フォーレンの防具屋   作:ゴリ霧中

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第六話

現在の最前線は74層。

攻略組プレイヤーたちが迷宮攻略に勤しむ中、生産職プレイヤーもまた多忙を極めていた。

 

「ちょっとフォーレン、お茶菓子が切れたわよ」

 

「わかったわかった、今作るから」

 

「あ、私ホットケーキが食べたいです」

 

「はいはい」

 

なんてことはなく、今日も今日とて喫茶店状態の防具屋。

いっそのこと女性用のスイーツ店にでもすれば売れるんじゃないかと最近割と真剣に考え始めていた。

 

「ってかリズも自分の店行けよ…」

 

「あたしはいいの。どうせ今日は予約入ってないし、在庫もこの前作った装備で足りるもの」

 

「在庫の量ならフォーレンさんも負けてないですよねっ。私が初めて来た時から一回も切れたところを見てませんから!」

 

「それは単に売れないだけよ、シリカ」

 

「それに関しては何も言い返せない…」

 

我ながら質はいいと自負してるんだけどな…

おかげでメンテナンスと整理がめんどくさくてね。

 

「そういやもう少しでクォーターポイントだろ?そろそろ武具店も忙しくなる頃じゃないか?」

 

クォーターポイントとは、この百層あるアインクラッドの四分の一刻み、つまり25層と75層のことだ。

ちなみに50層はハーフポイントというらしい。

 

「そうねー…前の50層の時も被害は多かったらしいし、前線の連中もそこはこだわるでしょうね」

 

「フォーレンさんの防具を皆さんがつければ生存率も上がると思うんですけど…」

 

「確かに、こいつの防具を作る腕だけは確かだから。あと料理も」

 

「俺の取り柄はそこだけか」

 

「そ、そんなことありませんよ!フォーレンさんは完璧です!」

 

「シリカ、虚しくなるからフォローしなくてもいいんだぞ…?」

 

「ホントですって!」

 

「はいはい二人共、いいからお茶菓子が欲しいわ」

 

「どこまで自分勝手なんだお前は…」

 

とはいえウインドウをいじり料理を作ってしまう。

はあ、これってやっぱり甘いんだろうか。

 

いっそのこともっと厳しく…は言えないか。

リズが相手だし。

下手なこと言えば圏内だろうと関係なく手を出してくるかもしれない。

 

「あんた今何か失礼なこと考えてない?」

 

「別に何も…?」

 

棍を構えながら言うなっての、全く。

 

「ほら、出来上がったぞ。ホットケーキもどきだ」

 

「もどき?」

 

「この世界には似たものはあっても現実世界と同じ食材はないからな。99%再現してみた」

 

「ふぇ~すごいんですね~」

 

ふっ、これぞ研究の成果だ。

味覚エンジン最高。

 

「もぐもぐ…うん!美味しいじゃない!」

 

「しあわせです~」

 

甘さが口の中に広がり、幸福感に浸る女性陣。

その顔を見れるだけでも料理スキルを習得した甲斐があるってもんだな。

 

 

 

 

「それにしても暇だ。防具の在庫は減らないのに俺の食材は減っていくし」

 

あのあと結局3回おかわりを要求され、流されるがままに作ってしまった。

 

「あ、あの…材料費くらいはやっぱり」

 

「いいのよシリカ。どうせこいつにそんなこと言ったって受け取らないんだから」

 

「そうだぞ。年少者は年上に甘えとけ。ってか年下の女の子からお金なんて取れるか」

 

最近の頻度から言って同い年のリズからは請求しようかとも考えてるけど。

そう思いリズの方を見つめてみると

 

「あたしは誕生日的に年下だから!」

 

とかのたまった。

 

「そーですか、っと。じゃあお金はいらないからせめて暇のつぶせることを提案してくれ」

 

「暇つぶし、ですか?」

 

「ああ。何か遊びでもいいし、面白いクエストでもいい」

 

さらに報酬がいいならなおよし。

と、思ったが口には出さない。

 

「う~んそうね…そういえばこの前キリトがS級食材を手に入れたとかでアスナと食べていたわ」

 

「なに!?S級食材!?」

 

「そ。『ラグーラビットの肉』だったかしら」

 

「S級食材ですかー…あたし食べたことないです」

 

「俺もだ。くそ、どうせなら俺に料理させてくれればいいのに…」

 

そしてあわよくば一口くれてもいいのに。

 

「やっぱり食べたいわよね?」

 

「そりゃあ!」

 

「当然!」

 

俺とシリカの息の合った返事にリズは口元を緩ませた。

 

「じゃあこれから三人でS級食材狩りに行くわよ!」

 

「「おおっ!って、はい?」」

 

S級食材狩りだって?

 

「そうと決まったら出かける準備をするわよ」

 

「えっと…」

 

「待て待てリズ。S級食材だぞ?あてもなく探して見つけ出せるわけないでしょ」

 

このSAOの食材にはランクがあり、最低ランクがDでそれからC・B・Aと上がり、その最高ランクがSだ。

そのランクは希少さを表しており、同時に食材の味にも比例する。

さらに希少な食材ほど高い料理スキルが必要で、S級の食材を失敗せずに調理できるのはスキルをマスターした俺かアスナくらいだろう。

 

「A級食材くらいならまだしも、S級となればまるで違う」

 

「そうですね。私もこの前フォーレンさんが作ってくれたA級食材の料理で食べたくらいです」

 

「それはあたしだってそうよ」

 

つい先日A級食材の肉が手に入ったので、リズとシリカにもおすそわけとして振舞ったのだが、今はその話は置いておこう。

 

「情報屋だってそんな情報は持ってないだろうし、あてがないんじゃ意味がないぞ」

 

「そのあてがある、って言ったら?」

 

にやにやとこちらにふんぞり返るリズだが、その姿勢すら今は気にならない。

女の子なんだから慎みを、とか考えない。

 

「ってまさかあるのか!?」

 

「もちよ。昨日来た常連さんから偶然情報を得てね。あたし一人じゃどうせ無理かと思って行くつもりもなかったんだけど」

 

「それで、どこなんですか!?」

 

「もったいぶらずにさあ!」

 

「焦らないの。49層にある草原はわかる?」

 

「ああ、あの無駄にだだっ広い草原だろ。フロア全体がそうなんじゃないかってくらい広い」

 

このアインクラッドは形状からして中心層が一番面積が大きい。

50層が一番広いが、49層もかなりでかい。

その層は広い草原で占められており、迷宮区以外はほとんど緑で覆われている。

 

「そうよ。そこの草原フィールドで出現する『フレンジーボア』ていうありふれた猪がいるじゃない?」

 

「あの一層から出てきてるモンスターですよね?層が変わっても何層かごとに高いレベルのやつが出現してますけど」

 

「もはやSAOの代表的なモブだな。肉もうまいし」

 

『フレンジーボア』というモンスターは猪型のモンスターで、そいつらが希にドロップする『上質なボア肉』という食材は、B級食材でありながらなかなかに美味だ。

今でも週に一回は食べるくらいに。

 

「そのフレンジーボアだけど、49層には極々希に色違いの『赤い』フレンジーボアが出没するっていう未確認だけど情報があるのよ」

 

「赤いフレンジーボア?」

 

「ええ、あくまでも未確認情報だから情報屋としてもまだ公開せずにいるらしいわ」

 

へえ、色違いねえ。

従来のRPGではよくある、色だけ変えて出すモブ敵、か。

 

「これまた更に未確認の情報だけど、その赤いボアがドロップする食材ってのがS級食材らしいのよ」

 

「へえ~そうなんですか」

 

「う~ん、とはいえ未確認なところが多すぎるな…情報に信ぴょう性がないし、仮に本当だとしても遭遇率は低そうだ」

 

「だからS級食材なんでしょ。それで、これから三人で行ってみない?」

 

「いいですね。暇つぶしにはちょうどいいかと思います。出ないなら出ないでピクニックだと思えばいいですし」

 

「確かに暇つぶしとしてならあり、か。よしっ、じゃあ行ってみようか」

 

もとより案を求めたのは俺だし、まあピクニックだと言われればそれでいいか。

 

「じゃあ早速準備に掛かりましょう」

 

「準備って言っても道具はストレージの中なんだし、何もいらなくないか?」

 

「女の子にはいろいろあんのよ。あんたはお弁当でも作って待ってなさい」

 

そう言うとリズはシリカの手を引いて店をあとにした。

しょうがない、弁当つくろ。

 

 

 

 

「到着っ!」

 

「ふぁ~いつ来ても広いですね、ここは」

 

いつもの装備と違い、少し明るい色合いの装備に着替えた二人がとともに、49層の草原に来ていた。

 

「今になってここの草原でレベリングするプレイヤーも少ないみたいだな」

 

あたりを見渡しても、他のパーティはほとんどいなかった。

 

「そうね。食材の情報もそんなに出回ってはいないみたいだし、私たちにとってはちょうどいいわね」

 

とは言ってもそのへんにいるフレンジーボアを狩っても仕方ない。

俺たちの目的はあくまで赤いフレンジーボア、希少種の方だ。

 

「地道に狩ってリポップするのを待つしかないな」

 

「ええ。さあ狩るわよ!」

 

メラメラと闘志をむき出しにしたリズがボアに突進する。

 

「あ、待ってください~」

 

一歩遅れてシリカも突撃。

 

「はあ、今日中に見つかるかな…」

 

いくら暇つぶしとは言っても、先の見えない戦いにため息を吐き、後方から糸を飛ばすフォーレンであった。

 

 

 

 

「はあはあ…出ないわね」

 

「流石に疲れました~」

 

「そりゃ休みなしで三時間も狩れば疲れるだろ。ペース配分を考えなさい」

 

ぐったりと座り込む二人に飲み物を渡しながら涼しい顔で見下ろすフォーレン。

 

「なんであんたは疲れてないのよ…」

 

「鍛え方が違うからな。それとさっき言ったようにペース配分だ」

 

基本的に剣を振るわず、糸を操るだけなので体力もそこまで使わない。

強敵相手なら神経を研ぎ澄ませて糸を操作するのだが、格下でレベル差が雲泥の差のモブ敵相手に、そこまでの集中力は使わない。

雑魚敵相手の戦闘なら汗ひとつかかずに殲滅できるのは『裁縫術』スキルの大きな長所だ。

 

「さて、赤いボアはまだ出ないみたいだし、少し休憩と行こうか」

 

そう言いながらストレージからシートと作ってきた弁当を取り出す。

今日の弁当はスタミナ重視の生姜焼き弁当だ。

まあこの世界には生姜なんてないし、味を真似たモノに過ぎないのだが。

 

「待ってました!いやあ、やっぱあんたいい嫁になるわ」

 

「誰が嫁だ誰が。余計なこと言ってないで食べな」

 

「美味しそうです。ん~いい匂い…」

 

素直なシリカには癒されるね、ホント。

リズもこんなふうに…いや、リズがこんなだと気味が悪いな。

うん。リズはリズのままでいてもらおう。

 

「あんた今何か変なこと考えたでしょ」

 

「別に。ささ、食べましょ食べましょ」

 

「あっこらっ。ったく、しょうがないわね」

 

話題変換成功。

もはやシステム外スキルの一つとして既に習得済みだぜ!

 

「もぐもぐ…ん~美味しいっ」

 

満面の笑みで弁当を食べるリズ。

そうそう、やれば出来るじゃないか。

 

「やっぱりフォーレンさんの作る料理は格別ですね。さっきまでの疲れがどっかに消えちゃいました」

 

「そりゃよかった。作ったこっちも喜んでもらえると嬉しいよ」

 

つい先日までぼっち防具屋だった俺としてはシリカとリズの笑顔は精神的にありがたい。

ここまで『料理』スキル上げてて良かった…

 

「それ食べたらまた再開しようか。シリカとリズのレベルもあと少しで上がるんじゃないか?」

 

「はい。私はあと20体ほど倒したら上がりそうです」

 

「あたしも同じくらいね」

 

「よし、じゃあ俺は支援に徹しよう。レベルが上がっても赤いボアが出なかったら今日はそこで切り上げようか」

 

ふたり合わせて40体倒すまでに出ないのなら噂がデマだったのだろう。

既にここまで全部合わせて100体以上は倒してるはずだし。

 

「そうしましょうか。フォーレンさんはともかく私たち二人の体力ももちそうにありません」

 

「あたしたちはかよわいから、仕方ないわよ」

 

「ん?誰がかよわいって…あだっ」

 

「な・に・か言った?」

 

「そんなことするから悪いのに」

 

シリカはともかく、リズは俺の中のかよわいカテゴリには入っていない。

この先入ることもない。

 

 

 

 

「やった、レベル上がりましたよ!」

 

「あたしも、これでっ…よし、レベルアップ!」

 

「お~おめでと」

 

二人のレベルがほぼ同時に上がり、素直に拍手で労う。

 

「にしても出ないわねー赤いボア」

 

「やっぱりただの噂だったんでしょうか?」

 

「かもな。まあ暇つぶしにはちょうど良かったし、二人のレベルも上がった。いいピクニックだったんじゃないか?」

 

そろそろ帰ろうかと三人が考えていたその時。

 

「キュイキュイ!」

 

「どうしたのピナ?」

 

「キュイキュイ!」

 

「なんだなんだ?急に騒ぎ出したな」

 

「ピナがここまで騒ぐなんて、周りに敵でも…あっ!」

 

「どうしたのよシリカ…」

 

「あ、あああそこっ!」

 

シリカが指差す方を見るとそこにいたのは。

 

「アレは…赤いボアだっ!」

 

「とうとうお出ましってわけね!」

 

そこにいたのは俺たちが五時間ほど探し続けていたモンスター。

『レッドボア』だった。

 

「早速狩るわよ!はあっ!」

 

「は、はい!」

 

「って早いな。逃がすなよっ」

 

と言ってるそばからレッドボアはこちらに気付き、逃走を開始する。

S級食材をドロップするモンスターは遭遇してもすぐ逃げ出すというのは聞いたことはあるが、本当だったようだ。

 

「待ちなさい、肉!」

 

その食材目当てにそのあとを追う三人。

てかリズ、肉って…

 

「逃げ足の速い奴ね。フォーレン!」

 

「わかってる。ここまで来て逃がすかよ…『ワイヤーズトラップ』!」

 

両の手のすべての指から糸を射出し、計十本の糸を交差させてボアに放つ。

 

『ギャウッ!?』

 

「ヒット!かかった!」

 

俺の作った特注糸はそんじょそこらのモンスターに破れる網じゃあない。

レッドボアも例に漏れず、身動きが取れなくなっていた。

 

「今だ、二人共!」

 

「はいっ!」

 

「まっかせなさい!」

 

シリカは短剣重攻撃スキル『インフィニット』を、リズは片手棍上位スキル『ブルータル・ストライク』を放つ。

 

『ゴギャアアッ!』

 

格下且つ低体力のボアがその攻撃に耐えられるわけもなく、瞬時に爆散した。

 

「やった!やりましたよ!」

 

「ええ、とうとう倒したわね」

 

二人のうちどちらがドロップしたか確かめるためにも、アイテムストレージを確認する。

どうやらシリカがドロップしたらしい。

 

「これですね。『レッドボアの特上赤身肉』ですか」

 

「まちがいないな。これはS級食材だ」

 

「やった!長いこと待った甲斐があったわね~」

 

飛び上がりそうなほど喜ぶリズだが、疲れが来たのか実際に飛び上がりはしない。

シリカもそうだが、序盤に見つかってたら絶対飛び上がって喜んでたろうな。

 

「にしてもいい肉だな。現実世界のA5牛肉みたいだ」

 

「A5ってなんですか?」

 

「シリカは知らないか。牛肉の中に含まれる油の量や赤身の割合なんかを調べて、その質をランク付けしたものなんだ」

 

「A5ランクっていうのはその中でも最高級のお肉よ」

 

「へえ~そうなんですか。生きてるあいだに食べてみたいですね」

 

「心配ないよ。この肉もそれに劣らず美味なはずだし。何より料理するのは俺なんだから」

 

「それなら信用できますね。楽しみですっ!」

 

にぱっと満面の笑みを浮かべるシリカに見とれつつも、草原を出る準備をする。

 

「さて、じゃあ早速ホームに戻ろうか」

 

二人も肉が待ちきれないのか、俺の言葉に文句一つなく草原をあとにした。

 

 

 

 

「さて到着っと。じゃあ二人はお茶でも飲んで休んでて。料理は出来次第持ってくるからさ」

 

「あっ私も手伝いましょうか?」

 

「いいのよシリカ。料理はこいつに任せておきなさい。それよりもほら、このお茶美味しいわよ」

 

俺を手伝おうとするシリカだったが、リズがそれを止め、お茶を勧める。

 

いや別に手伝って欲しいわけじゃないけどリズみたいに図々しいのも腹が立つな。

 

そのまま後ろでキャッキャしてる二人は放置して、台所に向かった。

 

「猪肉か…。豚や牛と同じく調理しても美味しく出来そうだが、せっかくならもっと…。そうだ、鍋にしようか」

 

現実世界のテレビで猪肉と言ったら鍋、というイメージがあったような気がする。

 

「メインは鍋でいいとして、他にもサラダは二人とも好きだったよな。そういやこの前アスナさんからおすそ分けしてもらったレタス(もどき)があったっけ」

 

実はアスナさんとは度々、先日渡した調味料のお礼に食材を分けあっている。

この猪肉も結構な量があるし、切り身をおすそ分けしようかな。

 

「あとは…食後のデザートか。こればっかりはないと怒られるからな」

 

実際にいつだったかシリカに夕食をご馳走した時、デザートをつくり忘れてしまって涙目のシリカから怒られたことがある。

シリカが起こるなんて滅多なことじゃないので、それ以降絶対にデザートの材料は切らさないように心がけていた。

 

「あとは飲み物を用意して…よし、完成っと」

 

出来上がった料理を運んでいくと、リズとシリカは何やら盛り上がっていた。

 

「へえ~、じゃあシリカはあいつのことが…」

 

「だっだから違うって言ってるじゃないですかっ!そういうリズさんの方こそ…」

 

「二人とも何大声出してんだ?料理できたぞー」

 

「ふぉ、フォーレンさん!?な、ななななんでもありませんよ?」

 

「そ、そうよ、あっ今日はお鍋ね!やったー!」

 

「ならいいけど…あいつって誰のこと?キリト?」

 

「「なんでもないです(わよ)!」」

 

「お、おう。わかった」

 

好奇心が疼いたが、そこは危機回避能力発動。

触れない方が安全だろう。

 

 

 

 

「はあ~おいしかった。やっぱあんたといるとご飯がうまいわ」

 

「飯ありきの関係かよ。でも流石はS級食材だよな…」

 

「ん~…ケーキうま~…」

 

「若干一名トリップしてるけどね」

 

「シリカはいつもこんなかんじだよ。俺としては嬉しいからいいんだけどさ」

 

「この子も幸せ者ね。この世界であんたみたいなのに出会えて」

 

「え、どゆこと?」

 

リズが急に神妙な顔つきになったのでちょっと意外な気持ちになった。

 

「ほら、この世界って女性の割合少ないじゃない?」

 

「まあ圧倒的に男の方が多いな」

 

「だからこそSAOの女性プレイヤーってのは厄介なのよ。私はともかく、シリカの場合は特に見た目がかわいいし、年齢も若いでしょ?アスナ見たく見た目がよくてなおかつ鬼のように強いなら問題ないんだけど、そうもいかないし」

 

トリップしたままのシリカを見つめながらリズが続ける。

 

「多分、あんたやキリトに出会うまではこの子も大変だったはずよ。気を許せる相手なんてそう簡単に見つからないんだから」

 

「そういえばシリカと会った時、男二人に詰め寄られてたけど…」

 

「そーゆー連中が多いのよ。あんたやキリトみたいなのがもっといてくれたらいいんだけどね」

 

「な、なんかリズがそこまで俺のこと信用してたなんて意外だな」

 

「失礼ね。なんならあたしがこのSAOで最初に気を許したのはあんたなのよ?」

 

「へっ?」

 

「なんでもないわよ。それよりそろそろシリカも戻ってくるだろうし、あたしたちはそろそろお暇するわ」

 

見ればシリカのケーキもあと一口だけ。

そろそろトリップが終わる頃か。

 

「時間も遅いしそのほうがいいだろうね」

 

時刻は既に夜十時。

特に夜更かしする予定もないし、もうそろそろ寝てもいいだろう。

 

「じゃああたしはこれで。料理美味しかったわよ。ありがとね」

 

「私も帰りますね。ごちそうさまでした」

 

「おう。いい食材が手に入ったら持ってきなよ。いつだって料理してやるから」

 

「はいっ!」

 

手を振りながらシリカとリズが店をあとにした。

 

「ふう、片付けて俺も寝るとするか」

 

アイテムストレージに食器類を戻し、一息入れると。

 

バンッ

 

不意に店の扉が開いた。

 

「ちょっとフォーレン!これ見て!」

 

入ってきたのは先程までここにいたリズとシリカだった。

 

「なんだ騒々しい。何かあったのか?」

 

「と、とにかくこれを見てください」

 

ピラ、と魅せられたのは一枚の新聞。

情報屋が配っている情報誌だった。

 

「なになに…『74層の青眼の悪魔・軍の精鋭十人を瞬殺!』だって?」

 

「肝心なのはその下よ!」

 

「『その悪魔を襲うは黒の剣士・キリトの二刀流100連撃』!?何だこりゃ、盛りすぎだろ」

 

新聞の一面に書いてあった記事は74層のボス戦についてだ。

まだボス部屋は見つかってなかったはずだが、どうやら今日見つかってそのまま軍の部隊が突っ込んだらしい。

そして壊滅状態だった部隊を救い、ボスを倒したのがあのブラッキー君、というわけだろう。

 

「にしても二刀流かあ。リズは知ってたのか?」

 

確かキリトはリズに剣の制作を依頼していたはずだし、このことは知っていただろう。

 

「まあね。あたしとキリトの秘密にしようかって言ってたんだけど、とうとう使っちゃったのね」

 

それだけ今回の敵は強敵だったって事か。

そもそもフロアボスに単身で勝つなんて聞いたことないしな。

今回のことはキリトか…もしくはあのヒースクリフにしか無理だろう。

 

ヒースクリフは血盟騎士団団長で、あのアスナさんの上司。

さらにキリトの『二刀流』と同じくユニークスキルの『神聖剣』を持っている。

 

「こりゃ他のプレイヤーは黙ってないな」

 

「そうなんですか?」

 

ゲーマー心理の分かっていないシリカは『?』を浮かべている。

 

「シリカもピナをテイムした当時はすごかったろ?他のプレイヤーの視線とか」

 

「あ~確かにアレは…」

 

当時を思い出したのか、少し苦笑いで答える。

 

「ユニークスキルの場合はもっとやばいかもな。ヒースクリフはトップギルドの団長ということでまだ騒ぎが小さかったけど、キリトはソロだ。他のギルドからの勧誘も厳しくなるだろうし、そもそもあいつに対する嫉妬が大きくなると思う」

 

「そうでしょうねー。だからあたしもキリトも黙ってたんだけど…」

 

「今回は仕方ないか。まあ俺は特にそのスキルが欲しいとも思わないけど」

 

そんなスキル手に入れたら否応なく前線に立たされそうだ。

 

「とにかく、事態は大変だけど俺たちは今までどおりでいいんじゃないか?キリトもそれを望んでいるだろうし」

 

「そうね。あたしもそのつもりよ」

 

「はいっ、私もですっ」

 

夜も更けているというのに元気な返事だこと。

 

「よろしい。じゃあ今度こそ解散だな。おやすみ」

 

「おやすみなさい!」

 

「ええ、おやすみ」

 

こうして二人と別れ、今度こそ寝ることにした。

 

にしてもユニークスキルか。

あのブラッキー君はどこまで行くんかね~。

 

これからキリトに待ち受ける苦難を想像し、同情しながらも自分じゃなくてよかったと思ってしまうフォーレンだった。

 

 




SAOのホロウフラグメントの一週目をようやくクリアしました作者です。
やったあとの考えだと、本編のALO編に行くよりも、IMかHFに進んだほうが防具屋としてはやりやすいかもしれませんね。

というわけで多分HF編に進むことになりそうです。


ってかやってて気づいた点が一つ。

リズって武器だけじゃなくて防具も作るじゃん…
なんかめっちゃ強い(けど派手な)鎧作ってもらったし…
これじゃフォーレンのいる意味って…

いやいやいや、この作品のリズは武器しか作れませんし?
フォーレンがいればその鎧イベントも介入できますし?
うんうんそうしましょう。

それではまた。
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