アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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ベガとリラに挟まれるトレーナー【後編】

 

 空を見上げると、雲一つない空があった。

 昼前というのもあるが、太陽は暑くない程度に日光を発射し、適度に風も吹いている。

 昨日の天気予報でも言っていたような気がするが、今日は絶好のお出掛け日和だ。

 こんな日にのどかに出掛けられたらきっと気持ち良いだろう。

 

 

 ……そう。気持ち良い、はず、なの、だが……。

 

 

「───それでね、なんとその時オペラオーちゃんの腕にブラックファイアが撃ち込まれて」

 

「えぇ……それ大丈夫だったの?」

 

「いやーかなり危なかったよ~」

 

 今回のお出掛けの発起人の一人である、隣で歩くアドマイヤリラことアヤリの話に、トレーナーは相槌を打っていた。その反対には、発起人の二人目であるアヤリの姉のアドマイヤベガことアヤベさんも無言で歩いている。

 

 今の彼らの立ち位置は、トレーナーから見て左側にアドマイヤベガ、右側にアドマイヤリラがいる状態……歩道側にいるアヤベと車道側にいるアヤリにトレーナーは挟まれている状態である。

 

 まさに両手に花。二人のアヤベさんによるサンドイッチ。

 おそらく端から見ればウラヤマシイことこの上ない光景だろう。というか実際にすれ違う男性から時々殺意のこもった目を向けられる。

 

 ……が、それだけ恵まれた空間にいながら、何故かトレーナーは頬に冷や汗を流していた。

 というのも───

 

 

「もうドトウちゃんと協力して急いで消化してさぁ……もし救助があと二秒遅ければ、オペラオーちゃんの腕の関節が一本持ってかれてたかもしれないねぇ」

 

「壮絶だったねぇ……」

 

「……トレーナー」

 

「ん?アヤベさん?どうしたの?」

 

「……この間、トップロードさんから併走のお願いをされたのだけれど」

 

「あ、いいんじゃないそれ?むしろこっちから頼みたいぐらいだし」

 

「……えぇ。お互いにとって実のある練習になると思うわ」

 

「じゃあさっそくトプロTにも連絡取っといて……」

 

「むー……。ねぇねぇトレーナーさんっ!」

 

「はいはいアヤリ……どうしたの急に」

 

「それでねそれでねっ!あの話の続きなんだけどっ!なんとブラックファイアを消化しきった私たちの前に、今度はエアグルーヴさんがやってきてねっ」

 

「えぇ……生徒会まで巻き込むの……」

 

「……トレーナー。前から人が歩いてきてるから、ぶつからないように」

 

「えっアヤベさん?……うわっホントだ危なっ、すいません……。……ありがとうねアヤベさん」

 

「……別に。お話に夢中になるのはいいけど、ちゃんと周りも見ておくように」

 

「面目ない……」

 

「ねぇトレーナーさんったら!」

 

「ちょっと二人とも一度待ってもらっていいかな!?」

 

 

 そう。さっきからずっとこんな感じなのである。

 久しぶりのお出掛けでテンションが上がってるからかもしれないが、アヤベもアヤリもいつもに比べると頻繁にトレーナーに話しかけてくるのだ。

 会話が絶えない集まり、と言えば聞こえはいいが……なんというかこれは、『話したいことが色々ありすぎる』みたいな感じのものではない。なんだかまるで、『会話の主導権の奪い合い』みたいになってるというか……。

 

 しかも……単なる偶然と思いたいが、さっきから『三人で共有できる話題』が一切出てこない。必ずアヤベとトレーナー、もしくはアヤリとトレーナーの二人だけで話すという形で会話が行われている。そのせいでインスタント聖徳太子にでもなったような気分だ。

 

(なんで……?もしかして、二人とも喧嘩してたりする?)

 

 また胃がズキズキと痛んできた。

 トレセンで待ち合わせてから今に至るまで、姉妹間での会話が一切行われていない。これも単なる偶然なのか……というか偶然だと思いたいのだが……それでも不自然である。

 あまりに気になったのでさっきそれとなく聞いてみたのだが、その瞬間に

 

『いやそんなことないけど?』

 

 と何故か姉妹でハモって言われた。そしてその直後に『ねぇ?』『ねー♪』と姉妹で頷き合っていたのだが……どことなく動きが固かったような気がする。

 

(い、一体、何が起きてるんだ……?)

 

 考えているのだがトレーナーにはさっぱりわからない。わからないから楽しめるはずもない。

 というわけで先程から、両手に花というよりかは両手に不発弾を持たされているような気分でお出掛けをしているのだ。

 

 

(なにがどうなってこうなってしまったんだ……?僕が何か悪いことをしてしまったのか……?)

 

 

 そんな風に頭を悩ませていたからだろうか。

 

 先程から顎に手を当てて後ろを振り返っていたアヤリの目で、不意に手裏剣が光ったのをトレーナーは見逃していた。

 

 

「おおっとぉっ、後ろから車が来たぁ!これは私があぶなぁぁいっ!!」

 

 

 そう叫んだかと思うと、次の瞬間アヤリはのし掛かるようにトレーナーの腕に抱きついてきた。

 

 

「ぬおおっ!?」

 

「っ!?」

 

 

 突然の重量を支えきれずトレーナーは横方向に態勢を崩す。それに伴って、アドマイヤベガも更に歩道側へ押された。結果的にカーブを曲がるときの車の後部座席のように、全員が歩道の端に押し込められる形になってしまった。

 

 ……そして数秒後、彼らの横をチャリンチャリーン、と音を立てて何かが通りすぎていった。

 ……車などではない。ただの自転車だった。

 

 

「……ねぇアヤリ。車じゃなかったんだけど」

 

「あれぇ?いやーごめんねトレーナーさん!私としたことが、どうやら車のエンジン音と自転車のエンジン音を間違えてしまったようですっ!」

 

 

 目を細めるトレーナーにアヤリは後頭部に手を当ててにぱっと笑う。笑い事じゃないのだが。

 

 

「どんな間違いなのそれ……ていうか、そもそも自転車にエンジンは無いし……」

 

「もー細かいなぁトレーナーさん!私が車だか自転車だかに轢かれても良かったの?」

 

「いやそれは良いわけないけどさ……」

 

「そんなことになったらどうすんのさ!?私もうトレーナーさんのために稼いで来れなくなっちゃうよ!?」

 

「言い方」

 

 

 ……まぁ、アヤリは普段からイタズラ好きだし、これもその一環だろう。

 そう結論付けてトレーナーたちは態勢を元に戻し、再び歩こうとしたのだが……だが……。

 何故かアヤリはトレーナーの腕から離れようとしなかった。

 

 

「……あの、アヤリ。車はもう通りすぎたからさ、そろそろ離れてくれないかな?」

 

「えー?でもまたいつ車が来るかわかんないしなぁ……」

 

「目を逸らしながら言わないでよ……。とりあえず今は来てないからさ……早く離れてくれないかな?」

 

「なんでよー?」

 

「なんでって……」

 

 

 ぷくぅ、と頬を膨らませるアヤリから今度はトレーナーが目を逸らす。

 

 ……周知の事実かとは思うが、アドマイヤベガとアドマイヤリラは、顔や身長などがほとんど同じである(体重は妹の方が微増だが)。

 そしてもちろん……スタイルもほぼ同じなわけで。

 

 普段姉のアドマイヤベガの方と接するときは、彼女があまりトレーナーとベタベタしない性格というのもあってあまり意識することはないのだが(いや意識するけど)、全体的に距離の近いアドマイヤリラと接しているときは……。

 ましてや今は彼女に腕に抱きつかれている状態である。……つまり、今のトレーナーの腕にはあの白い服越しにアドマイヤリラの、アドマイヤベガと同じサイズの───

 

 

「とっ、とにかく離れてって!」

 

 

 学生時代にモテたことがなく、ほぼ女性への免疫がゼロのトレーナーはそう叫んでアヤリを振り払おうとする。だがアヤリは「もうー。何が不満なのよー。ちゃんと言ってよー」とかぶーたれて依然としてコアラみたいに腕にしがみついている。

 果たして今の状況をわかってやっているのかわからずやっているのか……小悪魔のような瞳からはトレーナーは判断できなかった。

 そして、そんなアヤリのウマ耳が後方からの新たな音を捉える。小悪魔の瞳に今度は豆電球を光らせると、再びアヤリは足に力を込めた。

 

 

「おおっとぉ!また車が来たよ───」

 

「トレーナー、車が来てるわ」

 

「っえ、ぐええええっ!?」

 

 

 だが、アヤリが何か言う前に、今度は反対方向から襟を引っ張られた。アドマイヤベガだった。

 ショベルカーに引っ張られたような力でトレーナーの首が締まる。だがそのお陰で本来アヤリに押されて動く分だった距離が一気に縮まる。

 

「うわっ!?」

 

 さっきと同じようにトレーナーにのし掛かるはずだったアヤリも態勢を崩す。そのまま数秒前の再現映像のように、三人はまた歩道の端に寄った(態勢はさっきより楽だが)。

 

 

 ……そして───別にここまで同じにしなくてもいいのだが、数秒後に通りすぎたのはやはり自転車だった。

 

 

「……ごめんなさい。私も、車と自転車のエンジン音を聞き間違えたみたいだわ」

 

 

 トレーナーの襟を掴んだまま、アドマイヤベガはシレっと言っていた。

 

「えぇ……。あ、アヤベさんまでその聞き間違い方するの……?最近流行ってんの……?」

 

「流行ってるみたいよ」

 

「流行ってるんだ……」

 

「……それから」

 

 本気で困惑してきたトレーナーの返答を無視して、アヤベはアヤリの方へ目を向けた。

 

「リラも。そろそろトレーナーの腕から離れなさい」

 

「えぇ!?いやー、で、でも、私車怖いし……」

 

「だからってそうやって歩くと、トレーナーさんも歩きづらくなるでしょ。それとも……そんなに怖いなら、私と歩く位置を交代する?」

 

「うっ」

 

 喉を詰まらせるアドマイヤリラ。

 位置を交代する。それはつまり、この色々な意味で美味しい立ち位置を姉のアヤベに取られるということ。それを理解したのだろう。

 渋々ながら彼女は腕を離した。ようやく腕から柔らかいモノが離れトレーナーはホッとする。

 

「……わかったよ、お姉ちゃん……」

 

「ん。わかればいいのよリラ」

 

「あのー……それだったらいっそ、僕が一番車道側に行こうか?」

 

『トレーナーさんは真ん中で良いから』

 

「アッハイ」

 

 トレーナーの挙げた妥協案は一瞬で却下された。

 そうやって一先ず話がまとまると、三人は先ほどまでと同じ並び方のままで歩いていく。

 

 

 一応、水面上は平和に戻った三人。

 しかし水面下では、

 

 

 

 

 

 

 

(……中々やるなぁお姉ちゃん。私の戦略を的確に潰してくるなんて……。なんとか早いとこリードして一気に千切らないとねぇ……)

 

 

 

 アドマイヤリラは早急に次の手を考えていた。

 

 

 

 

(……さすがリラね。自分のキャラを存分に活かしてくる。油断してられる余裕がない……)

 

 

 

 アドマイヤベガは妹の恐ろしさを再認識していた。

 

 

 

 

 

 

(し、心臓がっ、しんっ……心臓と首と腕があらゆる意味で持たないっ……!)

 

 

 トレーナーは心身共に戦闘不能になりかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてなんやかんや(『なんやかんや』で済ませるにはイベントが多すぎたのだがここでは割愛)あった末に蹄鉄を買い終え、そこから更に十分ほど歩いた後。

 アドマイヤリラお目当てのゲームセンターがようやく見えてきた。

 

 

「あっ、着いた!ここだここ!ここが新しいゲームセンターですっ!」

 

 

 それまで落ち着いて歩いていたアヤリが、建物を指差しながらぴょんぴょんと跳ねた。

 掌に提げられている蹄鉄の入った袋が持ち主の動きに合わせてジャラジャラと音を立て、膝まで伸びているスカートがヒラヒラと揺れている。

 

「ここか……」

 

「リラ、スカートが捲れるからやめなさい。ここ……そういえば最近、オペラオーもここに来たみたいな話を聞いたことがあったわね」

 

 アヤベと共にトレーナーは建物を見上げる(ちなみにトレーナーは何故か二十年ぐらい老けたような顔をしていた)。

 看板や外装には紫色やピンク色、赤色などといった派手めな色が多く使用されており、非常にカラフルだった。

 ある意味『ゲームセンターらしい』ゲームセンターである。

 

「もう二人ともなにしてんのー!早く早くー!」

 

「っ、待ちなさいリラっ」

 

 もう既に入り口で足踏みしているアヤリに、二人は急いで合流していく。その拍子にアヤベの手からも提げられている袋が(こっちはシューズも入っている)また音を立てた。

 それを見ていると、なんとなく思うことがあったのか。

 

「……僕が持とうか?その袋」

 

 気づけばトレーナーはそう提案していた。

 と言っても、袋はさほど重くはないだろう。なんならウマ娘は成人男性よりも遥かに力が強いから、物はウマ娘が持った方が良い。本来ならそんな提案などする必要はないのだが。

 

 しかし、これから彼女らはこのゲームセンターで遊ぶのである。なれば、余計な手荷物などない方が心置きなく動けるのではないだろうか。

 そういう意味を込めての、彼なりのちょっとした気遣いだった。

 

 だが、アヤベは振り返って右目だけでトレーナーと視線を合わせると、

 

「……別にいいわよ。気にしなくていい」

 

 と素っ気なく答えるだけだった。

 

「そ、そっか……」

 

 これはアヤベなりの、トレーナーに迷惑をかけたくないという心境での対応である。

 ……だが、なんとなく予想できていた答えとはいえトレーナーは少し落ち込んでしまった。……その姿にはさながら、あまり欲を出さない現代っ子に色々世話を焼こうとするも『いらない』と両断された父親のような哀愁が漂っていた。

 すると、そのやり取りを見ていたらしいアヤリが、ふっと口角を上げてトレーナーの元に駆け寄る。

 

「ねぇトレーナーさーん!この袋邪魔なんだけどー!私これから遊びたいからさっ、持っててくれない?」

 

「えっ?……うっ、うん!いいよ!」

 

 存在意義を失いかけていた所での頼みごとに、トレーナーは声を弾ませて了承した。少し違うかもだが、渡りに船とはまさにこのことか。

 最初アヤベはさして重くもないのにトレーナーに荷物を押し付けようとするアヤリを咎めようとしたが……すぐに自分のミスに気づいた。

 

 

(っ!……しまったっ、やられた……!)

 

(むっふっふ~♪甘いねお姉ちゃん。こういう提案には素直に甘えた方が双方上手くいくんだよ~♪これは高ポイントゲットかな?もらったよお姉ちゃん!)

 

 

 キッと睨んでくるアヤベに猫口を作って笑うアヤリ。

 ……さすがに十数年も『妹』をやっているからか、『甘え方』という面ではアヤリの方がアヤベより遥かに上手のようだった。

 

 

 

 

 

 

「うへー……すごー……」

 

 ゲームセンターへと足を踏み入れた瞬間、凄まじい熱気に体を包まれた気がして、思わずトレーナーは声を上げてしまった。

 オープンしたばかりというのもあってか、店内にいる人は多かった。あちらこちらで電子音やら何かを叩くような音が響いている。

 

 トレーナーは学生時代に何回か来ていたが、アドマイヤベガはゲームセンターに来たことは少ないらしい。顔をしかめて耳を畳んでいた。

 ニンゲンの耳からしてもゲームセンターはうるさい。ウマ娘の耳ならば尚更だろう。

 複数の音で構成されているはずの轟音なのに、一つ一つの音は全く判別できない。

 そんな不思議なうるささなのだ。ゲームセンターは。

 

 

「あっ!すごいすごい!ダンスゲームあるじゃんっ!やっぱりこれはどこにでも置かれるんだねぇ~!」

 

 

 だがそんな場所もなんのその。

 人の間を魚のように泳ぎ、一通り置かれているゲームを確認していたアヤリが声を上げた。

 それはとある有名なダンスゲームの筐体だった。CMもよくやっており、噂ではあのトウカイテイオーもよくプレイしているというあれである。

 アヤリもプレイしたことがあったのか、ワクワクしたように尻尾がブンブンと振られている。

 

「ね、ね、トレーナーさん。あれやってもいい!?」

 

「別にいいよ」

 

「よーしっ!見ててねトレーナーさん!私がハイスコア出す姿っ!」

 

 トレーナーが頷くと、アヤリはさっそく百円玉を放り込んだ。ウォン、というような音と共にダンスステージが輝き出す。

 

「……よしよしっ。ここでトレーナーさんにカッコいい姿を見せて、追加で一気にリードしよっと♪」

 

 ステージの上で準備体操をしながらアヤリは密かに計画していたのだが、トレーナーは周りのゲームの音で気づいていないようだった。

 代わりに彼は、なんとなく隣にいるアドマイヤベガに訊いてみる。

 

「アヤベさんは?踊らないの?」

 

「踊らないわよ……特別上手いわけでもないし、今は動きやすい服ってわけでもないし……」

 

 自分の服を見ながら言う。

 レース終わりにいつも踊っているから上手くないというわけはないのだが……まぁそれはそれという話なのだろう。……トレーナーとしては、姉妹が揃って踊る光景を一目見てみたかったので、少し残念さはあったが。

 

「あの娘はもう……なんでスカートでダンスゲームを……。見えたらどうするのよ……」

 

 アヤベさんはアヤベさんでまた別の意味でハラハラしているようだった。

 だがそんな二人の気持ちを知る由もなく、またトレーナーもアヤリの気合いの入りっぷりを知る由もなく、やがて曲がスタートする。

 

 

『助走つけ♪(きたい)を超えてゆこう♪』

 

「いよっと!」

 

 

 聞いたことのあるメロディが流れると共に、アヤリは画面に浮かぶ表示のままに踊り始めた。

 まだレースに出て踊ったことは少ないが、それでも毎日練習しているからか、体を動かすという彼女自身の性に合っているからか。そのダンスのキレはすごく堂に入ったものだった。

 ライブ会場でオペラオーたちと共にいても遜色ないレベルだろう。

 細かくステップを刻む足がキュキュッと摩擦音を立て、スカートが危なっかしく揺れる。

 ……見えそうで見えない。

 

「……一応、大丈夫そうね」

 

「みたいだね」

 

 これにはジト目のアヤベさんもにっこり……はしていないが、ともかく一安心したようだった。

 

「お姉ちゃんにトレーナーさんちゃんと見てるー!?今ん所ノーミスだよー!」

 

「すっ、すごいよー!」

 

「……わかったから、早くしないとサビ来るわよ」

 

 そんな姉の心も知らず、妹は僅かな間奏の隙にトレーナーたちの方を振り返ってピースを作っている。

 ……なんというか、本当に天真爛漫で元気な娘だった。

 その後も(二重の意味で)危なげなくダンスを踊り終えたアドマイヤリラは「ふぃ~!」と額に浮かんだ汗を拭いながら戻ってきた。

 

「ウルトラ上手にやりました~……!どうよトレーナーさん!私ノーミスだったよ!すごかったでしょ!?」

 

「うん、すごかったよアヤリ」

 

 ふんすとドヤ顔をするアヤリにトレーナーは惜しみ無く拍手を送ってやる。その隣でアヤベも控えめながら拍手をしていた。

 

「本当によかったわ。……大変なことにならなくて」

 

「んん?お姉ちゃんなんか『大変』の意味合いが違うくない?」

 

 心外というような顔をするアヤリだが、トレーナーは彼女まぁまぁと宥めながら───今度はアドマイヤベガの方を向いた。

 

「まぁ、見ててすごくハラハラはしたけどね」

 

「ホントよもう……。ダンス踊るつもりだったんなら、ちゃんとそれ用の服装で来てほしいわ……」

 

「まぁまぁ、こういうスタイルで踊るのもアヤリらしいとは思うけどね」

 

「そうかもしれないけど……」

 

(……あれ?)

 

 ……アヤリのダンスのデキについて話していたはずなのだが。

 いつの間にか、二人は拍手はそのままにアヤリへの心配ごとについて話し込んでしまっていた。話題の中心にいるはずなのに放置を喰らい始めて、アヤリは首をかしげる。

 

 

(……なんでこの流れで二人が話してるんだろう?……しかもなんか、親しげなやり取りしてるし)

 

 

 あの彼女がトレーナーの腕に抱きついたときのような、さながら吊り橋の上にいる状態でのドキドキ感溢れるやり取りとは違う。

 今のトレーナーとアヤベが行っているのは、まるで休日に二人でソファーに座りながら話しているときのような、和やかなやり取りだった。

 

 

(これ……まるで私が手のかかる子供で、二人はその親みたいな感じになってない……?)

 

 

 どう感じるかは人によるだろう。

 だが一度そう思ってしまうと、アヤリにはそうとしか思えなくなってしまった。

 頬に一筋汗が伝う。

 

 

(……これ。私のダンス、むしろ逆効果だったんじゃ……?)

 

 

 ……しかもタチの悪いことに、この逆効果は敵に塩を送って勝手に自爆した形である。

 まぁもちろん、そこにはアヤベ自身の人柄の結果というのもあるのだが。

 

 

(くぅぅ……!やっぱりこういう所が侮れないんだよお姉ちゃんは……!あんまりこれといった行動を起こさない割に、なんかナチュラルに距離近くなることがあるんだから……!)

 

 

 手元にタオルがあれば、おそらくアヤリはガジガジとして悔しがっていただろう。トレーナーと近づくためにあれやこれやと大胆な作戦を考えているアヤリにとっては、自然に距離を詰めることができるアヤベの動きは羨ましい限りなのだ。

 

 一方で、そうした姉の悔しさ、及び自分のしている行動に無自覚なアドマイヤベガは、トレーナーと話しながらも顎に手を当てて考え込んでいた。

 

 

(……不味いわね。ここまでで色々アヤリに好き放題アピールされてる……。なんとか私も行動を起こさないと……。でも、私はゲームなんてやったことないし、トレーナーと一緒にできるようなゲームも……)

 

 

 考えながらアドマイヤベガはため息を吐いた。

 

 

(……こういう時、リラだったら迷うことなく行動に起こせるんだろうけど……)

 

 

 ……姉の心妹知らず。妹の心姉知らず、と言うべきか。

 

 アドマイヤベガにとっては、大胆な行動を躊躇いなく起こせるアドマイヤリラの方が羨望の対象なのだった。

 

 

((でも……負けるわけにはいかない……))

 

 

 いつの間にか姉妹は、正面から見つめ合っていた。

 

 もちろん、お互いに何を考えているかはわかっていない。

 

 だからこそ彼女らの争いは更に激化していくのだが。

 

 

(……アヤベさんとアヤリ、さっきから目で会話してない?え、さっきまでの外で歩いてたときだって、もしかしてずっと目で会話してたの?『ケンカしてるわけはない』ってそういう?僕が入れてなかっただけて二人はずっと会話してたの?……それならそれで良いんだけど、なんか複雑……)

 

 

 ……ちなみに言うまでもないだろうが、トレーナーは諸々何一つ気づいていなかった。

 

 

 

 ……この後も、ゲームセンターや昼食として寄ったファミレスで引き続き姉妹のバトルが繰り広げられるのだが。

 

 まぁ、今日のところはこんなものとしておこう。

 とりあえず、トレーナーの精神が限界になる土曜日は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 姉妹の恋のレースは、まだまだ第一コーナーを抜けたばかりなのだから。

 

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