そしてちょっと短いです。
「戦闘訓練?」
「ええ。付き合って欲しいのよ」
昼のピークを過ぎ、喫茶店の営業が終わる頃、シノンが話しかけてきた。
「私もそろそろここの暮らしにも慣れてきたし、ダメかしら?」
「うーん、確かに」
シノンの言うとおり仕事は手についてきたし、護身術くらいはできないといろいろと問題があるかもしれない。
いきなりこの層の敵と戦わせるのはちょっと不安が残るけど、俺が防具を見繕えばなんとかなるか?
「…強くならなきゃいけないのよ」
「え?」
「なんでもないわ。それで、どうかしら?」
「ああ。それじゃあ早速行こうか」
何やら言っていたが、声が小さくてよく聞こえなかった。
今は気にしないでおこう。
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「じゃあまずは武器を選ぼうか。とは言っても俺が教えられるのは短剣くらいしかないんだけど」
「私もそれでいいわ。今からほかの人を呼んでくるのも時間がかかるでしょうし」
場所は76層のフィールド。
ここならよっぽどの強敵は出ないし、下層に行けない今はここより難易度の低い場所はない。
「そう?まあ短剣は火力は低いけど扱いやすい武器だから問題はないと思うよ」
そう言ってストレージの中から俺のお古の短剣を取り出す。
「最初にこれを装備するんだ。やり方はわかる?」
「このウインドウを操作するのよね?多分大丈夫だと思うわ」
操作はまだぎこちないが、なんとか装備できたようだ。
「これでいいかしら?」
準備が終わり、シノンの手に短剣が出る。
「うんおっけー。じゃあ短剣のソードスキルの使い方を教えるよ」
本当なら根本的な剣の使い方も教えるべきなのだろうが、あいにく俺はその方面には弱い。
今短剣を使うとしてもめちゃくちゃに振り回すくらいしかできない。
「ソードスキルの説明をしとくと、初動のモーションさえしっかりとできていればシステムの方で認識して、体が勝手に攻撃を行ってくれる技のことだ。こんなふうに、はっ」
短剣を構え、短剣下位スキル・アーマーピアスを放つ。
「これが短剣の一番簡単なスキルだよ。今日はひたすらこれを練習しようか」
できれば敵に当てるところまでいきたいところだけど、まずは自由に発動できるようになるのが大事かな。
「初動のモーション…こうかしら」
シノンが俺を真似て構えるが、システムは反応しない。
「んー、ちょっと違うかな。もうちょっとこう、力を溜める感じで、ぐっと」
「んっ、ふっ!」
それから何度か試すものの、成果は出ない。
「全然できないわね…」
「最初はそんなもんだって。また俺が見本見せるからよく見てて」
アーマーピアスを放つ。
「よくそんな簡単にできるわね」
「ははっ、ちょっとは感心した?」
「ええ。少しだけ見直したわ」
素直に褒められた。
ちょっとくすぐったい。
「当面の目標はこれを自由に繰り出せること。じゃないと先に進めないからね」
「うん…頑張ってみるわ」
それからもめげずに何度もスキルを試すシノン。
何十回試したかはわからないが、シノンの息が切れ始めたその時。
シノンの構えた短剣が光を発した。
「え?えっえっ?」
「それがスキルの発動だよ!そのままシステムに身体を預けて!」
俺の言葉が聞こえてるのかどうかわからないが、夢中になってシノンが短剣を突き出した。
「はぁはぁ…できた、の…?」
「ああ!おめでとう!今のがソードスキルだよ」
半ば放心状態のシノンだったが、少しするとスキルが発動できたと実感できたようだ。
「今のが、ソードスキル」
「どうだ?気持ちいいだろ」
相変わらず表情に変化は少ないが、少し口元が緩んでいるので喜んでいるのだろう。
「そうね…。ちょっと嬉しいかも」
息切らしながら必死にやってたもんなあ。
俺も最初はそんな感じだったからわかる。
初めてナーヴギアをかぶったその日。
この世界がデス・ゲームだと知らなかったあの日のあの感覚。
「でもあまり感傷に浸ってもいられないわね。もっと練習しなきゃ」
「おっ、やる気だね。でもちょっと休憩にしようか?疲れてるみたいだし」
現にシノンの表情には疲れが見て取れる。
「大丈夫よ。それに今の感覚を忘れたくないもの」
「そっか。じゃあもうひと頑張りしようか」
最初こそ時間はかかったものの、一度感覚を掴んでからは早かった。
わずか二時間ほどで、シノンはアーマーピアースの発動成功率を9割ほどにした。
俺の時はまる一日くらいかかったんだけどな…。
「驚いたな。もうほぼ完璧じゃないか」
「そうかしら。まだ発動できない時もあるけど…」
「いやいや。覚えたその日にマスターされちゃこっちの立つ瀬がないよ」
この子は俺の男のプライドをなんだと思っているんだ。
「うーん、今日はまだ早いと思っていたけど、もう一段階上の訓練に入ろうか?」
「一段階上?」
「ああ。まだ日没まで少しあるし、今度は動く敵を相手にしてみよう」
俺が指を差すと、シノンはそこにいるmob、『フレンジーボア』を見る。
「あのモンスターはここより下層にも出てくるSAO屈指の名mobキャラだ。あいつにスキルを当てる練習をしようか」
「あのモンスターを倒せばいいのね?」
「いや、正確には違う」
「え?」
「今の君のレベルだとあの敵を倒すには時間がかかる。攻撃を避ける訓練もしてないから倒される可能性だってあるんだ」
そんなことになったら目も当てられない。
それだけは絶対に避ける必要がある。
「だから段階を踏むんだ。まずは俺があいつの気を引くから、その隙に君はあいつに攻撃を当ててほしい」
ターゲットが俺に向いていればシノンは安全だろう。
「それで、そのあとは俺があいつを攻撃して倒す。これが一連の作業だ」
「それだけ…?」
「不満そうだね?でも仕方ないと割り切って欲しい。この世界…レベル制MMOではレベルが絶対的な法律なんだ」
そうなるとキリトなんかは最高裁判所長官みたいなポジションだな。
俺はせいぜい一介の弁護士とかそんくらい。
「とは言っても最初のうちは攻撃を当てるのは難しいよ?」
「あら、私を馬鹿にしてるのかしら?」
そのくらい余裕よ、と言いたげな顔をこちらに向けるシノン。
「その意気だ。最初のうちはそうやってレベルとスキルポイントを貯めていこう」
「スキルポイント?」
「ああ、説明してなかったか。スキル画面の右上に○ptってあるのわかる?」
「ええっと、これかしら」
ウインドウを可視モードにしてこちらに向ける。
「そうそう。各スキルを使うごとに貯まっていくポイントなんだ。武器のスキルならその武器を使った分だけ貯まっていく」
ちなみに裁縫や料理ならそれをやった分だ。
「それで、一定量貯まると更に上位のスキルが使えるようになるんだ」
「なるほどね。でも今まで使ってた短剣のポイントは貯まってないのね」
「武器のスキルは敵モンスターに攻撃を当てた時じゃないとたまらないんだ。だから今までのスキル練習はカウントされないってわけ」
それを聞いて納得したシノンは早くモンスターと戦いたくなったようだ。
さっきよりも好戦的な顔をしている。
「それじゃあ行こうか。今日の目標はフレンジーボア10体の討伐ってことで」
それから30分ほどして日が暮れ始めた頃、目標である10体を倒し終えた俺たちだった。
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「え?今日も訓練?」
「ええ。早速いきましょう」
そう言ってシノンは俺の手を引いてフィールドへ連れ去った。
有無を言わさずってこういう事なんだろうなあ。
でも考えてみれば勝手に一人でいかれるよかよっぽどましだな。
シノンが独り立ちできるまでの当分の間は毎日付き合わされそうだ。
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「今日も昨日と同じようにボアを倒そうか」
「また…?」
「不満そうにするな。これも安全第一のやり方なんだ。不服なら早いとこレベルを上げるんだね」
「わかったわよ…」
口を尖らせるシノンを見て不意に可愛いと思ったが、怒られそうなので考えないようにしよう。
それからも昨日同様ボアを狩り続ける。
(昨日から思ってたけど、なんかぎこちないよな…)
短剣を扱うシノンを見ての感想だ。
最初こそ誰でも動きはぎこちないものだが、スキルに慣れた今もまだぎこちない。
(短剣自体がシノンに合ってないのか?いや、この違和感はもっと別な…そう、そもそも『剣』そのものが合っていないような、そんな感じ)
とはいえこの世界はあくまでも『ソード』アートオンライン。
魔法もなければ銃もない。
剣ひとつで戦わなければならないのだ。
まあ斧とか槍とかあるけど。
だがしかし遠距離武器はない。
あってもせいぜい牽制用の投げナイフとかその程度だ。
(まあもっと慣れてくれば解消されるかもしれないし、今は様子を見よう)
そう思っていたが、一週間ほどが過ぎ、シノンのレベルが60を超えてもその違和感は消えなかった。
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「シノン、前々から聞きたかったんだけどさ」
「何かしら?」
「俺がほかに教えられないからって理由で教えたけど、短剣使いづらくないか?」
「………」
俺の問いに、思うところがあったのか答えは返ってこない。
「やっぱりか。戦ってるところ見てもしかしたら、と思っていたが」
「ええ…。でも短剣が嫌ってわけじゃないわ。ただ…近接戦闘自体がちょっと苦手みたいで」
「あー、うん。それも思ったとおりだ」
これはどうしよう。
正直俺ではどうしようもないけど。
「とりあえずこの一週間で護身に使えるくらいのことは教えたし、これからは俺みたいに生産職のスキルでも上げるか?」
75層を超え、アークソフィアに来てからも防具屋の割合は少ない。
シノンがその道に興味があるなら、俺が仕込んでもいい。
「それは、いやよ」
だがシノンの返事は違った。
「私は、強くなりたいの」
そう言ったシノンの表情は冷たく、それでいて凛としていた。
「強く、だれよりも、何よりも強く…」
そこで一つ、疑問に思う。
「どうしてそこまで強さにこだわるんだ?」
だがシノンの表情は困惑へと変わる。
「わからないの。どうして自分がここまで強くなりないのか。思い出せないの…」
これも記憶喪失の影響か…。
「私は確かに記憶がない。でもそれだけは強く残っているの」
「そっか…そこまで決意が硬いのなら仕方がないな」
「え…?」
「微力ながら協力するよ。シノンが、強くなれるように」
「フォーレン…」
「それじゃ訓練再開だな。レベルもいい頃合だし、今日は更に一段階上げるよ?」
「ふふっ、望むところよ」
あ。
笑った。
(シノンが笑った。前みたいな冷ややかな笑みじゃない)
「どうしたの?早いところ始めましょ」
「あ、ああ。そうだな」
一瞬見とれてしまったが、シノンの言葉で我に帰る。
「それじゃ行きますか」
(とはいえシノンの戦い方、というより武器だな。これは早いうちに解決したいな)
とはいえ今は何も案がないのでこのまま短剣で行こう。
「じゃあ今日はいよいよ待ちに待った『戦闘訓練』だ」
「それは今までやってきたじゃない」
何を今更、と表情で答えるシノン。
「そうじゃなくて、今日は今までみたいに俺は参加しない。シノンが一人で戦うんだ」
「私がひとりで?」
「ああ。レベル的にもそろそろmobモンスターくらいは倒せると思うんだ。でも危ない時には俺がちゃんと助けるから安心して欲しい」
「そう、いよいよ私も独り立ちみたいね」
「そうなるのはまだ早いかな?俺から見ればまだまだ危なかっしいからね」
「言ってくれるじゃない。いいわ、この一週間で成長した私を見せてあげる」
ますます好戦的な表情になったシノン。
こりゃ本当に独り立ちの日も近いな。
「相手はおなじみボアさんだ。今日はあいつらの肉で鍋するから大量に狩るといい」
「了解よ。ここら一帯狩り尽くしてあげるわ」
そう言ってシノンは近くのボアに突っ込んで行った。
(ったく、最初の頃とは変わったな。いい意味で)
正直ベッドから起きたときのシノンと今のシノンは全くの別人に思えてきた。
まさかここまで仲良くなれるとは思ってなかった。
「はっ、まさか別人が変装して!?」
「馬鹿言ってないでちゃんと見てなさいよ!」
シノンに怒られたので真面目にシノンの戦闘を見守ることにする。
「どれどれ…」
(ふむふむ。やっぱ俺の作った防具はいいなあ。耐久性はもちろん、デザインだってなかなか…やっぱ太ももあたりの装飾はもうちょっと派手に…)
ヒュバッ
防具について考えていると顔の真横を短剣が勢いよく通過した。
「私が戦ってる間に、あんたは一体どこを凝視してるのかしら…?」
「し、シノン、さん?ソードスキルは流石にやりすぎでは…?」
「セクハラ教官の言い訳なんて聞きたくないわ」
「ま、まて。誤解だ。話せばわかっ…」
「問答無用っ!」
「ぎゃああああっ!」
そんなこんなでシノンとの訓練は順調である。
シノンとの戦闘訓練。
弓出そうかな、とも思いましたが、まだ早いと思い短剣オンリー。
近いうちに出てくるかと。
さばききれないので一気に複数のヒロインは出さないことにしました。
次は誰がいいかな。
やっぱリーファかな。
シリカも最近出番少ない気がするし…
てかストレアとフィリアいつ出そうかな…