しかも一度クリアしたらデータ消したくないから戻れないという…
IMの方を消そうかな…?
「妖精が出た?」
「ああ。今プレイヤーたちの間で噂になってるんだ」
76層が攻略されてから数日。
俺が店主を務める喫茶・ソフィアが営業を開始して、今日もその店番をしていたときのこと。
防具屋としての仕事も兼任しているので、キリトがその用事のついでにそんな話をしてきた。
「今朝になってこの76層の森で正体不明の妖精が現れた、っていう噂なんだけど」
「ほー、なかなか興味深い内容じゃないか」
話を聞くに新しいイベントか、クエストの発生条件とかかな?
「それで俺も一度その噂の真相を確かめてみようかと思うんだが」
「それで、俺も一緒に誘ったと?」
「ああ。アスナはギルドの用事でいないし、ほかに誘えそうなやつもいないんだ」
これだからぼっちソロは…と思ったが俺も人のことを言える交友関係を持ってはいないので何も言わない。
「お前も新しいイベントなら興味あるだろ?」
「そりゃまあないわけじゃないが…よし、店閉めて行ってみるか」
幸いもう喫茶店の方は昼のピークを過ぎ、シリカのバイトも終わっているくらいだ。
特に客も来ないだろう。
たまに飯時とは関係なく客が来るんだが…その客はシリカ目当てだったりもする。
「そうこなくっちゃな。じゃあ行くか」
「おう。あ、その前に今日のお代な」
危ない危ない、うっかりただ働きするところだったぜ。
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そしてやってきたのは街から歩いて20分ほど歩いたところにある大きな森。
道中に何度かモンスターの襲撃にあったものの、ブラッキーくんという強力なボディガードがいたおかげで特に危険もなく森までたどり着いた。
てかスキルが初期化されてもキリトの強さは変わらないね。
初期スキルも一応ソードスキルなんだから、ダメージはそれなりに通る。
何よりダメージの大元となるのはプレイヤー本人のステータス…つまりはレベルなのだ。
今やSAOで一番レベルが高いんじゃないかと思えるキリトには、76層のモブ敵くらいなんてことはない。
「よし、ここが件の森だな」
「そのようだな。ちょっと心もとないけど、一応索敵スキルも発動させておくから、ゆっくり進んでいくぞ」
キリトが手に持つ剣を強く握り締めながら、先陣を切って前へ進んでいく。
「森の中は特に異常はないみたいだな」
前を進むキリトが言う。
「特にイベントが発生したってわけじゃないのか。まあ所詮噂だしな」
最初から話半分に聞いていたので特にがっかりもしていない。
手土産に何かしらの素材でももって帰れればいいとだけ思っていた。
「しっ…。何かいるぞ」
前を睨みながらキリトが俺に静止を呼びかけた。
どうやら索敵スキルに何か反応したらしい。
逆に言うならレベルの低い索敵スキルで存在が知れるのだから、危険は少ないとも取れる。
「あれは…」
その視線の先にはひとりの少女。
髪は後ろでひとつにまとめたポニーテールで、色は金髪。
装備は今まで見たこともないよう防具と、一本の片手直剣。
そこまでならただのプレイヤーだともとれる。
見たことのない防具だって、プレイヤーメイドなら無数といっていいほど存在する。
だがその少女は普通ではなかった。
「妖精…?」
なぜならその少女の背中には羽が生えていたのだから。
「ん…?」
その少女もこちらの存在に気づいたのか、その目線が俺達をとらえた。
「えっ、うそっ…!?」
表情は一言で言うなら『驚愕』。
俺たち、というよりも俺の横にいたキリトの方を見て驚いていた。
「おにい、ちゃん…?」
「へ?」
お兄ちゃん?
確かにこの妖精さんはそう言った。
お兄ちゃんてあれだよな、兄だよな。
「やっぱりお兄ちゃんだ!」
そう言ってこちらに走って寄ってきた。
「ええっと…どういうことだ?」
俺はいまいち状況がわからず、キリトに尋ねる。
「さ、さあ?もしかしたらそういう設定のクエストなのかもしれないな」
キリトの方もよくわかっていないみたいだ。
そりゃさすがのブラッキーくんでも羽の生えた妹なんていないわな。
それならエー○ィが妹、とか言われた方がしっくりくるぞ。
「違うよっ、クエストとかじゃなくて、あたしは正真正銘あなたの妹!桐ヶ谷和人の妹、桐ヶ谷直葉だよ!」
はい?
誰だろう、それ。
全然聞いたことないんだけど、って今度はキリトが驚愕の表情を浮かべてるし。
「もしかして今のって、キリトの本名?」
「あ、ああ。それに桐ヶ谷直葉は確かに俺の妹の名前だ…」
ってことはまじもんの情報かい。
このMMO世界でそんな個人情報が漏れているとも思えないし、こりゃ本当に本物か?
「お兄ちゃん、やっと会えた…」
そう言って妖精さんは目に涙を溜め、しかし顔は笑顔でキリトを見つめる。
「ちょ、ちょっと待て!直葉は確かに俺の妹だが、どうしてお前がここにいるんだ!?」
「そうだな。しかもその格好はどう考えてもSAOのモノじゃないと思うけど」
防具に精通してるからこそわかるが、『羽』なんてアクセサリはないはずだぞ。
強いて言うなら背中防具でマントくらいだが、ここまで精巧な『羽』はないはずだ。
「SAO…?あたしはALOをプレイしてたはずだけど…」
「「ALO?」」
俺とキリトの声がハモる。
SAOはソード・アート・オンラインを略したものだし、ALOも何かしらの略語なんだろうか。
「うん。『アルヴヘイムオンライン』っていうVRMMOなんだけど」
「へえ、SAO以外にもVRMMOができたのか」
考えてみれば俺たちがここに囚われてから既に二年という月日が経っている。
ほかのソフトが発売されていてもおかしくはない、か?
そしてそこから直葉ちゃんから現実世界での様子を聞いた。
それを聞いてわかったこと、それは『死』だ。
茅場はこの世界でHPゲージがなくなり、『死』を迎えると、現実世界でも死ぬと言っていたが、プレイヤーからすればそれは確かめる手段がない。
それが直葉の話だと、やはりというか、本当に現実世界でも死んでいたようだ。
まあそれでウソだったとしたら現実世界から無理矢理ナーヴギアを引っペがしてるだろうから、俺たちがここにいる時点でそれは真実だとわかる。
とはいえ突然の異常事態で気が動転し、『死ねば現実世界に戻れる』なんていう盲信にとりつかれて自殺してしまったプレイヤーもいたのだが。
「でも意外だな。こんな事件が起きたんだ、てっきりナーヴギアは廃版になったものかと…」
「キリトの言うとおりだな。こんな危険なハードをまだ売り出しているのか?」
「ううん。今はその後継機の『アミュスフィア』っていうハードが売り出されていて、あたしもそのハードでALOをやっていたよ」
「そっか。そりゃそうだよな」
直ぐにほかのハードが出ていたとは。
あ、ナーヴギアから大出量のバッテリーを取り出せばいいだけか。
「それでどうしてスグがSAOに?」
ちなみにキリトは直葉ちゃんのことをスグと呼んでいるらしい。
「あたしにもわかんない…ALOの世界でドラゴンに追いかけられて逃げてたと思ったら、突然真っ暗な空間に入っちゃって。気づいたらこの森にいたの」
それを今朝ほかのプレイヤーに目撃されたってわけか。
「そっか。でもそれだけじゃわからないな」
あまりにも情報が少なすぎる…。
ひとつ考えられるとしたら、この件も例の不具合が原因だと考えて間違いないだろう。
あの茅場晶彦なら自分の世界に異分子を巻き込んだりしない、と思う。
「あの~、さっきから気になってたんだけど、あなたは…?」
「ん?ああ、自己紹介がまだだったな。俺はフォーレン。君の兄ちゃんとは将来を誓い合った仲だ」
「えええっ!?」
俺の言葉に目を見開く直葉ちゃん。
「おいっ、でたらめなこと言うな!」
「おいおい、現実世界でユイを復元できたら会わせてくれるっていう約束だろ?」
「じゃあそう言え!ってか今言うことじゃないし、絶対わざと言っただろ!」
バレたか笑
「スグ、今のはこいつの冗談だからな?まさか本気にはしてないと思うけど」
「う、うん。よかった、しばらく見ないうちにお兄ちゃんが変な趣味に目覚たのかと思っちゃったよ」
「……少し本気にしてたのか」
がっくりとうなだれるキリト。
楽しいのでよしとします。
「冗談はさて置き、キリトとは友達だ。このSAOの世界では防具屋をやってる」
「今は喫茶店のマスターだけどな」
「うるさいなあ、本業は防具屋だからな?」
まあ確かに俺の収入は大半が喫茶店の売上だけども。
「へえ~すごいんですね~」
「スグも後でご馳走してもらえるさ。こいつの作る料理はこの世界で唯一の娯楽と言っても過言じゃないからな」
「そんなに美味しいの!?」
「あーあ、今の言葉アスナさんにも言っておこうか」
「ちょっ!?それだけは勘弁してくれ!」
必死でこちらに頭を下げるキリト。
そんなにアスナさんが怖いのか…
まあ攻略の鬼なんて呼ばれてるくらいだし、怒らせたら怖いのは想像できるか。
「アスナ、さん?」
「ああ。キリトの嫁さんだ」
「嫁って、ええっ!?お兄ちゃん結婚したの!?」
「あ、ああ。あくまでもシステム上のものだけど、実際に本当に愛し合ってるからさ」
とはいえ『結婚』の単語に驚いたのか、ぽかん、と口を開けていた。
「い、妹のあたしに一言もなく…」
「そりゃキリトも報告はできないだろ」
できたら苦労しないだろうしな。
てかできるなら最初からしてる。
「っと、こんなところでいつまでも話すのは良くないな。一応ここも圏外だし」
おっと、モンスターが現れないから忘れてたけど、ここ森の中だっけ。
「そうだな。一度転移結晶でアークソフィアまで戻ろうか」
結晶アイテムは高価なのでけちりたい気持ちはあるのだが、直葉ちゃんを危険にさらすわけにも行かない。
キリトもそのことを分かってくれたのか、アイテムストレージから直葉ちゃんの転移結晶を取り出す。
「ほらスグ。これがこの世界のワープアイテムだ」
「へえ~、綺麗だね」
「それを掲げて街の名前を言うんだ。手本を見せるから真似してみて。転移・アークソフィア」
そう言うと、俺の体が青色の光に包まれた。
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光が消え、最近では見慣れた景色が広がる。
アークソフィアの転移門だ。
一歩遅れてキリトと直葉ちゃんも来た。
どうやら直葉ちゃんもプレイヤーとみなされてるみたいだな。
結晶アイテムが反応しなかったら危なかったかもしれない。
まあ向こうにはキリトがいたからそこまで心配ではなかったけど。
「ここがSAOの街…」
「驚いた?早速だけど場所を移動しようか。ここだと君の姿は目立ちすぎて、話どころじゃないからね」
背中から羽をはやしたプレイヤーがいるんだ、必然的に注目も集めてしまう。
「うちの店を貸すよ。今なら客は誰もいないから」
こういう時に喫茶店は便利だな。
どうせキリトもうちの喫茶店で話すつもりだったんだろうし。
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「ここが俺の店。喫茶・ソフィアだ」
店内に入り、早速四人席まで二人を案内した。
「ほえ~、お兄ちゃんやあたしと同い年くらいなのに、こんな立派なお店を持ってるんだ」
直葉ちゃんが尊敬の眼差しでこちらを見る。
よせやい、照れるべ。
「今お茶を持ってくるから、座って待っててよ」
「え、でもあたしこの世界のお金なんて…」
「そんなのいらないって。横のお兄ちゃんがちゃんと払ってくれるから」
「俺かよ!」
「冗談だ。とはいえ直葉ちゃんからお金を取るつもりはないよ」
俺はそこまで守銭奴ではないつもりだ。
―隣の店ではエギルくしゃみをしていた―
二人を席に残し、厨房へ向かう。
「さてと。紅茶はありあわせのでも構わないか。そして…やっぱりここはいつも通りチーズケーキかな」
直葉ちゃんの好みがわからないため、いつもシリカに振舞うチーズケーキを作ることにした。
「よし、できた」
SAOの料理はいつやっても早くて助かりますなあ。
「お待たせ。はい、紅茶とサービスでチーズケーキ」
「わあっ、おいしそう!いいんですか!?」
「もちろん。味はうちのバイトが保証してくれたから問題ないはずだよ」
なにせ未だに二回に一回はトリップするくらいだからな。
三回に二回だったかな?
「いただきますっ。ぱくっ。う~ん、うま~…」
にへらっ、と顔を歪ませ、幸せそうな顔をする直葉ちゃん。
「相変わらずお前の料理は凶悪だよ」
「人聞きの悪いこと言うな。まあ自覚はしてるが」
アルゴからは巷で『ドラッグ(を使ったかのような快楽をえられる)スイーツ』と呼ばれている、と聞いた。
俺は犯罪に手を染めた覚えはないぞ。
「俺はこの幸せそうな顔が見たいだけなんだけどな」
シリカもそうだが、やっぱり美味しそうに食べてもらうのは本当に嬉しい。
冥利に尽きるってもんだ。
「おいしいです、フォーレンさん!」
「そりゃよかった」
すぐさまケーキを完食してしまったので、直ぐにおかわりを持ってきた。
好きだね~、甘いもの。
「それで、今の現状を確認したいんだけどいいかな?」
「現状?まだ何か確認することがあるのか?」
「あたしの知ってる情報はもう話しましたけど…」
「いや、まだあるさ。さっき結晶アイテムを普通に使ってたから確信したが、直葉ちゃんはプレイヤーとしてちゃんと認識されているみたいだね。だから俺たちと同じようにウインドウを出せると思うんだけど」
「なるほど。確かにそこから得られる情報もあるかもしれないな」
「ウインドウ?こう、かな」
そう言って直葉ちゃんは左手を縦に降った。
だがウインドウは出なかった。
「あれ、出ない?」
「? 左手じゃなくて右手で降るんだよ、こうやって」
そう言ってキリトがウインドウを出す。
「へえ~ALOだと左手だったけど、ここだと右手なんだね」
そう言って今度は右手でウインドウを出す。
今度はウインドウが出た。
ふむ、ALOでは左手なのか…
どうでもいいな、うん。
「よかった、ちゃんと出たよ!」
「そうみたいだな。じゃあその中の項目で、『ウインドウ可視モード』ってのがあると思うんだけど」
「これかな?(ぽち)」
すると今度はウインドウの中身が俺たちにも見えるようになった。
「ちょっと見せてもらうよ。どれどれ…」
まずはプレイヤー名。
『name leafa』か。
「これってALOの時のプレイヤー名?」
「うん。あたしALOでは確かにリーファって名前だったよ」
「なるほど。その時のプレイヤー名を引き継いでいるわけか。じゃあこの世界でもリーファって呼んだほうがよさそうだな。それでいい?」
MMOでまさか本名を呼ぶわけにもいかないだろう。
キリトが呼ぶ分にはまだあだ名っぽいからいいけど。
「うんそれはいいけど、ここに書かれてる『レベル』なんてなかったよ?」
「なに…?」
ステータス欄には確かに『Lv50』と書かれていた。
「ALOはレベル制のMMOじゃないから、レベルの項目なんてなかったはずだけど…」
「ってことはこれはシステムが勝手に調整したレベルかな」
よかった。
これでレベル1とかだったら流石に危なすぎる。
レベル50ならこの階層でも俺が防具を固めてやればそうそう死ぬことはない、はず。
あくまでもその辺のモブキャラなら、という話だけど。
「ほかは…アイテムと所持金は全部文字化けしてるな。こりゃ全部使い物にならないか」
SAOとALOではやはりというかアイテム名などが全然違うようだ。
リーファの持つアイテムと、所持金まで全てバグになっている。
「厳しいようだけど、これらは全部捨てたほうがいいな。持ってたらいつ不具合が起きるかわからない」
「そっか…うん、そうするよ」
リーファの気持ちはわかる。
おそらくこのアイテムの中には入手が難しいものもあるだろう。
苦労して手に入れたアイテムもあるだろう。
所持金だって今まで頑張って稼いだお金なんだし。
それを捨てるのはやっぱり悲しいよな。
生粋のゲーマーであるキリトならよっぽどのことがなきゃそんなことしないだろうし。
「消去、と。これでよしっ」
だがリーファは俺が思っているより心が強かったらしく、むしろ開き直ってアイテムを消した。
「って、まだ残ってるじゃないか」
キリトが言う。
「もう全部のアイテム捨てたはずだよ?」
リーファは疑問に思って首をかしげた。
「いや、その装備も破棄しなきゃまずいんじゃないか?身につけてると不具合が起きた時にまずいかもしれないし。今すぐ破棄したほうがいい」
「へっ…?」
「ほら、早く装備を…」
そう言ってキリトは可視モードとなっていたウインドウを操作し、リーファの装備を破棄した。
今リーファが『身に付けっていた』装備を。
「き…きゃああああっっ!?」
「へぶしっ!?」
「おお~見事な右ストレート…」
装備を全て消し去られ、全裸(隠されて見えないが下着くらいは残ってるかな?)のリーファが、加害者を黄金の右腕で粉砕した。
「な、ななな…何すんのよっ!?」
「す、すまん。忘れてた…」
「忘れてたって、ひどいな。ほら、これでも羽織っておきなよ」
顔を抑えてうずくまるキリトは自業自得だからほうっておくとして、リーファの方は放置できない。
「ううぅ…」
今にも泣き出しそうになってるし。
仕方ないのでストレージから素材として使おうと思っていた布を取り出し、リーファにかぶせた。
「とりあえず厨房に引っ込んでなよ。今すぐに新しい防具作るからさ」
「うう、お、お願いします…」
裸を見られたことのショックもあるのか、ずるずると布を引きずりながら厨房へ向かうリーファ。
ちらっといろいろ見えてしまったのは内緒にしとこ…
「さて、早いとこ服作って持ってこうか」
例のごとくキリトはそのまま放置し、裏の工房へと向かい、服を作った。
・
・
・
「こんなもんか」
出来上がった装備はリーファがもとから身につけていた防具に似せ、緑を基調とした装備を作った。
それを持って厨房へ向かうと、台所でリーファがうずくまっていた。
「ほい、できたよ。早く着替えなよ」
「あ、ありがとうございます…そしてできるだけこっちを見ないでください…」
「わかってるって。ここに置いておくよ」
アイテムを渡すにはトレードウインドウを出すのが普通だが、今回はそんなことも言っていられない。
出来上がった装備を厨房に置き、直ぐに踵を返した。
「ったく、少しは考えなよ」
「お、おう。今回はちょっとど忘れしてたよ…」
まあ確かに装備を全部一気に外すなんてめったにないことだもんな。
強いて言うなら風呂に入る時くらいだが、このSAOでは『汚れ』の概念がないため、男性プレイヤーは入らずに済ませる人も多い。
キリトも週に一回入るかどうかだろう。
俺は毎日入ってるけど。
「はぁ…ひどい目にあった…」
「災難だったね。その防具、どう?気に入ってくれたかな?」
「あ、はい。デザインはすごくあたし好みなんですけど…」
なにか申し訳なさげにこちらを見る。
「ん?ああ、お金はいらないよ。事故とは言え俺も君のあられもない姿を見たんだ。それは俺からのお詫びの気持ちだと思ってくれていい」
っていうか請求するとしたらキリトだな。
あいつが全部悪い、うん。
「じゃ、じゃあありがたく受け取らせてもらいます。でもさっきのことは忘れてくださいね!」
「ああ。わかってるって」
本当は記憶にこびりついて離れないのだが、ここではそう言っておくしかあるまい。
あの黄金の右腕は痛そうだもの。
「それじゃあリーファも問題なさそうだし、そろそろ話を終わらせようか」
「ん?まだ何かあるのか?」
「一番大事なことを話してないだろ、このバカ兄貴」
「ひどっ!?なんか今日のフォーレンは俺に冷たくないか!?」
「ははっ、気のせいだよ」
このくらいの罰はあっていいだろう。
「それはさて置き、リーファのこれからのことだよ」
「あたしの、これから?」
「ああ。SAOから出る方法がわからない以上、ほかのプレイヤーと同じくこの世界で生きていくことになると思うんだ」
「そうか…言われてみればそうだな」
「さらに言うなら俺たちプレイヤーはこの76層より下に降りられない…つまりリーファはこのレベルに見合わない上層で生きなきゃいけないんだ」
しかも戦闘に関して言えばソードスキルを知らない分、ひとりでモブ敵に遭遇しようものなら即死させられるかもしれない。
「だから当面はこのアークソフィアから出ずに、ある程度の戦闘訓練くらい積んでおいたほうがいいと思うんだ」
護身用として戦闘訓練はしておいて損はないはず。
「そうだな。フォーレンの言うとおりだ」
「うん。あたしもそのほうがいいと思う」
「でもそれだと難しいな…俺は攻略を休むわけにもいかないし…たまに訓練に付き合うくらいならいいがけど、ずっとつきっきりってわけには…いやだが街の中とはいえスグを一人にするわけにも…」
どうやらシスコン兄貴が悩んでいる様子。
しょうがない、助け舟を出そうじゃないか。
「そこで俺から提案だ。リーファ、うちの喫茶店で働かないか?」
「働くって、ここでですか?」
「ああ。ちょうどバイトの人手が足りないと思っていたところだし、手伝ってくれるなら当然それに見合った給料も出す。さらに戦闘訓練も、俺やほかの仲間に手伝ってもらえばある程度はなんとかなると思うんだ」
シリカとリズなら快く了承してくれるだろう。
クラインは…いろんな意味でやめとこうかな。
童顔キリトの妹なだけあってかリーファったら可愛いんだもの。
いや、これはアバターだと思うけど、可愛いのに違いはない。
「キリトもそれならいいんじゃないか?」
「ああ!フォーレンたちが面倒見てくれるって言うなら安心だよ」
「うーん、でも迷惑かけるかも…」
「俺としてはその辺で野垂れ死なれる方が迷惑だよ。後味悪い。どうせ今無一文で、食費すらないんでしょ?」
「うっ…たしかに」
「さらに言うなら宿代もない。この店の二階にはまだ部屋が空いてるし、そこに住み込みで働くといいよ」
なんなら俺とシリカもそこに住んでるし、キリトやアスナさん、リズも住んでいる。
困ったときはすぐに助けることもできる。
「今なら三食サービスだ、どうだ?」
「そんなにっ!?わ、わかりました!精一杯頑張ります!」
よっしゃ(美少女)ウェイトレス確保っ!
小さくガッツポーズをし、リーファにトレードウインドウを送る。
「それじゃあ俺から選別だ。キリトも何か必要そうなものあげなよ」
「そうだな。にしても、よくそこまでしてくれるな…俺は兄として色々面倒見るつもりだったけど」
「当たり前だろ?困ったときはお互い様だよ」
これは俺の本心だ。
「(それに貴重なウェイトレスも確保した。これで男性客をさらに呼び込める!)」
そしてこれもまた俺の本音だったりする。
「それじゃあバイトは明日からだな。今日はもう休もう」
時計を見ると、既に七時を回っていた。
「じゃあ今日はリーファの歓迎会だ。腕によりをかけて料理を作るから、期待してろ」
「はいっ!」
うむ、いい笑顔。
やはり美少女の笑顔はいい…
可愛いは正義といった昔の人は偉大だ。
そろそろシリカたちも帰ってくるだろうし、盛大に騒ごうか。
アスナさんも腕を振るってくれることだろ。
結局その夜はいつものメンバー+リーファで夜通し騒ぎ立てることになった。
本当ならリーファ編とシノン編は同時に書くつもりだったのですが…
思いのほかリーファ編が長くなったので分けます!
それとゲームをやっていて疑問に思ったことがあるのですが。
リーファとしののんの体って現実世界でどうなってるんだろ?
100層クリアまで解放されないならキリトたちと一緒で、病院に運ばれているはずですよね?
でもそんな描写はなかった、はず。
というわけでそこに関しては解釈のしようがなかったので、目をつぶってください!
さらにもう一つ。
リーファたちはナーヴギアじゃないのでHP0になっても死なないのでは?
と思う人もいるかと。
でも実際76層時点のSAOはシステムのバグが多く、死ぬことはなくとも本人の意識が電脳世界に取り残される、なんて危険はあります。
そんなこともあり、キリトたちも下手に二人を危険にさらすわけにはいかない、と考えたのです。
という独自解釈です。
それではまた次回でお会いしましょう。