フォーレンの防具屋   作:ゴリ霧中

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初回はキリト、前回はアスナ。
今回は誰を登場させようか、と考えたところ一番に思いついたのは赤いバンダナがトレードマークである野武士だった。
だが待て、その前に女の子とフラグを立てようじゃないか。
というわけで立てときます。


第三話

第三十五層 主街区ミーシェ

ここは中層プレイヤーの多くがホームとして利用しており、中心部は最前線の階層並みに賑わいを見せている。そんな街の北部にひっそりと営業している防具店・「フォーレンの防具店」は知る人ぞ知る名店として一部の攻略組プレーヤーにすらも利用されている。

 

なんて噂が立てばいいなあ…

 

とりあえず暇すぎるので、店の営業を夕方までに切り上げ、暇つぶしにとあるイベントが開かれている第八層・フリーベンへと足を伸ばすことにしよう。

 

あ、ちなみに客は一人。

キリトが防具のメンテに来ただけだったりもする。

 

「確か今日はフリーベンでイベントがあるんだったな。レベル制限ありの限定クエストだっけ」

 

SAOでは不定期にこのようなイベントが発生する。

季節ごとにクリスマスやバレンタインなんていうイベントも起きるが、そんなのとは全く関係ないイベントだって存在する。

 

今回発生したイベントは報酬としてレア素材が手に入るという、レベル制限ありのクエストだ。

このレベル制限というのは、今までのイベントの傾向からすると、現在の最前線階層から±5以内のレベルのプレイヤーのみが受けられるイベントだ。

 

プレイヤーの中では「最前線の階層基準のレベル制限クエスト」と呼ばれている。

長いなこれ。そのまんまだし。

 

当然最前線階層の安全マージンをしっかりとっている攻略組は参加ができず、参加するのはほとんどが中層プレイヤーだけだ。

 

ちなみに中層プレイヤー達はこのレベル制限クエストがいつ起きるか当日の朝までわからないので、常に基準レベル周辺でレベルを維持していたりする。

 

「今回のクエスト報酬は素材アイテムか…こりゃ受けないわけにもいかないな」

 

この制限クエストで手に入る報酬アイテムはかなりレアなアイテムで、攻略組も重宝する代物であることが多い。

なので、中層プレイヤー達はここぞとばかりにそのアイテムを前線のプレイヤーに高値で売り払っているのだ。

 

(完全に中層プレイヤーに有利なイベントだよな…まあそれはそれで助かってるんだけどさ)

 

リズと一緒に受けようかと思い、メッセージを飛ばしたが、「店が忙しいから無理」とのこと。

ちくしょう、自慢かよ…

 

そんなわけで今回はひとりで第八層まで来ていた。

 

「久々に来たなーフリーベン。そこら中にプレイヤーがいるってことはみんなクエストが目当てだろうね」

 

様々な武器を装備したプレイヤーたちが街を歩く様はなかなかに騒々しい。

これが全部NPCなら静かなんだけどなぁ…

 

「おいっ!そっちからぶつかってきてその態度はないんじゃねえか?」

「そうだそうだ、誠意が感じられねえぜ!」

 

「ふぇ、そ、そんなこと言われましても…」

「ピュイ」

 

なんだあれ?

刺青を腕に入れた筋肉質の男と、探検を装備したやさ男の二人の冒険者(仮)が女の子(+ちび竜)に対して絡んでいた。

やっぱこんだけ人がいるとああゆう輩も増えてくるんだな…

 

「しっかり落とし前つけてもらおうか?」

「そうそう、アイテムとコルは全部置いていってもらうぜ?」

 

「む、無理ですよぉ~そんなの~」

「ピュイ…」

 

茶色の髪を左右で二つに縛っている少女の目にはどんどん涙が溜まっていく。

今にも崩壊して泣き出しそうだ。

肩に乗ってるちび竜も何もできなさそうだし。

 

周囲にいるプレイヤーたちも手を出す様子はない。

関わりあうのがいやみたい。

薄情な連中だこと。

 

「ほらほらお兄さん達~?その辺で勘弁してやりなさいよ」

 

「ああん?何だてめえは」

「俺たちに何か用かよ」

 

「ただの通りすがりの防具屋だよ。用っていうか、カツアゲ現場を目撃しちゃったわけだし、そりゃほうっておけないでしょ。馬鹿なの?それもよりによってこんな小さい女の子を標的にするとかさ。馬鹿なの?」

 

大事なことなので二回言いました。

 

「て、てめえ、言わせておけば!」

「へへっ、生産職ごときが…黙ってすっこんでりゃいいのによ!」

 

んん?おかしいな。

俺は大人の対応としてきっちり会話で解決しようとしたんだけど。

冒険者くん達は完全に臨戦態勢になってしまった。

 

ピコン

 

ってデュエル申し込み!?

ありゃ~なんかわからんけど怒らせちゃったみたいね。

 

「はあ、どうしても暴力で決着つける気みたいだね…しょうがないなあ」

 

「あ、あのっ!」

 

声に反応してとなりを見ると先ほどの女の子が心配そうな顔つきでこちらを見ていた。

 

「大丈夫、心配するな。すぐ終わるから」

 

そう言いながらウインドウを操作し、『初撃決着モード』を選択する。

すると斜め上の空間にカウントダウンの表示が現れた。

 

「へへっ後悔させてやるよ」

 

相手は筋肉質の男の方か。

武器は大型の斧。

見た目からして完全にSTR重視のアタッカーだろうね。

 

「そのかわり俺が勝ったらちゃんと諦めろよ?」

 

「そんな事態になるとは思えねえけどなっ」

 

男が斧を構える。

セオリー通りなら開幕一番にソードスキルを放ってくるだろう。

それも重量級の武器の鈍さを補う、スピード補正のあるスキルかな?

 

俺の装備は腰にさした短剣だが、それに手を伸ばしはしなかった。

 

男はそれを不思議に思ったようだが構えをとくつもりはないらしい。

 

「どうした?構えろよ。それともおとなしく観念したのか?」

 

「そんなわけ無いだろ。ただ…」

 

カウントが5秒を切り、開始の時間が間近に迫った。

 

「防具屋()のメインは剣じゃなくて針(こいつ)だからね」

 

剣ではなく、愛用している針(仕事道具)を両手に持ち、開始に備える。

 

ピーン!

 

カウントがゼロになり、デュエルが開始された。

 

男は予想通りソードスキルを発動させ、こちらに突進してくる。

 

「そんな小さい針で何ができる!くたばれっ!」

 

上段に斧を構えたまま走る足を止める様子は全くなかった。

 

「まあまあ、おちつきんさいって」

 

「あがっ!?な、なんだ…?体が…」

 

「動かないだろ?カツアゲなんてするような輩に、冷静に思案する時間をあげようじゃないか」

 

「な、なんなんだこれは。状態異常?…じゃないみたいだが」

 

すぐに目線を移動させて自分のステータスを確認しているようだが、異常はないだろう。

 

「状態異常じゃないさ。これは俺のスキルによる行動の制限…見なよ」

 

「こいつは…糸?」

 

「そう。糸さ。それもただの糸じゃない。フォーレン特製の人口糸だよ」

 

ダンジョンで手に入る鉱石をとかして生成した人口糸。

モンスターでさえ行動不能にするその糸は、たかが一人のプレイヤーの力で引きちぎられるほどやわじゃない。

 

「ぐっ、くそっ切れねえぞこれ!」

 

どんなに力を入れても切れない糸に苛立っているのか、動きがどんどん激しくなっていく冒険者(仮)。

 

「そんなに暴れるなよ。暴れると…ああ、もう遅いな」

 

気がつくと糸はさらに複雑に絡みついており、既に任意に抜け出すのは不可能なところまで来ていた。

 

「こ、こんなスキル見たこともねえぞ!一体どんなスキルだ!」

 

「時間稼ぎのつもりかい?でもまああえて答えよう」

 

少しでも抜け出す時間が欲しいのか、マナー違反であるスキル情報に関する質問をしてきた。

 

「エクストラスキル『裁縫術』。『裁縫』スキルをマスターしたプレイヤーのみ使えるスキルだよ」

 

ちなみにユニークスキルではない。

『裁縫』スキルをマスターすれば誰だって使える。

ただそんなプレイヤーは生産職のプレイヤーでも多くはないだろうから、他のプレイヤーで使える人がいるのかどうかは疑問だ。

この男だけじゃなくほとんどのプレイヤーがその存在を知らないだろう。

一応情報屋にはリークしたんだけどな…

 

さらにちなみにだが、このスキルのいいところは「針は装備扱いじゃない」ってところ。

針はどういう扱いになるのか厳密にはわからないが、針とは別に剣も装備できる。

先程から腰にさした短剣がストレージに強制的に戻されないのも、そのおかげだ。

 

「さて、そろそろ終わりにしようか。ほいっと」

 

ざしゅっとな。

縛られてもがく男の画なんて精神衛生上良くない。

よってさっさと始末する。

 

「ぐわああっ!」

 

男のHPが一割方減り、デュエルの決着がついた。

 

「勝負ありだね。じゃあもうこの子に近づかないように」

 

もうひとりの男が筋肉質な男の糸を解こうと奮闘している隙に、女の子の手を引く。

 

「さっ、いこうか?」

 

「ふぇっ?は、はいっ!」

 

事態についてこれていなかったのか、少し再起動に時間を要したものの、おとなしくついてきてくれた。

 

 

 

 

「このへんまでくれば平気かな。さて、いきなり連れ出してごめんね」

 

しょうがないんです。

あそこにいたら野次馬たちに何言われるかわからんし。

だから誘拐なんて言わんといてください。

 

「いえいえそんな!助けてくださってありがとうございますっ!」

「キュイキュイ!」

 

一心不乱に頭を上下にふる女の子。

それに呼応するかのように掛け声をあげるちび竜。

仲いいなこのコンビ。

 

「俺はフォーレン。35層で店を営んでる、しがない防具屋だ」

 

「フォーレンさんですね。私はシリカっていいます。この肩の子はピナって言います」

「キューイ」

 

「シリカか。よろしく」

 

改めて自己紹介をし、握手を交わす。

これってやっぱり基本ですよねー。

 

「それでシリカはどうしてこの階層に?多分俺と同じ目的だと思うけどさ」

 

シリカの装備を見ると、どう見てもこの八層にいるには場違いな装備だ。

もちろんいい意味でだけど。

 

「はい!私はここで開かれる限定イベントに参加しに来ました」

 

「やっぱりか。俺もそのイベントの報酬目当てでね。防具屋としてはレア素材の情報にはうるさいのですよこれが」

 

「防具屋さんですかーすごいんですね」

 

「それほどでも。じゃあ提案なんだけど、そのクエスト一緒にうけない?今までの傾向から行くとソロはちょっと大変なんだよね…」

 

「あー…先月のアレですか…」

 

「あ、わかる?アレはきつくってさー」

 

「私はその時他でパーティを組んでいたので楽でしたけど、もしかしてアレをひとりで…?」

 

「そうなんだよ。アレは一人でやるには精神的になあ…」

 

アレが何かは気にしないでもらおう。

決して浮かばなかったわけではない。

 

「では助けていただいたお礼に、私頑張っちゃいますねっ!」

 

「こりゃ頼もしいな。ぜひぜひそうしてくれ」

 

「はいっ!」

「キュイ!」

 

いいお返事で。

 

 

 

 

「じゃあクエスト内容を確認するか」

 

「なんか今回は危険が少なそうですね」

 

「だな。前回はフィールド散策もあったから戦闘は避けられなかったけど、今回は頭脳戦になりそうだ」

 

クエストを受けると、老人から一枚の紙を渡された。

 

『下を見て指し示す場所で次の指示をもらえ』

 

そう書かれ、その下にはある文字が書かれていた。

 

「そしてこれがその場所ですけど…」

 

「てっきり地図でも書いてるのかと思ったんだけどなー」

 

書かれていたのはこれだ。

 

『ギヨヲゴミ ビカモ』

 

「これってなんでしょう?聞いたことない単語ですけど、人の名前、とか?それにしてもそれっぽくはないですよね?」

 

「?」を浮かべ理解できないと嘆くシリカ。

 

「ああそうだね。こりゃ暗号だ」

 

「暗号、ですか?」

 

「ああそうだ。それも初歩中の初歩だな」

 

「えっ?わかるんですか!?この暗号が!」

 

「大したことじゃないよ。現実世界でも使い古された単純な暗号さ」

 

そういうって紙をシリカに見せる。

 

「この暗号だけど、このままじゃ意味がわかるわけもない。そこで最初に書かれた『下を見ろ』って指示が鍵だ」

 

「下…ですか」

 

そう言いながらシリカは地面を見つめた。

 

「何もありませんよ?」

 

そりゃそうだろう。

 

「そう言う意味じゃなくて、この暗号の『下』さ。それもただ単に『下』じゃなくて、五十音順のね。小学生の時にやったろ?表に並べて書かれたあれだよ」

 

「五十音順…」

 

「そう。例えば一文字目の『ギ』はひとつ下げて『グ』だ」

 

「と、いうことは…二文字目は『ヨ』の下ですか?」

 

「一列に並べた時と考えてね。つまり行が変わって『ラ』だ」

 

「じゃあ三文字目の『ヲ』は『ン』。そしてその次が…」

 

次々と解いていくシリカ。

そして少しかかり、終わったようだ。

 

「それを全部つなげると、『グランザム ブキヤ』。つまり第五十五層・グランザムの武器屋ってことかな」

 

「あ~!なるほどです!」

 

「じゃあ暗号も解けたことだし、行こうか。グランザムに」

 

「はいっ」

 

「キュイ!」

 

にこにこと隣を歩くシリカに、妹ってこんな感じかなーと思いつつ、転移門へと向かった。

 

 

 

 

「ここがグランザムの武器屋か」

 

「ですね。あっ、店員さんの頭の上にクエストフラグが立ってますよ?」

 

「どうやら当たりみたいだね」

 

いよいよ正解だと確信し、店員さんに例のアイテムを見せる。

 

「ではこちらをお受け取り下さい」

 

「ありがとう」

 

受け取ったアイテムは採集用と思われる短剣より小さいナイフと、またしても一枚の紙だった。

 

「これって…また暗号ですか?」

 

「そうみたいだね。ほら」

 

そう言いながら紙を広げてシリカにも見せる。

そこに書かれていたのは

 

『②416345 718312557592』

 

「…ちんぷんかんぷんです」

 

「早いな。もうギブアップか?」

 

「そんなこと言われてもわからないものはわからないんですよう」

 

ぐったりとうなだれるシリカ。

またしてもピナが呼応してがっかりしてる。

 

「まあ落ち着いて。パッと見意味不明かもしれないけど、ゆっくり考えてみようか」

 

「もしかしてフォーレンさんはもう解けたんですか、この暗号?」

 

「俺か?もちろん。このくらいなら朝飯前だね」

 

「ふあ~さっきもそうでしたけど、頭いいんですね~」

 

「そうでもないって。じゃあとりあえずこの暗号を解いていこうか」

 

「が、頑張ります!」

 

「いい返事だ。じゃあまず導入だけど、この暗号も一枚目と同じで一箇所だけヒントがあるんだ」

 

「ヒントですか?」

 

「ああ。この最初の一文字、ほかと違うだろう?」

 

「そうですね。ひとつだけ○で囲まれてます」

 

「それがヒント。ほかの文字とは違う意味を持ってるってことだ」

 

「違う意味ですか?」

 

「○の中の数字は『2』。つまりこの数字に意味がある」

 

「もしかして、階層とかですか?第二層にある場所とか!」

 

「残念、不正解だ」

 

「あうっ…ち、違いましたか」

 

「それだと他の数字の意味がわからないだろ?おそらくこの『2』は、二文字ずつ区切れ、という意味だ」

 

そういい改めて紙を見る。

 

『②416345 718312557592』

 

「これを分けるとこうなる」

 

新しく紙を取り出し、分けた数字を書き並べる。

 

『② 41 63 45 71 83 12 55 75 92』

 

「なにかわかったかい?」

 

「これって…なーんにもわかりません」

 

がくっ

 

「そ、そうか。でもこれは今の世の中ならシリカくらいの年代じゃ、もう使い慣れたアレが関係してると思うんだ」

 

「使い慣れた…それってもしかして、『携帯電話』とか?」

 

「そのとおり、見なよ」

 

俺はまず②の横の二つの数字を指差す。

 

「まずこの『41』だけど、『4』は押す番号、『1』は回数だと考えてみな」

 

「えっと…4はた行で、一回だから『タ』ですか?」

 

「そうそうその調子だ」

 

「ということは…『タ』『フ』『ト』 『マ』『ヨ』『イ』『ノ』『モ』『リ』」

 

「そう。タフトは十一層の主街区の名前。つまり第十一層の迷いの森に行けばいいってことだと思うよ」

 

「なるほど!じゃあ早速いきましょうか!」

「キュイキュイ」

 

解けた途端に転移門に向かって一直線に走り出すシリカ。

見た目もそうだけど、まだ結構幼いな。

11、2歳くらいか?

 

 

 

 

第十一層 迷いの森入口

 

「ここが迷いの森だな」

 

十一層の主街区より北部にある森。

ここにはマップというシステムが通じず、プレイヤーは方位磁石を用いて自力で探索しなくてはならない。

当時の攻略組達はなんとか手書きの地図を作成し、攻略を可能にしていたが、探索に費やした時間だけでもそれまでの倍はかかっていた。

 

「まあ今となっては情報屋から金で買えるんだけどさ」

 

俺も一度素材を集めに探索に来たことがあり、その時の地図を使って進んでいく。

 

「フォーレンさん、あそこ!ほら、NPCですよね?」

 

「そうみたいだな。クエストマークも出てるし、間違いない。目的地だ」

 

先ほど武器屋でやったように、紙を見せる。

 

『ではこの先にある広場で「シルバーウルフ」たちを狩りなさい。倒したあとはそのナイフで皮を引き剥がして持ってきなさい』

 

どうやら採集クエストの一種らしく、『シルバーウルフの銀皮』を10個納品するのが目的らしい。

 

「わかった。よし、じゃあ行こうか」

 

「はいっ!ピナ、頑張るよ!」

「キュイ!」

 

元気があって結構。

 

 

 

 

「コイツで最後だ!いけ、シリカ!」

 

「はい!はあああっ!」

 

ザッザッザンッ!

 

シリカが右手に持つ短剣で、ソードスキル・トライピアースを発動させる。

ターゲットのシルバーウルフは、先に倒された仲間と同じように俺の糸で動けない。

 

綺麗な正三角形の軌道を描くと、シルバーウルフがその場に横たわった。

どうやらこのイベント中はHPがゼロになってもすぐにはポリゴン片にならず、一定時間はその場に残るらしい。

 

「よし、上出来だ。じゃあ剥ぐぞ」

 

「ひっ!お、お願いします…」

 

シリカは皮を剥がれるグロテスクな光景が苦手なのか、視線をそらせていた。

 

「よし完了。これで二人分集まったな」

 

一人あたり10個の皮が必要で、二人合わせて20個の皮を手に入れた。

 

そのあとすぐにNPCのところへ行き、入手したアイテムを渡した。

 

「これでクエストは完了だな。どれどれ、これが報酬アイテムか」

 

「みたいですね。『シルバーウルフの銀革』。さっきまで剥ぎ取っていたものでしょうか?」

 

「いや違うね。よく見てみ」

 

ウインドウをよく見ると、アイテム名が『シルバーウルフの銀皮』から『シルバーウルフの銀革』へと「皮」の字が変化していた。

 

「何が違うんでしょう?」

 

「見た目はとりあえず光沢が出ているみたいだが…あとは実際に何か生成してみたらわかるかもな。こんだけ歩き回されたんだし、ちょっとはいい効果なんだろう」

 

「そ、そうですね…」

 

「ん?元気ないな?」

 

せっかくクエストが終わったのにさっきまでの元気はどこへやら。

小動物みたいにしゅんとしていた。

 

「えっと、実は私、ここまでレアな素材を扱える知り合いが全然いなくて、手に入っても売るくらいしかできないんです…だ、だからどうせだったら今日のお礼にフォーレンさんに…」

 

「ん?俺じゃダメなのか?」

 

「ふぇ?」

 

「いやだから、俺がその素材で何か作っちゃダメかな?『裁縫』スキルだってマスターしてるから扱えない素材なんてないぞ?てかもともと俺はクエストが終わったらシリカに何か作るつもりでいたんだけど」

 

「ええっ!?いいんですか!?」

 

「もちろん。最初からそのつもりだよ」

 

この素材はレア度も高いし、ちょっとやそっとの熟練度じゃ扱いきれんだろ。

だったらスキルをマスターした俺がシリカに防具を作れば、それだけシリカの生存確率が上昇する。

せっかく仲良くなったのにこれでサヨナラじゃ寂しいもんな。

 

ちなみにこれで顧客ゲット、なんて考えてないぞ?…少ししか。

 

「そうと決まれば俺の店に行くか。35層だから、今から行こっか」

 

「はい!何から何までありがとうございます!」

 

「いいっていいって。あ、そのかわりと言っちゃなんだけどさ…」

 

正直こんな小さい子からお金をもらうのは気が引ける。

とはいえシリカもそれでは納得してくれないだろうな。

 

「なんでしょう?私に出来ることなら…」

 

ふむ。ならば問題あるまい。

 

「あとでそのピナを抱かせてくれ(キリッ)」

 

「へっ?」

 

 

 

 

「うーん♪やっぱり思ったとおりだよ!ピナってめっちゃもふもふしとるー!」

 

「キュ、キュイ…」

 

「え?苦しいって?ははっ、堅いこと言うなよー」

 

「キュウ…」

 

「フォーレンさん…」

 

思いっきりピナを愛でる俺にシリカが冷ややかな視線を浴びせてくる。

やっべちょっとゾクゾクする。

でも俺はそっちの性癖なんてないからこれは…悪寒?

まあいいや。

 

「オホンッ。それで、どうだい俺の作ったその防具は?」

 

固有名は『シルバー・スノウ・クロス』。

銀狼の毛皮を存分に使った体防具だ。

上半身を美しい銀色に包むそのデザイン性もさることながら、驚くべきはその性能かな。

防御力の高さはLA(ラストアタック)ボーナス品レベルだし、さらに性能としてSTR・VIT・DEX・AGI全てを+25って、さすがの俺もこれが壊れ防具なのは分かるぞ。

チートギリギリの装備じゃねえか。

 

あ、ついでに麻痺耐性は無理だったけど、毒無効効果を付属させてみた。

もうやばいね。攻略組でもこんな効果の防具はなかなか持ってないはずだし。

 

「すごくかわいいですね♪気に入りました!」

 

まあシリカ本人は性能よりデザインの方が気になるみたいだけど。

まあそこも自信があったのでよしとしましょ。

 

「あとありあわせの素材で手防具も作ってみたよ。こっちはそこまで性能が高くないんだけど、その防具にはない『麻痺耐性』と『出血耐性』の効果を持ってるから。使ってくれると嬉しいな」

 

もう正直状態異常ほとんど効かねえんじゃね?って位のコーディネートだ。

昆虫系のモンスターにとっては天敵みたいな存在だな。

 

「すごいですね…今日は驚かされてばかりです。なんでこんな中層にいるのか不思議なくらいです」

 

「これでも攻略組にも知り合いはいるんだぜ?噂に名高い血盟騎士団の副団長とか、全身黒ずくめ防具の『黒の剣士』とか…」

 

「黒ずくめの防具…攻略組…それってもしかしてキリトさんですか?」

 

「あり?知ってた?意外だな」

 

「以前に危ないところを助けていただいたんです。今日のフォーレンさんみたいに!」

 

さっきのフリーベンでの出来事を思い出す。

あーゆー輩は何しても減らないからな。

こまめに掃除しなきゃいかんのだよ。

 

「キリトさんってなんかお兄ちゃんみたいな感じで、すごく優しかったです」

 

「ほお…じゃあ俺は?」

 

ちょっと気になって聞いてみる。

 

「ふぇっ!?フォーレンさんですか!?」

 

「あ、ああ。ってなんでそんなに慌てるんだ?」

 

「い、いえいえ!なんでもありません!」

 

「そう?ならいいんだけど」

 

なんか今しがた、クエストマークとは違う、何かしらの旗(フラグ)がたったような気が…気のせいかな?

 

「っと、もうこんな時間か。俺はそろそろ飯にするけど、シリカも食べてく?」

 

「ご飯ですか?」

 

「ああ。俺が作る」

 

「…なんか本当に多彩ですね」

 

「そう?普通だよ♪」

 

そういい、食べてくれる人がいるという状況に少しテンションが上がりながらも、料理の準備を整えていく。

 

「(裁縫スキルに料理スキル、戦闘もできておまけに頭もいい…ば、万能な人だなぁ。見た目もなかなか…)」

 

「シリカー、食べれないものとかあるー?」

 

「ひゃいっ!?ぴ、ピーマンが苦手です!」

 

「? わかったー…」

 

「(び、びっくりしたー…ってさっきから心臓の鼓動が収まらないよ~ピナ~)」

「キュイ~…」

 

そばにいたピナを全力で抱きしめるシリカだったが、フォーレンに愛でられすぎてピナの体力が既に限界だということに気づく余裕はなかったようである。

 




シリカ…なんてちょろい子!
とか思わんといて!
ちなみに今作のシリカはキリトに対して恋愛感情は持っておりません。
兄妹間の愛情というか親愛に近いものです。
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