夏油君を曇らせたい外道くん 作:獄門彊
呪術師は糞だ。
そもそも人間が糞で、さらに力を持つのだからま当たり前だろう。
力を好きに振るいたい連中が呪詛師になる。例えば近所の不良を術師に変えれば高確率で呪詛師になる。逆にいじめられっ子でも同じ。
不良グループのリーダーを呪術師にしたら自分ら選ばれた存在だ〜と他の不良グループを襲い女を攫い、最終的には呪霊に食われた奴が居た。
冤罪で家族に出ていかれ職を失った教師を術師にしたら小学校の一クラスまるまる呪った事もあった。普段から授業中騒いだり教室の窓から外にいる教師に物投げたりと、不満がたまっていたのだろう。天然の呪術師なら間違いなく呪霊化していただろう。
後から力を得た連中ですらそれなのだ。
論理もクソもないガキの頃から術式を持ち、呪力を持ち、世界の半分以上が自分に出来て当然のことが出来ないと教えられる呪術師家系は果たしてどうか。まあ糞だ。
呪力を持たねば人間にあらず。特に禪院家なんてそれが謙虚だ。何百年前からああかは知らないが、百年前から変わらない。
道長は周囲から蔑みの目を向けられる姉妹をじっと観察する。
深く縁が繋がり、妹が生み出す呪力は姉に絡みつき姉に中途半端な呪力を与えている。
「何だガンつけやがって。妹に手を出してみろ、石ぶつけんぞ」
「お、お姉ちゃん。猫さんかわいそうだよ」
「……………」
「あ、いっちゃった………」
妹は残念そうに呟いた。
「50年前とセキュリティに差がねぇなあ。もっとしっかりしろよなぁ。俺としては助かるけど」
ケラケラと道長は笑う。半世紀前、禪院家に忍び込み「柄」の頭目を殺し成り代わった後作り上げたマニュアル。それは今でも続いていた。
「禪院家を夏油君に見せたいなぁ。どんな顔するんだろうなぁ………まあ、禪院家にこだわる理由はないか」
盤星教の信者としての顔に変える。その仕事は、呪術師の勧誘。
「御三家以外にもいっぱい居るもんなぁ、酷い扱いを受けた落ちこぼれ」
「というわけで、あの家は呪術師の未来を作ることに賛同してくれました。夏油様に直接会いたいとのことです」
「そうかい、それはうれしいね」
夏油は目の前の青年の言葉に何時ものように笑みを浮かべる。
周りにいるのは幹部………あの時呪術師に目覚めたわけではない、最初から呪術師として生まれた者達。
夏油は決して認めないだろうが、明確な差別。
青年もまた盤星教から呪術師になった者。
困惑と混乱のさなかにあった教徒達を纏めた実績を買い準幹部として扱っている。
「是非夏油様とお会いしたいとのことでしたが、如何がなさいますか? 罠の可能性も………」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ、私は強いからね」
「そうだ! 夏油様すごいんだ!」
「誰にも負けるものか!」
「…………出過ぎた真似を」
「気にしなくていい………けど、私は君のそういう真面目なところは評価してるよ」
「申し訳ありません、時間を間違えておりました」
「君にしては珍しい。まあ良いさ、折角だから家の中を見て回ろうじゃないか」
予定より早く来すぎてまだ食事の用意ができてなかった。家の中を見て回ってくれというのは、後ろ暗いことはしていないというアピールだろう。
「やはり呪術師の家系はいいね。猿が居ない! ここから呪霊が生まれることはないだろう。世界はかくあるべきだと思わないかい?」
「私も元々
「本当に真面目だなあ。少しは上司に合わせようよ」
非術師ぶっ殺そう集団に属しておきながらその考えに賛同してないと正直に言う青年に肩を竦める夏油。
彼について調べれば、彼が盤星教に関わったのは親に連れられて。なんなら、初めて教義に触れたのは天内理子の死後。夏油から聞かされた時、明らかに不愉快な顔をしていた。元猿の中でもまともな部類。
術式が戦闘向きなら幹部入りさせても良かったかもしれない。初めて力に目覚め時に加減を間違えた喧嘩をしてしまう信者を彼はよく纏めている。
「ん?」
と、蔵から笑顔で出てくる子供達を見つける夏油。
子供が笑う。なんて素敵な光景だろう。
「遊び場ですかね?」
「何があるのかな」
美々子や奈々子も楽しめるものかもしれない。そう思い蔵に向かう夏油。
「君DIYも得意だったね。作れそうなら作ってよ」
「遊具ならホームセンターで買えばよろしいかと」
「はは、そうだったね。どれど……れ───」
蔵の中を覗き込み、固まる夏油。
「…………は?」
既視感。
座敷牢に入れられた幼い少女二人がお互いを守り合うように抱き合っている。その光景に、覚えがあった。
「夏油様、お食事の用意が出来たようです」
その光景を気にせず、呼びに来た使用人の言葉を伝える青年。
「………君は、これを見て……何も思わないのか?」
「? ああ………あなたに従う以上
「──────」
さる?
そう………猿だ。彼女は一般人レベルの呪力しかない。もう一人は、呪力量自体はそれなりにかあるが漏出している。
夏油傑の望む世界に必要のない存在。
座敷牢の中に血の付いた石が落ちてようと、生臭い布が落ちてようと、どんな目にあっていようと猿に生きる価値はないのだ。
あれは呪霊を生む猿だ。猿を甚振る
「私自身気分がいいものではありません………移動しましょう…………夏油様?」
「……あ、ああ…………」
すぐに動こうとしない夏油に、何処か期待を宿す目を向ける。チラチラと少女達を見るのは、夏油が彼女達を救ってくれるのではと期待して………口に出さないのは、夏油が非術師を殺すことが大儀だと彼等に言い聞かせたから。
「私共はあなたに従います」
当主が頭を下げ他の者たちも続く。交渉が得意とは知っていたが、この数の人間を説得しきるとは。
「………時に、蔵に飼っている猿どもは?」
「ああ………出来損ないですよ。あれを産んだ腹は処分しました。まあ、見てくれだけは良かったので後悔しましてね…………娘達を代わりに」
悪びれもなく、後ろ暗いことを指摘されたと感じない言葉。事実彼等からすれば術式も呪力も持たずに生まれた事が罪なのだ。何をしてもいいほど。そして夏油は非術師差別を掲げ非術師排斥を目的とした組織の長。隠し立てするようなことではない。
「いや、赤子のうちに殺さずにおいてよかった。これからもっと見てくれだけは良くなるでしょう。夏油様も使いますか?」
「…………私に猿を抱く趣味はないので」
「ははは。これは失礼」
「しかし、抱くにしては随分傷だらけでしたね………」
「子供達の仕業ですよ。見えるものが見えないというのが、気持ち悪いのでしょうな。■■■■■■(あの子達の未来にはそんな気持ち悪い猿がいなくなる)」
言葉にノイズが走る。確かに聞こえているのに、人の言葉に聞こえない。それは夏油が呪詛師へと落ちた事件でも体験した…………いや、違う。あの時とは違う。彼等は呪術師…………進化した人類。この世界に生きるべき………。
「■■(なんだ)!?」
悲鳴が聞こえた。
慌てて外に出ると………少女が少年の頭を踏み潰していた。
その背後には一級クラスの呪霊。
「…………呪力?」
「片割れが死んで、呪力が移ったようですね………いや、戻った? 双子の縁が切れると、そうなるのか」
呪力や術式が二人で分けられていた。それが今戻され、さらに片割れは死後に呪霊と化した。
「猿ではなくなりましたね。保護しても問題ないですか? それと、呪霊は生け捕りでしょうか?」
出て来た大人達を憎悪の瞳で睨む少女。その怒りに呼応するように呪霊も禍々しい呪力を放ち………動きを止める。
『黒縛術式』。
影を重ねた相手の動きを止める術式。影を伸ばすほどに縛る力は弱くなるが、発動中自らも動けないという縛りで強化された術式。
「■■■! ■■■■■■!?(私の息子を! よくも、あなた、よくも! この人でなし!?)」
殺された少年の母親であろう女が叫ぶ。人の言葉なのに、やはり動物の鳴き声のように聞こえてしまう。呪術師である筈のこの家の者達が、美々子や菜々子を虐げていた非術師と重なるから。
「■■! ■■■■!(殺してしまえ! そいつは頭がおかしい!!)」
やめろ。
黙れ。
重ねさせるな。呪術師と非術師は違うんだ。
何が違う? 呪いを生まない。そうだ、それが一番需要なはずなんだ。人間性なんてどうでもいい筈なんだ。
「…………………」
呪霊を球に変える。呪力量の差から口を動かすこともできない少女が夏油を睨む。ついさっきまでは猿だった、
「…………ウェ」
吐瀉物を吹いた雑巾のような吐き気を催す呪霊の味。何時もより更に不味く感じた。
「どうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったの」
あの家においておくことも出来ず、しかし夏油を憎み青年に世話を任せられた名前のない少女が尋ねる。
だって彼は優しかった。家に来るたびに、自分と姉の世話をしてくれた。
「どうしてあんな男に従ってるの」
今日は近づいてこなかった。明らかにあの男を意識して、こちらを意識しないようにしていた。
「君達が呪術師じゃなかったから…………あの人の部下でしかない俺が、助ける訳にはいかない」
「! 何が、呪術師! 人を呪えるのが、そんなに偉いのか!?」
「偉いよ………呪術師は呪霊を生まないからね。それがあの人の判断基準だ」
呪霊を生むから非術師は猿。呪力を操れ呪霊を生まないから呪術師は人。ここはそういう考えを持った組織らしい。
死ぬ瞬間に漸く家を呪った優しい姉は生きる価値がなくて、肥溜めみたいな糞の集まりであるあの家は生きるべき。非術師と呪術師………ただそれだけの違いで、善悪の区別なく。
「なにそれくだらない」
「そうでも思い込まないと、あの人は人を殺せないんだよ」
きっと本当は善人悪人、そこに呪術師も非術師もないと知っている。それでも非術師………猿が嫌い。だから、まずは善悪から目を逸らす。呪術師にも死ぬべき存在がいると思ってしまえば、何れ呪術師も猿に見えてしまうだろう。
「私にあいつが殺せる?」
「無理だね、術式がない。君はお姉さんのぶんの呪力も得て、呪力量だけなら一級術師にも匹敵するけど術式はお姉さんが持っていった………まあその分更に呪力が増しているけれど」
それでも夏油傑は特級術師。それこそ本当なら一級になれるほどの呪力を持って生まれるはずの人間が呪力を
あの家は、良くて二級程度の呪力量だろう。
呪力量が全てとは言わないが、等級の平均というものは存在する。
「…………術式は、どうやって手に入れられるの?」
「生得術式なんて呼ばれるぐらいだ。後天的に得るのは、普通は不可能………」
「普通は?」
「そう、普通ならね」
夏油君の心の声(悪人でも呪術師悪人でも呪術師悪人でも呪術師悪人でも呪術師善人でも
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