フォーレンの防具屋   作:ゴリ霧中

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いよいよ一番の男から人気のある漢キャラ、あの人の登場。
個人的にかなりお気に入りのキャラだったりもする。


第四話

「相変わらずだけど、客足伸びねー…」

 

いつもどおり防具のメンテナンスを終え、一息つきながら店の現状を考える。

客来ないし。

売上全然伸びないし。

 

「まあまあ、その分私が来てるじゃないですか~」

 

店のテーブルに座りながらお茶とお菓子を楽しむシリカ。

実はこの前のクエスト以降、「いつでも遊びにきなよ。お茶くらいは出せるから」というと、ほぼ毎日おやつをねだりにやって来る。

まあたまにメンテナンスくらいやらせてくれるんだけどね。

てか俺の作った防具なんだし、他のやつには触らせるものか!

 

「ん~♪今日のケーキも美味しいですっ。ほらピナも食べな?」

「キューイ」

 

食べていたケーキをひとくちピナに分けている。

その姿が俺の目の保養にもなっていて俺の精神衛生上にも非常によろしい。

 

「喜んでもらえてなによりだよ。頑張って料理スキルを上げた甲斐があった」

 

できれば『裁縫』スキルの方を存分に振るいたいが、そうも言っていられない。

キリトやアスナのおかげで、少しづつだけど高レベルのプレイヤーたちが足を運んでくれるようになったし、店自体の売り上げは前よりも良くなっている。

まあ暇なのには変わりないんだけど。

 

「ふぅおいしかった。フォーレンさん、何か私に手伝えることあります?ケーキのお礼にバイトとして手伝いますよっ」

 

「バイトか…」

 

バイトねえ…

正直俺ひとりでも暇でただ店番をしてるだけなのに、バイトを雇ったところで仕事は増えない。

とはいえせっかくやる気を出しているのに断るのもどうか…

 

「…じゃあお客さんが来ないか見ててくれる?多分そろそろ誰か来る時間帯だから」

 

うそだ。

客の来る時間なんてわからないし、そもそも来たら幸運。

まあこんな嘘でも仕事には変わりないだろうから任せよう。

 

「わっかりました!」

 

「お客さんが来たら元気な声で『いらっしゃいませー』って言うんだよ?」

 

「はいっ!いらっしゃいませーっ!」

 

「いやだからそれはお客さんが来た時に…」

 

「おう、いらっしゃいましたぜ!いやあ、聞いてた話とちげえなあ?こんな可愛い看板娘がいるなんてよー」

 

「ってホントに来んかいっ!」

 

やっべ完全にスイッチoffってたよ。

まじシリカさんぱねぇ。

シリカさんのリアルラックなめてましたわー。

 

「いらっしゃいませ。フォーレンの防具屋へようこそ」

 

入ってきたのはむさくるしい男が五人。

先頭に立って先程から声を張り上げているのはあまりセンスがいいとは言えない赤いバンダナを頭に巻いた20代前半くらいのお兄さん。

おっとむさくるしいとセンスがないってのは余計だな。

自重します。

 

「おう!いやー、知り合いから腕のいい防具屋がいるって聞いてよー、やっと攻略に時間ができたから寄ってみたんだっ」

 

「そうでしたか。その知り合いさんの名前を伺っても?」

 

「キリの字だっ!あ、キリトっていうソロのプレイヤーな?」

 

キリトのやつ、律儀にもちゃんと宣伝してくれてるんだな…

この野武士みたいなお兄さんも腰にさした刀を見ればわかる…攻略組だ。

うしろの四人はパーティかギルドメンバーかな?

 

「申し遅れました、店主のフォーレンです」

 

「あこれはご丁寧に。俺はクライン、ギルド・風林火山のリーダーだ」

 

「ほう、ということは後ろの四人はギルドメンバーですか」

 

「ああ。右から順に…」

 

「ああはいわかります。右から順に、風さん・林さん・火さん・山さんですねー」

 

「そとおり…って違うわ!そんなプレイヤー名聞いたこともねえぞ!」

 

おお、ノリツッコミ!

この人お笑いのなんたるかをわかったいらっしゃる…

 

「クラインさん、なかなかいいキレです」

 

「お、おお?そうか?いやあ、はっはっは!おめえなかなかいいわかるじゃねえか!俺のことはクラインでいい、さん付けで呼ばれるのはむず痒くて仕方ねえぜ!敬語もいらねえ」

 

自分の方が明らかに年上なのにこの態度…

人の良さがさっきから滲み出てるな。

それじゃお言葉に甘えて。

 

「わかり…了承しました」

 

「ってなんでよりかしこまってんだよ!悪化してるじゃねえか!」

 

「いやあ、やっぱりいいツッコミだ。あんたいいもん持ってるよ」

 

「ったりめえよお!このクライン様にかかればボケもツッコミも関係ねえぜ!」

 

な、なんてノせやすい…

まあ面白いのでよし。

 

「それで、今日の要件は?」

 

「おう!今日はこいつらも含めて五人分の防具、つうか鎧を作ってもらいたくてな。前に全員で買った防具は使い古しちまったし、そろそろ新調したくてよお」

 

「そういうことならおまかせあれ。最強の鎧を作ってやる」

 

「本当か!よーしお前ら!早速持ってる素材を…ってあり?」

 

「お仲間なら後ろだぞ」

 

ほれ、と言ってクラインの後ろを指差す。

その先では他のギルメン四人がショーケースの中を眺めて店内の商品を物色していた。

別に商品を見るのは構わない。

ただひとつ、問題があるとすれば…

 

「いやあ、シリカちゃんだよね?竜使いの」

 

「へっ?あ、はいそうです」

 

「お、俺ファンです!あ、ああ握手してください!」

 

「ええっ!?困りますっ」

 

「ねえねえ、よかったらこれあげるよー。テイムモンスター用の餌なんだけど、俺たちだれも使わないからさー」

 

「わあっありがとうございます!よかったね、ピナ♪」

 

「ぼー…(見つめているだけ)」

 

問題は物色に見せかけてうちのバイトにちょっかいを出していることか。

 

「おらあっ!てめえら!何してやがる!その子が困ってるじゃねえか!」

 

さすがのクラインも良識のある大人として注意。

 

「それでよお、フォーの字」

 

「ふぉ、フォーの字?」

 

そんな呼び方初めてされた。

そういやキリトのこともキリの字とか呼んでたっけ?

 

「あの子はおめえの、コレか…?」

 

右手の小指だけを立てて『コレ』を作るクライン。

まあ常識から考えて恋人の意味だろう。

 

「いや、ただのうちのバイト、もとい看板娘だよ」

 

先日知り合ったばかりだし、それから毎日会っているとしてもそんなに早く男女が恋仲にはならないだろう。

俺としても今のシリカは(出来の悪い)妹くらいに思ってる。

そもそもシリカにその気はないだろう。

 

「だよなー!キリトの野郎の友達なんだから、キリトと同じだと思ったぜー!そして俺もお仲間だっ」

 

今のセリフでわかったことが一つ。

 

こいつ、生まれてこのかた彼女出来たことないな?

 

「まあ俺もキリトもまだ十代だし、これからさ。クラインはちょっと厳しそうだけど」

 

「どーゆーこったそりゃあ!?」

 

「そのまんま笑」

 

「笑うなあっ!悪いか?彼女いない歴=年齢の俺がそんなに悪いかぁっ!?」

 

必死すぎ笑

てか正直クラインならそのうちいい人が見つかる気がする。

人がいいし、誰とでも打ち解けられる雰囲気を前面に押し出している。

外見は…まあおいておこう。

 

「おい今なんか失礼なこと考えなかったか?」

 

「…何も?」

 

勘も鋭いみたいだ。

これが修羅場をくぐってきた攻略組の力か…!

 

「それはそうと鎧だったね。重視する強化事項はある?」

 

「ああ、全体的にVIT重視で頼む」

 

話題転換大成功。

ただ本題に移っただけだけど。

 

「硬さ重視か…素材は何がある?」

 

「今あるのは…って、お前らいい加減に戻ってきやがれ!」

 

未だにシリカを囲んで質問攻めをしていた風林火山のメンバーたちだが、リーダーの一喝でしぶしぶこちらへ呼び戻された。

 

ん?シリカを助けなかったのかって?

客の接客もバイトのお仕事ってことで一つ。

決してクラインと話してて忘れていたわけではない。

 

「うぅ、リーダー…彼女がほしいです…」

 

「な、泣くなっ!そんなもん、俺だって欲しいに決まってんだろ!」

 

「あの、素材…」

 

このままいくとむさくるしい男どものモテない談義が始まりそうだったので、再び話しを戻す。

 

「つ、疲れました…」

 

シリカは既にぐったりしていたので、裏に行かせて休憩を取らせようと思う。

お疲れ様です…

 

「それで素材だけど…」

 

「ああ、これが俺たちの『ギルドストレージ』だ」

 

ちなみにギルドストレージとは、そのまんま、ギルド内で共通して使用のできるアイテムストレージのこと。

 

「今持ってる素材も全部入れたところだ」

 

「そんじゃちょっと拝見。…んーめぼしい素材は『レラカイト鉱石』くらいかー」

 

「これじゃ足りないか?」

 

「鉱石の数はギリギリ足りるんだけど、他の素材がちょっと…。一応この鉱石さえあればそれなりの物を作れると保証できるけど、どうせなら今できる最上級の物を作りたいでしょ?漢(おとこ)としては」

 

「ったりめえよ!で、何があれば作れるんだ?」

 

「ちょっと待ってね…。えーっと、今だと上層の62層で手に入るドロップ品『レッドワイバーンの紅革』と、54層で手に入るこれまたドロップ品の『アストラル種のコア』、そしてアクセサリー用として24層で採集できる『七色極石』があれば好ましいかな」

 

情報屋のリストを見て、自分の知識と照らし合わせながら作る防具の構想を思い浮かべる。

うん、こりゃかなりいいものが作れそうだ。

納得がいくものができたら特別に高く売ってやるとしよう。

 

「三種類か…人数もいることだしまずは二人と三人に分かれて…いやでもそれじゃあ片方の戦力が足りないか?片方が二人になると不測の事態に対応できないし…ここは安全に一つずつ…」

 

「あ、言い忘れてた。俺も暇だから手伝う」

 

「はあっ!?いやこっちとしては人手が増えるのはありがてえが…いいのか?」

 

「ああ。言ったとおり暇だからね。ほかに客も来ないし」

 

「そ、そうか。じゃあ隊を二つに分けるか」

 

「それとこっちは一人で平気。クラインたちは五人で『紅革』をとってくるといいよ。俺は一人で『コア』とってくるから」

 

正直俺のスキルなら54層の敵に負けることはまずない。

非常用に結晶アイテムも積んでいるが、それ以上に俺の防具の質が高いからだ。

半チート防具が俺を守る!

 

「なにぃっ!?そんなのダメだ!一人でダンジョンに潜り込むなんて、どこぞのキリの字じゃああるまいし」

 

だがクラインはその提案を拒否。

 

「大丈夫だって、安全マージンはしっかりとってるから」

 

「それでも不測の事態には備えられねえっ!よし、お前ら四人で『紅革』取りに行けるな?あそこのモンスターのアルゴリズムは散々叩き込まれてるはずだ」

 

「もっちろん!」

「ったりめえですぜ」

「剥いで剥いで剥ぎまくってくるぜ!」

「お頭はこの坊主と54層へ?」

 

「おうっ!ちょっくら行ってくる。なあに、こっちはすぐ終わるって」

 

「はあ、そんなに防具屋って戦闘において信用ないかな…」

 

そりゃ攻略組と比べたら弱いけど。

 

「じゃあ石の方は助手に取りに行かせます」

 

「助手…?」

 

「ええ…(パチン)」

 

「呼びましたか、フォーレンさん?」

 

指を鳴らすと休憩中だったシリカが裏から出てきた。

最近だとこれだけで来てくれるんだよな。

 

「ピナと一緒におつかいだ。24層で取れる素材なんだけど、頼めるか?」

 

「もちろんですっ!ピナ、お仕事だよ♪」

「キュイキュイ」

 

「お、お前ら本当に恋人同士じゃないのか…?」

 

「だから違うって」

 

でもシリカはちょっと素直すぎると思うんだ。

そのうち騙されたりしなきゃいいけど。

 

と、そんなこんなで素材集めが始まった。

 

 

 

 

「おりゃっとりゃあっ!」

 

大鎌を持つ死神モンスターを相手に、クラインの刀スキル『幻月』が炸裂した。

 

「おお~さすが攻略組」

 

「フォーレン!次が来るぜっ!」

 

視線の先にはリポップした死神モンスターが。

 

「まかせて。らあっ!」

 

こちらも負けじと短剣スキル『クロスエッジ』の二連撃をお見舞いする。

 

「よしっ」

 

レベル差もあってか、死神モンスターはすぐに瞬殺できた。

 

「おっ、やっと落ちたな。これで五個目だ」

 

必要数のアイテムが集まり、始めてから一時間ほどで目的を遂げた。

 

「ん?アレは…」

 

「どうした、クライン?」

 

「あそこにいるのってNPCか?ダンジョンの真っ只中だってえのに」

 

クラインが見つめる先には男性型NPCの姿があった。

 

「たしかに妙だな。NPCは基本的に街にしかいない。例外を除いては」

 

「ってことはアレはその例外の一つ、クエストキーパーソンか!」

 

「だろうね。でもこの階層は踏破されてからだいぶ経つけど、そんな情報知らないな」

 

「じゃあありゃあ未発見の新クエストってわけだ!くう~ゲーマーとしての俺様の血が騒ぐぜ!」

 

見るからにワクワクするクラインだったが、俺もゲーマーの端くれ。

そんな魅惑的な話に乗らない訳もなく。

 

「なあクライン、あのクエスト受けてみるか?お前の実力ならまずいけると思うんだけど」

 

「おうよっ!俺も早いとこあのクエストを受けたくてうずうずしてんだ!おーいっ」

 

俺の提案を聞くとすぐさまNPCのところへ駆け寄るクライン。

その姿を見て小学生男子の好奇心と似ていると思った俺は間違っていないだろう。

 

『おお、これは冒険者の方々…腕に覚えがあるのなら、是非とも僕に力を貸して頂けませんか?』

 

「ああ、いいぜ。このクライン様に任せとけってんだ!」

 

「何があったんです?」

 

俺は気分上々↑↑なクラインとは対称的に冷静に対応した。

 

『実はこの奥の扉の前にドラゴンが居座っていまして…この先の部屋に行けなくなってしまったんです。どうかそのドラゴンを討伐して下さりませんか?』

 

「討伐系クエストか…ドラゴンねえ…」

 

ドラゴンの皮膚は灼熱に耐え、物理攻撃に対する耐性も桁外れに強い。

古来よりRPGの強敵として名を連ねるモンスターにもドラゴンはかなりいる。

 

そのドラゴンの皮をもしかしたら手に入れられるかも…

 

「ふふ、うふふっ」

 

そう考えるとゲーマーとしての血よりも防具屋としての本能が出てきてしまう。

いいなあドラゴン…

まだドラゴンの素材はあまり扱ったことないからな…

 

「お、おいフォーレン?でえじょうぶか?笑い方がこええぞ」

 

「大丈夫大丈夫。ふひひっ」

 

とはいってもこの気の昂ぶりは収まらない。

是非とも手に入れようじゃありませんか!

 

「行こうっクライン!」

 

「言われなくてもそのつもりだぜ!」

 

こうしてクラインとともにドラゴンの待つ間に足を踏み入れた。

 

 

 

「「・・・」」

 

 

 

『ゴギャアアァーーッ』

 

「こ、これがドラゴン…」

 

「で、ででででけえええっ!」

 

目の前にいるドラゴンは想像していた5回りくらい大きく、全身漆黒のウロコで覆われた黒竜だった。キリトかよ。

まじやべえって、誰かチェホンマン五人くらい呼んでこいし。

てか個体名『エンペラー・ドラゴン』て。

なんで皇帝がこんなダンジョンに居座ってんだよ!

場違いすぎんだろ!

 

「いやこれでかすぎだって。スモー○ライトあったっけ?」

 

「ねえよそんなもんっ!って、あああっ!?扉がしまってやがる!?」

 

「お、落ち着け!それよりまずは転移結晶だろ!」

 

うろたえるクラインにアイテムの使用を促す。

 

「そ、そーだな…転移・ミーシェ!」

 

しゅん…

 

だが結晶は光らない。

 

おいおいおいおい、まじかまじかまじかっ!?

結晶無効化エリアとか聞いてないんですけど!?

 

「お、おいクライン、どうする…?」

 

「どーするって、お前…どーしよ?」

 

既に選択肢は二つしか残されていなかった。

 

ドラゴンを倒し生き残るか、無残に散るか。

 

「こーなりゃ仕方ねえ…やってやる!」

 

「クライン…」

 

腰の刀に手を伸ばし、臨戦態勢をとるクライン。

 

だが俺は短剣に手を伸ばせなかった。

 

否、伸ばさなかった。

 

「おいフォーレン!戦う前から諦めてんじゃねえ!」

 

「諦める?誰言ってんのさ」

 

「じゃあとっとと武器を…」

 

そういってクラインは異変に気づく。

 

それはフォーレンの構え。

剣こそ持ってはいなかったが、両の手をドラゴンに向けるその姿勢は、確かに『構え』だった。

 

「なあに、これが俺の本来の武器でね」

 

「そりゃあ、針、か?」

 

「ああ。まあ最もこれは操るためのものであって、この針自体に攻撃力はないんだけどね」

 

「聞いたことあるぞ…確か『裁縫』スキルの上位スキル『裁縫術』。糸を操って敵の動きを封じるとんでもねえスキルらしいが…果たしてあのドラゴン相手に効くかどうか…」

 

クラインの言うとおりだ。

フォーレン特製の人口糸は確かな強度を誇るが、フロアボスどころかフィールドボスやクエストボスに対して効果は見込めない。

圧倒的な力に引きちぎられてもおかしくないのだ。

 

「それでも隙くらいは生み出してみせるさ。っと、おしゃべりはここまで。敵さんはどうやら短気みたいだね」

 

クラインが目線をドラゴンに戻すと、ドラゴンも臨戦態勢を取っていた。

 

「生き残ろうぜ、クライン」

 

「あたぼうよっ!俺はかわいこちゃんとお付き合いするその日まで死なねえって決めたんだっ」

 

いやそのあとこそ生きてなきゃいかんだろ。

 

「それに、これから先もあいつらを守る!うらあああっ!」

 

「それでこそクラインだ!」

 

雄叫びを上げながら突進するクライン。

俺も奴を死なせないために精一杯の努力をする。

 

「くらえっ、『裁縫術』上位スキル、ワイヤーズ・トラップ!」

 

正直どこまで通じるか見当もつかないが、やるだけやるしかない!

せめて…せめて少しの隙が生じてくれれば…!

 

俺の操る糸がドラゴンを全方位から囲み、決して躱すことのできない特大の罠を仕掛けた。

 

そして次の瞬間

 

俺たちはその光景に目を疑った。

 

 

 

『ゴギャアアアッ!?』

 

 

 

「「へっ?」」

 

俺とクラインの口から素っ頓狂な声が漏れる。

 

それもそのはず、効果が薄いと予想していた俺の『裁縫術』だが…

なんかものの見事に効きました。

 

ブンブンッと両(前)足を振り回す黒竜だったが、暴れれば暴れるだけ苦しみを味わうのが俺の糸の真骨頂。

いつぞやの筋肉質のチンピラのように抜け出し不可能な状況まで進んでいた。

 

「お、おい、フォーレン?これって…」

 

「ああ。俺も驚いてるよ。効くんだな、これ」

 

右手に目をやり、改めて自分の持つスキルに畏敬の念を持つが、すぐに眼前を向く。

クラインも気づいたようだ。

 

「そうと…」

 

「わかりゃあ…」

 

「「袋叩きじゃあああっ!!」」

 

俺とクラインの表情が阿修羅に変わり、怒涛の虐殺劇が始まった。

 

「おらおらっ!硬えなこいつっ」

 

クラインは惜しげもなく刀上位スキル『東雲』を連発している。

 

俺はといえばこれまた裁縫術上位スキル『ギロチン・ディストラクション』を放つ。

 

ディストラクションは「殺戮」などの意味があるが、その名のとおり残虐なスキルで、その威力は圧倒的硬さを誇るウロコごとドラゴンの前足を切断してしまうほどだ。

 

「「はっはっはあー!」」

 

嬉々としてドラゴンをなぶり殺しにするゲーマーと防具屋の姿はシリカのような純粋な心を持つ子供には見せてはいけないだろう。

 

 

 

 

十分後、ドラゴンの姿は青いポリゴン片に変わり、クエスト完了のメッセージが流れていた。

 

そこに佇む二人の男。

その二人が今思うことは

 

「「(やりすぎた!)」」

 

である。

 

ただし二人共反省はしていても後悔はしていない。

 

 

 

 

「~♪」

 

「おうおう、随分とご機嫌じゃねえか、殺戮防具屋さんよお?」

 

「そりゃ念願のドラゴンの素材が手に入ったんだ、上機嫌にもなるんじゃないですか、血まみれ侍さん?」

 

二人して皮肉を言い合っているが、お互いにやりすぎた自覚はあるので、他言はしないという暗黙の了解が生まれた。

 

「ただいま~」

 

そしてその足で35層の我が拠点へ帰ってきた。

 

「あ、おかえりなさい、フォーレンさん!」

 

「おおシリカ、頼んだものは手に入れてきた?」

 

「はいっ!ばっちりです」

 

おつかい達成が嬉しかったのか、ウインドウを可視化して見せてきたので覗き込む。

 

「どれどれ…おお、ちゃんと揃ってるな。これなら充分足りるぞ」

 

「えへへ、ちょっと余分にとってきちゃいました」

 

舌をぺろっと出して照れる仕草は親指を立てて「good!」と叫びたくなったので、あとでその余った素材で綺麗な指輪でも作ろうか。

 

「おめえらはちゃんと手に入れてきたな?」

 

「「「「もちろんだぜお頭っ!」」」」

 

「…今更だけどクライン、『お頭』って呼ばせてるのか?」

 

「ばっ!ちげえよ!俺はお館様がいいって言ったんだけどよ…」

 

いや恥ずかしがるべきはそこじゃないから。

 

とまあそんな雑談を交えつつ、クラインたちの防具の生成を開始する。

 

「基本コンセプトはVIT重視でいいな?あとはこっちのさじ加減で調整するけど、異論はない?」

 

「ああ。そこはお前の防具屋としての腕を信じるぜ!」

 

「オーケー、了解だ」

 

そこまで言われちゃ手を抜くわけにはいかないな。

 

(作る防具は鎧と装飾品か。鎧の雰囲気に違和感ないデザインの装飾品となると、そこまで目立たないリングとかかな…)

 

さらに今回はいつも作るのとは状況が少し違う。

鎧を作ったことは今まで何回もあったが、一度に五人分は初めて。

なるべく均等な性能を持たせなくてはならない。

でなければ性能の差で仲間内で誰がどれを装備するか揉めそうだ。

 

(性能はVIT重視であとは状態耐性…でも鎧なら状態耐性をつけずに純粋に硬さを追求しよう。足りない耐性は装飾品で補えばいい。そのためにわざわざシリカに『七色極石』をとってきてもらったんだし)

 

『七色極石』は装飾品の素材として優秀で、派手な色さえどうにかすれば様々な状態異常の耐性を付けることが可能だ。

その色も、『高級インク』があるから問題ない。

 

(色は絶対赤だろうな。それが一番似合ってるし、喜びそうだ)

 

大体の方向性を決め、もはや仕事の一部となったスキルウインドウの操作を行う。

 

「これで…よしっと。できたっ」

 

「お?完成か?」

 

「ああ。受け取ってくれ」

 

トレード画面をタップしてクラインたちに装備を送る。

 

まずは装飾品。

固有名は『シルバーリング』

ごく普通に広まっているリングだが、質はそんじょそこらのものとは違う。

 

「防御力こそ皆無にしたけど、性能はすごいよ。AGI+20麻痺・毒・出血耐性にドロップ率+15%」

 

ドロップ率アップ系の装備はなかなか重宝されていて、ソロだと効果がわかりづらいが、クラインのように多人数で全員がその装備を持っているとわかりやすくアイテムが落ちる。

この先素材集めが楽になることは間違いないだろう。

 

ちなみに俺の装備は全身の防具に多かれ少なかれドロップ率に補正がかけられている。

防具屋にとっては素材集めが肝だからね。

 

「そしてメインの鎧だけど、クラインのものだけちょっと違うんだ」

 

他の四人に渡した鎧もなかなかの代物で、今まで使っていた鎧と比べると性能が大幅に強化されていた。

おそらく50層のダンジョンですらダメージなんてほとんどゼロだろう。

 

「クラインの鎧はさっき倒したアレの素材を加えてみた」

 

「まじかっ!?そりゃあ期待できるぜ~」

 

ほかのメンバーとシリカが「?」を浮かべていたが、それは後で説明するとして。

 

「固有名は『黒炎竜の鎧』今まで俺が作った防具の中で間違いなく最高の防御力だろう」

 

「か、かけええっ!名前もデザインもめちゃくちゃ強そうじゃねえか!?」

 

鎧の色は『紅革』と『皇帝竜の黒鱗』が合わさり、赤と黒の鎧になっている。

そしてその性能はもう7割チートだ。

 

「防御力+200にVIT+67!?なんじゃこりゃあっ!?」

 

今まで使っていた防具の倍以上の性能に驚きを隠せないクライン。

当然も当然、なにせあの『ドラゴン』の素材を使ったのだから。

 

「はー…」

 

「ん?どうしたクライン、嬉しくないのか?」

 

思っていたより反応が薄くて驚いていると、クラインが口を開いた。

 

「いや、うれしい、うれしいさ…でもよお、俺だけこんなとんでもねえ防具をもらうなんてことできねえだろ?こいつらにだってわるいしよ…」

 

「はあ!?」

 

なんというお人よし。

お人好しの極み!

いやそりゃ気が引けるのもわからないでもないけどさ。

 

「クライン、ほかのメンバーたちを見ろよ」

 

「え?」

 

そう言って目線を俺から後ろにいたメンバーたちに向けた。

そこにはいつもと変わらずにこやかな表情の戦友たちの姿があった。

 

「その人たちがそんなこと気にすると思うか?むしろギルドのリーダーってのは本来一番倒れちゃいけない存在だ。だからこそ俺はその鎧を作った。お前に死なれちゃ、そのお仲間たちが困るんだ」

 

「お、おめえら…」

 

その表情には誰も嫉妬なんて浮かべてない。

少しは羨ましいという感情も含まれていたかもしれないが、それ以上にクラインの命の方が大切なのだろう。

 

それもこれもクラインという人間の人柄が、さらには普段の行いが良かったからだろう。

 

「くうっ!泣かせるじゃねえかっこんちくしょうめっ!」

 

「よおしおめえら、今日は一晩中で最前線の迷宮区だ!新しい防具の性能実験と行こうぜ!」

 

「「「「おうっ!」」」」

 

全員の声が揃い、そのまま転移門めがけて突っ走っていってしまった。

それを見てシリカも口を開けて驚いていた。

 

「なんかすごい人たちでしたね…クラインさんもみんなに愛されてたし」

 

「ああいうタイプは異性より同性に好かれるもんなんだよ。ま、そのせいでクラインは未だに彼女がいないと嘆いていたけど」

 

「あ、あはは…確かに恋人としてはちょっと…あれですね」

 

珍しくシリアが口を濁した。

ふむ、やはりクラインに恋人ができるのは当分先のようだ。

 

 

 

 

「ち、ちなみにですけどっ、フォーレンさんは彼女さんとかいるんですかっ?」

 

「ん?俺?いないよ、生まれてこのかたね。絶賛募集してはいるんだけど、なかなかね…」

 

「そ、そそそれならっもしよろしければ私が…」

 

「ああああああーーっ!?」

 

「ふぇっ!?ど、どうしたんですか!?」

 

「クラインから代金もらうの忘れてたあっ!ちくしょ、あんの野武士顔め!」

 

「そ、そうでしたか。あはは、は…」

 

「ん?あっ、そういえば何か言おうとしてた?」

 

「い、いえいえいえいえ!なんでもありませんから!」

 

変なシリカ。

なーに動揺してんだか。

 

ちなみにそのあとクラインにメッセージを飛ばし、無理やり代金を徴収したのは言うまでもない。

 




ガチバトルすると思いました?
残念ながらクラインがいる時点でそんなことは起きません。
あの人は完全コメディキャラです。
でもまあ情の厚いキャラでもあるので友情話はやってみた。
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