投稿の間隔が空いたときは、あー具合悪いんだな、と気長に待っていただけると幸いです。
焼印騒動から数週間たち、今度はどうやって彼らを故郷に帰そうかと悩んでいたある日。プルプルプル、と電伝虫のコールが鳴った。
「参謀長ーー!!島の南に船です!帆には太陽のマーク、乗組員は………魚人です!!」
「太陽のマークに魚人………」
見張りをしていた船員たちからの報告にもしやと思い港で船を待っているとその予想は当たっていた。
魚をモチーフにしたキャラベル船から降りてきたのは様々な魚人たち。個人差はあれどみな大柄でガタイのいい連中だ。彼らの体には帆にもあった太陽のマークと同じマークが刻まれていた。
「おまえか、道化のバギーってのは………」
中でも特に大きく、頭にバンダナをした異様に存在感のある魚人がバギーをじろりと見た。
「そういうてめェはフィッシャー・タイガーだな?一人でマリージョアに特攻したらしいじゃねェか」
「一人ではなかったが………貴様もあの場にいたのだろう?多くの奴隷を攫ったと記事にはあったが、彼らは無事か?」
タイガーは当事者なので新聞に書かれていたことが事実ではないとわかっている。だが、裏を返せば、なにが真実なのかはわかっていないため探りを入れようと対話を選んだ。
しかし、タイガー以外の船員たちはそうではなかった。港に集まったバギー海賊団からの好奇の視線。何より相手が(一部を除くが)人間であるということから敵意を隠そうともしていない。
魚人たちの空気を感じ取り、物珍しそうに見ていたクルーたちの間にもピリついた空気が────流れなかった。
「おい、見ろよ」
「見てるよ」
「あれが魚人だよな?」
「見張りが魚人て言ってたから魚人だろ」
「ほんとにそうかな?」
「新聞にもそう書いてあっただろ!手配書付きで」
「おれ、文字読めないんだよね」
「あ………ごめん」
「でもそいつの言ってることは一理あると思うぜ」
「いちり?」
「おまえは黙ってろ!だってよお、あいつら………しっぽがない。二本足だ!!ちょっと変わった人間なんじゃねェのか?」
「でもあいつ、槍持ったあいつはしっぽがあるぞ。ひれもある」
「じゃあ、あいつは魚人なんだろうよ」
「あいつだけ?ほかは?」
「おれに聞くんじゃねえ!知らねえよ!」
「だれも魚人のこと知らねえんじゃねえか?」
「この中で魚人に会ったことがある、もしくは見たことがあるやーつ」
「はーい」
「「「船長だけかよ!!!」」」
一人だけ手を挙げたバギーが総ツッコミを受けた。
「なにをバカやってるんですか!!」
見かねたカバジが怒声を上げた。
「それにあなた達は魚人を見たことも会ったこともあるでしょう!!」
「「「???」」」
全員そろって首をかしげる。
「奴隷だった者の中に彼らのような人たちがいたでしょう。あの人たちが魚人です」
今度は逆に首をかしげた。
「手に水かきがあって」
「首にエラがあって」
「泳ぐと速い」
「「「あいつらが?」」」
「そこまで把握しておいてなんでわかんねェんだよ!!」
「おい、バカがうつってるぞ」
思わず口調が崩れたカバジをクリークがたしなめた。なんだーそうだったのかーと言い合うクルーを見て、タイガーは少し安堵した。
「どうやら奴隷たちは無事なようだな」
「シャハハハ!!なにのんきにおしゃべりなんてしてんだ大アニキ!!そんなもんこいつら人間どもを全員血祭りに上げてから考えりゃいいじゃねェか!!」
ノコギリザメの魚人であるアーロンに賛同するように、一部の魚人たちがこぶしを鳴らす。
「なんだてめェら、ケンカ売りに来たのか?」
アーロンの挑発にクリークが一歩前へ出た。ギンも後ろでトンファーに手をかける。
「よさんかアーロン!!タイの………お頭がしゃべりよる途中じゃろうが!!」
フィッシャー・タイガーに次いで大柄なジンベエザメの魚人であるジンベエが隣で息を巻くアーロンに拳骨を落とした。
「なにすんだアニキ!!大体なァ、大アニキがこんな人間なんかの手下扱いになってること自体が気に入らねェんだよ!!」
「そんなの新聞屋に言えよ。バギー船長に文句言ってどうすんだよ」
「ガゥッ」
血祭りに上げると言われ、さらに敬愛する船長をこんな呼ばわりされご立腹なモージとリッチー。
「なんだと?」
頭を押さえながらバギーに文句を言うアーロンは、二人からの指摘にその表情がピタリと止まり、青筋を立てた。
「いきなり乗り込んできて、めちゃくちゃケンカ腰で。何しに来たんだよおまえら」
下等種族と見下し、おまけにまだ少年の白い毛むくじゃらにナメた口をきかれたアーロンは大層腹を立て、つい口をついてしまった。
「下等種族が反論すんじゃねェ!!獣か人かもわからんようなクソガキめ………」
そう、言ってしまった。
途端に船員たちの表情に影が差し、一時はジンベエの拳骨で緩んだ空気もどこかへ行ってしまった。
「いっぺん口に出した言葉は取返しつかねェぞノコギリ野郎………」
腰のサーベルをモージに渡したカバジがアーロンの前に歩み出た。彼の纏う雰囲気は、だれがどう見ても怒りそのものだった。
「シャハハ、愚かな人間よ。魚人の腕力は生まれながらにして人間の十倍。そして魚人は海での呼吸能力を身に付けた“人間の進化系”!!そんな至高の種族であるこのおれに………貴様いま、なんと言った?」
対するアーロンを含む魚人たちも同胞をバカにされ黙ってはいられない。得物を手に取りアーロンの隣に並び立つ。
「てめェが特別おしゃべりなのか?それとも魚人はみんなこうなのか?」
「………ブチ殺す!!」
目の血管が充血し、瞳孔が縦に開いたアーロンはカバジに殴りかかった。
フィッシャー・タイガーは終始口をはさむことはなく見守っていた。もしもアーロンが相手の命を奪うようならば、そのときは間に入りやめさせるつもりだった。つまり、彼は無意識のうちに自分たち魚人にそこらの人間が敵うはずがないとそう思っていた。また、アーロンの発言もこれまでの魚人に対する仕打ちを考えれば仕方のないものだと判断した。
しかし、彼はいま、目を見開き開いた口が塞がらなかった。目の前で起こっている光景が信じ難いものであったからだ。
「おい、結局てめェらは何しにここに来たんだよ」
バギーにそう問われるもタイガーは、魚人たち、特に荒くれ者の部類にある船員たちが素手の人間一人に蹂躙される様を呆然と眺めているだけだった。
「てんめェ、おれ様を無視するとはいい度胸してんじゃねェか………こらァおい!!」
「あ、あァ………おれたちタイヨウの海賊団は「自由」と「解放」を掲げている。お前たちが連れ去った奴隷の解放を、と思って来たのだが………」
ようやく我に返ったタイガー。彼の話を聞いたバギーはなるほどな、と相槌をうつ。
「先に手を出したのはこちらだ。返り討ちにあったからといって文句は言うまい。ただ、あいつらの気持ちもわかってほしい。それだけ魚人に対する差別の根は深い………」
「………」
タイガーはなぜ初対面の、しかも人間で海賊であるバギーにこんなにも敵意が湧かないのか、ふとそんなことが頭をよぎった。しかし、アーロンのみならずジンベエまでもが参戦し、それならばとクリークとギンが加勢し、混乱を極める状況に思考を戻した。
さすがに止めるべきか、と一歩踏み出したタイガーの前にバギーが立ち塞がった。
「そこをどけ………さすがにこれ以上は────」
「いままで虐げられてきた奴らが解放されて、次にすることは何だかわかるか?まずは喜ぶか?それとも怨敵に復讐か?」
早く止めに入らなければ大怪我では済まなくなりそうなほど戦闘は激化している。だというのに、タイガーは背中を向けたまま語りかけてくるこの男の話を無視することができない。バギーの背中は自分よりも小さいはずなのに、なぜだか一回りも二回りも大きく見えた。
タイガーが言葉に詰まっていると、
「それもあるだろうがさらにその次だ。不思議なこって時間が経つと奴らは、防衛本能だか何だか知らねェが、今度は自分が虐げる側に回るんだよ」
告げられた言葉に息をのんだ。
「いろんなとこを見てきて全部がそうとは言わねェが………だいたいはそんなもんだった」
「………だったらなんだ」
暗に自分の掲げたものを無意味だと言われているようだ。タイガーは思わずとげのある言い方をしてしまった。
「いんや、別に説教を垂れてェってわけじゃねェんだ。自由!解放!大いに結構………何をするかなんざそれこそ自由だ!!」
「なにが言いてェ」
要領を得ず、だが無視もできないタイガーがバギーの背中をにらみつけていると、急に振り返ったバギーと目が合った。
バギーのタイガーを見る目に畏怖や侮蔑の色はなく、好奇、それとも違う見たことのない、向けられたことのないギラついた目をしていた。身長的に見下しているはずなのだが、その目を見ていると自分のほうが小さく、見上げているような感覚に陥った。
「つまり、おれ様は………お前のこれからに興味が湧いた。なんなら一緒にぶっ壊してみるか?………世界をよォ」
マントを翻し去っていくバギーの背中をタイガーは目で追った。そのままバギーは同胞の腕をわしづかみ、自身のクルーめがけて一本背負いをした。
天竜人の奴隷となり、この世の地獄を見た。
なぜ魚人というだけで迫害されなければならないのか。
なぜ魚人というだけで恐れられるのか。
なぜこいつらは平気で他者を傷つけることができるのか。
なぜおれはいま、この痛みを耐えねばならぬのか。
地獄は良くも悪くも平等で、理不尽だった。ヒトとしてすら扱われず、機嫌を損ねないようにひたすら息を殺すだけ。
隣を見れば自分と同じような境遇の者たちがいた。たくさんいた。そして大勢が虫けらのごとく殺された。
これが………これが人間の、やつらの所業か
自分に良くしてくれた同じ魚人は生きたまま焼かれた。タイガーのぶっきらぼうな態度にもかかわらず、同じ冒険家のよしみだと言って気さくに話しかけてくれたあの人間は、五感をすべて奪われて戻ってきた。少しでも痛みを忘れられるように、と歌をうたってくれたミンク族の女性は片手片足を潰された状態で水槽に入れられ、苦しみもがいて死んだ。
我慢の限界はとうに越えていた。とびきり頑丈で無事な自分がやるしかない。得も言われぬ感情がとめどなくあふれ出て、その感情の赴くままに行動を起こした。結果としてうまくいったが、いま振り返ってみればよく成功したものだと思う。
それからは、「自由」と「解放」を謳ってタイヨウの海賊団を結成したはいいものの、やっていることが本当に意味を成しているのか、と悩んだ日は少なくない。そもそも、ついてきてくれたはいいが、仲間たちはこの活動に心から賛同はしていない。慕ってくれているのはわかるが、それだけなのだ。地道な奴隷解放に見合わぬ政府や海軍からの追手。果てには名を上げるために戦いを挑んでくる海賊たち。
このままでいいのか………いや、いいわけが。しかし………
バギーは戦闘に参加したもの全てを片っ端からタコ殴りにし、気絶した彼らの山のてっぺんに立つと、人差し指を天にかざし、
「おれ様イズ………ナンバーワン!!」
と訳の分からないことを叫んだ。
そこへ騒ぎを聞きつけた元奴隷たちがやってきて、バギーの姿を目にした。ことのあらましの最後の部分しか見ておらず、あたかもこの島にやって来た暴漢をバギーが鎮圧したと勘違いしてしまった。後光すら差す(単にたまたまバギーの後ろに太陽が重なっているだけ)彼の堂々とした姿に神秘性が加わり彼らの信仰心が加速する。
「ありがたや~ありがたや~」
「キャプテン………キャプテン・バギー」
「すべてはあなた様のおかげです。ありがとうございます」
元奴隷の中には人間はもちろん巨人族や小人族、手長族や足長族、そして魚人や人魚の姿もあった。バギーの前では性差など、年齢など、種族など関係ない。ただ、等しくみな喜びに涙し頭を下げるだけ。
ブツブツと何やら呟き、バギーに祈りをささげる信奉者たち。狂信とも呼べるその異様な行動はどこか恐怖を感じさせるものであったが、打って変わって彼らの表情はとても晴れやかであった。
「これが………解放」
タイガーをこの島に来て一番の衝撃が襲った。正直少し、いや、だいぶおかしいとは思った。だが、彼らの表情を見ていると気づいてしまった。彼らの中に、他種族に対して特別な感情は一切ないことに。お互いを尊重し、楽しく笑い合う姿に、再び頭をガツンと殴られたような衝撃に襲われた。
タイガーはごく自然に頭のバンダナをほどき、胸に当てると膝をつき、
「キャプテン………バギー」
とそうつぶやいた。
「こりゃまた訳の分からんことになってるだな」
少し離れたところで一部始終を見ていた巨人と少女がいた。
「ほっときましょう。見るに堪えないわ」
少女と呼ぶにはいささか大人びたロビンは、サウロと共にその場を後にした。一時は仲間を侮辱されたことで頭に来た二人だったが、途中から肉体でのコミュニケーションに移り変わったところでやる気が失せた。
極めつけは、バギーもたまにはいいこと言うなあ、と感心した矢先にバギーバギーし始めたので頭を抱えた。
(ついてくやつを間違えたか?)
丸眼鏡黒スーツも、時を同じくして頭を抱えていた。
「ノコギリ野郎ってそんな悪口か?」
「さあ、あいつにとっちゃ言われたくない言葉だったのかもな」
「そうかもな、おれたちも気を付けるか」
「ニュ~おまえら本当に海賊なのか?」
「サウロの情操教育が機能しているみたいね」
「デレシシシ」
魚人ゲット
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