痛みと混乱する頭では集中することもできず
「だから言っただろ。てめェは所詮田舎の大将だってなァ」
エネルはなす術もなく地面に転がされた。
「なめるなよ………我はエネル。いずれ全ての上に立ち、
「いや初耳だし阻んでもねェよ」
エネルは口についた血をぬぐい、しかと立った。
(意外にタフだな………下に来りゃ億はくだらねえか?)
「ちょこまかとバラけて当たらぬのであれば………避けられぬほどの規模であれば!!」
そう言うとエネルは手を前に突き出し構えた。
「1億V
絶えずゴロゴロと音が響き渡る巨大な雷の化身。
「
雷神となったエネルが手を上に振りかざし、勢いよく振り下ろした。
「でかい!!」
バギーがいたところに雷の柱が降ってきた。
「「「バギー船長!!!」」」
白い雲の大地にポッカリと大きな穴が空いた。船員たちはその威力に息をのみ、我らが船長は無事かと目を凝らす。
見ると直撃は免れたものの左腕が焼け焦げたようになっているバギーの姿を確認した。
「やってくれたなァおい………バラバラ
バギーの胴体が何枚か円盤状に薄くバラけた。そのディスクを右の指の間に挟むとエネルへフリスビーのごとく投げつけた。
「ぐっ………!!」
武装色で黒く硬化した回転ブレードが雷神の四肢を断ち戻ってくる。
「的がデカくなったぶん当てやすいぜ………本体はそこかァ!!」
(なんだこいつは………なんなんだ!!)
達磨になった雷神の中心部にエネルを見つけ出した。
「バラバラ空中散歩!!」
切断された四肢から放たれる雷の束を靴裏に仕込んだマギー玉(空中散歩仕様)で、宙を蹴るようにして避けながら一気に駆け上がった。
速度は上がり続け、さらに左右のタイミングをずらし回転をかける。そのままエネルめがけて一直線。
「バラバラ人間大砲!!!」
「ぐはッ………!!」
鳩尾に回転頭突きをくらい白目を剥く………が、それで終わりではなかった。
「!!?」
体をがっしりと掴まれたエネルはそのまま回転しながら地面へ叩きつけられた。
「空中錐揉み大サーカス!!!」
完全に沈黙したエネルを見て船員たちは歓喜の声を上げた。
「船長………いや、キャプテン・バギー。おれらのためにあんな徹底的に………」
「うぉおー!!痺れたぜ!!」
バギーバギーと船員たちの感動コールが鳴る中、戦いの幕は閉じた。
「うっ………」
エネルは騒がしい声で目を覚ました。どうやらテントの中のベッドで寝ていたらしい。
(私は………)
記憶を遡り、人生で初めて敗北したことを思い出した。
「あの赤鼻の青海人め………」
「死にたくなければその言葉は二度と口にしないことですね」
その声に驚いて横を見るとマフラーをした頭の片側を刈り上げた男が立っていた。
(たしか、あの場にいた………)
自分は敵陣の中にいることを悟ったエネルはカバジを睨みつけた。
「なぜ私は生きている………なぜ殺さない」
「船長があなたに話があるそうですよ」
ついてきてください、と言いテントを出たカバジのあとを渋々追いかけ外へ出ると宴が行われていた。騒がしい正体はこれか、と宴の中心で燃え盛るキャンプファイヤーを見ていると
「おい、こっちだ!!」
と声をかけられた。声の主の方へ目をやると己に敗北という二文字を刻んだ男だった。
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