第28話:始めるぞ野郎共ォ!!
空に浮かぶ秘境“メルヴィユ”
金獅子海賊団 幹部総会にて
コの字型に引き戸で囲まれた畳張りの大きな部屋に、座卓が向かい合わせに置いてある。そこに座る六人の男たちと、用意されたモニタに映像中継という形で参加する男が一人。計七人がボスであるシキを待っていた。
一心不乱に皿に盛られた様々な動物の角をバリバリと食べる狂人。
「なあ、おい!!ケチャップとマスタードはねえのか!!」
“悪食” バトラー伯爵
音符が頭に突き刺さった赤いモヒカンヘアーで、その背中には『悪』の一文字が刻まれている。
「黙って飯も食えねえのか変態野郎!!お前もそう思うだろ~、オレ様のかわいいハニーちゃあ~ん」
バトラー伯爵の隣に座るのは、美女を膝に乗せた大男。もはや何人目かもわからぬ花嫁の腰を抱き寄せ、ほおずりをするのは、
“色熊” ベアキング
決してイケメンではない部類で、しかも毛深い男にハニーと呼ばれた美女は懸命に笑みを貼りつかせ、ベアキングの機嫌を取る。
「お前に変態と言われる筋合いなど無いわ!!それにあっちの二人のほうがよっぽど変態ではないか!!」
バトラー伯爵が角を片手に、向かいに座る男たちを指さした。
テーブルの上に金貨をキレイに並べ、うっとりとした表情でそれを眺めているのは、
“黄金狂” エルドラゴ
黄金の鎧に身を包む、茶褐色の肌をした大男。ライオンが人となったような男が恍惚とした表情を浮かべているのは、いささか見ていて気持ちが悪い。
「だれ?わたしのことを変態呼ばわりするバカは………」
金に夢中で罵倒されたことに気づいていないエルドラゴの隣には、上半身裸で風船のように丸々と太った男が葉巻をふかせている。
ドン・アッチーノ
「弱ェやつほどよく吠える………ハッお似合いじゃねェか、おめェら」
腕を組み胡坐をかく強面の眉なし男は、彼らのやり取りを鼻で笑った。
“将軍” ガスパーデ
「なにをォ!!?」
プシューと音を立てて耳と鼻から蒸気を吹き出し怒るドン・アッチーノ。アツアツになった手で座卓をバンッと叩くと、みるみるうちに溶けてなくなってしまった。
「あー!!わしの金貨がァ!!」
座卓の上に置かれていた金貨が溶け、エルドラゴは怒りに声を上げた。
アッチーノにすごまれたガスパーデはやれるもんならやってみろ、とでも言いたげにニタニタと余裕そうだ。
そのアッチーノの背後では、黄金のオーラを身にまとったエルドラゴがユラユラと立ち上がる。
対面に座っていたバトラー伯爵は食事を止め、ベアキングも女を追い出した。
仲間同士とは到底思えぬやりとりだ。一触即発の空気の中、黙って座している男が口を開いた。
「やめぬかお前たち………」
途端に部屋の温度が下がったかのように空気が凍り付く。
「儂は一刻も早くあの島に帰りたいというのに………」
うつろな目でそうつぶやく不気味な男の手には、いつの間にか弓が握られていた。
オマツリ男爵
触れただけで命を吸い取られてしまいそうな、ドロリとした覇気が彼らを覆う。そんな彼の肩にはこの場に不釣り合いな可愛らしい顔のお花が、ルンルンで左右にはずんでいる。
「チッ………」
不機嫌と顔に書いたガスパーデは舌打ちをして目をそらすと、他の者も続くように席に着いた。
ちょうどそこで部屋の戸が勢いよく開けられ、待ち人であるシキが姿を現した。
「ジハハハ………そろっているな、おめェら」
そう言うと、並んだ幹部たちを見渡せる中央の椅子にドカッと腰を掛けた。彼に続いて現れたのは、いかにもマッドサイエンティストといった風貌のDr.インディゴ。その隣には前腕が異常に発達した赤毛のゴリラが控えている。
「紹介しよう!!こいつはDr.インディゴとバトラー伯爵の共同研究によって生み出された最高傑作!!その名も、スカーレット隊長………お母さん?」
「どう見てもゴリラだろ!!」
「「「ハイ!!!」」」
一連のコントに締めのポーズ。ダブルピースをしたシキに、集まった幹部たちは白けた目を向けるが誰も言葉を発さない。オマツリ男爵に対する以上の恐怖心をシキに抱いているからだ。
しかし、映像に映し出されていた男だけが愉快そうに、イッツァエンタテインメンツ!!と拍手を送っていた。
「ありがとうギルド・テゾーロ。やっぱりおめェは話の分かるやつで、おれァうれしくて涙が出てくるぜ」
「いえいえ、わたしもショーを披露する端くれ………素晴らしいショーに拍手を送るのは当然のことです」
世界政府公認の中立地帯、グラン・テゾーロ。世界最大のエンタテインメントシティの君主である、
“黄金帝” ギルド・テゾーロ
この日は運悪く天竜人がゲストとしてやってきていたので、電伝虫越しの参加となっている。
彼の表の顔は、世界の20%の通貨を掌握すると言われるほどの大商人。しかし、その裏の顔は四皇金獅子海賊団の最高幹部の一人であった。
一緒になってポーズをとっていたスカーレット隊長は、なにやらDr.インディゴに耳打ちをしている。視線の先にはベアキングの花嫁がいた。
「なになに………あの女をおれのものにしたい?………大事な集まりでなにキモイこと考えてんだこのエロゴリラ!!」
「驚いた………おばあちゃんかと思った」
「どんだけゴリラ顔なんだよてめェの血統は!!」
「「「ハイ!!!」」」
再び冷めた空気が流れる中、映像電伝虫越しにテゾーロの拍手と笑い声のみが部屋に響く。
「親分………儂らを集めたのはそこのエロゴリラを紹介するためか?であれば用事は済んだろう。儂はあの島に────」
「まあ、そう急くな………男爵」
立ち上がろうとしたオマツリ男爵の肩にフワッと腕が回された。
誰も反応できなかった。
その事実にその場にいた者たちが固唾をのむ。男爵も例外ではない。
「この日のためにいい酒を持ってきてんだ。飯も用意してある。久しぶりの幹部会だ!!………ゆっくりしていけよ」
イエスしか許さぬ問答だ。
「………そうさせてもらおう」
シキの差すような覇気が霧散し、内心ほっとした幹部たちは体の力を抜いた。
「アッチーノォ………またテーブル溶かしたのかよ?」
「ヘェ、面目ねェ………」
「まったく、おめェらが集まったらいつもこれだ」
そんな愚痴をはきながら戸の裏にいる子分たちに飯や酒の用意を指示していく。
ふざけたやり取りや、なれなれしい言動で、一見すると気のいいおじさんだと勘違いする者も少なくない。彼らはそうだった。
スカウトしに来た大海賊に驚きはしたものの、所詮は昔のことだと切り捨ててしまった。もしくは単純に勝負を挑んでしまった。
故に、シキの恐ろしさを身に染みてわからされた。ちっぽけなプライドを粉々にされ、屈服するしか生き残るすべは残されていなかった。心が折れてしまうほど、海の皇帝と呼ばれる男の実力は隔絶しているのだ。
飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。あの金獅子の下につくことができたと、喜びに舞う子分たちは知らない。ここにいる者たちのほとんどが、インペルダウン脱獄後に加入したということを。それ以前に仲間だった者たちは、全員────
キリのいいところで子分共を下がらせたシキは、幹部たちに語りかける。
「今回集まってもらったのは他でもねェ。計画の目処がついた」
シキの発言に幹部たちは息をのんだ。
全員の前に盃が置かれ、そこにDr.インディゴが酒を注いでいく。
「US.I.Qを打ちこんだメルヴィユの獣たちを放ち、この海にのさばるミーハー共をせん滅する!!ここ新世界からスタートし、全てを蹂躙せよ!!最終目標は最弱の海“東の海”!!」
酒が注がれた盃を持ち、胸の前に突き出した。
「これよりおれたちはホンモノの仲間だ。ただし、裏切りだけは容赦しねェのでそのつもりで………始めるぞ野郎共ォ!!!海賊が海の支配者だってことを思い知らせてやれ!!!」
四皇“金獅子”のシキ 49億9240万ベリー
興奮するシキと同様に高揚し大声を上げる者、口が裂けんばかりに笑みを浮かべる者、静かに目を閉じる者、と様々であったが、彼らは皆たしかに、契りの盃を交わした。
それから間もなくして、億越えの海賊団がいくつも海に沈み、地図上から多数の国が消え去った。
シキの目的は世界の支配者。かつて船長と仰いだロックスですら成しえなかったこと。この海にいるすべてが標的だ。しかし、シキの大攻勢はテゾーロの情報操作により、いまだ海軍ですらその全容は掴めていない。
強大な魔の手が刻一刻とバギーたちに迫ってきていた。
「ニャハハハ!!おまえも………おまえも!!この国はいい女が多いなあ」
「そこまでだ!!」
「なんだあ?」
手当たり次第に妙齢の女性たちを捕まえるベアキングの前に、正義の二文字を背負った海兵が現れた。海兵の登場に捕らわれた女たちの顔に光が差す。
「色熊………その名の通り、下劣な奴め………!!」
海軍本部大佐の階級にいる彼の実力はたしかであった。愛刀を素早く抜き、渾身の一撃をお見舞いした。
ガキイイン
生身にもかかわらず、刀身は岩にでも当たったかのようにはじき返されてしまった。
「なに!?」
「邪魔を………するなァ!!!」
カチカチに熱された腕で海兵の体を吹き飛ばした。たった一撃で沈んだ海兵を見て、女たちの顔が絶望に染まる。
「そんな顔もか~わいいなあ~。好みのタイプだ!!けっけけ結婚を────」
「ベアキング様。お言葉ですがこれで何人目ですか?いまの奥方はどうするおつもりです?」
トランプ海賊団の紅一点であるハニークイーンに苦言を呈される。
「いまの女はもうオレ様を愛してはいない!!………いつも通りだ。だが、今度こそ!!お前はオレ様をちゃあんと愛してくれるよな?」
恐怖と涙でぐちゃぐちゃな顔の女はベアキングの腕の中で失神した。
「ああ!!かわいそうなベアキング様!!ベアキング様の愛はいつも一方通行!こんなにも純粋な方の愛を受け止められない女なんて………死んじゃえばいいのよ」
「まあそう言うな、ハニークイーン。この女をドレスアップして部屋に運んでおいてくれ」
「承知いたしましたわ」
「オレ様は………」
ベアキングが振り返った先には大勢の海兵たちが武器を構えている。
「目撃者は皆殺し………だっけかな」
ベアキングの両腕が赤く輝く。
「カチカチ………キングボンバー!!」
発熱した両腕を地面に叩きつけると、その衝撃波が地面を伝って海兵たちを襲った。
「ニャーハハハ!!待っててくれよマイハニー!!」
“色熊” ベアキング 8億1000万ベリー
「や、やめろ!!」
「待ってくれ!!降参だ!!」
「やめろ?降参?なに生温ィこと言ってんだおめェら………海賊である以上生きるか死ぬか、デッドオアアライブ。手配書にもそうあるだろ」
力をためるようにこぶしを握り、スゥゥウウとめいっぱいに息を吸う。息を吸うほど全身を覆う黄金のオーラがより濃くなっていく。
「デェェァァァアアアアア!!!」
エルドラゴの咆哮が凄まじい威力のビームとなって吐き出された。海賊船を木っ端みじんにするだけには飽き足らず、船の後ろにあった島の火山に穴が空いた。
刺激を受けた火山は活火山だったようで、そのまま噴火し島に甚大な被害をもたらした。
「あー!!金貨をぶんどる予定だったのに!!」
クソォォオオオオオと空に吠えるエルドラゴの口からまたしても特大ビームが放たれた。
“黄金狂” エルドラゴ 8億6500万ベリー
島、と呼んでいいのだろうか。ぐつぐつと煮えたぎった溶岩の海が広がり、もはや人の住めるような環境ではなくなっている。
「ああ、温い………でもいい湯だなァ」
高温であるはずの溶岩につかり、裸で一服する男は世界中探してもドン・アッチーノだけであろう。
「ハァハァ、見つけた!!家族の仇!!」
先ほど潰したマフィアの残党が溶岩風呂のふちにナイフを持って立っている。
「生き残りがいたのか!?わざわざ自分から来てくれるなんてな。手間が省けてうれしいぜ」
目撃者は皆殺しの命に背くことになりかけたアッチーノは汗をたらした。
「そんなところで突っ立ってないで入ってきたらどうだ?」
そばに近づくだけで滝のように汗をかく。それでも一歩ずつ踏みしめながら、ようやくドン・アッチーノに手が届きそうなところでナイフの切っ先がヘナッとくたびれた。
「な………!?」
「ヘェハッハッハ!!残念でしたー!ナイフ一本でわたしに勝つだなんて無理な話だもんねー!」
「くっそぉおおお!!」
今度はアッチーノから近づき、暑さで呼吸もままならない男の肩に手を置いた。
「一緒のとこにいけるといいね、なんて言ってみたりー」
無念そうに、男はドロドロに溶けて溶岩の一部となった。
ドン・アッチーノ 10億7200万ベリー
「おい、なんだよ張り合いがねェな。もっとおれを楽しませてくれよ」
ガスパーデはその身一つで敵船に乗り込んでいた。
「なんだこいつは………なんなんだこいつは!!」
「覇気を使っても攻撃が通らねェ!!」
「弱ェ………弱すぎる!!活きのいい奴がいれば勧誘でもしようと思っていたが………興覚めだ」
腕を戦斧にかえ、横薙ぎに振るった。一瞬で海賊たちの体を二等分したガスパーデは生き残った者に目を向けた。
「ヒィッ!!」
「ニードルス!!どうせ来てんだろ。後始末をしろ」
「………」
音もなくガスパーデの横に降り立ったのはニードルスと呼ばれた男だ。全身に入れ墨を入れ、両腕には鉄爪をはめている。
「ギャア!!」
ガスパーデの横にいたと思ったニードルスが海賊の首をはねていた。
「あ、ああ………」
「………うあああああ!!」
恐怖で錯乱する海賊たちの声はしばらくすると止んだ。
“将軍” ガスパーデ 11億6000万ベリー
そこにいるのはオマツリ男爵ただ一人。彼以外には誰もいない、何もない。いや、よく見ると山頂付近に芋虫の頭だけをすっぱり切り取ったような、現代アートチックなオブジェクトがあった。
だが、それだけだ。草木一本生えていない岩だらけな斜面に、リリーを肩に乗せた男爵が呆然と立ちすくんでいる。
「おーい!男爵様ー!!」
そんな彼に元気よく声をかけ走り寄ってきたのは、
「………おお、ムチゴロウ!どうしたんだこんなところに」
頭頂部に双葉を生やしたムチゴロウは男爵の前に来た。
「どうしたもこうしたも………男爵様の姿がなかったからみんなで探してただよ」
「そうかそうか。すまないな、心配をかけた」
「そんな!!謝るようなことじゃねえだよ!!………そうだ!男爵様がいたってみんなにも伝えてくるだ!!」
「ハッハッハ、そんなに急ぐと転んでしまうぞ。気をつけてな」
「大丈夫だあ!なんだか今日はやけに気分がいいんだ!」
まさに好々爺。まるで孫の面倒を見るかのように朗らかな表情を見せている。幹部会での彼とは別人のようだ。
「ところで、さっきまで島に来ていたやつらはどこ行っちまっただか?」
くるりと振り返ったムチゴロウはオマツリ男爵にそう質問した。
「ああ、彼らは………もう十分この島を楽しんだと言って出航してしまったよ」
「そうだっただか………もう少しいてもよかったと思うだが。しょうがねえだな!」
「うむ、今度はまた違った者たちが来るだろう。商船か、海賊か………いずれにせよ、もてなしの準備をせねばな」
「んだ!………おーい!男爵様はここにいただよー!!」
走り去るムチゴロウの背中を優しそうな目で見送った。ムチゴロウの姿が見えなくなると、歴戦の猛者の顔つきに変わる。
「リリー………満足したようだね。今回は随分と持ちそうだ」
山頂にあるリリーの摂食器官である管の断面。そこには苦悶の表情を浮かべた大勢の人間が、ゆっくりとその内部に取り込まれていくのが確認できる。
しかし、それをこの島で知るのは彼のみである。
オマツリ男爵 12億6000万ベリー
「首尾はどうだ!!」
メルヴィユの本部でシキは部下に尋ねた。
「海賊は標的の約15%のせん滅を確認。また、海軍のなかで我々の仕業であるという声が上がり始めています」
「すみません、わたしの力が及ばず………」
「いいさテゾーロ、気にすんな。情報統制なんざ万が一に出鼻をくじかれねェための策だ。ここまでくりゃ、もはや海軍には止められねェ!!」
眼下では子分たちが目まぐるしく変化する情報の整理や、現場への指示出しに精を出している。
「シキの親分。我輩が滅ぼした島に面白い生態を持った動物がいたんで、US.I.Qを打ちこんでみたところ────」
「好きにしろ。そこはDr.インディゴとおめェに一任してんだ。より強力な軍隊を作り上げてくれ」
「………了解だ」
研究者がその成果を披露するという行為は、一種の自己顕示である。Dr.インディゴと共同研究とはいえバトラー伯爵にもプライドがあった。
(ぐぬぬぬ、我輩は世界一のウルトラ大天才であるのに………)
仲間だと言ってくれてはいるが、どうしてもDr.インディゴとの扱いの差を感じてしまう。
「こんなときは食べるに限る!!」
肩をいからせ自室へと戻ると、大量の角に無心で食らいつくのであった。
“悪食” バトラー伯爵 6億1060万ベリー
「大アニキ!!ほんとに奴の下につくのか!?」
「ああ、おれは決めた。お前たちは………好きにすればいい」
「………クッ!!」
「なんだって大アニキは人間なんかの下に!!」
「お頭にどんな考えがあるかはわからんが、しょうがなかろう。やつの実力は本物じゃ。逆立ちしたって勝てんわい」
「ムカつく、ムカつくぜ!!………見定めてやる!!少しでもおかしな挙動を取ったら、そんときゃ喉元掻っ切ってやるぜ!!」
「ヒューさすがアーロンさんだ!!」
「………できるわけなかろう」
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