最強バギー伝説   作:バギ次郎

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第25話:さっさと一列に並びやがれくださーい

 仮設の大型テントの中で幹部たちは新聞を読み終わると、入り口の隙間から外の様子をうかがった。

 

「ただ、まぁ………」

 

「何はともあれまずは………」

 

 一味が目を向けた先には名簿受付と書かれた横長の机の前に、長蛇の列をなしている奴隷たち。ざっと数えただけでも300人はくだらない。

 

「こいつァいったい、いつ終わるんだ」

 

「うだうだ考えていても仕方がありません。さっさと故郷に返すなりしましょう」

 

「そうするほかねェか………」

 

 しょうがねえと頭を掻きながらテントを出るクリークにギンとパールがその後を追う。なんだかんだ言いつつも意外と面倒見のいい男なのかもしれない。 

 

 奴隷救済の言い出しっぺであるサウロを筆頭に、彼らの気持ちの分かるモージらが積極的に働き、十日ほどかかったがなんとか名簿リストの作成が終わった。

 

 しかし、ただ一人だけ非協力的な男が一人。我らがキャプテン・バギーである。あとは任せたの一言を残し、日がな一日中新たな爆弾の作成とその威力テスト。毎日決まった時間に遠くで爆発音のあと煙が立ち上るのは、もはや恒例の出来事になっていた。

 

「おい!あいつはどうにかなんねえのか」

 

「お宝と爆発にしか興味のない人ですし、それに………」

 

 カバジが特に咎めなかった理由としては、バギーはテストが終わると自作の爆弾の自慢をしに受付を待っている奴隷たちを訪れるのだが、結局はバギーを慕った子供たちがそこに群がってしまう。子供たちを邪険にできず、その相手をする様を周りの大人たちがほほえましく見守る。といったことまでが爆弾テストからのワンセットになり、待ち時間のいい暇つぶしになっていたからだ。

 

「おい待て、おれ様の耳で遊ぶんじゃ………そこ!!なに首でサッカーやり始めてんだこらァ!!」

 

「すみませんバギー様、あの子らにはよく言い聞かせておきますので………」

 

「毎回そう言ってんのに改善が見られねェのはどういう了見だ!!改善といえば今回の新型爆弾はだなァ……………」

 

 元奴隷たちの中にはいまだトラウマから抜け出せず暗い顔をした者も少なくなかったが、この時ばかりは何の気なしに笑い合うことができた。バギー自身にはそういった意図はなかったが、結果的に彼らの心のケアにつながっていた。

 

 

 

 

 

 

 名簿リスト作成は終わったが頭を悩ませる問題はまだあった。元奴隷たちの体に刻まれた天竜人の所有物としての証である焼印(天駆ける竜の蹄)の存在だ。中央の大きな円の上部には三つ、下部には一つ、爪を模したマークが入った蹄というよりもむしろ竜の足跡。この焼印を体に押し付けられたあと、ろくな手当もなかったためそのまま亡くなったケースも多いという。

 

「たとえ故郷に帰ることができたとしても一生あの傷を隠して生きるしかねェでな」

 

「あれの上から新たに焼印をする、もしくは皮膚ごと削ぐ………という手段はあまり現実的ではありませんね」

 

 確実にトラウマの一つであろう焼印を体に押し付けるという行為は憚られた。かといって焼印の部分の皮膚を削るという行為も言わずもがなリスキーだ。どうしたものかと知恵を出し合っているとバギーがテントの中に入ってきた。

 

「おいロビン、手鏡持ってねェか?」

 

「ええ、持ってるわ」

 

「ちょいと貸してくれ」

 

 そう言いロビンから受け取ると、鏡に映る自分の顔を見て何やら神妙な面持ちで首をかしげるバギー。

 

「いまは会議中ですので違うところでやってもらえませんか?」

 

「いや、な?なんか今日のメイクがしっくりこねェんだよ………自分の部屋に戻るのもめんどくさくてなァ」

 

 と言いながらバギーは顔に手を当てると両目の上から下にかけて入った縦二本線のメイクが()()()()()()()()、目の周りに大小さまざまな大きさの水玉模様を線で結んだどこか幾何学的なメイクへと変化した。

 

「「「えーーーー!!!」」」

 

 それを見たテントの中にいた者たちは驚きに大きな声が出てしまう。

 

「なんですかいまの!!」

 

 代表してカバジが問うと、バギーはロビンに鏡を返すついでに事も無げに答えた。

 

「おれのバラバラの能力の一つに決まってんだろ。見せたことはなかったか?」

 

「初めて見ましたよ!!………いや、これなら!!」

 

 カバジはひらめき周囲の者と顔を見合わせる。皆も同じことを考えているようだった。

 

「バギー船長、折り入って相談が………」

 

「なんだよ」

 

 テントを去ろうとする背中に声をかけると、頭だけ振り返りいかにも嫌そうな顔が見えた。

 

「ここに宝の地図が一枚あります」

 

 カバジは見せつけるかのごとく、宝の地図を突き出すように提示した。バギーはその場に立ったまま顔を宝の地図まで飛ばし隅々まで目を通すと、おもちゃのような動きで体を動かしカバジの襟に飛びついた。

 

「おいマジか!!こいつはあの大海賊ウーナンの残した財宝を示す宝の地図じゃねェか!!おめェこれをどこで?」

 

 宙に浮かんだ顔は地図を隅々まで見ようと上下左右に忙しなく動き続け、体はカバジの襟を掴みブンブンと前後に振っている。慣れた様子のカバジはそのまま言葉を続けた。

 

「これをあなたに差し上げましょう」

 

「おめェはなんていいやつ───「ただし!!」」

 

 襟をパッと放しありがとうのハグをしてくる体を華麗に避けたカバジは地図を懐にしまう。

 

「おれ様の宝の地図!!」

 

「ただし、奴隷たちの焼印をあなたの能力で違うマークに変えてくれれば、この宝の地図は喜んで差し上げます」

 

「なんだと!!いったいどんだけ数いると思ってんだよ!!大体奴隷なんぞ帰りたきゃ勝手に帰らせ───あァァァァ!!」

 

 眼前にやって来たバギーの顔の前にカバジはあるものを懐から取り出しぶら下げた。

 

(こいつはキャプテン・ジョンのトレジャーマーク!!)

 

 バギーは一目見てそれが何なのかを理解した。カバジの手には一見するとただの洒落たリストバンドのようなものが握られていた。

 

「そうです。これは(キャプテン)・ジョンの財宝のありかを示すトレジャーマーク。先ほどのお願いを聞いてくれたら、どちらも差し上げましょう」

 

(いまここで宝の地図とトレジャーマークをぶんどってトンズラしてもいいが………)

 

 バギーの視線の先には真剣な表情のサウロとロビン。そして同じ境遇だったモージも何か言いたげな顔をしていた。

 

「ハァ、わかったよちくしょう。やりゃいいんだろやりゃァ」

 

 ぶつくさ言いながらその場を後にするバギー。テントの中に残ったカバジたちは安堵や喜びで笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 一方、外へ出たバギーは椅子を片手に奴隷たちの前に姿を現した。

 

「キャプテン・バギーよ」

「おお、我らが救世主のお姿だ………」

 

 たちまち人だかりができ、場が騒然となる。そんな彼らに一瞥することなく、持ってきた椅子を置き、それにドカッと座ったバギーは渋々といった調子で語りかけた。

 

「はーい、いまからてめェらの体にあるきめェ焼印をにっこりマークに変えてやりまーす。超カッコいいおれ様、バギーマークでも可。さっさと一列に並びやがれくださーい」

 

 途端に静寂が訪れた。

 

「え、いま………」

「救世主はなんと………!?」

 

 衝撃的な発言に頭の回らない者たち。たしかに、もう奴隷だったころのような生活とはかけ離れた生活がいまはできている。船員たちも海賊とはいえノリがよく気のいい者ばかりだ。しかし、ふいに傷がうずき、あの地獄さえ生ぬるい日々を否が応でも思い出す瞬間が日に何度かある。これさえなければ、たとえ逃げてもこれがある限り────そう考えない日はなかった。

 

「消せるのか………この傷を!!」

 

「だァからそう言ってんだろ!!さっさとこっちに来い!!」

 

 自分の指示にすぐに従わないことにイラついたバギーは、近くにいた男に手を飛ばして頭をワシ掴みにし、そのまま目の前に連れてこさせた。

 

「おい、どこにあんだ」

 

「え………」

 

「傷に決まってんだろ派手バカ野郎!!」

 

「こ、ここのわき腹に………」

 

 服をめくると右のわき腹辺りに焼印(天駆ける竜の蹄)がある。それにバギーが触れると傷がバラけ、また集まりヤツデの葉の形に変貌した。

 

 

 

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

「消えるんだ!!」

「やっと………やっと解放される!!」

 

 神の御業を目にできたといわんばかりに元奴隷たちは泣いて土下座し、地面に額をこすりつけて一斉にバギーを拝み始めた。そうして男や女、子供も大人も、果てには足長族や魚人族といった種族に関係なく歓喜の涙を流し抱き合った。

 

 クルーたちは仮設住居の建築や、食物調達の確認等の作業をしていたら急に奴隷たちがバギーを崇め始めたので、何がなんだかわからなかったがまたバギーがすごいことをしたに違いないと互いに顔を見合わせた。それから奴隷たちの横に肩を組んで並び、バギー!バギー!と騒ぎ始めた。

 

 数百人の人間が泣きながら頭を下げ、その傍らでは彼らに負けじとバギーコールをする集団。このカオスな空間はしばらくの間続いたという。




ヤツデの葉っぱは天狗の葉とも言われている掌状の大きな葉っぱです。

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