第22話:たのむ………船長!!
「うおー!!タコバルーンってこういうことか!!」
「ガルゥッ!!」
巨大なタコがその八本の足で船を抱え、気球のようにゆっくりと降下していく。頬を撫でる心地よい風と移り行く景色に自然と笑みがこぼれた。
「それにしてもよかったのですか?」
「なにがだ………」
そんな中ムスッとしたバギーにカバジが声をかけた。
「黄金ですよ。全部おいてきちゃいましたけど」
「よかねェよ!!」
すぐ隣にいるのにも構わず大声で叫ばれツバが飛んだんですけど、と半目でバギーに訴えた。
「………だがあいつにゃあれが必要だったんだろ。あんだけの覚悟を見せてきたんだ………それにこたえてやるのもまた粋ってモンだろ」
「おーー!!さすがキャプテン・バギー!!」
「かっくいー!」
わき立つ船員たちに混じりバギーやモージたちも騒ぎ始めた。
「あなたがそれでいいのなら………」
この船団の会計も担うカバジとしては惜しい気持ちもあったが、バギーの決めたことに異を唱えることはしなかった。それに目の前で騒ぐ気のいいバカたちを見ていると、毎回頭を悩ませているのもなんだかなあという気持ちになってきた。
「わたしにもエールを!!」
「めずらしいな、カバジさんも飲むのか!」
「飲み比べ、する?する?」
「負けた方が髪の毛半分刈り上げな!」
「え………………楽しく飲もう!!」
「わたしの髪型はダサくない!!」
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。先ほどの喧騒も静まりゆったりとした空気が漂っていた。
「ところでこれどこに降りるんですかね」
ふとそういえば、と船員の一人がバギーに尋ねた。
「そりゃおめェ………どこだ?」
「まさか海軍基地の上なんてことにはなりませんよね!」
「だとしたらどんだけ運が悪いんだよおれら!」
「「「ギャハハハ!!」」」
なんて能天気な会話をしていたら────
「なんか降りるの速くなってきてないか?」
「それに心なしかさっきよりタコが縮んでいるような………」
異変に気付いた者たちの指摘でほかの者たちもざわつき始めた。ヒョオッと船が風を切る音が大きくなると共に、ざわざわもだんだん大きくなる。タコがしぼむほどに降下速度が上がっていく。
すっかり酔いも冷めた一同があわあわとしていると、
「着地点………海じゃないです!!」
手すりから身を乗り出し、下を確認した船員の声で皆の動きが止まった。
「「「なにィ!?」」」
「やべェーー!!どうすんだよ!!」
「おれもここまでか………」
「かあちゃーーん!!」
「おめえに母ちゃんはいねえだろ!!」
仲間の発言を脳が処理したのちパニックに陥る船員たち。ここで終わるのか、長い旅路だったな、でも体感では長くなかったよな、いや長かったよ、長いの?長くないの?どっちなの?
窮地に陥った船員たちの頭の中をどうでもいい走馬灯が駆け巡る。
「総員直ちに船尾へ移動!!砲撃部隊はブギー玉装填!!……………死にたくなかったらさっさと動けェ!!!」
ボケッとしていた彼らへカバジの檄が飛んだ。鬼気迫るカバジによって冷静さを取り戻した船員たちは死に物狂いで動き出す。
全員が船尾に集まるとわずかだが少しずつ船が傾き、船首が上を向き始めた。
「いまです!!発射ァ!!」「発射ァ!!」
あわや地面に激突するところだったがカバジの掛け声に合わせてブギー玉がさく裂し、船は斜め上方向に射出された。弧を描くように空を飛ぶビッグトップ号。
「任せるだ!!」
再び地面にぶつかるところでサウロが船から飛び出し着地点で受け止めた。
「うおおお!!」
サウロはめいっぱい両腕を広げ全身に力を込めた。足の裏に全重量がのしかかり、地面を削り取りながらも船は減速していく。サウロは生命帰還と覇気により受け止める部分はクッション性を持たせ、衝撃は足を通して地面へ流すという器用さを発揮した。
そうして静止するまで何百mもかかったがなんとか着地することに成功した。
「てんめェ、このタコ野郎!!」
バギーは甲板に寝そべる中途半端な大きさになったタコバルーンに詰め寄るが、非常に申し訳なさそうにしていたのでそれ以上の追及はやめておいた。
「なんだ………この白い壁………」
バギーたちが辺りを見回すと静止した船と平行に巨大な壁が、端が見えないほど長く続いていた。
「しっかしここはいったい………」
バギーの発言はドーンという爆発音によって遮られた。音の大きさから推測するに近くはないようだが、音のほうを見やると真っ白な大きな壁の向こう側が明るくなっていた。
雲の上にいたからわからなかったが、いま下界は夜だった。
「こりゃァ……」
壁はちょうどサウロの目線ほどの高さだったので、壁の中を確認できるのはサウロだけだ。そのサウロが中の様子を窺うと言葉を失った。建物が燃え盛り人々が逃げ惑う。その服装や、決定的なのは首に奴隷の首輪がはめられていることからどこかの王国かとも思ったが違った。
「ありゃァ……天竜人………」
「なんだと!?」
天竜人の男は醜い顔でなにやら叫んでおり、不摂生のせいだろうかヒョウタンのような体つきも相まってその姿は見るに堪えない。
感覚が過敏なモージやリッチーたちは気分が悪いようできつそうな顔をしている。
「てことはここはマリージョア………
バギーはものすごいところに落ちたもんだと一瞬思考が止まりかけるがすぐさま我に返り、
「いますぐここを離れるぞ!!船を下におろす装置なりなんなり………とにかく壁から降りる方法を探せェ!!」
とは言ったものの、どうしたもんかというのが本音であった。たしかに船の乗降場のようなものはあるのだろう。だが、もちろん海賊船がそんなところを通れるはずもない。万事休すとはこのことか。
ただ天竜人、ひいてはマリージョアの人間に見つかっていないことだけが唯一の救いであった。
「ああーー!!巨人だえ~~!!あの巨人も捕まえるんだえ!!」
「あれは………バギー海賊団“反逆者”ハグワール・Ⅾ・サウロ!!どうして奴がここに!?」
救いはなくなった。
天竜人の男は壁からのぞき込んでいたサウロに気づくと、護衛たちに喚き始めた。
「いつまで見とんじゃドアホ!!おかげでバレちまったじゃねェか!!」
不快なだみ声が壁越しに聞こえたバギーは、見つかったサウロにそう苦言を呈した。周りの者たちもおいおいどうすんだと落ち着かない。
見つかるなんてことはサウロにはわかっていた。しかし、彼の中の正義、いや信念がその光景から目を離すということを許しはしなかった。
「ワシはもう海賊だ………だども!!ワシは人として、これを見て見ぬふりはできねェ!!」
依然として建物は燃えており、その中をはだしで必死に走る人々。背後から銃で撃たれ命を落とす者や、全てを諦めたかのように茫然として虚空を見つめている者もいる。
「たのむ………船長!!」
一同が静まりバギーの答えを待っている。
(ここでの最悪はなんだ………いやこのどさくさにまぎれれば………)
しばし熟考したバギーは目をかっぴらいて腹をくくった。
「………だァ!!チクショウ!!どうなっても知らねェぞ!!直に大将が来るはずだ………タイムリミットはそれまでだ!!」
「恩に着る!!」
バギーの決断を聞き、サウロだけでなく船員たちの気も引き締まった。
船長の許諾を得たサウロに迷いはなくなった。壁に向き直り武装色の覇気が右腕を覆う。
「威国!!」
分厚い巨大な壁にぽっかりと大きな穴が空いた。大きな音に気付いた奴隷たちの目が一斉にこちらを向いた。
「こっちだ!!ここに船があるだよ!!」
サウロは穴から顔を出し大声で奴隷たちに呼びかけた。
相手が巨人だろうが何だろうが、この壁の外に出られるというのであればそんなことは些事に思えた。あちこちへ逃げていた奴隷たちは迷わずにサウロの開けた穴へ向かって走り出した。
「おい!こっちだ!」
「あそこに向かって走れ!!」
奴隷たちと入れ替わるようにしてバギーたちがその姿を現した。
「なぜバギー海賊団がここに!?“フィッシャー・タイガー”が首謀者ではないのか!!」
「こちらマリージョア東区。バギー海賊団“反逆者”ハグワール・Ⅾ・サウロが壁を破壊!!さらに船長“道化”のバギー、並びにその幹部たちを目視!!至急応援を!!」
天竜人の護衛たちは厄介な侵入者が来たものだと互いに目を合わせ、気を引き締めた。
「なにをグズグズしてるえ!!奴隷共が逃げていってるえ~~さっさと捕まえるえ!!」
天竜人に発破をかけられた護衛たちが奴隷の確保に向かうが、その行く手を阻むように歩み出てくるのはバギー海賊団。
「お、なんだ?暴れていいのか?」
「お供します
「まったく………仕方ないですね」
そして一際威圧感を放ち、護衛たちの足を留まらせる存在。
「こうなっちまったモンは仕方ねェ………いっちょハデにブチかますぞ!!」
一歩進むごとに段々とバギーの体がバラバラに分かれ始める。
「なんだえおまえ、バラバラ人間!?やったえやったえ~~おまえも奴隷コレクションに加えてやるえ~~」
「気持ち悪ィ声で話しかけてくんじゃねェ!!」
バラバラになったパーツがバギーを中心に回転を始めた。
「構えろ!!サンジョルノ聖をお守りしろ!!」
「くるぞ!!」
バギーの回転はさらに大きく、がれきや炎を巻き込みながら進んでいく。それはもはや炎の竜巻と化し、天竜人もろともすべてを飲み込み天高く打ち上げた。
「特大バラバラフェスティバル・火炎車!!!」
バギーによる竜巻が吹き荒れ、あたりは更地となった。
そして火傷と打撲を全身に浴びて力なく気を失ったサンジョルノ聖とその護衛たちがドサっと空から落ちてきた。
マリージョアの設定は捏造です
追記
タイガーフィッシャーじゃなくてフィッシャー・タイガーだった!!!
ミス!!