夏油君を曇らせたい外道くん 作:獄門彊
幹部達と教徒呪術師達の橋渡し役の青年が世話をすることになった寧々子と名付けられた少女。
彼女は美々子、菜々子からは嫌われている。寧々子が夏油傑が嫌いだからだ。でもランドセルを背負う姿は羨んでいる。
「必要かな? 猿の教育なんてこの子達に………」
「知識は役立ちますよ。旧人類を滅ぼしたところで既存の技術が残せなければ色々不便ですし」
手作りのコンピュータを作りながらそう返す青年。寧々子が来てから一年。誕生日プレゼントらしい………。
「寧々子だけずるい!」
「私達も!」
寧々子は嫌いだがそれはそれとして青年は嫌いではない、むしろ仕事がない時は遊んでくれるしお土産だって買ってくるし組み立て遊具を作ってくれる青年にはまぁまぁ懐いているミミナナが叫ぶ。
特に菜々子は術式的に現代の文明の利器を使用するので馴染み深いのだろう。
「映像優先と処理速度優先どっちがいい?」
「………何が違うの?」
「動画見るかゲームするか」
因みに寧々子はゲーム優先だ。京都を舞台にしたホラゲーをしている。呪霊も見えない人間が、よくもまあ思い付くと感心するほど不気味な妖怪がたくさんいる。
「動画!」
「そうか………」
残っているパソコンパーツを見る青年。作ってくれるのだろう。
「ちょっと部品を買いに出ます。ついでにシュークリームとかも」
「カスタード!」
「チョコ!」
「そうだな。非術師殺し尽くしたらもう食べられないし」
「え〜? 作ればいいじゃん!」
「市販の材料からは作れるけど、その材料を作るだけの知識が俺にはないよ」
そして、呪術師が農家になるなんてことはまずない。
「そのあたりも教育していくのかぁ」
「非術師の農業高校に通ってる野良の術式持ちを見つけられれば早いんですけどね」
「…………未来を安定して過ごさせるためには、猿の作った文化も必要かぁ」
「クレープとかなくなっちゃいますからね」
「え〜!? やだやだ、作って!」
「材料がある内は作れるよ」
おねだりしてくる少女達の頭を撫でながら夏油に尋ねる青年。
「まあ店の味には劣るけど。良かったら行くか? 夏油様………」
「…………仕方ないなぁ。夕飯を食べられないなんてことにならないようにね」
「かしこまりました」
「いい買い物をした」
「これで私達もパソコン使えるの?」
「組み立てるのに時間がかかる。まずは寧々子からだ」
寧々子と聞いてむっと顔を顰める美々子と菜々子。
「彼奴嫌い。夏油様を何時も睨むし無視する」
「まあ………夏油様が寧々子のお姉ちゃんが変じた呪霊を取っちゃったからね」
あのままでは間違いなくあの家を滅ぼすまで暴れていただろう。呪術師が呪霊に殺される………それは夏油として感化できない事だ。
「美々子や菜々子と似たような境遇なんだよ。仲良くしろとは言わないけど、喧嘩はしないであげてほしいな」
「似たような境遇って、猿に生まれた彼奴が悪いんじゃん」
「呪術師の家系に生まれたのに呪力を操れなかったとか──」
「おかしい? 石を投げられるほどに?」
「「─────」」
悲しそうな声に美々子と菜々子が言葉に詰まる。
見えないものが見えるのがおかしいと石を投げられ、殴られ、蹴られ、しかしそれらは正しいことにされた。でも………
「呪霊は、本当にいるもん………」
こちらは嘘をついていない。非術師は見えてないだけで、居ないと言い切る。それを強要する。嘘をつけと言ってくる。
「見えない彼等からすれば真実だからね。どうにか信じてほしいけどねえ」
「見えないものを信じたりしないよ、頭の悪い猿だもん」
「見えなくても、信じてくれる人は居るよ。寧々子には、見えずとも信じてくれる姉がいた」
その姉に呪力制御と術式を持っていかれたがゆえに、呪霊こそ見えるものの一般人より呪霊を生みやすい寧々子。術式も持たず、呪霊を生む………術師家系では差別の対象。
違うから差別し区別し侮蔑する。その理不尽を菜々子はよく知っている。
「…………菜々子、美々子は何処へ行った?」
「へ?」
「………あれ?」
人混みに飲まれた一瞬で、二人と逸れた。人通りが多く、二人を探せない………。
「猿ども………邪魔」
全員吊るしてやろうかと、呪力を練る美々子だったが、すぐにやめる。まだクレープ食べてない。騒ぎを起こせない。と………
「っ!」
「あ〜、いって!」
人がぶつかってきた。高校生ぐらいの男だ。連れもいる。
「これ折れたわ〜。前見てあるかねぇガキのせいだわ〜」
「…………………」
「こりゃお前の保護者に慰謝料を払ってもらわねえとなぁ」
「…………うるさい猿」
「ああ!?」
決めた。此奴等は吊るす。
と、術式を発動させようとする菜々子。その術式が実体化する前に、菜々子の前に人影が飛び込んできた。
「子供相手に何してんだ大人気無い!」
ジャージ姿の大人の女性。突然飛び込んてきた女に動揺する男達。
「見てたぞクソガキ共。自分からぶつかっといて更にガキから金とろうとは大したクソガキっぷりじゃねえか」
「っ! だ、だったらどうするってんだ!!」
大人に割って入ってこられ、しかし女と気づき叫ぶ男達。女は息を大きく吸う。
「おまわりさ〜ん!!」
「!?」
超確実な対応に男たちは逃げ出した。
「マッポが怖いくせにこんなところでカツアゲすんなっての。さて………大丈夫?」
「………っ」
目線を合わせるためにしゃがみ込む
「………なんで、助けたの。関係ないのに」
「私学校の先生だもん。子供を助けるのは当然!」
「………………」
優しい目を向けてくるのは、こちらもサルだと思っているからだ。術師と知れば、その目に恐怖を孕ませ排斥するに決まっている。
「怪我、ない? 迷子だよな? …………ええっと、交番は」
「…………………」
だけどこちらを心配してなんとかしてあげようとする姿は、嘗て喪った母によく似ていて………。
「美々子!」
「っ! 菜々子…………」
「お、お友達? 姉妹かな…………見つかってよかった。じゃあね」
「菜々子が学校に興味を持った」
「そうですか……」
「私もあの後君の言葉に未来を見てなかったことを反省してね、兼業している術師とか探してみたんだよ。意外と居たね」
そのうち一人は昔戦ったことがある元呪詛師の米農家らしい。
「そんな彼等に聞いて回った。現段階で猿どもを殺し尽くしたとして、産業を回せるかと…………結論としては、無理だってさ」
仮に収穫できたとしても、加工する者達も必要となる。そういった場所に勤務する術師もなんとか見つけ、今度は機械整備を行う術師が見つからない。
「私達の生活を江戸時代レベルに落とせばあるいはってところかなぁ。流石に家族に不便な生活を強いたくはないよ」
それに、現代人の肥えた舌で質の悪い料理など味わうのは苦痛だろう。
「では?」
「全滅させるのを少しだけ待ってやろう。そういった作業用の家畜として飼う猿と、猿の遺す技術を取り入れる為の教育係用の猿を残そう。繁殖は許さない、緩やかに減って行ってもらう………ま、役に立ったなら晩年は穏やかに過ごさせてやろうじゃないか」
人間がペットの最期を看取るようなもの、という意味だろう。
「では学校はこちらに」
「…………もう決めてるんだね」
「前々から少しだけ興味があったようなので…………担任教師も選別済みです。人柄的に、
仕事が出来すぎて気持ち悪いな。助かるけど………
さてはて、菜々子は学校であの時の教師と再開を果たした。
青年が念入りに調べただけはあり、本当に良く出来た人間だった。学校に住み着く呪霊を菜々子が怖がり、他の教師や生徒が取り合わない中その教師だけは目を瞑らせ手を繋ぎ通り過ぎるまで引いてくれる。
本人曰く「幽霊のたぐいは信じてない。それでも子供が怖がっていることは無視できない」だ…………。
菜々子は思う。こんな人が、あの村に一人でもいてくれたらと。
美々子はやっぱり猿は嫌い。菜々子も嫌いだ。でも、夏油が未来のために数匹は残すと言っていた。彼女は残してもいい気がする。
叱る時にはちゃんと叱り、褒める時はちゃんと褒める。そこに理不尽はない。菜々子は、例え猿でもあの先生が好きだ…………
「うんうん。やっぱり入念に人柄を調べた甲斐があった」
小学校の屋上で、道長は笑う。死に直面した人間の反応はそれなりの付き合いがないと読み取れないが、それ以外ならどういう人間がどういう行動をするかはよく解る。そして、菜々子が懐くであろう非術師がどんな存在であるかも………
「美々子でも良かったが、菜々子の術式の方がわかりやすいからな」
この後のことを考えれば理解しやすいほうがあっている。
「さて、と………お、あったあった」
己の影に手をツッコミ、取り出したのは札をびっしりと張られた瓶。
『ああそそぼぼぼぼ』
蓋を開き、現れたのは二本の角を持った呪霊。術式を持った準一級呪霊。
「増え鬼でいけ」
『ともともだち、ともだちよぶぶぶ!!』
呪霊の生得領域が顕現する。
領域を開くことを前提とした術式故に、本来の領域権限とは別物。呪霊自身にも縛りが多い。
「やり方次第では菜々子でも倒せる。せいぜい、先生と一緒に頑張るんだな」