アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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アドマイヤリラのヒミツ⑦
・実は、アヤベほど星座の知識はないが、とある星座だけはしっかりと覚えている。


アドマイヤベガのヒミツ⑤
・実は、星空を見上げるととある星座を真っ先に探してしまう。





勉強と星とベガ(リラ)と

 

 トレセン学園のウマ娘といえば。

 

 そんな言葉を他人からかけられた時、真っ先に浮かぶのはどんな事柄だろうか。

 レースだとか、人間を超える身体能力だとか、大食いだとか、人によって色々あるかもしれない。

 しかし、だ。

(これもまぁよく言われることだが)色々な面で規格外な成績を打ち立てているウマ娘たちも、所詮はまだ未成年の女の子。つまりは学生である。

 

 そして、学生の本分とは本来勉強である。それはたとえレースウマ娘であっても変わらない。

 レースの過酷さばかりが取り沙汰されるトレセン学園だが、勉学においてもその過酷さは並の学校を遥かに凌いでいるのだ。

 

 

 ……そんな中で、もしも勉学ができていないと───

 

 

 

 

「うえーんやだよーー!!」

 

「……いいから。早くペンとノートを出しなさい」

 

「やーーだーー!! 今日は夜から『LOVEだっちシーズン5』があるのーー! ここで頭使いたくないよーー!!」

 

「元はと言えば勉強しなかったリラが悪いんでしょ。私が何度呼び掛けても、『晩ご飯の後にやるから』、『お風呂入ってからやるから』、『明日の朝にやるから』、『開始十分前にやるから』ってどんどん先延ばしにしていって……」

 

「むーー!!」

 

「『むー』じゃないの。なんでこの状況でそんな目ができるのよ」

 

 

 

 ……こうなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梅雨が明け始めたとある日。栗東寮のアドマイヤ姉妹の部屋にて。

 この日は(『商店街の手伝いがあるから』とパスしたハルウララを除いた)覇王ズセクステットのメンバーが集まり、部屋の中央にある丸テーブルを囲む形で各々がノートと学園指定の問題集を広げていた。

 目的は単純。今日のテストで追試になってしまったアドマイヤリラとテイエムオペラオーのための勉強会である。

 

 

「や、やっと一問解けた……」

 

「お疲れ様。はいリラ、次はこの問題を解いて」

 

「うう……解いても解いても次が……。あ! お姉ちゃん喉乾いたでしょ!? わ、私ちょっと飲み物取ってきて」

 

「私が取ってくるから。リラは構わず問題を解いてなさい」

 

「お、お姉ちゃん……目が怖いんだけど……なんか青い炎みたいなの浮かんでない……?」

 

「いいから。……トップロードさん、悪いけどリラが逃げないように見張ってて」

 

「わかりましたアヤベさん! ほら、アヤリちゃんっ、明日の追試に向けて頑張りましょう!」

 

「悪夢だぁ……」

 

 

 アヤリがすっかり涙目になっていると、そんな彼女の前で王冠を被ったウマ娘、テイエムオペラオーが大仰な仕草で笑い出す。

 

 

「はーっはっはっはっ! ファイトだよアヤリさん! この試練を乗り越えてこそ、ボクたちはまた一つ成長することができるのさ!」

 

「……言っておくけど、あなたも追試組だからね?」

 

「あっ、す、すみませ~~ん!! 私っ、筆箱と間違えてペットボトル持ってきてました~~……!」

 

 

 いつも通り、ワイワイガヤガヤとしながら勉強会は始まった。

 

 

 

 

 基本的に勉学は優秀な姉と対称的に、アドマイヤリラの成績は壊滅的である。基本的に授業は寝てばかりだし、課題も姉のを写させてもらうことが大半。

 一応頭の回転の早さや発想力を見るに地頭は悪くないタイプ(アドマイヤベガ談)なのだが、本人にやる気も無いため、テストでは毎度この有り様である。……言うまでもないだろうがテイエムオペラオーもほぼ以下同文。

 なので、こうしてテストの度に彼女らが追試を無事に突破するための勉強会が開かれるのが半分お決まりとなっていた。

 

 なお、特に追試をくらっているわけではないアヤベ、ドトウ、トップロードがしているのは課題やら復習やらである。

 

 

 アドマイヤベガが全員分のコップと麦茶を持ってくると、アドマイヤリラはようやく腹を括ったか、やけくそのように麦茶をグイッと飲んだ。

 ……ちなみに、今回アヤリが追試をくらっているのは数学と英語と歴史である。

 

 

「えーっと……『すべてのウマ娘たちの始祖と崇められている三人のウマ娘について、ダーレーアラビアンとゴドルフィンバルブと、あと一人を答えなさい』……うーんと……」

 

「落ち着いてくださいアヤリちゃん! ほら、あの人ですよ……!」

 

「えーっと……よし。『チンギス・ハン』、と……」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「いったぁ!? なんで頭をはたくのよお姉ちゃん!!」

 

「なにがどうなったらウマ娘の歴史の問題でチンギス・ハンが出てくるのよ」

 

「なにを言うか!歴史の授業で人名を聞かれたらとりあえず『チンギス・ハン』とか書いとけば大体なんとかなるんだよ!?」

 

「なってないから追試受けてるんでしょ……」

 

「まぁ、状況によって『フビライ・ハン』と使い分ける必要が出てくるからね。そこの判断ミスが敗因だったよ」

 

「三女神様への冒涜とされても文句言えないわよそれ……」

 

 

 額を押さえるアドマイヤベガにまぁまぁと言いたげにトップロードが割って入った。

 

「アヤリちゃん、歴史は言ってしまえば暗記科目ですから。まずは単語帳を作ってみるのがいいかもしれませんね」

 

「おー! なるほどその手が! さっすがいいんちょー!」

 

「一日で作った単語帳って効果あるのかしら……?」

 

 せっせと単語帳制作に取り掛かるアヤリの対面で、中等部のオペラオーとドトウも問題を解いていく。

 

 

「ううむ……」

 

「『あのウマ娘は私よりもダートを走るのが速いです』……えーっと、比較級は後ろにerを付けて……あれぇ? 空白が埋まりません……?」

 

「ドトウちゃん、比較級は『than』も付けるんですよ!」

 

「ザン……? あっ! そ、そうでしたっ! お、教えていただきありがとうございますトップロードさん……」

 

「いえいえ!」

 

「ううむ……ううむ……」

 

 

 教えてもらい晴れやかな顔でペンを動かしていくドトウの横で、オペラオーは誰とも話さず腕を組んで唸っている。

 ……さぞかし目障り耳障りだったのだろう。渋々といったようにアドマイヤベガが話しかけた。

 

 

「……オペラオー、さっきからペンが動いてないけれど。まだ一問も解いてないじゃないの」

 

「ん、アヤベさんか……しかし、この数学はボクにはわからないんだよ……」

 

「はぁ……いい? 連立方程式を解くときは、まず加減法で───」

 

 

 言いかけたアヤベの言葉はバン!という机を叩く音で遮られた。

 

 

「それがわからないのだよ!! さっきから教科書を見ているのだが……どうにもボクの頭に入ってこない!!」

 

「……そんなことを言われても」

 

「うーむせめて……せめて演劇風に教えてほしいのだが!!」

 

「はぁ??」

 

 

 意味不明そうな、完全に呆れた目になるアドマイヤベガ。

 

 

「演劇風って……」

 

「同室のハヤヒデさんにもお願いしたのだが……彼女は最近忙しいらしく、教えてくれないんだ……」

 

「あの人、いつもそんなことやってるの……」

 

「なになに~? どこを勉強してるのオペラオーちゃん?」

 

 

 姉の目が離れたのを良いことに、アドマイヤリラはペン回しをしながらオペラオーのテキストを覗き込む。

 

「リラ。あなたはまだ単語帳を作ってる途中で……!」

 

「いーじゃんいーじゃん♪ 息抜きだよ息抜き! それで、えーっと……? うわー連立方程式かー、懐かしー……まだ覚えてるよー! これを演劇……ていうか、物語風に教えてほしいのオペラオーちゃん?」

 

「そうなんだよアヤリさん……じゃないと、ボクの頭には入ってこないんだ……」

 

 どんな脳の構造してるのよ、とアヤベが呟く横で、アヤリは顎に手を当てて考え込む。

 

 そしてしばらくすると、「よし!」と手を叩き麦茶で唇と舌を湿らせた。

 

 

「ねぇねぇオペラオーちゃん」

 

「なんだい?」

 

「コホン! ……えー、これは昔話なんだけどね? むかしむかし、あるところに、高貴な家柄の王子である2x+4y=6と、田舎の灰被り娘であるx+3y=4がいたんだよ」

 

「ほう?」

 

「はぁ?」

 

 

 唐突に始まったアドマイヤリラの物語風の語り口に、オペラオーは一気に興味を惹かれたように目を輝かせ、アドマイヤベガは嫌な予感がしたように眉間にシワを寄らせた。

 

 

「それでね、x+3y=4は王子様である2x+4y=6に恋をしていたんだよ。だけどね、その恋を成就させるには二人の身分……つまり、数が違いすぎたんだ。だから、今のままでは二人は触れ合うことすらできないんだよ」

 

「ふむ……?」

 

「身分違いの恋……! x+3y=4ちゃんは、何度もこの恋を諦めようとしたんだよ……! だけど、王子さまである2x+4y=6さんの姿を見る度に恋心は大きくなっていって……どうしても押さえきれなくなっていっちゃったんだ……!」

 

「なんと……!この問題の裏にはそんな二つの式の恋慕が……!」

 

「ないでしょ」

 

 

 空気を読めないアヤベのツッコミ。

 しかしそれはもはや一人の観客と化したオペラオー、そして感情を存分に込めた語り部と化したアヤリには届かないようだった。

 

 

「そんな時にx+3y=4ちゃんの前に現れたのは綺麗な魔法使いさん! それは何を隠そう、オペラオーちゃんのことだよ!」

 

「ぼっ、ボクかい!? ボクが魔法使いだというのか!?」

 

「そう! 魔法使いになったオペラオーちゃんはね、灰被り娘に魔法をかけてあげるんだよ……。それは、x+3y=4ちゃんと2x+4y=6さんが同じ身分になれる魔法……!さすがにxとy両方を同じ値にすることは無理だったけど、オペラオーちゃんはx+3y=4ちゃんに『2をかける』という魔法をかけてあげたんだ。……そうなると?」

 

「……ううん? ……ハッ! 王子が2x+4y=6で、灰被り娘は2x+6y=8となる! なんということだ! 身分が同じになってしまったじゃないか!! ははっ、すごいぞボク!!」

 

「そう! さすがだよオペラオーちゃん! これで灰被り娘は大喜び!だけどね、実はこの魔法には制約があったんだ。それは、『この計算中でしか効果が無い』というものでね。そこから灰被り娘は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───そこから、王子様はあの夜に残されたガラスの靴から、姫を探し始めたんだ。二足のガラスの靴……即ち、x=1とy=1を手がかりにしてね……」

 

「なるほど……。この値をxとyに代入して、計算が合う人物こそがあの夜の姫というわけだね」

 

「そう! わかってきたねオペラオーちゃん。そして、半日にも及ぶ捜索の末、ついにx+3y=4ちゃんに白羽の矢が立ったんだ。そんなわけないと止める意地悪な方程式たち……もうこの式しかいないと解を差し出す王子様……」

 

「ごくり……」

 

「果たしてその結果は……はい、計算してみて。オペラオーちゃん」

 

「……二つの式のxとyに1を代入した場合……どちらの式も数が合う。……今ここに、灰被り姫の証明は完了した……!」

 

「……正解。……と!まぁこうして、王子様の2x+4y=6と灰被り姫であるx+3y=4は、お似合いの二人としていつまでも仲良く暮らしたのでした……フィン!」

 

 

 にぱっと笑いアヤリは物語の終わりを示すように掌を振る。

 その瞬間、

 

 

「ブラボーー!! 素晴らしい!! なんと感動的な物語なんだ!!」

 

 

 真剣に耳を傾けていたオペラオーが立ち上がらん勢いで大きな拍手をした。その顔にはいつもの眩しいばかりの笑みが浮かんでいる。

 

 

「なんてわかりやすい説明なんだ! すごいよアヤリさん!」

 

「これから連立方程式の問題が出たとしても、これと同じようなストーリーだと思って挑めば、たぶん解けると思うよ」

 

「ああ! 完璧に理解したよ! ありがとうアヤリさん! はーっはっはっはっ!」

 

 

 ずっとつっかえていた物が取れたように笑って拍手をし続けるオペラオー。……しかし、その拍手は一つだけではなかった。

 

「ううう~~……か、感動しました~~……!」

 

「すごいですアヤリちゃん……! あの、話し方と言いますか、身振りとか、感情がその、えっと……とっ、とにかく聞き入ってしまいました! すごいです!」

 

 ドトウとトップロードまでもが、アドマイヤリラの語りに感激し、拍手をしていた。音がやたら大きいと思ったが、どうやら三人ともが拍手をしていたかららしい。

 そしてそれほどまでに称賛されると、アヤリとしても悪い気はしないらしく。

 

「い、いやー、そんなにすごかったかな? あ、あはは……! ご清聴ありがとうございました!ていう感じで……」

 

「実際オペラオーちゃんのあの雰囲気に合わせた形で説明できたのはすごいと思いますよ!将来、そういう道に進んでみたらどうですか?」

 

「……演劇かぁ……! 確かに良いかも……! ちょっと目指しちゃおうかなぁ~?」

 

「是非!歓迎するよアヤリさん!」

 

「えへへ~! オペラオーちゃんとハリウッド目指しちゃおっかな~~!? それはそれで楽しそう!!」

 

 アヤリも調子に乗り始め、完全に勉強のことが彼方へと吹っ飛んで覇王ズセクステットは騒ぎ始めていた。

 ……約一名を除いて。

 

 

「…………」

 

 

 アドマイヤベガが。

 彼女だけが、周りが騒ぐ中で一人頭を抱えていた。

 

 

「リラが……リラがまた変なノリを覚えた……」

 

 

 その声には、さながら上等なふわふわ布団にハチミツをぶちまけられたが如き悲愴感があった。

 

 

「……またオペラオーに染められた……リラが……」

 

「あれ?どうしたのお姉ちゃん?」

 

「リラ……あなたもうオペラオーと関わるのはやめなさい……本当に……」

 

「えーどうしてー? オペラオーちゃんと一緒にいるの楽しいのにー」

 

「あぁ……」

 

 

 もう手遅れだ、とばかりにアドマイヤベガは天を仰いだ。

 ……三女神様よ。なぜ貴女方は私の可愛い妹にこんな要素を付け足すのですか。

 そんな心の声が聞こえてきそうだった。

 

 

(……どれもこれも、オペラオーのせいで……)

 

「……? 何か急に寒気を感じるのだけれど?」

 

「気のせいじゃないのオペラオーちゃん?」

 

「はいアヤリちゃん! ここで突然ですが問題です!すべてのウマ娘たちの始祖と崇められている三人のウマ娘は、ダーレーアラビアンとゴドルフィンバルブと、あと一人は?」

 

「えぇ本当に突然!? えぇっと……さっき単語帳に書いた名前……うーんと……そう!バイアリーターク!!」

 

「正解です! さすがアヤリさん」

 

「やったー!!」

 

「アヤリさんすごいですぅ~!」

 

「でしょでしょ~いぇい! ……あ、ドトウちゃん、比較の最上級の時は『er』じゃなくて『est』を付けるんだよ?」

 

「ふぇ? あああ本当です~! あ、ありがとうございますぅ~!」

 

「ふっふん! やっぱりオペラオーちゃんとドトウちゃんは私がいないとダメだね! よし! ここは予定を変更してオペラオーちゃんとドトウちゃんの学力強化合宿に───」

 

「目的をすり替えないの。あなたはいい加減中等部の勉強じゃなくて高等部の勉強をしなさい」

 

「あうっ」

 

 

 アヤリがはたかれた拍子に氷の浮かんだコップがカラン、と音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勉強会から数時間が過ぎ、空の色がオレンジ色から黒色になり始めた頃。

 

 

「いやー! たっくさん勉強したねぇ今日は! これで明日の追試も大丈夫そうかなっ♪」

 

「……なんでもう終わったみたいな口ぶりなのよ、まだ続くわよ。晩ご飯までまだ時間もあるんだから」

 

「うぇぇぇーーやだーー!! 誰か助けてーー!! お姉ちゃんに監禁されるーー!!」

 

「ここ一応外なんだから、誤解を招くような叫びはやめて」

 

 

 覇王ズセクステットの面々は学園の外に出て、近場のコンビニへと向かっていた。

 飲み物が尽きてきたのと、アヤリの集中力が目に見えて落ち始めてきたので(元から無いに等しかったが)、気分転換も兼ねた外出である。

 

「ふふっ、ちょうどミネラルウォーターの予備が尽きそうな所だったからね! 今のうちに買っておこうじゃないか!」

 

「ですねぇ~。あっ、たくさん買うのでしたらお持ちしますぅ~!」

 

「あーー……まだ勉強しなきゃなのぉ……? もうやだよぉ……」

 

「もうちょっと頑張りましょうアヤリちゃん!努力の甲斐あって、歴史もだいぶ暗記できてきたじゃないですか!」

 

「うえーん……」

 

「……お菓子のラムネ、多めに買っておきましょうか。あれにはブドウ糖が大量に含まれてるから、脳に栄養がいって集中しやすくなるし」

 

 オペラオーを先頭、アヤベを最後尾にして歩道を二列のような状態で歩いていく覇王たち。

 夏用制服の先から伸びる腕を前後に振りながら、各々のリズムで歩いていく。

 前から自転車が来たりすると、大抵トップロードが真っ先に反応して「前から来てますよ! 気をつけて!」と皆に呼び掛け、オペラオーが「むむっ、皆欠けてはいけないよ! ボクたちの覇道をここで転覆させてはならない!」と「わぷっ」と声をあげるドトウを庇いながら車道の端まで寄り、そのノリに乗っかったアヤリが「お姉ちゃん! お姉ちゃんは絶対私が守るからね!」と姉の傍で手を広げ……最後にアヤベがため息混じりに「傍迷惑な集団ですいません」とでも言わんばかりに自転車の運転手を向けて頭を下げる。

 そんな彼女らの周りを、夏の夜特有の生ぬるい風が包み込んでいた。

 

 

 そんな時だった。

 

 オペラオーだったか、ナリタトップロードだったか。

ともかく誰かが、ふと空を見上げた。数秒ほど経って、それに釣られるように他のメンバーも皆一様に上を向く。

 すると、全員の足が止まった。

 

 

「わぁ……! 綺麗……!」

 

 

 その声の主は、ナリタトップロードだった。

 声をあげたのは彼女だけだったが、しかし他の者たちも小さく口を開けたり目を見開いたりしている。

 

 

 空に輝いていたのは、無数の星だった。

 

 

 一日を通して雲もなく快晴だったからか。太陽の頑張りに答えたように、色、大きさ、眩しさを問わない星たちが空という舞台の中で目一杯輝いていた。

 天然のプラネタリウムとでも言うべき景色。彼女らが思わず足を止めたのもやむ無しであろう。

 

 

「綺麗ですぅ~……!」

 

「はーっはっはっはっ! さすがはボクを彩る星たちだ!」

 

「……なんだか久しぶりかも。お姉ちゃんと一緒に星見たの」

 

「……確かにね。子供の頃はよく一緒に見ていたけれど」

 

 

 普段通りのテンションでいる覇王と怒涛の横で、どこか感慨深そうに顔を見合わせるアドマイヤ姉妹。

 そんな彼女らを横目で見ており、なにか思うところがあったのか。

 

 出し抜けにトップロードはアドマイヤベガの隣まで来て、口を開いた。

 

 

「アヤベさんっ。夏の大三角って、あの空の中にありますか?」

 

「……なに? 急に」

 

 

 怪訝そうな顔をするアヤベに、いえ、特に意味があるわけではありませんけど……とトップロードは頬を掻いた。

 

「でもなんというか……夏といえば、夏の大三角じゃないですか。これから夏合宿に行くと、しばらくはゆっくり星空を眺める時間はありませんし……今の内に見ておきたいなぁって!」

 

 あまり芯のある意見ではなかったが……なんとなく共感できるものではあったらしい。オペラオーも「なるほど」と頷きドトウも「確かにそうですね~」と手を合わせた。

 そうなると……必然的にメンバーの視線はこの中で一番星について詳しい人物の元へと引き寄せられる。

 

 

「…………」

 

 

 呆れたようにため息を吐きながらも、アヤベは素直に星空を見つめた。現時点がどの方角にあたるかはわからないが……星の位置関係から大体の検討をつけていく。そしてその検討を元に、星を探していく。

 

「……あったわ」

 

 覚え直す必要がないほどに記憶として定着した知識だからか。捜索は一瞬で終わった。

 全員が少しでもアヤベと同じ視界になるために彼女の近くへ団子のように集まる。

 

 皆が止まったのを確認してから、アヤベはゆっくりと口を開いた。

 

 

「……まず、あそこにあるのがわし座のアルタイル。彦星でもあるわね」

 

「どこだい?」

 

「……あそこよ。私が指差してるでしょ」

 

「アヤベさんが指差してる方向……」

 

「あ、あの星ですかぁ~!」

 

「……そうよ、ドトウ」

 

 

 ドトウがオペラオーに位置を教えるのを見ながら、アヤベは指を動かした。

 

 

「……次に、その左側にあるあの星。……あれが、はくちょう座のデネブ」

 

「えーっと……あ! あの星ですねアヤベさん!」

 

「……そう」

 

 

 ナリタトップロードがすぐに見つけたことに、アヤベは少しだけ口角を上げて頷いた。

 そして───

 

 

 

「最後に、その二つの星を結んで上に位置しているのが───」

 

「『リラ』」

 

 

 

 アナウンスのように紡がれていたアヤベの言葉が、不意に誰かに割り込まれた。

 

 その犯人は……それまで無言だった、アドマイヤリラだった。

 

 

 彼女は後ろで手を組んで、タッと一歩だけ覇王たちの塊から抜け出し、彼女らを振り返った。

 

 

 

「わし座とはくちょう座の一番上で輝いてるのがこと座! ラテン語で『リラ』!! 私の星座!!」

 

 

 

 にぱっと。

 

 嬉しそうに彼女は笑っていた。

 

 そして、ようやく覇王たちが彼女の意図を察し始めるのと同時に、

 

 

 

「そ、し、て~♪ そのこと座(リラ)の中で最も輝いている一等星こそが『ベガ』!! お姉ちゃんの星座っ!!」

 

 

 

『リラ』のことを紹介したときより何倍も誇らしげに言って。

 アヤリは後ろの手を広げ、包み込むように姉に抱きついた。

 突然の抱擁にアヤベは態勢を崩しそうになったが、二人まとめて倒れないためにもなんとか踏ん張る。

 

 

「……もう」

 

 

 困ったように言いながらもアヤベはアヤリを振り払うようなことはせず、改めて腕を伸ばし直す。

 

 

「……そう。リラが言った通り、あそこにあるのがこと座のベガ。これらを三角形として結んだものが、夏の大三角よ」

 

「……なるほど」

 

 

 そう言ってアヤベの解説が終わると……覇王たちはお礼の意も込めて小さく拍手をし始めた。

 

 その顔には……皆穏やかな笑顔があった。

 

 

「はーっはっはっはっ! よーく覚えられたよ!」

 

「はい~! これならテストに出ても大丈夫ですね~!」

 

「ふふっ。本当に、アヤリちゃんはアヤベさんのことが大好きなんですね」

 

 

 三者三様の意見を受けながら……大人しくアヤリに抱かれているアヤベは彼女の肩を軽く叩く。

 

 

「……リラ。そろそろ離れなさい。苦しいし、恥ずかしいでしょ」

 

「えへへ……ごめんお姉ちゃん……。なんか、さっきも言ったけど星見るの久しぶりだったから、ついテンションが上がっちゃって」

 

「はぁ……早くコンビニに行くわよ」

 

 

 素っ気なく言って、アドマイヤベガは歩き出し、「あっ、待ってよお姉ちゃーん!」とアヤリが追いかける。

 そしてその後ろに覇王たちが続いていった。

 

 

 先ほどまでとは逆に、アドマイヤ姉妹が先頭となり、オペラオーたちが最後尾となる。

 

 

 

 そんな彼女たちを、幾多の星座たちが照らし出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 






(ここから人によっては関係ない話です)

突然ですが軽くリクエストを受け付けてみようかなと思います。
もしも『妹さんとアヤベさんが○○する話、概念』を書いてほしい、という方がいましたら、私で良ければ活動報告にそれ用の場所を設置しますので、そこに書き込んでください。よほど無理難題な話でなければなるべくお受けしたいです。

ここまでお付き合いしてくださった方、本当にありがとうございます。これからもお付き合いしていただけると幸いです。

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