最強バギー伝説   作:バギ次郎

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鉄の胃袋が欲しい


第29話:なるほどな………

偉大なる航路(グランドライン) フールシャウト島近海

 

「ニュ~もうすぐ母ちゃんに会えるな~」

「あたし村のみんなに言うよ!魚人にも海賊にもいい人はたくさんいるって!!」

「いい子だよおめえー人間なのに!」

「行くなよーコアラー!」

「泣くの早いなお前ら」

 

 コアラと呼ばれた少女の故郷、フールシャウト島の近くまで来ていたバギーたちは彼女との別れを惜しんでいた。

 

 奴隷たちを故郷に帰す旅の途中で託された子だ。

 

「海賊にいい奴がいるなんてのは言わねえほうがいいと思うがな」

 

 多くが涙を流す中、クロはそうつぶやき、カバジは目を閉じて壁に寄りかかっている。

 

 コアラを拾ったのはちょうど一年前。故郷に帰りたいというものは意外にも少なく、その他の者はバギーがカライ・バリ島と名付けたあの島に残った。

 

 ただ、彼らだけを島に残しておくことは危険なため、サウロとロビン、クリーク一味は島に残り、今回の航海には参加していない。

 

 この旅もコアラで最後だ。

 

「なぜこんなところで留まる必要がある!!さっさとガキを送りゃいいじゃねェか!!」

 

「いきなり島に海賊船が来たらパニックになるだろ。いつまでも自分勝手な奴だなァ」

 

「ガルルォ」

 

 アーロンの主張にモージが反論する。リッチーもやれやれと首を振りため息をついた。

 

「なんだと!!」

 

 こんな言い合いは初めてではなく、周りのクルーたちは慣れた様子で間に入り止めさせた。

 

 いまではピエロの髑髏マークを見るだけで民間人は震え上がる。これまで立ち寄った島々での扱いを思い返せば納得だ。

 

 バギーたちが特殊なだけで、本来海賊というものは恐怖の代名詞なのだ。

 

「だが、おれもアーロンと同意見だ。小舟であれば問題ないだろう。こいつの故郷はもう目の前なんだぞ」

 

「大アニキ………!!」

 

 タイガーと同じであるとわかり、アーロンは満面の笑みを浮かべた。しかし、そこで待ったをかけたのはクロであった。

 

「さっきからこの黒電伝虫がかすかに反応してやがる………ような気がする」

 

 クロの腕にはめられた黒い電伝虫は目を閉じ、沈黙している。

 

「黒電伝虫ィ?おめェいつそんなもん手に入れたんだ?」

 

 珍しいものを見たとバギーが尋ねた。

 

「幸か不幸かおれは天竜人(あいつら)のお気に入りだったからな」

 

 クロはシャムとブチをちらりと見やると、達観したような面持ちで続けた。

 

「宮殿のどこに何があるのかぐらいは把握していた。だから、脱出するときにちょっとな………あいつらそりゃ、いろんなもん持ってたぜ」

 

「なるほどな………」

 

 カライ・バリ島でクロと対面したときに、すでにスーツ姿で眼鏡をかけていたのはそういうわけだった。

 

「黒い電伝虫?」

 

 不思議そうにのぞき込むモージに、クロは盗聴専用の電伝虫であることを教えた。

 

 つまり、クロの勘が正しければこの近辺で連絡を取り合っている何者かがいる、ということだ。

 

 相当大きい島でなければ、そもそものコミュニティは狭いので電伝虫など必要ない。フールシャウト島もそこまで大きな島ではなく、コアラも電伝虫など見たことはないそうだ。

 

「おれたちは海賊だ。石橋をたたき壊すぐらいがちょうどいい………んだが」

 

 クロはそう言いつつもコアラの少しでも早く帰りたい、という気持ちを懸命に抑え込む様を見ていると判断が鈍る。同じ奴隷であったため、彼女の気持ちは痛いほどわかるのだ。

 

 自分にはそんな希望すらなかったが。

 

「ならおれ様とタイガーで行ってこよう。二人なら行動しやすいし、なんかあってもなんとかなんだろ」

 

「それは………そうだが」

 

 バギーは言わずもがな、タイガーも海賊団きっての実力者である。バギーは下手に人数が多いよりも、二人のほうがイレギュラーに対処しやすいと考えた。

 

「では、そうしましょう。タイガーさんであれば船長が海に落ちても心配ありませんからね」

 

「うお、カバジ。カッコつけてるだけかと思った」

 

「ギャッギャッギャ────スン」

 

 突然会話に加わったカバジにモージが驚く。それが面白かったのかリッチーは手をバンバン叩き爆笑するが、カバジにギッと睨まれると途端に真顔に戻り素知らぬふりをした。

 

 リッチーのあまりの人間臭さに魚人たちの間では、ライオンの着ぐるみを被った人間説が浮上していたのは余談である。

 

「なんでおれ様が海に落ちる前提なんだよ!!」

 

「………ハァ、あなたはハプニングの神様に愛されてますからね」

 

 それから、アーロンが自分も行く、いや二人で十分だ、とタイガーとひと悶着あったが、当初の予定通りバギーとタイガーの二人で送り届けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおお!!もっと一緒に旅しようぜ~~」

「かあーー人間がみんなコアラみてェだったらよお!!」

「よさねえか!みっともねえ」

 

 あの卑怯者のマクロでさえも、コアラとの別れがつらいのか目には大粒の涙を流している。

 

 コアラが船に乗ることになった初日。怯えていた彼女をタイガーが()()()。それをきっかけにコアラはクルーたち、特に魚人たちに懐き、魚人側も彼女を気に入っていた。

 

「けっ死ぬわけじゃあるめェし、泣くほどのことかよ」

 

「アーロンも随分丸くなったもんじゃ」

 

「なっ………茶化すんじゃねェ!!アニキ!!」

 

 魚人たちはバギーたちと行動を共にするようになり言動が大きく変わった。

 

 その筆頭がアーロンなのだが、本人に自覚はないようだ。

 

 しかし、人間に対する憎悪の炎が消えたわけではない。あくまでもコアラやバギーたち一部の人間が、他の魚人を差別する人間とは違うのかもしれない。それぐらいには思えるようになっただけだ、とアーロンは考えていた。

 

 逆に言えば、そう思えるようになるほどバギー海賊団の面々が能天気、いや、気のいいやつらだという証なのかもしれない。

 

 アーロンの昔を知るものが今の彼を見れば、驚きで腰を抜かすだろう。

 

「みんなーじゃあねー!!………ありがとう!!!

 

 手を振り返すコアラの目にも涙があふれていた。

 

「つかまれ、いくぞ」

 

 タイガーは二人を乗せた小舟を引き、泳ぎだした。

 

 

 

 

 

 

「村はどこだ?入り口までついて行こう」

 

 岸に着いた一行はコアラの案内で村へと向かう。

 

 コアラが歩くタイガーの手を握り、一瞬固まったタイガーは振りほどこうとするが頑なに拒否するコアラ。

 

 おれ様には?とバギーがコアラに圧をかけるとタイガーの後ろにさっと隠れ、脅かすんじゃねえ!と怒られる。

 

 しょんぼりするバギーと根負けして手をつなぐタイガーとコアラ。

 

 別れの時は近いが三人の顔には笑顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

お母ちゃん!!!

 

コアラ!!!

 

 死んだと、もう帰ってくることはないと諦めていた一人娘の帰還に母親だけでなく、村人総出で驚き、そして喜んだ。

 

「タイガーさんたちが助けてくれたの!!」

 

 母親に抱かれながらコアラは集まった村人たちに説明した。

 

「そう………だったんですね。ありがとうございました」

 

 コアラを二度と放すもんかと抱く母親は感謝を述べた。しかし、村人やコアラの母親がバギーたちを見る目には恐怖と、どこか引け目を感じさせる雰囲気を漂わせていた。

 

(なんだァこいつら……村の若ェのが帰ってきたってのに)

 

 今回のようなシーンを見るのは初めてではない。無論、喜びと共に腫物に触るような扱いを受けたことも。

 

 初めて見る魚人に大物の海賊。及び腰になるのも頷けるが………

 

「長居は無用だ。達者でな、コアラ」

 

 タイガーはこの空気が苦手だった。早々とこの場を去る。

 

 疑念を抱きつつバギーも後を追った。

 

 足早に去るタイガーに気づいたらコアラは、母の腕の中から飛び出して、二、三歩進んだところでぐっと堪えた。

 

「じゃあねーー!!………ありがとう!!ありがとう!!!………タイガーさぁぁあああん!!!

 

 大粒の涙をボロボロと流し、声の限りに叫んだ。

 

 コアラのお礼にタイガーは後ろ手に手を振る。彼女の魂の叫びを聞き、タイガーは肩が少し軽くなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「よく帰ってきた!」

「本当に無事でよかった!!」

 

「………うん!!」

 

「よし、コアラの嬢ちゃんが帰ってきた祝いだ。宴をするぞ!!」

 

「いいな!」「やろう!」

 

 笑顔と涙でいっぱいのコアラを座らせると、村人たちはすでに準備していたともいえる速さで宴の場が出来上がった。

 

 楽器を演奏し、酒を飲み、ごちそうが続々と並べられていく。

 

「うわー!!すごい!ありがとう、みんな!!」

 

 純粋なコアラは一気に宴会場となった広場を見て、ただすごいなとしか思わなかった。母親から受け取ったジュースを飲みながら、陽気な音楽に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったな………」

 

「終わりではない、世界には自由と解放を求める者はまだ大勢いる」

 

 タイガーはそう言うがバギーには、彼が自分に言い聞かせているような印象を受けた。

 

「だが、一区切りではあるかもしれない………正直やり遂げることができるのか不安もあった。お前たちと出会わなければ、いまごろどうなっていたことやら………」

 

 タイガーとて人間に対して思うところはあった。必死に抑え込んでいるだけで実は、誰よりも負の感情は大きい。

 

 そのことに何となく気づいていたバギーは、不器用ながらもタイガーを気にかけていた。

 

 何度か二人で話し合いをしたほどに。

 

「おめェはいつも考えすぎなんだよ!リッチーなんか見てみろ、食い物のことしか頭にねェ」

 

「………ハハ、違いない」

 

 バギーたちの船は沖にある。

 

「お前もお宝のことしか頭になさそうだが」

 

 村からは十分に離れた。

 

「一ついいか!!おれ様はおめェの船長だ!!お前お前ってェ………」

 

 二人がいるのは上陸した海岸と村のちょうど半ばごろ。霧も出てきた。

 

「おれ様のことは船長、もしくはキャプテン・バギーと────」

 

 奇襲するには絶好のチャンス。

 

 

 

 

 

 ピュイーン

 

 

 

 

 

 

「グッ………!!」

 

「タイガー!!」

 

 背後から放たれたレーザーがタイガーの腹を貫通した。

 

「てめェは………!!」

 

 二人が振りかえるとそこには、

 

「お~お~魚人共がお前さんのとこについたってえ噂は本当だったんだねぇ~」

 

「黄猿!!」

 

「念のためわっしが出張って正解だった」

 

 海軍の中でもトップクラスの実力者。自然系(ロギア)ピカピカの実の能力者で、彼とやり合うことのできる海賊は数えるほどしかいないだろう。

 

「なぜ………なぜ海軍がここにいる!!?」

 

 油汗を額に滲ませ、穴の開いた腹を抑えながらタイガーは驚愕した。

 

 霧の中から続々と海兵の姿が。

 

 見渡せば、周囲は銃を持った海兵に包囲されていた。

 

「なるほどな………」

 

 驚きを隠せないタイガーとは対照的にバギーは冷静に状況を見つめていた。

 

(村の奴らの後ろめたさはこれか………)

 

「あまり海軍の情報網をなめるなよぉ~目立たず行動していたつもりかもしれないけど………自分の悪名高さを自覚できてないんじゃあ、世話ないねえ~」

 

 嘲笑を浮かべるボルサリーノだが、

 

「ハッ、おれらとタイガーたちとの関係は噂程度にしか把握してなかったくせに、随分自信満々じゃねェか」

 

「相変わらずの減らず口だ……ムカつくねぇ~」

 

 バギーも負けじと言い返す。片手にナイフ、もう片方の手で懐をまさぐる。

 

「おい、走れるか?」

 

「あァ、なんとかな」

 

 背中合わせに小声で話す。

 

「合図したら海に走れ。水がありゃおめェの勝ちだ」

 

「お前はどうするんだ!!」

 

 バラバラの実は斬撃にはめっぽう強いが、銃弾相手だとそうはいかない。

 

 これだけの数に囲まれれば、いくらバギーとはいえひとたまりもない。海軍はボルサリーノに誤射することもないのだから撃ち放題だ。

 

「てめェの心配だけしてろ、おれ様にはとっておきが………って、またお前呼びじゃ────」

 

 ピュイーン

 

「うおおお!!」

 

 レーザーが鼻先をかすめる。

 

「相談は終わったかい?」

 

「人の話に割り込んでくるんじゃ────」

 

「構え」

 

 ボルサリーノの号令で海兵たちは一斉に銃を構えた。

 

「ほんっとおめェなんか大っ嫌いだ!!」

 

 海兵たちが銃を撃つよりも早く、バギーは手にしていた玉を地面に叩きつけた。

 

「煙幕?………小癪な!!」

 

「走れェ!!」

 

 ボルサリーノはすぐさま光となって距離を詰めようとするが立ち止まる。

 

(こりゃ行けないねぇ………若者の成長速度は恐ろしいねえ)

 

 武装色の覇気で両腕が黒く染まったバギーと目が合う。前回対峙した時よりもはるかに覇気の練度が上がってることは明らかだ。

 

 しかし、それだけではなかった。

 

「おめェの相手は………おれ様だァあああ!!!

 

 バギーの体から視認できるほどの青黒い覇気がほとばしる。

 

「覇王色………!!?」

 

 ボルサリーノも一瞬硬直するほどの威圧感。それに耐えられず海兵たちはバタバタと気を失い倒れた。

 

「海賊ってのはどいつもこいつも………」

 

 つい愚痴がこぼれるボルサリーノだが、瞬時に意識のある海兵に指示を出す。

 

 倒れたものを下がらせ、意識のある者たちはタイガーの追撃へと向かう。数は少ないがいま動けているということは、バギーの覇王色に耐えられた強者の証拠でもあった。

 

 

 

 

 それを黙って見ているバギーではない。走る海兵めがけてナイフを投擲する────が、それはボルサリーノによって阻まれた。

 

「チクショウめェ!!」

 

「なにも成長してんのはおめェさんだけじゃあないんだよ~」

 

 この場にはバギーとボルサリーノの二人だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ」

 

 タイガーは走っていた。

 

(血が、止まらねェ………)

 

 後ろにはもう追手が迫ってきている。

 

(なぜだ………おれのやっていることは間違っているのか?)

 

 血を流すほどに走る速度も落ちていく。

 

「待て!!フィッシャー・タイガー!!」

 

 待てと言われて待つバカはいない。だが、タイガーはどうしても知りたかった。

 

「なぜ、ここがわかった!!」

 

 立ち止まり、振り返って海兵たちに叫んだ。その気迫に思わず海兵たちの足も止まる。

 

「ある島からの通報だ………天竜人の所有物である者たちを見逃すという条件でな。この村人たちもここでのことは承知している」

 

「………そうか」

 

 海岸まではあと少しだ。しかし、タイガーはこれ以上走る気力が湧いてこない。

 

(すまねえ………船長)

 

 フッと自嘲気味に笑うと、ドクドクと流れる血を手の平にすくいとった。

 

 その様子に何かを察した海兵たちはサッと銃を構える。

 

おい、撃ってみろ………奴隷が、自由に生きることが悪というのなら………撃ってこい!!!

 

「う………撃てェ!!」

 

撃水(うちみず)!!」

 

 もはや避けるほど体力のないタイガーの体に銃弾が何発も襲い掛かる。

 

 だが海兵たちも無事ではなかった。タイガーの、魚人の膂力で撃ち出された血液はすさまじい速度で飛ぶ。

 

 まるで血の散弾銃。タイガーは腕をフルスイングすると、正確に海兵の体を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 タイガーにとってこの数年間の航海の中で、初めて殺傷能力のある技を使った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「ぐああ!!」

 

 肩や足をやられた海兵は倒れ、ほとんどの者は撃水が当たった強い衝撃で意識を失った。

 

「………」

 

 タイガーの体は血が流れていないところなど無いと思えるほど赤黒く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 海兵たちを全員無力化したことを確認すると、ついに力尽きたのか、タイガーは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

とめどなく流れる血液のしみが、彼を中心にじわじわとその領域を広げていく。




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