アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~ 作:トマリ
更新遅れて申し訳ありません。リクエストでお題をもらった作品です。
現在より約一年前の話です。
大体『姉の誓い 妹の願い』でチラッと出てきた姉妹の日本ダービー後の会話がなされた辺りの時系列です。
なので『覇王ズセクステット』自体はまだ結成されていませんし、アヤリとオペラオー、トップロード、ドトウとの関係もまだ薄い……ハズです。
若干アヤベさんのキャラ崩壊注意かもです。
─────現在より約一年前
テイエムオペラオーが皐月賞で、アドマイヤベガが日本ダービーで輝かしい戦績をおさめた年。クラシック三冠最後への小休止を挟むように、日本は夏を迎えていた。
そして夏と言えば、トレセン学園生にとっては夏合宿の時期である。ある者は能力のレベルアップのため、またある者は自らが目標としているレースのため……そしてある者はクラシック三冠の最後の冠を戴くために、それぞれハードな練習に励んでいた。
そんなある日。
空に広がっていた入道雲は見えなくなり、大きく顔を利かせていた太陽も引っ込んだ夜。ウマ娘たちが各々の時を過ごす自由時間にて。
「ようしっ! 皆準備オーケーだね?」
合宿所のとある一室に、アドマイヤベガの妹であるアドマイヤリラ……通称アヤリの声が響いた。その頬はいつもの三割増しくらいで輝いていた。
「うん! 準備おっけーだよーっ!」
「は、はいっ!」
姉よりもいくらか高く子供のようなアヤリの声に、更に輪をかけて子供っぽい声が追従する。
一人はハチマキを巻いて瞳に桜を浮かべたウマ娘であるハルウララ、もう一人は長い髪で右側をメカクレさせたライスシャワーである。
……基本的に姉やオペラオーたちと行動を共にしていることが多いアドマイヤリラ。そんな彼女がハルウララやライスシャワーと一緒にいるのは何気に珍しい。
では何故彼女らが同じ場所にいるのかというと───
「じゃあこれより第一回!トプロいいんちょーを元気付けるための差し入れサンドイッチ作りっ、始めるよーっ!!」
「えいっえいっ、おー!」
「お、おー!」
アヤリはまだレースの分野においては自分のことを部外者だと思っている。
トレーナーもまだ見つけられていないし、実力もあの舞台で戦うには足りていないと自覚しているからである。
しかし、彼女が世界で最も憧れて最も頼りにして最も好きな姉のアドマイヤベガが今年はデビューして走っているのだ。なれば、姉のファン一号である彼女はさすがに首を突っ込まないわけにはいかない。
レースウマ娘としての本格的なアドバイスはできないしするつもりもないが、彼女はファンとして、サポーターとして、姉のアドマイヤベガを通して今年のクラシックレースを当事者たちの次に間近で見ていた。
そんな彼女が思ったことが……
「……最近のトップロードさん、なんだか元気が無さそうなんだよねぇ。自分を追い詰めてるようにも見えるし……」
金髪っぽい髪に綺麗なおでこが眩しい我らが委員長、ナリタトップロード。
当初アヤリはいつぞやのウマ娘と同じく『自分に許可無く姉のライバルになろうとしている』トップロードをあまり面白く感じていなかったのだが、クラス委員長として頑張る彼女の人となりを知ったり、なにより授業のわからない所を丁寧に解説してもらえたことなどから、今ではすっかり彼女のことを慕っているのだった。
……改めて、そこらの子犬よりもチョロいウマ娘である。
ともかく。
そんな尊敬する委員長が周りからの期待やレースのことで思い詰め始めていることは、回りの友人はもちろん部外者のアヤリにもわかっていた。おそらく直近の皐月賞と日本ダービーを惜しいところで敗けてしまったのを気にしているのだろう。
もちろんアヤリにとっては、姉であるアドマイヤベガの勝利が大事である。姉のライバルであり姉を倒すのは自分だけでありたいし、日本ダービーを勝ったときは嬉しかったし、続く菊花賞も勝ってほしい。
だが、同時にナリタトップロードだって彼女の大事な友達であり尊敬する委員長である。そんなトップロードが不調そうならば心配にもなるものである。
「かっ、勘違いしないでよねっ! 別にトップロードさんが心配なんじゃなくて、あなたにはお姉ちゃんと全力のコンディションで勝負した上で敗けてもらわなきゃ困るだけなんだからねっ!」
「? アヤリさん、急にどうしたの?」
「え? あ、いやごめん。なんとなくこういうこと言っとくべき場面かなーって思って」
ハテナマークを浮かべるライスシャワーに適当に言いながら、アドマイヤリラは改めて用意したものを見る。
テーブルの上に置かれていたものは、パンにベーコン、レタス、卵(スクランブルエッグ)やキュウリ、サラダチキン、チーズなどなど……。
これらの材料で導き出される食べ物は……
「皆で作ったサンドイッチなら、きっとトップロードさんも喜んでくれるよねっ!」
「とーぜんだよウララちゃん!」
むっふんと胸を張ってみせるアドマイヤリラ。
ちなみに「何か差し入れして元気づけよう」という提案を最初にしたのはライスシャワーで、そこでサンドイッチをチョイスしたのはアヤリだ。
……サンドイッチにしたのは、彼女なりの姉リスペクトである。
「……ところでアヤリさんはサンドイッチを作ったことがあるの?」
ライスシャワーが小首を傾げながら問いかけてくる。その問いにアヤリは変わらず胸を張ったまま、
「あるよ! ちょっとだけね!」
「ちょっとだけなんだ……」
何故か自信満々で即答したアヤリにライスシャワーの顔に若干の青線がかかった。
「お姉ちゃんの手伝い(無理やり)でちょっとね。ライスさんは?」
「ら、ライスも、ちょっとなら……」
「おー! さっすがライスちゃん! じゃあ今日は頼りにさせてもらうからね!」
「ええっ」
笑顔で顔を寄せるアヤリに戸惑ったように一歩下がるライスシャワー。
「そっ、そんな頼りにされても……ライス、失敗して迷惑かけちゃうかもしれないし……」
「なに言ってんのライスちゃん! 失敗するかもなのは私だって同じだよ?」
「え?」
ついいつものネガティブ思考が出てしまうライスシャワーに対し、アヤリは頬を膨らませる。
「私だって不安だから、ライスちゃんに支えてほしいんだって! 代わりにライスちゃんが不安なところは私が支えるからっ! そうやって『ちょっとできる』と『ちょっとできる』が協力し合えば、ちゃんと『一人前』になるはずだからねっ♪」
そう言ってアヤリは両手の人差し指と人差し指を合わせながら、にぱっと笑ってみせた。
「だから、一緒に頑張ろうよライスちゃん! トップロードさんのために!」
「アヤリさん……!」
「それにね、ここでまた練習しとけばライスちゃんのお兄ちゃ……じゃなかった、お兄さまにも振る舞えるかもだよ?」
「お兄さまにも……うん、そうだね……!」
「ようしっ! じゃあ頑張るぞーっ!」
「おーっ! がんばるよーっ!」
こうして、彼女らのサンドイッチ作りは始まったのだった。
「うーんと…… 具の配分はこんな感じでいいのかな?ライスさん」
「うんっ! だ、大丈夫だと思う……!」
「うへー……サンドイッチって作るの意外と大変なんだねー……。お姉ちゃんこんなのずっと作ってたのかぁ……」
「そう? ウララはすっごく楽しいよ~!」
「あの……ウララちゃんが作ってるサンドイッチ、ハムばっかり入れすぎなんじゃないかな……?それだとトップロードさんも食べにくいだろうし……」
「おー! たしかにー! じゃあこのサラダチキンも一緒にいれよーっと!」
「そ、そうじゃなくって……野菜入れようか、ウララちゃん」
「ようしできたっ! ベーコンやらレタスやらトマトやらをバランスよく挟んだ私会心のサンドイッチっ! その名も、『アドマイヤリラのBLT&野菜ミック───!?」
「? アヤリさん、どうしたの?」
「……なんか今、私の脳裏に存在しない……いや、存在してはいけない記憶が
「ふぇ?」
「ええい緊急差別化っ! レタスを抜いて代わりにチーズを加える!……これで改めて、『アドマイヤリラのBCT&野菜ミックスサンド』の完成じゃーい!!」
テンションのままにアドマイヤリラの(略)サンドが乗った皿をドン!と机に置くと、弾みでサンドイッチが皿から落ちかけたのでアヤリは慌てて支えた。
「ふう……なんとか商品名被りの危機は乗り越えたよ……」
「うん……? ま、まぁアヤリさんが良いんだったら良いと思うけど……」
訳のわからないことを言いながら額の汗を拭うアヤリを、ライスシャワーはよくわからなさそうな顔で見ていた。
元はトップロードを通じて知り合い、そこから廊下で会えば立ち話ぐらいはする仲になったアヤリとライス。それなりに仲良くやれてるようだが、時々ライスはアヤリのノリについていけなくなるようだ。
なにはともあれ、そんな感じで順調に時間と材料は消費されていき、皿に積まれたサンドイッチは六個になり始めていた。
……『差し入れ』にしては結構量が多い気がするが、まぁそれを今の彼女らに伝えるのは野暮というものだろう。
「じゃあ、次ので最後の一個にしようか?」
「うん。それがいいと思う……!」
「わーい! これだけ作ればトップロードさんも喜んでくれるよねっ!」
そうして、彼女らが最後の一つにする予定のパンへと手を伸ばしかけたとき。
「おや。おやおやおや! 何やら良い匂いがすると思えば!」
突然よく通る声が部屋に響いた。
「その声はっ!」
瞬間、アヤリとハルウララの耳がピンと立って、入り口の方に目を向けてみる。
「まさかこんな所でカロリーナとパオリーノのごとき秘密の集会が行われていたなんてね!全く水臭いじゃないか!」
「ちょっとどうしたのよオペラオー、急に走り出して……って、リラ?」
やはりというか、そこに立っていたのは王冠を被った世紀末覇王ことテイエムオペラオーと、アヤリと反対の位置に耳カバーを着けた彼女と瓜二つのウマ娘、アドマイヤベガだった。
「お姉ちゃん!」
大好きな姉の登場に、アヤリのクリクリした目が一気に明るくなる。
「お姉ちゃん、こんなところで何してるのっ!?」
「……それは私の台詞でもあるのだけど」
駆け寄ってきたアヤリに呆れたような、しかしどこか悪くなさそうにアヤベは僅かに口角を上げる。
入り口のところで向かい合う二人。姉妹で反対の位置に耳カバーをつけているのもあって、その光景はまさに鏡写しのようだった。
「……いつもの、夜の自主練をしていただけよ。菊花賞も近いから。……その帰りに……」
そうやってアドマイヤベガは言葉を続けようとして……何故か急に葛藤しているような表情になった。
本人も言っていた通り、アヤリはまだレースにおいては基本的に『部外者』のスタンスのつもりでいる。なので、姉以外のレースウマ娘とはさほど積極的に絡んでいるわけではない。
そうした事情を踏まえるとそういえば横にいるふざけた覇王こと、テイエムオペラオーとアドマイヤリラは、アヤリがオペラオーのレースを見たことはあれどこうして直接会うのは初めてになるはずだったのだ。……可愛い可愛い妹を万が一にも覇王の毒牙にかけるわけにはいかないので、他ならぬアヤベが遠ざけていたのだが。
果たしてそんな覇王を妹に紹介して良いのか否か、真剣に悩んでいるような顔であったが……。
「…………。……まぁ紹介するだけならいいかしら。……リラは直接会うのは初めてだったかしらね。こっちのウマ娘はテイエムオペラオーで───」
だが、決断の末に発されたらしき言葉は他ならぬテイエムオペラオーによって遮られた。
「やぁやぁアヤリさん! 久しぶりだね!」
「は?」
アヤリさん??とアヤベの顔が一気に怪訝なものになる。しかし姉が口を挟む暇もなく、
「オペラオーちゃーん! ひっさしぶりだねー♪ 日本ダービーのすぐ後以来かなっ?」
なんと他ならぬアヤリが、さながらハワイにやってきた観光客にハグをする時のようなフレンドリーさでオペラオーに応えたのだ。
そのまま初対面のはずの二人はハイタッチを───しようとしてアヤリが手がベタベタなのに気付いて遠慮し、それを察したオペラオーがすかさずウェットティッシュを差し出し、アヤリが照れたように笑いながら受け取り手を拭いて───改めて『いぇーい!』とハイタッチをした。
……この間、言葉を介さず、僅か三秒である。
「確かにそれぐらいだね! いやぁすまない! 本当はアヤリさんも併走練習に誘いたかったのだが、中々時間が合わず……!」
「いいんだよ! オペラオーちゃんは今クラシックで大忙しだしっ! それに私はオペラオーちゃんと併走するにはまだペーペーだし……」
「そんなことはないさ! 自主練習を端から見ていたが、アヤリさんの潜在能力は……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
そのまま盛り上がりかけていたアヤリとオペラオーの会話だったが、それは珍しく声を荒げたアヤベによって遮られた。
「り、リラっ! あなたいつからオペラオーと……っていうか『アヤリさん』って、いつ、オペラオーとっ、いっ、いつから、知り合いに、そんな呼び方───!?」
それまで地球に迫る隕石を観測してしまったように固まっていたアヤベだったが、急に体を動かしたかと思うとアヤリの肩を掴んで激しく何度も揺すった。いつものクールビューティーな雰囲気は欠片もなく、完全に取り乱してしまっている。
……無理もないだろうか。彼女の知る限りでは関わりがなかったはずの、現在進行形でウザ絡みされ、自分とはどうあっても相容れない相容れたくないふざけた覇王と、可愛い妹が目の前で息ピッタリのやり取りをしていたのだから。
いったいなぜ。どうして。
様々な言葉がアヤベの脳を回る。
「あうっ、あうっ……お、お姉ちゃん視界が揺れる……! そ、そのっ、お姉ちゃんが1着取った日本ダービーが終わった後っ、あうっ、私のお姉ちゃんのっ、ライバルを私に無許可で名乗りやがったのが許せっ、あうっ、なくて気に入らなかっ、から、ちょっと『お話』して
「そ、そんな……!」
あまりに揺すられ過ぎてアヤリが顔を青くして座り込むのと、事の流れを理解したアヤベが妹から手を離して頭を抱えるのはほぼ同時だった。
「あっ、アヤリさん大丈夫っ!?」
「うぷっ……だ、大丈夫だよライスちゃん……。お姉ちゃん、私確か言ったと思うよ ?お姉ちゃんが日本ダービー勝ったのを祝った後に、『オペラオーとお話しに行くもりだー』って」
「言ってたような……完全に失念していた……!」
「はーはっはっはっ! アヤリさんがそんな考えに至ってくれたのはボクにとって間違いなく正解だったよ! お陰で、ボクはアヤリさんという新たな共演相手の候補を見つけることができたのだからね!」
「ふふっ、覇王サマにそう言ってもらえるのは光栄の極みだねっ!……さすれば、私がデビューした暁には、是非とも私と一曲踊って欲しいな覇王サマっ♪」
「もちろんさ! 楽しみにしているよアヤリさん!」
「あーはっはっはっ!!」
「はーはっはっはっ!!」
「ああ……リラがオペラオーに……! この二人に関係ができてしまうなんて……!」
今にも肩を組みかねない勢いで共に笑うアヤリとオペラオーの前で、アヤベはまるで恋人の死亡シーンでも見た後のように項垂れていた。
ライスシャワーとハルウララが心配して傍らにやって来ているのも気づいていないようである……。
「……それで、アヤリさんたちはここで何をしていたんだい?」
「あーえっとねオペラオーちゃん、実はかくかくしかじかで……」
それらのやり取りがようやく落ち着きだしたところで、オペラオーとアヤベはこの密会の概要を説明された。
「なるほど! 中々面白いことをやっているじゃないかアヤリさん!」
「でしょー!? まぁ、発案者はライスちゃんなんだけどね。せっかくだから、お姉ちゃんとオペラオーちゃんも作ってあげてくれないかな?サンドイッチ!」
まだ材料自体は残ってるし、というアヤリの提案に、オペラオーは楽しそうに笑い、アヤベは困ったように眉根を寄せた。
「いいじゃないか! 覇王のサンドイッチを食べれば、トップロードさんはたちまち感動にむせび泣くだろうしね!」
「私は……遠慮しとくわ」
「えーっ!なんでよお姉ちゃん!お姉ちゃんサンドイッチ作るの手慣れてるのに!」
「……一応、このクラシックにおいて私とトップロードさんは敵同士なのよ?それに前回の日本ダービーは私がトップロードさんを下した形だし……。気まずいから……」
「あー……確かに、それもそう、なのかな……?」
姉の言うことにも一理あると感じたためか、アヤリは珍しく大人しく引き下がった。
そしてアヤリが引き下がった分の距離を、一気にオペラオーが詰めていく。
「心配は無用さ! ではここはボクがアヤベさんの分も盛り上げようじゃないか! 覇王の手捌きを見せてあげるよ!」
「おー! オペラオーちゃんホント!? 楽しみー!」
「はーはっはっはっ! アヤリさんの期待には応えてみせるとも!」
「…………」
再び二人して笑いながら材料が置かれている机へと戻っていく二人に、アドマイヤベガも再び頭を抱えているようだった。
その後ろ姿には、目を離せば今にも真っ白になってしまいそうな哀愁がある。
「……やっぱり参加するべきかしら。どさくさに紛れてリラの頭を後ろから殴れば、ぎりぎりオペラオーの記憶が飛んで関係のリセットに成功するかしら……?」
ほぼキャラ崩壊気味なことをボソボソと呟くアヤベ。
「あっ……あのっ……アドマイヤベガ、さんっ!」
「……ん」
そんな彼女のウマ耳に、不意にライスシャワーの声がかかった。そこで初めてライスシャワーの存在を認識したようにアドマイヤベガは声を上げる。
アドマイヤベガとライスシャワーはあまり関係が深くはない。そんな人物の前で情けない無防備な姿を晒すわけにはいかないと思ったのか、アドマイヤベガは素直に顔を上げる。
「ライスシャワー……さん。何かしら?」
「え、えっとっ、その……」
真正面から見つめられて少し萎縮してしまったのか、途端にしどろもどろになるライスシャワー。
だが、やがて勇気を振り絞ったように声を上げた。
「そ、そのっ……あまり、気にしなくていいと思いますっ!」
「……え?」
「い、今はオペラオーさんと一緒にいますけど……アヤリさんが一番好きなのは、アドマイヤベガさんだと思いますからっ!」
「……んん?」
予想していたのとは別方面の言葉を何やら言い聞かせるように言われて、アドマイヤベガの耳の横にハテナマークが浮かぶ。
が、ライスシャワーは止まらず、
「だっ、だから、あまり気にしなくて大丈夫だと……!アドマイヤベガさんはアヤリさんの『お姉さま』だから……!それにそのっ、アヤリさんってアドマイヤベガさんの話をよくしてますし……!」
「……あぁ」
そのあたりでようやくアヤベはライスシャワーの言わんとしてることが理解できてきた。
……どうやらライスシャワーはアドマイヤベガの落ち込みぶりを『妹が他のウマ娘に懐いたことによる嫉妬』だとズレて解釈しているらしい。……いや、それはそれで間違ってないのだけれど。
ともかく、彼女に気を遣わせてしまったらしい。どこか最近関係ができ始めたオペラオーの後ろにいる渦巻き模様のウマ娘を連想したアヤベは、内心で深く反省した。
「だから、あの、その……」
「……えぇ。大丈夫よ、ライスさん」
「え?」
わたわたと言葉を紡ごうとするライスシャワーを落ち着かせるようにアヤベは小さく笑みを作る。
ライスシャワーは少しの間キョトンとしていたが……気持ちは通じてくれたらしく「よ、よかった……」と安心したような顔になってくれた。
「はーはっはっはっ! 見るがいいさアヤリさん! これが覇王の作るサンドイッチだ!!」
「ふおおお!? さ、サンドイッチが残像を作っているぅ……!? こ、こんなサンドイッチを三次元に創り出すなんて、さすがはオペラオーちゃん……!!」
「わーい! サンドイッチがいっぱいだよー♪」
「ライスちゃんも! 早く近くで見てみてって!」
「あっ、う、うん! 今行くから!」
そうして、ウマ娘たちの輪へと入っていくライスシャワーの姿を……そして、そんな輪の中で元気一杯にはしゃぐアヤリの姿を見ていると……不思議と、まぁこれはこれでいいか、とアヤベは思えたのだった。
「あ、それとお姉ちゃん! 私が作ったサンドイッチの名前はちゃんと『BCT&野菜ミックスサンド』にしといたから! いつかお姉ちゃんが『BLT&野菜ミックスサンド』を作っても大丈夫だからねー!!」
「……なんの話??」
翌日。
アヤリ、オペラオー、ハルウララ、ライスシャワーたちによって大量に作られたサンドイッチは、トレーニングに励むナリタトップロードの朝ご飯とお昼ご飯になった。
突如手渡されたサンドイッチにトップロードは当初戸惑ったようだが、彼女らの意図を理解すると……どこか嬉しそうに、肩の荷が下りたように笑い、脚を止めてゆっくりとサンドイッチを食べ始めたのだった。
……ちなみに。
当日になってアヤリたちが改めてサンドイッチの数を数え直してみると……何故か彼女らが作った覚えのない、やたらと形が綺麗で具のバランスも完璧であるサンドイッチが一つ増えていたのだが……それはまた別のお話である。
菊花賞は、もうすぐそこだ。