第9話:そっかーいい名前だな
カバジも一緒になって斬波に耐えていた。
「この……あわせろカバジ!!」
「はい!」
凄まじい威力だが、消えぬ斬撃など無い。時が経つほどほころびも生じてくる。
「いまだ!!」
バギーの掛け声に合わせてカバジのサーベルの先端が黒く染まる。
「曲技“一輪刺し”!!」
バギーの右足を踏み台のようにして鋭い突きを放った。同時にバギーも両手のナイフを突き立て、なんとか斬撃を打ち破ったものの二人はそのまま宙に放り出される。
「バラバラ空中散歩!!」
靴底に仕掛けておいた小型爆弾の爆風で擬似的に空を駆けることのできる技だ。ボフッボフッと両足の爆弾を交互に作動させカバジを回収し近くの島に着地した。
「空……飛べたんですね」
地面に腰を下ろし、息を整えるカバジ。
「あァ、ちょくちょく使ってたがな。それよりもガキ共だ。ここからそう遠くはないと思うんだがなァ」
シキによって吹き飛ばされた四人だったが、モージとリッチーは斬撃に耐える二人の背中にしがみついていた。しかし、途中でモージが手を滑らせて海へと落下してしまった。バギーとカバジは手が塞がっており、気を抜けば斬撃に飲み込まれてしまう状況だった。モージは能力者なのでこのままでは海へと落ち、溺死してしまうことは確実だ。
万事休すかと思われたそのとき。カバジの背中につかまっていたリッチーが意を決して空へとダイブしたのだ。
だが、バギーが目にしたのはそこまでだった。その後、二人はどうなってしまったのか……
「無事だといいのですが……」
呼吸が整い、サーベルを腰に差しなおす。
「早ェとこガキ共を探し出すぞ」
「ええ」
吹き飛ばされてきた方向を見やり、両足に力を入れた。
「うわァああーー!!」
背中から真っ逆さまに落ちていく。
しっかりとバギーの背中につかまっていたのだが、精神が不安定になったせいか能力が暴発し、突然腕が猫の手になってしまったのだ。バギーたちと行動を共にしてからというもの食うに困らなくなり、ボロボロであった毛並みもきれいになったのだが今回はそれがあだとなった。
恐怖のあまりギュッと目を閉じていたが、ふと何か温かいものに身を包まれた。
「ガオッ!」
「リッチー!!」
そっと目を開けるとそこにはリッチーの姿があった。安堵したのも束の間、海面がそこまで迫っていた。リッチーの肩越しにバギーたちの姿が小さく見え……
ザパーン!!
大きなしぶきをあげて海面にたたきつけられる。
(からだが………力が入らない!)
海面の光がどんどん遠くへ離れて視界がだんだん暗くなってくる。
(バギーせんちょ……カバジ…………)
モージはそのまま意識を失った。
一人の少女が森の切り株に腰を下ろし、本を読んでいた。森の中でも少しひらけたこの場所は、島の中で一人になれる場所の内の一つ。
今日は天気が良く風も気持ちいいので、一日ここで読書をするつもりだ。読書というが、少女の手にする本は読書というよりも研究資料といった方が近いかもしれない。ともかく、少女は心が安らぐこの静かな時間を大切にしていた。
「よし、いたぞ」
「妖怪女だ」
しかし、そんな少女を木々の間からのぞく複数の人影。少女と同じくらいの年代の子供たちだ。彼らの視線や声音にはいわゆる悪意が多分に含まれていた。
「攻撃開始!」
「やっちまえ!!」
子供たちが手に持っていた石を少女めがけて投げつけた。
「いたっ!」
弧を描いて飛んできた石の一つが少女の頭に当たり血がたらりと流れる。少女が振り向くと、したり顔でにやついている近所の子供たちがいた。
読書の邪魔をされた上に石まで当てられたのだ。怒るなという方が難しい。少女は意識を集中させた。すると、男の子の頭の上から少女の手が生えてきてそのまま頭に拳骨を食らわせた。
「わーん!妖怪におそわれたーー!!」
「気味悪いよーー!」
男の子の頭だけではなく、少女の肘あたりからも何本か手が生えていた。子供たちはたんこぶができるほどの痛みと、目の前の異様な光景に気味が悪くなり、泣きながらその場を去っていった。
少女は手で血をぬぐうと本を片手に家へと歩き出す。本は片手で持てるほどの大きさだが、このときばかりはなんだか手にずっしりくるような感じがした。
今日もまた、少女は本を片手に海の見える小高い丘に来ていた。
昨日、石をぶつけてきた男の子の母親が文句を言いに家を訪ねてきた。家といっても少女の生家ではない。少女は訳あって母の弟である叔父夫婦に預けられていた。従って、応対したのは少女の叔父。これがあのヒステリックで意地悪な叔母だったら、と考えるだけでも気分が悪くなってくる。とはいえ叔父も陰湿で神経質なので、家でネチネチ小言を言われるのが嫌で家を出てきたのだが。
「あっちから先にやってきたのに……」
叔母には特に目の敵にされており、島の住民も少女の能力を気味悪がり敬遠していた。味方と呼べるものは島一番、いや世界で最大最古の図書館で研究する考古学者たちだけであった。しかし、彼らも最近はこそこそと少女をのけ者にして地下で研究をしている。
つまるところ少女は孤独だった。
ザザーン ザザーン
こみ上げてくる涙をこらえ、寄せては返す波を眺めていると海岸になにやら白い物体が二つあるのが目に入った。
「なにあれ……?」
目を凝らしてよく見てみると、なんとそれはおそらく人間と獣だった。丘を降り二人に近づく。
「息はある。気絶してるのね」
少女は冷静に分析し、二人の肌に手を触れた。
「脈は安定してるけど、とても冷たくなってるわ。顔色も悪いし、このままだと死ぬのかしら……」
しばらく静観していたが、ハナハナの実の能力で二人を波打ち際から木陰へと移動させた。
「パン………でいいよね」
少女は家へと走った。
パチッ パチパチ
モージはそんな物音で目を覚ました。パチパチと音を立てていた正体は焚火。隣ではリッチーがまだ眠っている。焚火なんてだれが、と考えたところで背後から声をかけられた。
「目が覚めたんだね」
びっくりして体が一瞬硬直したが、すぐさま距離をとる。
「だれだッ!!」
声の主を確かめると、自分と同じ歳くらいの黒いワンピースを着た女の子が立っていた。
「なんだおまえ!!」
「これ」
差し出された少女の掌の上にはパンが乗っている。
「パン?」
「お腹、空いてるかと思って……」
「くれるのか?」
恐る恐る聞くと、もう片方の手にはジャムの入った瓶が握られていた。
「ジャムもある」
「いただきます」
頭を下げ、折り曲げられた体はきれいな90度であったという。
「へーこれおまえがやってくれたのか。ありがとな」
誤解も解け、焚火を前にして二人は座っていた。
「グルォ……」
食べ物のにおいにつられたのかリッチーも目を覚ました。モージはパンを割り、リッチーにも食べさせる。
「さっきはありがとなァ…………あっ、この子が助けてくれたんだぞ」
そう言われたリッチーは少女に対して頭を下げた。
「礼儀正しいのね、猫?なのに」
「猫じゃないぞ、ライオンだ。何かしてもらったらちゃんとお礼を言えってカバジに言われてんだ」
「カバジ………?」
「そう、目つきが悪くて頭の半分がハゲてんだ。あと、バギー船長にはムカつく奴はぶっ飛ばせって教わった」
「物騒な人ね」
すっかり打ち解けあい談笑する二人の横で、リッチーは鬣の半分を手で押さえ半目になってカバジの物まねをしていた。
「うまいぞ、リッチー!」
「ガルルォ!!」
ふざけ合う二人を見て少しうらやましそうな表情をする少女だったが、次第に変顔を見せつけ合う様に冷めた視線を送る。
「変なの」
だが、そこには少女がすでに諦めてしまったものがあるような、そんな気がした。
「そういやおまえ名前は?」
「ロビン」
「そっかーいい名前だな。おれはモージでこっちがリッチー、よろしくな」
初めて同年代の子どもに褒められたのがなんだか気恥ずかしくて、思わずうつむいてしまうロビンであった。
「ところであなたって人間なの?」
「あたりまえだろ!!」
ぜひ評価、感想等お願いします。ポチってしてくだされば幸いです。