フォーレンの防具屋   作:ゴリ霧中

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とりま導入編!
と言いつつ8000字オーバー…
長いのかこのくらいでいいのかわかりませんが、頑張りまする


アインクラッド編
第一話


VRMMORPG・ソードアートオンライン…

 

それは世間から今世紀最大のサイバー犯罪として注目されていた。

無理もない、なにせ現実世界から一万人もの人間たちが電脳世界に幽閉されたのだから。

 

この俺、布施綾人(ふせ あやと)・プレイヤー名 フォーレンも当時「世界初のフルダイブ空間」であるSAOの世界に足を踏み入れていた。

まさかそのゲームがログインしたその日のうちにデス・ゲームに変わるとは思わずに。

 

 

そしてそんな世界で俺は生き抜いてきた。

現在の最前線は60層で、このデス・ゲームも中間地点を越えたあたりになっていた。

 

とは言っても俺のレベルは中層プレイヤーの中じゃ高いほうだが、ギリギリ攻略組には届いていない。

そもそも戦闘自体が向いていないのか、剣の扱いが全くと言っていいほど下手だった。

 

どこぞの攻略組のブラッキーくんや攻略の鬼じゃああるまいし、効率よくレベリングなんてできない。

できることと言ったら街中でできる安全なクエストで経験値を稼ぐか、安全マージンがしっかり取れる低層でのレベリングくらいだ。

 

そんな俺がこのアインクラッドでどうしているかというと、俗に言う「生産職」というものについている。

まあこの世界ではジョブなんてシステムはないので、完全に自称なわけだが。

 

武器を作るのが鍛冶屋ならば防具を作る職だって存在する。

武器作りのスキルは「鍛冶スキル」であるのに対し、防具を作るのは「裁縫スキル」。

ぶっちゃけ裁縫なんて言ってるけど鎧や兜も作れる。

そういったものを作れるスキルを総称して「裁縫スキル」と呼ぶようだ。

 

さて前置きが長くなったが、俺はこの裁縫スキルをマスターし、35層をホームとして防具屋を営んでいる。

ちなみにレベルは62レベルだ。

残念ながら最前線では安全マージンが足りないので出向く機会はほとんどない。

 

今日も一日繁盛しますように。

 

 

 

 

「なんて考えてた俺がバカだったよ」

 

「ん?急にどうしたんだフォーレン」

 

おっと、声に出てたか。

 

「いや、なんでもないよキリト…」

 

「そうか?誰かに向かってなにか喋ってた気がしたけど」

 

「気のせいじゃないかな?それよりも、やっぱり行くのかい?」

 

「なんだ、まだ気にしてるのか?大丈夫だって、何かっても俺がちゃんと守るからさ」

 

まあキリトの腕を疑ってるわけじゃないんだけどさ…

 

急な展開に「おや?」と思ったみんなに説明しておこう。

話は一時間前までさかのぼる。

 

 

~一時間前~

 

「よしっ準備OKと、そんじゃ『フォーレン防具店』開店だ」

 

ガラガラ

 

シャッターを開け(正確にはボタンを押すだけ)、俺はいつもどおり店を開ける。

 

「まあとは言ってもそう簡単にお客さんが来るなら苦労はしないんだけどね…」

 

「裁縫スキル」をある程度極めてから店を始めたため、この店は開店からまだひと月ほどしか経っておらず、固定客もほとんどいかった。

 

同業者で武具店を持つリズベットという少女は既に店が軌道に乗ったと聞いている。

 

「はあ、俺も早く固定客捕まえてリズに追いつかなきゃな…じゃなきゃリズに何言われるか…」

 

いや今は考えないでおこう。

そうだリズは笑った顔が一番可愛いし、笑顔を思い浮かべよう。

うん、決して阿修羅なんて思い浮かべちゃダメだ。

営業意欲がそがれる。

 

とはいえ最前線に近い階層ならともかく、ここは35層。

攻略組のトッププレイヤーなんて滅多に訪れないだろうし、中層プレイヤーが日にひとりでも来れば御の字、といった状態なのだ。

開店したてで客が「カランコロンカラン」来るなんて…?

 

今のは入口の扉が開くときになる効果音だ。

と、言うことは…

 

「いらっしゃいませー!フォーレン防具店へようこそ!」

 

客だ!客がきた!

 

「お、おう。いらっしゃいました…」

 

「っと、失礼、滅多に客なんて来ないもんだからはしゃいじゃって…」

 

扉を開けたのは全身黒い装備で固めたひとりの剣士。

 

(年齢は俺と同じで十代前半くらいかな?)

 

「いや、気にしなくていい。大きな声での接客は基本だからな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。それで、本日はどういったご用件でしょうか?当店は全身の防具から盾に靴、さらには装飾品といった防具・アクセサリーを扱っております!内容はオーダーメイドからメンテナンスまで、なんなりと!」

 

「ほお、聞いてた通りの内容だな」

 

俺の接客にも最初こそ驚いていたが、既になれたご様子。

ん?聞いてたとおりって言ったかこの人?

 

「どなたかからの紹介ですか?」

 

おかしいなー、うちにはまだ(悲しいことに)固定客はいないはずなんだけど。

 

「俺の知り合いに武具屋を開いてる子がいてさ。その子から話しを聞いてたから来てみたんだよ」

 

知り合いの武具屋…?

しかも「子」ってことは子供か同年齢の女性プレイヤー…

それでいて武具店を営んでいるってことは…

 

「もしかしてリズから?」

 

「おっ、やっぱり知ってたか」

 

「そうでしたかそうでしたか。…ちなみに他に何か言ってましたか?」

 

「えーっと、どうせ客も来なくて寂れてるだろうって」

 

「ぐっ…なにも反論できない…」

 

リズのやつ、自分がちょーっとばっかし客足いいからって…

 

「でも腕だけは確かなヤツだからそこは信用していい、って言ってたよ」

 

「おっまじか…リズにしては気の利いたセリフが言えたもんですなあ」

 

「あれでも根はいい子なんだよ」

 

そう言いながら微笑む剣士さん。

 

「まあそこは同意しますけどねえ」

 

なんといっても口添えしてうちに客を招いてくれたのだから。

リズってばなんていい子!

今度なんか甘いもんでもご馳走しましょ。

 

「それで、えっと…」

 

「キリト、ソロだ。よろしく、フォーレン」

 

「あ、ども」

 

手を差し出されたので握手を交わす。

 

「それでキリトさんはどの様のご用件で?」

 

「キリトでいいよ。最近最前線が60層に突入しただろ?だからちょうどいい機会だし、装備品を新調しようと思ってね。新しく足防具を作って欲しいんだ」

 

どうやらさん付けはいらんようだ。

 

「へえ~そうですか~…ん?聞き間違いですかな?今の言い方だとまるでキリトって」

 

「ああ。一応攻略組として最前線で戦ってるよ」

 

「はあああっ!?まじ!?攻略組だったのかい!?」

 

「そんなに驚くことか…?」

 

なんと、俺のこの驚きがわからんと!?

 

「そりゃそうでしょ!こんな低層で攻略組を見かけるなんて月に一回あればいいほうだ」

 

まあたまに上層まで行けばちらほら見るが。

 

「…そうか、全身黒い装備で統一し、強豪ギルドが多くを占める攻略組でソロを貫く剣士…『ブラッキー』に会えるとは!」

 

「…その呼び方はやめてくれるかな?」

 

「あれ?本人公認じゃなかったんだ」

 

前に50層に行った時に誰かがそう言ってたの聞いたんだけど、キリトはあんまし気にいってないみたいだね。

 

「まあ俺のことはそのくらいにして、足防具の新調を頼めるかな?」

 

「もちろんです!…とはいってもうちにあるのはどれも50層以下の層で手に入れた素材が元の防具ばかり。今のキリトの防具よりいいものなんてないと思うな」

 

「それは確かに」

 

「うんだからせっかく来てもらったんだけど…」

 

「ということは、素材さえあればいい防具が作れるんだな?」

 

「……へっ?そりゃあまあ作れるけど」

 

Why?

この方は何が言いたいのでしょう?

 

「じゃあ取りに行くか」

 

「何を」

 

「もちろん素材をだ」

 

「どこに?」

 

「最前線はまだマッピングが終わってないからな。その前の59層でいいだろ」

 

「いってらっしゃい」

 

「俺ひとりだと何をとってきたらいいかわからないな。よし、一緒に行くか」

 

「No…」

 

「却下だ。最初に『なんなりと』って言ってただろ?(にやり)」

 

こ、こいつ!最初からそのつもりだったのか!

あの接客マニュアルは次からは改訂しなくては…

 

「えーと、でも俺のレベルじゃ安全マージンが…」

 

「戦闘は全部俺が引き受けるから、経験値が欲しかったらちょっと手伝うだけでも構わない」

 

わお、それはなんとも魅惑的なお誘いでしょうか。

 

「あ、あとは…えーと、んーと」

 

「もういいか?じゃあ早速行こうか」

 

「…あい」

 

俺は観念してキリトについていくことを決めたのだった。

 

 

~回想終了~

 

 

「はあ、繁盛なんてしなくていいから平和な一日であって欲しかったよ…」

 

「ははっそう言うなって。この層の敵は攻撃力こそ少し高めだが、戦闘のアルゴリズムが単純なんだ。戦うのはずっと楽なはずさ」

 

俺の心配をよそに、この黒の剣士さんは先程からエンカウントのたんびにテンションを上げている。

根っからの戦闘狂かよ…

 

「さいでっか…ってかさっきからどこに向かってるのさ?」

 

「どこって、迷宮区前の洞窟だけど」

 

「はい?洞窟?」

 

なんでそんなつまらんとこに向かおうとしてるんだ。

 

「だって素材が必要なんだろ?」

 

「キリトってオーダーメイドの防具初めてか?武器じゃあるまいし、防具には鉱石なんて使わないよ?」

 

「えっ!?そ、そうなのか?」

 

あら図星。

 

「今まで防具は店売りかモンスタードロップで済ませてたからな…というより防具屋を開くプレイヤーは鍛冶屋と比べてほとんどいないから」

 

「あー、確かに。RPGの基本って武器だもんね。攻撃あるのみだよね」

 

俺も昔はガンガンいこうぜしか使ってなかったなー。

 

「じゃあフォーレンはなんで防具屋なんて…それ以前に『裁縫スキル』なんて取ろうと思ったんだ?」

 

「うーん、これが普通のRPGじゃなくって、『デス・ゲーム』だから、かな」

 

俺はその場に立ち止まり、キリトに話す。

 

「そりゃ武器は大事だよ。攻撃しなきゃ敵は倒せない。でもSAOが『デス・ゲーム』となった以上、自分の命を守るためにも防具の必然性が高まった。それが理由かな」

 

キリトは真面目な顔つきで話しを聞いてくれた。

 

「なるほどな…それで防具を作る気になったのか」

 

「そゆこと。防具はみんなにとって必要なんだよ。人は裸で生きるわけにもいかないし、薄い布で戦うわけにもいかない。防具があれば自然と戦う勇気だって湧いてくる」

 

実際俺も59層に来るときは自分で作った満足のいく装備で来た。

自分の作品が一番安心できるから。

 

「ま、俺の話はこのくらいかな。さって休憩終わり!目的地はあそこに見える森にしようか!」

 

「わかった。それじゃ行こうか」

 

気づくと道中で二人のあいだの会話は少なくなっていたが、それも森についてモンスターと戦うことになれば気にならなかった。

ま、俺はキリトの後ろで援護してただけだけどさ!

 

寄生してるって?

んなこたない。

手に入った素材でキリトは装備が手に入るんだし、俺はレベルが上がる。

Give and take♪

 

 

 

 

「ふう、これで大体集まったかな」

 

キリトが汗を拭いながらこちらを向く。

 

「ちょっとまってね…んーと、よしっ大体集まったかな」

 

「これで足防具を作れるか?」

 

「もちろん…と言いたいところなんだけどね、あとひとつ足りないや」

 

キリトが疲れたため息を漏らしながら俯いた。

 

「まだ足りないのか…」

 

「いや、実際にはこれで足防具は作れるんだけど、問題が一つあるんだ」

 

「…問題?」

 

少しテンションの落ちた表情でキリトがこちらを振り向く。

 

「それは…」

 

「それは…?」

 

「…色だ」

 

「……色?」

 

そう、今ある素材だけでは『色』が問題である。

 

「この素材で作るとなると、色がなあ…」

 

「別に色にこだわっても仕方なくないか?そこまで派手な色じゃなければ俺は…」

 

「このまま作るとおそらく虹色の足防具という希少種が生まれてしまうかもしれない」

 

「…話しを聞かせてもらおうか?」

 

おーけーおーけー、とりあえずその今にも剣を抜きそうな顔は心臓に悪いからやめような?

 

「素材にあった『七色の孔雀翅』と『レインボータートルの甲殻』ってのが厄介でね。こいつらがちょっと頑固なんだよ」

 

防具の生成にもちょっとしたルールというものが存在する。

そのひとつがこの『色』だ。

 

「基本的に出来上がった防具の色っていうのは、素材として使ったアイテムの中で一番レアリティの高いものが優先されて現れるんだ」

 

「へぇ~、そんな法則があったんだな」

 

「それで今回なんだけど、この二つの素材のレアリティが高くてちょっとやそっとじゃ変えれそうにないんだよ」

 

話しを聞いてふむと頷くキリト。

 

「でも色を変える方法はあるんだな?」

 

さすが攻略組、話が早くて助かりますな。

 

「もちろんある。それにはあるアイテムが必要なんだけど、まあそれは一度帰ってからにしようか。流石にこの59にいるのは精神的に疲れるよ」

 

「そうだな。じゃあ一度フォーレンの店に戻るか」

 

そう言って二人で来た道を戻っていった。

 

 

 

 

「それで?その色の変更に必要な素材っていうのはなんなんだ?」

 

帰るなり休憩もせずに問いただすキリト。

 

「落ち着きがないな。まあいい、そのアイテムは『高級インク』というなんとも陳腐なネーミングセンスだがそこは気にするな。これはなかなか条件が難しいクエストの報酬アイテムなんだが、どうする?」

 

答えは聞かずともよさそうだが、聞いてみよう。

 

「俺としては虹色の靴で戦場を駆け抜けるキリトというのも…」

 

「受けようじゃないかそのクエスト!どんな難題でもいいぞ!うん!」

 

全力で返すキリト。

そうか、そんなに虹色は嫌か…

俺も絶対嫌だけど。

 

「なんか必死だな…」

 

「当然だろ!で?そのクエストはどこで受けれられるんだ?」

 

「ふふん、それはここ、35層だ!」

 

ちなみに35層は鍛冶屋・防具屋に必要なクエスト関係が多いため、めんどくさいからここでいいや、とホームを決めた理由もそれだ。

 

「ちなみに内容を何も聞いてないけど、聞かなくていいの?難しいよ?」

 

「なんだっていいさ。あの素材集めが無駄になるのは嫌だ」

 

なんだかんだで3時間に及んだ素材集めツアーを思い出す。

確かに前衛をやると大見得切った以上、戦闘を全部ひとりでこなしてたからな。

つい二週間前まで最前線だった層であの無双っぷりだもんな…

俺はすごいと思ったが、キリトの精神的疲労はすごかったようだ。

 

「じゃあ行こうか。案内するよ」

 

「おう」

 

そんな疲れたキリトを連れて、目的の場所へと移動する。

 

 

 

 

「さあここだ」

 

「ここはっ!………なんだ?」

 

目的地についたもののそこは外見からは中身が想像しにくい建物。

さすがのキリトもわからなかったようだ。

 

「ここは絵画展示場だ。まあ絵画といってもバーチャルで再現された絵なんだけどさ」

 

そう言って中へと入る。

 

「高級インクというだけあって関連付けているのか…?いやそれよりもクエストの内容がわからない…」

 

「まあまあ♪来ればわかるって」

 

俺は軽快な足取りのまま最奥で寝ている館長の爺さんのところにキリトを連れていく。

 

「さあキリト。この爺さんを起こすんだ」

 

「わ、わかった」

 

入る前から『?』を浮かべていたキリトだが、ここまで来た以上俺の指示には従ってくれるようだ。

 

「えと、あのーすみません…」

 

ピコン

 

キリトの声を認識したのか、館長の頭の上に『!』が浮かび、クエストが開始された。

 

『おお、この廃れた美術館にもまだ客が来ようとは…長生きはするものじゃな』

 

「おっクエストが始まったな」

 

キリトは少しワクワクしてるのか、館長の話しをちゃんと聞いている。

 

『この美術館も昔はたいそう賑わっていたんじゃ。じゃが最近じゃ滅法客が来なくなっての』

 

「確かに客の数ならフォーレンの店と変わらないな」

 

「ほっとけ」

 

『そこで相談なんじゃが、お主、この美術館に飾るための絵画を描いてみないか?』

 

「…え?」

 

「ほらキリト、そこは『はい』でしょ」

 

「あ、ああ。はい」

 

ピコン

 

今度はクエスト受領を知らせる効果音が鳴る。

 

『では頼んだぞい』

 

それだけ言うと館長は右手で扉をさし、すぐにまた寝てしまった。

 

「あっちの部屋に行けばいいのかな?」

 

「ああ。あっちが作業部屋だ。頑張れよ」

 

「ってまさかここから俺ひとりか!?」

 

「そういうクエストなんだから仕方ないだろ?」

 

「聞いてないぞ!」

 

「聞かれなかったからな。どんな難題でもいいんだろ?」

 

「ぐっ…!た、確かにそう言ったけど、こんな内容だとは…」

 

「幸い絵かき専用のスキルは必要ないから、がんばれ。んじゃ店で待ってるわー」

 

「ちょっ、おい!まてってー!」

 

後ろでキリトが叫んでいるが気にしない。

 

てかこのクエストって前に受けたとき適当に描いた落書きでクリアできたし、何出してもクリアできるんだけど…

俺を無理やり前線に連れ出した仕返しと思って黙っておこうか(笑)。

 

 

 

 

―1時間後―

 

「た、ただいま…」

 

ようやくキリトが帰ってきた。

戦闘の疲れもあったみたいだし、だいぶグロッキーかな?

 

「おー、キリト。お帰りー」

 

「フォーレン…これ、インク…」

 

「どれどれ…おっ本物みたいだな。んじゃお疲れみたいだし、寝てていいよ?防具出来次第起こすからさ」

 

「おお…頼んだ」

 

流石に限界だったのか、キリトはそのままソファで横になって眠りについた。

 

「さてと、俺も仕事しますかね」

 

ウインドウを出し、工房へと向かった。

 

 

 

 

基本的に防具作成はボタンをタップするだけである。

 

武器だと、鉱石をハンマーで叩いたりして鍛冶屋っぽいことをするんだが、裁縫スキルでもプレイヤーが針と糸を持つのかと言えば、必ずしもそうではない。

もちろん材料が糸ならば雰囲気出しのためにそうしてもいいのだが、今回は違う。

 

俺は手馴れた手つきで『裁縫スキル』を発動させた。

 

「あ、やべ。どんな付属効果付けるか聞くの忘れたじゃん。どうすっかなー…」

 

今からキリトを起こして聞き出すのが一番いいわけだが、防具が出来てから起こすと約束してしまった。

 

「うーん。本当はダメかもだけど、今回は特例ってことで」

 

そう思い、俺はキリトの戦闘シーンを思い出す。

 

(思い出せ…。キリトの武器は片手剣。だけど普通の片手剣と違って盾を装備していない。つまりは回避型か?防御より回避を優先してるなら付属効果はVITよりもAGIにした方がいいだろうな…それでいてSTRにもちょっとプラスしてっと。あ、そだ。デザインも少しスマートにして…)

 

いつもならお客さんの注文通り作るが、今回は自分が全て方針を決めている。

初めてのことに楽しくてつい我を忘れていたかもしれない。

 

「仕上げに『インク』でカラーリングを『黒』に設定してっと、完成~!」

 

最後に仕上げボタンをタップし、品を出す。

 

「え~っと固有名は『ブーツ・オブ・ミッドナイト』かいいねえ、今までで一番の出来だ」

 

会心の出来に笑みが止まらない。

ついついいろんな角度から見たくなってしまう。

 

「おっといけない。キリトを起こさないとな」

 

我に返って、ソファで眠っているキリトを起こしにかかる。

 

「おーいキリト!起きろ~!」

 

「う、う~ん…フォーレン?」

 

「おう。約束通り防具が完成したぞ」

 

まだ眠たそうだったが、完成の言葉に反応して一気に覚醒した。

 

「本当かっ!?」

 

「おうっ!ほら、これだ。固有名は『ブーツ・オブ・ミッドナイト』俺が作った中で一番の出来だ。多分70層くらいまでは使っていけんじゃないかな?」

 

「おぉ~…。うんうん、デザインはかんっぺきに俺好みだっ!」

 

「だろ~?俺もなかなかいいと思うんだよね~。あと防具のステータスだけど、キリト寝てたから勝手に考えちゃった。てへっ♪」

 

「えぇっ!?ど、どれどれ…」

 

一瞬驚愕の表情を浮かべたキリトだったが、装備をステータスを見てから別の表情に変わった。

 

「こ、これはっ…!」

 

「あー…やっぱだめだったかな?俺なりにキリトの戦闘を見て考えてみたんだけど…」

 

やっぱり商売として出す以上は客のニーズに応えてこそってことか。

出過ぎた真似だったかな。

 

「いや、その逆だ。俺が想像してたよりも遥か上の性能だぞ、これ…」

 

「え?」

 

「すげえっ!まさか59層の素材でここまでの品を作るなんてなっ!こりゃリズの言ったとおりの腕だ!」

 

「そ、そんなにいいものなのか?」

 

「あ、フォーレンは攻略に参加してないから程度がわからないのか…。でも俺が見るにかなりの代物だ。なんで中層にいるのか不思議なくらいだよ」

 

キリトいわく、これならもっと上の階層で店を開いていても全く問題ないとのこと。

そこまで言われると悪い気はしないな。

 

 

 

 

「いやあ、久々に防具でここまで興奮したよ」

 

あのあとテンションが上がったキリトをなだめるのに少し時間が掛かり、防具の代金をもらった。

まあ実際こっちとしても経験値稼がせてもらったから代金はいらないって言ったんだけどね。

そしたら「満足のいく防具が手に入ったからそのお礼」とのことでもらっておいた。

 

「そりゃ良かった。またいつでも来なよ。オーダーメイドじゃなくても強化やメンテだってやれるから」

 

「おう。そのときは頼む。ああ、あと他のめぼしい攻略組の連中にも少し宣伝してもいいか?」

 

「…まじで?」

 

「ああ。みんな気のいいやつらだから、友達として知り合っておくだけでも損はないと思うぜ?」

 

「そうか、そりゃ随分とありがたいな」

 

あ、ちなみにキリトとは既にフレンド登録しときました。

そして現在のフレンド欄で仲がいいのはキリトとリズくらいという…

欲しいです、純粋に友達欲しいです…

キリトさんまじぱねぇっすまじ救世主。

 

ってなわけで最初はどうなるかと思ったが今日一日もつつがなく終了したのだった。

 

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