フォーレンの防具屋   作:ゴリ霧中

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第十三話

「はあ、ねむ…」

 

昨日の晩は騒ぎすぎたな。

いつもどおりの時間に起きたからか眠気が強い。

 

「かと言って喫茶店を休むわけにもいかないんだろ?」

 

「まあな。だからこうして仕入れもしてるわけだし」

 

今は午前中で、まだ喫茶店の営業時間前だ。

いつも仕入れはエギルからするのだが、エギルもいくつかアイテムデータがロストしているので数が少ない。

よって足りない材料はこうしてアークソフィアの中で仕入れをしている。

ついでにキリトは付き添いでたまたま一緒に買い物中だ。

 

「フォーレンも大変だよな。店をやるってのは」

 

「それでもお前たち攻略組ほど忙しいわけでもないよ。喫茶店の方は忙しいけど、防具屋の方は前と同じだし」

 

一応喫茶店の中で防具屋としての受付もしているのだが、いかんせん客は少ない。

とはいえこれだけ上層なら防具は必需品だし、これから客足も伸びるだろう、と信じたい。

 

「それで、仕入れはもういいのか?」

 

「ああ。とりあえず今日必要そうなものは買い終わったからな」

 

食材のストックは一応まだあるし、そこまで大量に買わなくてもいいだろう。

にしても買ったものをそのままストレージに収納できるのはありがたいね。

わざわざ重い荷物持たなくて済むから助かる。

 

「そっか、じゃあそろそろ喫茶店の方に…って、なんだっ!?」

 

「ん?どうし…」

 

キリトが驚愕の表情を浮かべ、空を見上げる。

それに釣られて俺も一緒に空を見る。

 

「何だあの光…またなにかのバグか?」

 

今更これがイベントだとは考えづらい。

既にいろいろと不具合が起きている以上、これもバグのひとつだと考えたほうが普通か。

 

「っ!?」

 

すると急に異変が起きる。

空間が裂け、そこから一人のプレイヤーが現れたのだ。

 

「プレイヤー…?ってまずい!あのままじゃ落ちるぞ!」

 

かなり高いところからの落下だ。

ここは圏内だからダメージはないだろうが、精神ショックはあるだろう。

 

「くっ、間に合えっ!」

 

すぐさまキリトがそのプレイヤーの真下に向かって走り出した。

 

「あっ、キリト!」

 

(まずい、あのままじゃ間に合わない!)

 

「ったく、はあっ!」

 

キリトが間に合いそうもないので、すぐさま両手から無数のワーヤーを出し、即席の網を作りだす。

 

「即席のワイヤーネットだ!これならっ」

 

ネットを飛ばし、街中の電柱に引っ掛けることで、落ちてくるプレイヤーのしたに広げることに成功した。

そしてそのプレイヤーは地面につく寸前で静止した。

 

「ふう、間に合ったか。よかった」

 

「はあ~よかった。俺も助けようとしたけど、間に合いそうもなかったからな」

 

走り出したキリトも息を切らしながらそのプレイヤーのもとへ向かう。

 

「いくらお前の俊敏値でも無理だろ。それよりこの人…」

 

網を解き、プレイヤーを抱き上げる。

 

「女の子…?どうやら気を失ってるみたいだけど…」

 

「だな。ここにいても仕方ないし、喫茶店まで運ぼうか」

 

にしてもうちの喫茶店も随分便利だな。

学校の保健室みたいだ。

 

 

 

 

「この子、見かけない子だね」

 

「空から落ちてきたなんて、本当なの?あんたら二人が誘拐してきたんじゃなくて?」

 

「フォーレンさんたちはそんなことしませんよ!」

 

喫茶店の上の宿屋にその子を運び、みんなを呼ぶと、すぐに来てくれた。

そしてリズ、お前から見て俺はどう見えているんだ?

 

「でも、空から落ちてきたってことは、どこかから転移してきたってこと?」

 

「いや、違うと思う。リーファは知らないかもしれないが、転移結晶であんな高いところに転移することはできないはずだ」

 

「へ~そうなんだ。じゃあこの人はなんで空から降ってきたんだろ?」

 

「わからない。とにかく今は情報が少ないし、この子が起きるのを待つしかないだろうな」

 

少なくともこの中にこの子を見たことがある人はここにはいない。

なら本人の口から話を聞かないことにはどうしようもない。

 

そう考えていると、その子が目を覚ましたようだ。

 

「う、うーん…ここは…?」

 

「おっ、目を覚ましたようだな。よかった」

 

可能性として、このまま目を覚まさなかったらどうしよう、とか考えてたけど、よかった。

 

「あんたは…?どうして私はここに…」

 

ほかのみんなも何か言いたそうな顔をしているが、ここは俺に任せているのだろう。

俺とこの子を見て続きを待っている。

 

「聞きたいことや話したいことはたくさんあるけど、とりあえず順を追って話そう。まず最初に気分の方はどうだ?」

 

これで体調が優れないというなら少し考えなくては。

 

「そうね、なんか頭がぐちゃぐちゃしてるけど、体調が悪いというわけではないわ」

 

「それはよかった。それじゃあ次だ。まずここだが、俺が営んでいる喫茶店の二階にある俺たちの宿だ」

 

ほかに連れて行けるところもなかったのだし、そこは許してもらいたい。

 

「喫茶店?宿?」

 

「ああ。まず君に起きたことを説明したいと思うけど、自分が転移門の広場に落ちてきたのは覚えてる?」

 

「転移、門?よくわからないけど、落ちたって言うのはどういうこと?」

 

「やっぱり覚えてないのか。君は空から急に落ちてきて、俺とここにいるキリトで助けたんだ」

 

まあ正確にはキリトは間に合わなかったが、二人で助けたといっても間違いではないだろう。

 

「空から、って、そんなこと急に言われても信じられないわ」

 

「だとしても本当のことだからな。まあそれは今は置いておくとして、君は一体どこから来たんだ?」

 

そろそろ本題の質問に映る。

この子が落ちてきたことを説明してると時間がかかるからな。

 

「わからない…」

 

「わからない?」

 

「ちょっと待って、私も混乱してるのよ…」

 

「フォーレンさん、この人もしかして」

 

「ああ。ここに来る前後の記憶が飛んでるみたいだ」

 

これじゃあここに来た原因もわからないかもな。

 

「それじゃあ一番新しい記憶ってわかるかな?」

 

アスナさんが聞く。

 

「それも思い出せないの…何か、頭にもやがかかったみたいに…うっ」

 

そこで頭を抑えて苦しみだした。

 

「そこまででいい。ちょっと落ち着こうか」

 

焦って聞き出してもしょうがないな。

これじゃあ話が先に進まない。

 

「記憶がないならこの世界のこともわからないのか?」

 

キリトが一番大事なことを聞いた。

そうだな、それははっきりさせておこうか。

 

「この世界ってどういうことかしら?」

 

頭の痛みが少し緩んだのか、少し表情が普通の状態に戻ってきた。

 

「ここはソードアート・オンラインというVRMMOの中なんだけど」

 

「そーどあーと…?」

 

「やっぱり記憶にないか。こりゃマズイな」

 

何一つ情報が得られない。

これじゃあ八方塞がりだな。

 

それからキリトとふたりでこのSAOの世界のことを教えていく。

だが彼女の記憶は戻らないようだ。

 

「あ、そうだ。すっかり忘れてた。まだ自己紹介してなかったな」

 

状況が状況だったので、彼女への質問を優先してしまっていたことに今更気づく。

これじゃあこの子に警戒されても仕方ないな。

 

「俺はフォーレンという。君は?名前くらいは覚えているかな?」

 

「名前…それなら覚えてる。朝田志乃よ」

 

「朝田…ってそれ本名じゃないか。プレイヤー名はないのか?」

 

「そんなのないけど…」

 

こりゃ困ったな。

まあ確かめる方法はあるんだけど。

 

「じゃあ右手をこうやって縦に振ってみてくれないか?」

 

「こう…?って、なにこれ!?」

 

ウインドウが出てきたことに驚きの声を上げた。

反応が新鮮だね。

 

「そこに君のプレイヤー名が書かれてるはずなんだけど、どう?」

 

「ええっと、『シノン』…これが私のプレイヤー名かしら?」

 

シノンか。

名前から連想させてるのかな?

 

「シノンだな。よろしく」

 

そう言ってほかのメンバーたちも自己紹介をしていく。

終始こちらを警戒していた様子だったが、全員が終わる頃には最初より表情が柔らかくなっていたようにも見える。

まあそれでも警戒はしていたけど。

 

「にしても結局情報は得られないか…あ、そうだ」

 

「何か思いついたのか、フォーレン?」

 

「ああ。ユイちゃん、この子の情報から何かわからないか?」

 

そういえばここにはAIであるユイちゃんがいる。

彼女なら何かしらわかるのではないか。

 

「ちょっと待ってください。今アクセスしていますので…」

 

そう言って目をつぶった。

おそらく端末にアクセスしてるのだろう。

 

「えっと、どうやらこの方のIDはつい先ほど正式にログインされたようです」

 

「えっ、そんなことできるのか?」

 

「はい。でも変ですね、IDの作成記録がありません」

 

「記録がない?」

 

「普通は最初に自分のキャラクターのIDを作り、それからゲーム内にログインするという流れなんですが」

 

「その作ったという過程がないのか」

 

「はい。状況から考えると…ほかのソフトからなぜかログインしてきたとか、でしょうか…うーん」

 

「おーけー、そこまでわかればいいよ」

 

ほかのソフトからのログインか。

リーファの前例がある以上はありえない話じゃないな。

 

「ほかのゲームからってことは、あたしみたいにALOからきたのかな?」

 

「いや、リーファのような羽がついてないし、ALOでもないほかのゲームから来たんだろう。ん?待てよ、ほかのゲームからってことは、所持してるアイテムがまた文字化けしてる可能性があるな」

 

少なくとも今来ている装備はこのSAOの世界のものじゃないかもしれない。

 

「仕方ない、また作るか」

 

「作るって、あんたが私の服を?」

 

「ああ。これでもこの世界では防具屋をやっていてね。その手のことは得意分野なんだ」

 

「でもさっきは喫茶店って言ってなかったかしら」

 

「だからその二つをやってるんだよ。もっとも、今は喫茶店の方がはるかに忙しいけどな」

 

そのうちシノンにもご馳走する機会があるだろう。

 

「ちょっと待ってて、今作ってくるから。それまでここのみんなからこの世界のことをもう少し聞いたほうがいい。その上でこの先どうするか話し合おうか」

 

そういってその場はほかのメンバーに任せ、工房へと向かった。

 

 

 

 

「お待たせ。これが新しい装備だ」

 

作ったのはリーファの時と同様、今シノンが着ている服に似せた防具。

だがステータスは申し分ない。

 

リーファのもそうだが、薄い服のように見えて防御力は攻略組プレイヤーたちのものと比べて遜色のないものだ。

 

「へえ、すごいのね。これもこの世界のスキルってやつかしら」

 

「ああ。『裁縫』スキルって言って、防具を作るためのスキルだよ」

 

スキルのことも聞いたみたいだな。

 

「さて、これからのことだけど、シノンはどうしたい?」

 

俺としてはいろいろ考えてはいるが、決めるのはあくまでもシノン本人。

まずは希望を聞きたい。

 

「どうしたい、って言われても…まだまだこの世界のことはわからないことだらけだし」

 

「まあそうだよな。短時間じゃさすがに理解しきれないだろ」

 

俺たちが二年かけて過ごしてきた世界だからな。

 

「それじゃあ提案なんだが、俺たちと一緒にいないか?」

 

「あんたたちと?」

 

「ああ。ほかに知り合いもいないだろうし、この世界で生きていくならそのほうがいいと思う。幸い女性プレイヤーも多いし、気兼ねしないで済むんじゃないか?」

 

「それは確かに…」

 

このまま一人でいても、危険しかない。

ならリーファと同じく俺たちが保護したほうがいいだろう。

 

「確かに私としてはありがたいことだけど、あんたたちに迷惑をかけるわけには…」

 

「誰もシノンのことを迷惑なんて思わないよ。とはいえ一方的に与えられていても不安だろう」

 

俺だっていきなり自分に得しかない条件を出されれば裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

 

「そこで、ただ一緒にいるんじゃなく、俺の店で働かないか?」

 

「店ってことは、喫茶店かしら?」

 

「ああ。ちょうどリーファという新入りが入ったけど、人手が増えるのは俺としても助かる。シリカも入れて三人ウェイトレスがいれば、それぞれ休憩も取れて負担も減るだろうし」

 

正直この店のウェイトレスの負担は大きい。

シリカが一人だとまず回らないことが多いし、リーファだってまだ入ったばかりで勝手もわからない状況。

それなら同じ新入りとはいえ人が増えたほうが負担は減るはず。

仕事は俺がとシリカで教えればすぐ覚えれるだろう。

 

「そうですね。私も人手が欲しいって思ってました」

 

「そうよね、あんたとフォーレンの二人でやるのは最初から無理だと思ってたけど」

 

「やった!あたしの他にも新人が増えるんだね!」

 

シリカたちもそれぞれ歓迎している様子。

 

「なっ?シノンがいてくれたらこっちとしても助かるんだ」

 

「そうみたいね…それじゃあお願いしようかしら」

 

「よし、交渉成立だな。あ、住む部屋はまだこのフロアに空きがあるから、そこを使ってもらって構わないぞ」

 

とはいえ流石にこれできつきつになってきたけど。

 

「バイト代もちゃんと出すし、リーファと同じで食事も出す。不自由はさせないから安心してくれ」

 

「ありがとう。でもどうして私にそこまでしてくれるのかしら?さっき初めて会ったはずなのに」

 

まあシノンからすればそうだよな。

 

「困ったときはお互い様だろ?それに女の子一人でこの世界に放り出されるのは見てられないし」

 

これは俺のここからの本音。

まあ可愛いウェイトレスが増えるっていうのも理由の一つだけど。

 

「そう。随分とお人好しなのね」

 

「でもそれがフォーレンさんのいいところでもありますよ♪」

 

「まあこのバカはそのうち痛い目見そうだけどね」

 

「ひどい言われようだな。リズもたまには素直に褒めたらどうだ?」

 

「あら、これでも素直に生きてるつもりだけど?」

 

うんまあ確かに生き様は自由で素直だと思うけど。

 

「それじゃあそろそろ開店時間だし、早速今日から仕事を覚えてもらうけど、いいかな?」

 

「ええ。遠慮せずどんどん教えてちょうだい」

 

「了解した。リーファもびしばしいくぞ?」

 

「うんっ。ばっちこいだよ!」

 

にしてもたった二日でウェイトレスが二人も増えたな。

バイト代ちゃんと出せるかどうか計算してないけど、大丈夫だよな?

まあこれだけ新入りが入れば売り上げは伸びるだろうし、回転率もあがるか。

いざとなれば俺の給料から引けばいいし。

今までの貯金もあるからへいきへいき。

 

そんなこんなで新人バイトを二人確保し、喫茶・ソフィアの店員は一夜にして倍となった。

 




シノンとの出会いもこれで完了。
にしても前回のリーファ編は知識が穴だらけでした。
様々な指摘の感想ありがとうございます。
これからはちゃんと確かめつつ書きます。

とはいえシノンとの出会いの時もちょっとセリフの順番がおかしいかもしれませんが、そこはご愛嬌。
許して(-.-;)

そして今回の話でキャラのセリフの書き分けが難しいことがありありとわかりました。
というわけでここで一つ定義付けようと思います。

名前  一人称  喋り方  主人公の呼び方

アスナ  私  普通  フォーレンくん
シリカ  私  敬語  フォーレンさん
リズ  あたし  タメ口  フォーレン あんた
リーファ  あたし  普通  フォーレン君
しののん  私  普通(ちょい冷たい)  あんた

こんなかんじ。
アルゴは特徴があるので(語尾とか)特に記述はしません。
あとリーファの登場回では主人公に対して敬語なところもありますが、この時から敬語がとれてます。

こんなかんじかな。

それではまた次回で。
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