アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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アドマイヤ姉妹のヒミツ①
・実は、常にお互いにお互いのことを気遣っているが、恋愛関連においてのみ『それとこれとは別』となる。




ベガとリラに挟まれるトレーナー【前編】

 

 

「……トレーナー。ちょっといいかしら?」

 

「ん、アヤベさん? どうしたの?」

 

「……これ。蹄鉄とシューズがダメになってきたのだけれど」

 

「どれどれ……うわーホントだ。これは買い換えなきゃだね……」

 

「そう。……だから今週の土曜日、新しいシューズと蹄鉄を買いに行くのに付き合ってもらってもいいかしら?」

 

「土曜日……え、休みの日だけどいいの? アヤベさんさえ良ければ、別に平日の放課後にササッと買いに行くのでも……」

 

「別にいいから」

 

「アッハイ」

 

「……じゃあ、今週の土曜日。朝……十時ぐらいにトレセンの校門前で」

 

「りょ、了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさんっ! だーれだっ♪」

 

「うわっ!? ……びっくりした。そんなことしてくるのはアヤリしかいないよね」

 

「せーかいっ! えへへっ、さっすが私とお姉ちゃんのトレーナーさん!」

 

「前も言ったけどさ、あんまり公共の場でそういうことするのやめてって……」

 

「わかってないなぁ公共の場だからやるんじゃん♪っと、それよりもだよトレーナーさん!」

 

「なに?」

 

「今週のお休みの日って、ヒマ?」

 

「……まぁ、暇と言えば暇だね」

 

「じゃあさじゃあさっ! 私とお出掛けしないっ!? 実はトレセンの近くに、最近新しいゲームセンターが建ったみたいでねっ、私行ってみたいと思ってたんだー!」

 

「ゲームセンターって……また急だねぇ……」

 

「いーじゃん! ……それにこないだのレース負けちゃったの、私まだ落ち込んでるからね?え ーん、辛いよぉ……このままじゃ二ヶ月ほど連続でやる気が絶不調になっちゃうよぉ……担当のメンタルケアはトレーナーの仕事なのにぃ……」

 

「はぁ……まぁ、気分転換自体は大事だし賛成だよ。……ただ、それ僕と行って楽しいの?普通にアヤベさんか知り合いと行った方が……」

 

「もー! トレーナーさんわかってないなぁー! こういう時は素直に『うん』って頷いとくものなんだよー!?」

 

「いや、知らないけど……」

 

「はい決定ね決定! もう嫌って言っても聞かないから! じゃあ、土曜日の朝十時ぐらいに、トレセンの校門前でー!」

 

「……えっトレセン!? 土曜日!? ちょっと待ってその日は……!」

 

「それじゃっ、あでゅー♪」

 

「ちょ、待ってアドマイヤリラっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……行っちゃった」

 

 

 

「どうしよう……姉妹で予定がブッキングしちゃったんだけど……」

 

 

 

「どちらかキャンセルしようか……? いやでももう金曜日だし……。二人とも出掛けるつもりで予定組んでるだろうから、今からドタキャンしたら困るよな……」

 

 

 

「アヤベさんの方はレース用品の買い換えだから絶対大事……。かといってアヤリの方も、すっぽかしたらどんなこと言われるか……練習にも絶対影響でるだろうし……。えぇどうしようこれ……」

 

 

 

「うーん……」

 

 

 

 

「……あっ。そうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆で出掛ければいいじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜虎相搏つ、という言葉がある。

 竜と虎との戦いのような、力量に差のない強豪同士が激しく争うことをたとえた諺である。創作物などで表現されることも多いので有名な言葉であろう。

 ちなみに、この言葉について誰もが一度は「なぜ『竜』に対応する動物が『虎』なのだ?竜と比べて弱すぎないか?」と思ったことがあるのではないだろうか?

 ちょっとした豆知識になるが、実はこの言葉が生まれた当時は『虎』という生き物は今よりも遥かに神格化されており、『竜』と同格の存在とされていたらしい。あまりピンと来ないなら、竜と虎をそれぞれ幻獣の『青龍』、『白虎』に置き換えるとわかりやすいかもしれない。

 が、今は虎が割とメジャーな生き物になっており、それどころか『獅子』の格下的存在になってしまっている。故に現代人は少し違和感を覚えてしまうのだろう。

 

 まぁともかく。

 拮抗した高位の実力者同士である竜と虎。そんな二匹が夢の対戦を行うのだから、そりゃあ周りの者はワクワクするし囃し立てたくもなるだろう。

 

 そして、ある意味今のトレーナーが置かれている状況も、この諺を当て嵌めてよい状況かもしれない。

 一人のトレーナーを同じ顔をした二人のウマ娘が牽制し合いながら囲んでいるという絵面は、たぶん見る人によっては非常にワクワクできる一幕だろう。

 

 

「…………」

 

 

 もっとも、当人のトレーナーだけはその対決の震源地に位置しており、いつ嵐に体を引き裂かれてもおかしくないので欠片もワクワクできないのだが。

 

 

「……どうして、リラがここにいるのかしら? 今日、あなたは遊びに行くって聞いていたのだけれど」

 

 

 土曜日、トレセン学園校門前、午前九時四十三分。

 先に口を開いたのは、竜虎相搏つの竜側である、九時四十分に一足早く校門へ来ていたアドマイヤベガだった。

 いつもの青っぽいケーブルニットの上で腕を組んでいる。暖かそうな服装だが、その瞳に湛えている光はえらく冷たい。

 

 

「んー? 私はそこのトレーナーさんとお出掛けするからだけど?お姉ちゃんこそ、今日はトレーニング用品を買いに行くって聞いてたんだけどなー? ……一人で」

 

 

 そのような視線に刺されながらも、虎側であるもう一人のウマ娘にして、アドマイヤベガの妹であるアドマイヤリラはケロっとして答えていた。

 ……おかしい。表情はいつものにぱっとした笑みなのに、何故今はその笑みに何とも言えない底知れなさを感じるのだろう。

 

 ……四十分に姉、そして四十三分に妹が来てから、場の空気はずっとこんな感じである。

 どうしてこうなってしまったのか。正直早くも帰りたいとトレーナーは思いかけていた。お互いの発している圧で潰されそうである。

 

 

「えーっと二人とも……一旦落ち着いて……」

 

『そもそもなんであなた(トレーナーさん)はリラ(お姉ちゃん)も呼んだの?』

 

「ひぃっ」

 

 

 仲裁しようと声を上げた瞬間、姉妹の目が一斉にトレーナーの方を向いた。……もしも視線に斬撃属性があったなら、彼の体は今頃ズタズタになっていただろう。

 本当に、どうしてこうなってしまったのか……。

 

 竜と蛇に睨まれながらまな板の上に乗せられたような気分である。

 普段より二回りも縮こまりながら、トレーナーはここに至るまでの自分の結論を話すことになった。

 

 

「───というわけで、皆で出掛ければいいじゃんと思ったんだけど……ダメだったかな?」

 

「良いわけないでしょ」

 

「むしろダメじゃない部分が見当たらないんだけど?」

 

「ひぃぃっ」

 

 

 いつになく息の合った───合っているのか?───姉妹から連続攻撃を喰らう。

 ……この姉妹にとっても、二人で出掛けられるからハッピーなのではないかとトレーナーは睨んでいたのだか……どうやらとんでもない間違いをしてしまったようである……。

 叶うならば今すぐ消え去りたい……。

 

 

「……まったくお姉ちゃんめ。油断も隙もあったもんじゃないよ……こういう自然なところで知らない間に、細かくコツコツとトレーナーさんの好感度を稼いでいくんだから……! 最近のお姉ちゃんがちょっと鼻唄歌ってたりなんとなく上機嫌になってる時点で気づくべきだった……!」

 

「……相変わらず、リラは侮れないわね。いきなりゲームセンターに行こうとするなんて……危うく一気に離される所だった……。そう考えると、今日かち合ったのはある意味幸運だったかも……あのリラが珍しく早起きした時点でおかしいとは思ってたけど……」

 

 

 トレーナーが密かに落ち込んでいる時にもボソボソと話すアドマイヤ姉妹。……話しながらもお互いの顔を全く見ていないあたり、どうやらお互いに独り言のつもりのようだ。

 その様を見ていると、トレーナーは顔にかかる青線をますます濃くして落ち込んでしまった。

 

「……ごめん。なんか、僕がやらかしちゃったみたいで。アレなら、今日のお出掛けは中止にして、ちょっと出直そうか……」

 

『え?』

 

 重ねて言うが、今回のトレーナーの行動は、元は自分だけといるよりも姉妹もセットで出掛けた方が二人も楽しいだろうと思っての、あくまでも善意による行動である。

 なのに、(行動自体の是非はともかくとして)さっきから二人ともが全く真っ当な意味で笑ってくれない。となれば、そりゃトレーナーもこんな結論に至るであろう。

 

 ……すると、

 

 

「いえ……まぁ、別にいいわよ。どのみちシューズや蹄鉄は買いに行かないといけないんだし。中止にするほどではないわ」

 

「……そーそー! 私も今すぐほしいってわけじゃないけど、蹄鉄の予備とかはいくらあってもいいもんだし!ゲームセンターのついでにはちょうど良いよ♪」

 

 

 なぜかその瞬間、さっきまであれほど牽制し合ってるように見えた姉妹は、すっかりいつもの調子に戻っていた。

 アヤベはアヤリに「ねぇ?」と顔を向けアヤリも「うん!」と頷いている。今にも肩を組んでダンスでも踊り出しそうな勢いだった。

 

「……え? え? 結局良いの?」

 

 あっという間に場の空気が180度変わりトレーナーは混乱する。さっきから一つとして彼の意図通りに物事が進んでいない。

 だが現実は知ったことかとばかりに時間を進めていく。

 

「良いってば! さっ、まずはこっから近いし、お姉ちゃんの目的地のウマ娘用品店から行きましょー!」

 

「……その後はリラが言ってたゲームセンターね。……まぁ、あまりお金は使いすぎないように」

 

「わ、わかったから! わかったからアヤリっ、押さないでっ!」

 

 ぐいぐいと背中を押してくるアヤリに叫ぶ。相手がウマ娘なため、さながらブルドーザーに押されているような感覚だったのだ。

 

 

「……あ、そうだ」

 

 

 ───かと思いきや、次の瞬間に背中からブルドーザーが離れた。そのせいで「うわっ」と踏ん張っていたトレーナーの体がガクンと揺れる。

 ……本当に、さっきから踏んだり蹴ったりである。

 

 

「もうっ……なんなのさアヤリ……」

 

「……トレーナーさんさっ、今日の私…………。……私たちを見てさ、なにか言うことない?」

 

 

 ……心なしか、『私たち』と言ったときのアヤリはどこか不満そうだったが……とにかくそう言うと、アヤリはその場でくるりと一回転して見せた。

 

 

「言うことって……」

 

 

 並んだアドマイヤベガとアドマイヤリラを見つめる。

 ……今さらだが、アヤベがそうであった以上当然なのだがアヤリの方も今日は私服であった。それだけでなく、顔にはほんのりとだが化粧をしているようである。

 何気に初めて見る彼女の私服は、姉とは正反対の派手なもの───かと思いきや、意外にも姉と同じシンプルな系統の服だった。

 

 イメージ的に一番近いのはネオユニヴァースの私服だろうか?

 

(さすがにふわふわしてる物ではなさそうだが)彼女は特に奇抜なファッションをしているわけではなく、どこにでも売っていそうな落ち着いたデザインの白色の服を着ていた。

 だがアヤベと違う点はあり、アヤベはその下に紺色のジーンズを合わせているのだが、アヤリの方は水色のスカートを履いていた。

 そのスカートは、先程から彼女の動きに一拍遅れて膝のあたりでヒラヒラと揺れている。

 

 ……普段の彼女の振る舞いからは想像もできないほど、清楚で落ち着いた服装。

 

 一見ミスマッチと思えるかもしれないが……それは中々どうして、魅力的に映るものだった。

 

 ……というか───これは姉のアドマイヤベガにも言えるのだが───なまじ服装がシンプルな分、素材の良さがより際立つ形になっているのだ。

 

 つまりこれを言葉にするなら……。

 

 

 トレーナーは少し躊躇いながらも、今回の失敗を取り戻す分だと割り切り、その言葉を発した。

 

 

「えーっと……その……いつもより綺麗だし、似合ってると思うよ。二人とも」

 

 

 トレーナーの言葉に、姉妹は揃って耳と尻尾を動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉ちゃん、わかってるよね?」

 

「……わかってるわよ」

 

 

 何はともあれ空気が元に戻り、いざ三人で歩き出そうとした時。

 トレーナーの後ろで、アヤベとアヤリの姉妹は彼から見えないように短く小さく言葉を交わしていた。

 

 

「私たちがあまりにギスギスしすぎると、トレーナーさん落ち込んじゃうみたいだよ」

 

「……もしそうなると、このお出掛けも中止になる可能性が高いわね」

 

 

 アドマイヤベガはチラリとトレーナーの背中へ目を向けた。

 

 

「……それは、私たち二人のどちらにとってもマイナスだわ」

 

「じゃあ、私たちがギスギスすること、及びそれを引き起こしかねない競争はご法度、てことだね……」

 

「……そうなるわね」

 

「じゃあさお姉ちゃん、今より『抜け駆け禁止条約』を締結しようか」

 

 

 ピッ、と指を立てるアヤリにアヤベは首をかしげる。

 

 

「抜け駆け禁止条約?」

 

「そ! ……今日だけは、私とお姉ちゃんは同じ位置、対等、平等。そして、トレーナーさんは私たちの共有財産にすること、て条約だよ♪」

 

「……わかったわ」

 

「よしっ!」

 

 

 妹が提案し、姉が承諾する。

 その証として、姉妹は短く握手をし笑い合った。

 

 なんとなく、シャッターが切られた音がしたような気がする。

 

 

 今ここに、お出掛けを安全に進行させるための、今日限りの姉妹の修好条約が結ばれた。

 

 

 

 

 ……まぁ、もっともそれは。

 

 

 

 

 

「あれ? 二人ともなにしてるの?」

 

「……いいえ。なにもしてないわよ」

 

「なんもないよ! ほら早く行こっトレーナーさん♪」

 

「うわっとと……! だから押さないでって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さーて。あの条約で、一応お姉ちゃんへの牽制はできたかな?あとは、いかにお姉ちゃんを出し抜くか……)

 

(……リラがあんな条約を素直に守るわけがない。今日は常に気を付ける必要があるわね。……悪いけど、ここに関してだけはあの娘の好きにさせるわけにはいかないから……)

 

 

 

 

 机の下でお互いに銃を突きつけ合ってるが如し脆く儚い条約だったのだが。

 

 

 

 






アドマイヤリラのヒミツ⑥
・実は、幼い頃から姉と同じ服を欲しがる傾向が強かったため、自然に服の好みも姉と同じようなものになっていった。

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