鈴木先生速く続きを出してくれぇ〜(失礼)
南雲からの命令を聞き、逸ノ治は一時の自由を手に入れた。
朝、いつも通りの時間に目を擦りながらベットから飛び起きる。
いつも通りのルーティン、いつも通りの授業、南雲という逸ノ治の生活の中のイレギュラーが消え去り、今日も昨日行いのように一日を消費されようとしていた。
「逸ノ治、お前は佐藤田先生とやれ」
「え?」
いつも通りの畳みが敷かれてある和風な部屋で暗殺実践演習を普通にやろうとしていた時に逸ノ治は何故か佐藤田とマンツーマンの授業をやることになる。
(なぜ!?)
逸ノ治は疑問という弾を頭の中で撃ち散らしていた。
彼は1年、2年の頃も暗殺実践演習を履修していたがこのような状況に陥るのは初めてのことだった。
「こんにちは逸ノ治君」
「あ、こんちゃっす…」
彼は古株の大御所に頭を下げる、その動作は恐怖と尊敬の念を相手に伝えているようだ。
佐藤田は先程のもう一人の教師のような体操着シャツだけの動きやすい格好ではなく、今時の羽織を纏いロングスカートを着けている、明らかに運動用なものではないとわかる。
「先生、なんで俺に…」
「貴方の言いたい事はわかるわ、なんで自分がこんな授業を受けなければいけないのか、でしょ?」
佐藤田の言っている事は逸ノ治に的中した。
自分の心が読まれているんじゃないかと錯覚するほど完璧な回答であった。
「貴方は自分の潜在能力がどのようなものかわかっていないようね。貴方のような原石を腐らせるのは勿体ないのだから私が直接、貴方の奥底に眠っている貴方を起こさせるわ」
(佐藤田先生…、あなたなんか殺気ダダ漏れじゃない?)
佐藤田は持っていた出席確認表を壁の近くに置き、逸ノ治の前に立つ。
およそ3mほど、相手が普通の老兵ならば瞬殺できるであろうが相手は元超武道家の合気道の達人、その3mは1cmと同等だと感じることができる。
「私に一発でも攻撃を当てれることができたら秀を差し上げましょう」
「秀」とは、このJCC内独自の評価基準のことである。
詳しく述べると優秀だった者には「秀」を、最低限の者には「凡」、努力義務の者には「劣」という三段階評価で割り振られる。
1年間、「秀」を継続することができればその次の学年の学費はある程度免除される。
更に卒業までの数年間、他の学問の暗殺史概論、近接格闘演習、射撃演習、毒殺演習、論述記載講習など全ての履修科目を「秀」にすることができれば、卒業後の推薦状は文字通り山のように来ることになり、大手会社に就くことも容易くなるだろう。
しかし、オール秀の者は長い歴史を持つJCCでもほんの僅か、一クラス分もいないだろう。
因みに、逸ノ治のこれまで3年間の成績はオール秀だ。
「それじゃあ、行きますよ」
「ええ、遠慮はいりません」
二人の間がピリつく。
お互いに喉笛を掻っ切ろうとする殺気がぶつかり合い、他の生徒達は授業よりもその光景を見て唾液を飲み込んでいた。
それは教師も例外ではない。
二人は棒立ちであるのに、その雰囲気は正に侍の一撃の勝負を表しているようだった。
(んぁ〜クソッ、どう攻めても糸口が見えねぇ)
逸ノ治の脳内にはストーリーが展開されていた。
右から攻めれば即固められ死、左から行こうとしても流されて死、よもや正面から突っ切ろうともすぐに首を刈られて死、逸ノ治は脳内で数百を超えるシミュレーションをするがその全ての答えが死というなんとも絶望な答えか。
(考えてても始まらねぇ!!ノリと勢いでブチかましてやる!!)
すると逸ノ治は思考をやめ、我武者羅に佐藤田へと真っ直ぐに駆ける。
佐藤田の両手が前へ出て、構えの体勢を取った時逸ノ治は体を低く屈んで地面としていた畳みを掴んでちゃぶ台返しのようにひっくり返す。
逸ノ治と佐藤田の間には畳みという一枚の壁ができ、お互いに相手がどう動くかは視認できない。
(これだ!!これでいい!!)
逸ノ治と佐藤田の総合で競うと佐藤田の方へ軍配が上がる、どう抗ってもこの差は埋めることはできない。
まともに殺りあっては死ぬ、そう思った逸ノ治が決めた戦法は「短期で運頼り戦法」。
運は時によって、強者を殺せる刀になり自分に喰らう暴発の銃になり、味方になったり敵にもなったりする気まぐれな人生の相棒。
逸ノ治は弱者のように運に頼り切るという方法を買って出たのだ。
(佐藤田先生の武器は相手の掴んだら積み木のように崩れさせてくる合気道と武器の流れを逸らす円転の理を主体とするテクニック主体の攻撃)
逸ノ治は冷静に頭の中で相手の武器を書き出し、対処法を考える。
(直接触れるとアウト、けど武器を使ったとしても受け流されてアウト、んじゃ残った手段は一つだな)
逸ノ治は目の前にある畳みに向かって右足をサッカーのボレーシュートのように押し付ける。
佐藤田は押し付けられた畳みを掴んで、後ろへ下がる。
(手を使えなくさせて、背後から一気に喰らう!!)
逸ノ治は佐藤田の背後へ回り込み、手を握って佐藤田の背骨目掛けて拳を殴りつける。
がいつの間にか拳は畳みを突き破っていた。
(畳みを持ったまま盾の代わりにしたのかよ!!)
逸ノ治はすぐに答えを導き出し、その場から離れようと腕を引こうとすると何故か逆に畳みの中へと引きずり込まれた。
体が宙へ舞い、畳みの破片が辺りに飛び散っている。
(やべぇ!!逃げねぇと!!)
逸ノ治は体を右腕に引き寄せるように力を入れ、右踵を振り下ろした。
回り回っていた自身の目はようやく焦点を合わせることができ、注意して見てみるとそこには佐藤田が逸ノ治の腕を掴み、もう片方の手で踵を掴んでいた。
佐藤田の目は鋭く、正に歴戦の猛者であるような猛るような顔付きが貴方を睨む。
そして逸ノ治は体を振り回されて空中へと放り出される。
両手両足を地面に突き刺すようにして慣性を止める。
そしてその獣のような体勢のまま相手への方へ飛ぶ。
(ふふっ、危ない危ない、つい感化されて殺しちゃう所だったわ)
佐藤田はこのような戦場でも笑い、自分を殺そうとしている生徒に更なる指導を行う。
逸ノ治はただ相手の方へ飛ぶだけではなく、壁を、天井を使い、スーパーボールのように乱雑に至る所へ無造作に飛び回る。
着地し飛んだ場所はヒビが入り、木片が飛び散る。
そして大きな砲丸となった逸ノ治が佐藤田へと当たる瞬間に、大きな音が辺りに響き渡る。
(掴んだ、これで終わりね)
佐藤田が掴んだ腕にギュッと力を入れると逸ノ治は糸の切れた操り人形のように地面に伏せるはずだった。
(!?、いない!?)
掴んでいたはずの腕をよく見るとそこにはシャツの一枚が握らされていた。
あの時、佐藤田に掴まれそうになった逸ノ治は飛びながら脱いでいた服を握らせて腕だと錯覚させるようにした。
普通ならば握った感触だけでわかるようなものだろう、普通ならば。
逸ノ治はシャツだとバレないように目で追ってこれない速さで無造作に部屋中を飛び回って服を脱ぎ、佐藤田に突進して腕を痺れさせて掴んだ感触を分からなくさせたのだ。
(終わりだ!!!)
逸ノ治の思惑通りにハマった佐藤田の隙をつき、右足を上へ上げてカカト落としで佐藤田の頭をかち割る。
だがその考えは最後までうまく行かず、佐藤田は両腕をペケ印のようにして逸ノ治の渾身の一撃を防いでいた。
(畜生!!これもかよ!!)
逸ノ治はココロの中で愚痴を垂らしながらもまた新たな戦略を立てるために一度逃げようとするが、いつの間にか佐藤田が逸ノ治の腹の前へといた。
(は?)
佐藤田は両腕を合わせて手の平を開き、プロペラのような腕の形になる。
そしてその腕を回しながら腹に触れると、体が後ろへ吹き飛ばされた。
ドガガガガガガガガガガガァァァァァンン!!!!
暗殺実践演習の部屋の壁を壊し、更に向こうにある射撃演習場の壁をも貫通し、武器製造科の作品も壊しながら、それでもまだ突き進む。
最終的に外にある森にまで吹き飛び、そこでようやく勢いが止まった。
(ば、バケモノす…ぎ…)
逸ノ治は口から血を吐き出し、頭に傷ができて、骨も折れている体を見ながら気絶した。
(つい、本気を出しちゃったわ)
佐藤田は自身のプルプルと震えている手を見てそう呟く。
いつぶりか分からないほどの一瞬の本気、
(こんな力を出したのは南雲君、坂本君、リオちゃんぶりかしら)
そう思いながらトンネルとなった外が見える穴を見つめる。
(今のは冷静状態での本気、やっぱり逸ノ治君は可能性の獣ね)
この後整備士、フローターが2週間かけて穴を塞ぎ、逸ノ治は3週間で体中の怪我を直した。
因みに逸ノ治は佐藤田から秀の評価を受けていたため、また学費が免除され更に佐藤田からの特別マンツーマン授業が続くことになった。
(クソが)
逸ノ治は心の中で尊敬している人物の顔を思い浮かべて吐き捨てた。
次回、バイトとヒロイン
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