横島が登校すると一誠が騒いでいた。何を騒いでいるのか、周囲のクラスメイトに尋ねると、彼女が出来たとか、彼女のことを誰も覚えていないとか意味の分からないことを言っているとのことであった。
「きっと夢でも見たのよ」
「お、藍華ちゃん」
「ちゃん付けはやめて」
横島がクラスメイトから話を聞いていると、藍華がやってくる。彼女も一誠の言葉を戯言と切り捨てているようで、一誠のことを冷たい目で見ている。
そんな彼女に横島は腕組みをしながら重い口調で、言葉を紡ぐ。
「いや、もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「化かされたのかもしれんぞ?」
「はぁ? あと、その格好似合わない」
大体、何に化かされたというのだと思うと同時に、何か知っているのかも知れないと感じる藍華。そんな藍華に構わず、横島は一誠のところへと歩いていく。
「よぉ、一誠!」
「あ、兄貴! 聞いてくださいよ! イッセーのやつが」
「だから、夕麻ちゃんは確かに居たんだよ! デートもしたし、彼女と公園で別れたこともはっきりと覚えている!」
「イッセー……」
その一誠の言葉に、元浜らと一緒に騒いでいたクラスメイトたちが急に同情した声をあげる。その反応に一誠が戸惑っていると、代表として横島が口を開く。
「お前、夢でも振られ」
「違う! 別れたってのは、サヨナラしたってことで!」
「やっぱり……」
「うおぉー! どう説明したらいいんだー!!」
頭を抱える一誠。その内、教師がやって来て淡々と進めていくのであった。
休み時間の度にからかわれ続けていた一誠は、昼休みになるなり横島と松田、元浜の三人を連れて人気のない場所で昼食をとっていた。
「ったく、皆してオレを可哀相なものを見る目で見やがって」
「まぁ、実際夢の話をされてもなぁ」
「だから、夢じゃないって。ちゃんと、写真とアドレスも携帯に……えっ?」
携帯を操作していた一誠の手がとまる。
「……ない? オレが消した? まさか……」
「そりゃ、ないだろうよ。夢なんだから」
その言葉に、青い顔になる一誠。一誠としても、昨日体験したことは夢のような出来事だったことは確かだが、現実として認識している。それなのに、これでは本当に夢を見ていたようではないか。今、自分が立っている場所が現実なのかどうかも定かではない。そんな感覚に一誠は陥っていた。
そんな一誠に、横島がスッと近寄ると一誠にだけ聞こえるような声で囁く。
「放課後。迎えが来る」
その言葉に横島の顔を見ると、横島は何もなかったかのように元浜が持ってきていた雑誌で盛り上がっていた。
それから問題の放課後になるまで上の空状態であった一誠だったが、放課後になると横島の言う迎えが現れるのを待った。本当は横島に問い詰めたかったのだが、横島が早退した為にそれは出来なかった。
落ち着きがない一誠の様子に、クラスメイトの視線が集中するがそれにも一誠は気がついていない。そんな時、ドアから一人の生徒が入ってくる。彼は女生徒の視線を一身に浴びながら、一誠に向かって歩いていくと、彼の目の前で手を差し出す。
「兵藤一誠君だよね? 迎えに来たよ」
事態を飲み込めない一誠に、彼――木場祐斗――は、一つウインクをすると口の動きで”横島忠夫”と告げるのであった
「木場が横島の言ってた迎えなのか?」
あの後、クラスであがった驚きの声(一部歓声)に驚く一誠を強引に立ち上がらせ、祐斗は一誠を先導していた。道中、様々な声が聞こえてきていたが全て無視する祐斗の背中に、質問すら出来ず流されるままであった一誠は、旧校舎に入り人目がなくなったことでようやく口を開いたのであった。
「そうだね。忠夫さんに言われて迎えに来たよ。本当は忠夫さんが連れてきても良かったんだけど、キミと早く話をしたくてね。ボクに譲ってくれるよう頼んだんだ」
「話をしたかった? どういうことだ?」
「それは時期に分かるよ。さぁ、ここだ」
「”オカルト研究部”?」
一誠の目の前にはオカルト研究部という文字が。旧校舎で活動している部活があることを知らなかった一誠は、全く事態についていけない。そんな一誠を無視して祐斗はドアを開ける。
目に飛び込んできた燭台に異様な雰囲気を感じていた一誠であったが、ソファーに腰掛ける少女を見つけると、途端に目を輝かせる。
「ああ、彼女は一年生の塔城白音さん。こちら、兵藤一誠君」
「どうも」
一誠を一瞥した白音は、彼らの他に人がいないことを確認すると少し肩を落とし、再び羊羹にかじりつく。そんな無愛想な態度に怒る所か、興奮している様子の一誠。そこに、更に一誠を興奮させる出来事が。部屋の奥から水が流れる音。誰かがシャワーを浴びている。それを瞬時に悟った一誠は、その方向を凝視する。シャワーカーテンが厚いのか、影さえも見えないが一誠の勘が女性だと判断する。
「部長、これを」
シャワーを浴びていると思われる女性の他に、もう一人いる。一誠がそれに集中していると、微かに衣擦れの音が聞こえてくる。どうやら、着替えているようだと一誠が、その様子を想像するが、誰か分からない状態ではイマイチイメージが固まらないようで苦悶の表情を浮かべている。そうしている内に、女性がカーテンをあけて出てくる。
「リ、リアス=グレモリー先輩! それに姫島朱乃先輩まで!」
我が高の二大お姉さまが何故ここにと呆然と呟く一誠に、リアスと朱乃は微笑むと自己紹介を始める。
「初めまして、姫島朱乃と申します。以後、お見知りおきを」
「リアス=グレモリーよ」
「横島忠夫だ!」
「いや、横島は知ってる……って、何時の間に!」
背後から聞こえた声に一誠が驚いて振り向くと、何時の間に来たのか白音を膝に乗せて羊羹を摘んでいる横島がいた。
「粗茶です」
「あっ、どうも」
ソファーに座る朱乃が淹れたお茶を手に、彼女が横島の横に座るのを目で追いかける一誠。一誠の横には、木場が座り、横島の横にはリアス。膝上の白音も含め、羨ましい状況についに一誠の感情が爆発する。
「何で、横島が学園二大お姉さまと仲良さそうにしてんだ! っていうか、何で一年のマスコット――通称”小猫ちゃん”を膝に乗せてんだよっ!」
「何でだろうな?」
「忠夫さんの膝が居心地いいのがいけません」
「だそうよ?」
首を傾げる横島に、淡々と理由になっていない理由を語る白音。リアスの言葉もダメージになっているようで、一誠は胸を押さえている。
「オレの横はいけ好かないイケメンだってのに……」
呪詛を吐くように呟く一誠。今すぐ横島をどうにかしたい一誠であったが、先に目的を果たそうと横島に鋭い視線を向ける。
「横島。お前、夕麻ちゃんのこと覚えてるんだな?」
「ああ。ま、そのことを話す前にリアスちゃんからお前に話があるんだ」
「先輩から? っていうか、先輩をリアスちゃんって呼ぶな!」
「いいのよ。それで、話だけど……兵藤一誠君」
「は、はい」
リアスの真面目な声に、緊張した返事をする一誠。そんな一誠に、リアスは本題を告げるのであった。
「あなた、悪魔にならない?」
原作とは違う点がありますが、流れは一緒でしたね? ね?
本編とは関係ないですが、”落ち着きがない”を誤字って、”お乳付きがない”ってなったときはびっくりしました。
関連活動報告は【HY】と記載します。
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