アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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リアルが忙しく、前回の投稿から非常に間が空いてしまい誠に申し訳ありませんでした。
あと前回バレンタインの話も書いてみたいということを言っていたのですが、内容に詰まってしまい……ボツになるかもう少し後になるかもです。

そんなのでもよければ、よろしくお願いいたします。





ジェミニの朝

 

 

『あなただったの……?走りたかったのも。勝ちたかったのも。たのしかったのも。……さびしいのも。あなた、だったの?ねえ───』

 

『…………いつから、だろう?…………いつから、私は。……使命を忘れて。罪過を忘れて。自分が、なぜ生かされているのかさえも、忘れて。満足のために。我欲のために。愉楽のために───そんなもののために!「私自身」なんかのために!生きてしまって、いたの……?』

 

『それができないって言うのなら。せめて、私と同じところまで堕ちて来てよ、お姉ちゃん』

 

『……本当に、楽しかったんだよ、お姉ちゃん』

 

『これからは、思うままに生きて。それで、めいっぱい幸せになって!』

 

『大好きな、私の───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリリリ

 

 

 部屋に大きな電子音が鳴り響いた。

 そのけたたましい音で、アドマイヤベガの意識は海から引っ張り上げられる。重い目蓋を開けると、暗い天井が視界に入った。

 この間にも電子音は続いている。低血圧気味の体が怠さを訴えてくるが……同じくこの部屋にいるルームメイト……いや、身内のためにもあまり音を長引かせるわけにはいかない。

 芋虫のようながらも目一杯腕を伸ばして、机の上に置いていたスマホを手に取る。画面をタップすると、ようやく音は止まった。

 その流れで意識をハッキリとさせると、ウマ娘……アドマイヤベガはその場で上体を起こし大きく伸びをした。

 

「…………」

 

 なにやら、おかしな夢を見たような気がする。昔にも同じ夢を見たような……なんだか不思議な夢。

 しかし、内容を思い出そうとしてもそれは既に『不思議な夢』という形でしか頭の中には残っておらず……すぐに意識から霧散した。

 

 ともかく。

 伸びをして背骨と胸骨がポキポキと鳴ったのを聞き、ついでに首の骨も何本か鳴らしてから、アヤベはふわふわの毛布を除けてベッドから下りる。

 ひんやりとした床の感触。それをふわふわのスリッパ越しに感じながら、リモコンで部屋の明かりをつける。

 

「っ…………」

 

 視界がチカチカして思わず目を伏せる。まだカーテンは開けれていないが、きっと今日も良い天気だろう。

 

 

「んんっ……。ぐごぉ……ぐごぉ……」

 

 

 ……そんなアヤベの横で。

 アラームの騒音を喰らい、更に部屋の明かりを喰らっても、一瞬怯んだだけでまた爆睡を続ける女が一人。

 ルームメイトにして、自分の大事な身内。ため息を吐きながら、アヤベはそんなウマ娘の顔を覗き込んだ。

 まるで自分の顔をコピーしてそのまま貼り付けたようにそっくりな寝顔。その顔を、アヤベは軽く叩く。

 

 

「リラ。……リラ」

 

「んん……んぐっ……」

 

「起きなさいリラ。もう朝よ」

 

「んんっ……うへへぇ……もう食べられないよぉ……」

 

「……またベタな寝言ね」

 

「食べられないぃ……もう食べられないよぉ……あっ待ってください行かないで……大丈夫ですっ、弊社なら、弊社なら三日で食べきることができますっ……!」

 

「……なんの夢見てるの?」

 

 

 目は閉じているはずなのに、コロコロと表情が変わっていることがわかる。

 寝ている間ですら表情筋が忙しいウマ娘……そんなアドマイヤベガの大事な妹であるアドマイヤリラの姿に、アヤベは呆れの成分が8割ほどの苦笑が漏れる。

 

 ……まったく彼女は、本当に。

 

 二卵性双生児で、仮にも自分と酷似した遺伝子と血を引いているはずなのに、何故こうも正反対なのだろう。

 

「……もう」

 

 まぁそんなところが可愛いのだけれど。

 口の中だけで呟きながら、アヤベはアヤリの口の端から垂れているヨダレをハンカチで拭ってやった。ついでに頭と枕とに挟まれてペショリと潰れている大きなウマ耳も伸ばしてやる。

 一瞬でもアヤベが触れたことで夢に影響を及ぼしたのか、アヤリは「うへへぇ……あっそうなんです私たち姉妹なんですぅ……よく似てるでしょうへへぇ……」なんてニヤニヤしていた。

 

「…………」

 

 その顔を密かに網膜に焼き付けてから、アヤベはもう一度伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ視界には薄い膜のようなものがかかっている。小さくあくびをしながらアヤベは洗面台の前へとやってきた。

 アヤリは相変わらず「ああ待ってください係長……こちらを見れば考えも変わるはずですっ……」とかバカなことを言っている。

 一応彼女を起こさないよう(心配する必要はないかと思うが)気を付けながら、蛇口を捻り水を出す。

 

 三回ほど顔に冷水をぶつける。

 脳が驚いて、視界から膜が取れたのを確認してから、顔を拭いて一旦洗面所を後にする。

 

「ああ待って、待ってくださいっ……今上司のオペラオーちゃんに掛け合いますので……あっお姉ちゃんやめてぇ……それドロップやない……ドロップキックやぁ……むにゃむにゃ」

 

 すれ違い様にバカな寝言を言うアヤリを無視して、ハンガーに掛けられているトレセン制服を取る。

 ここで着替えてから再び洗面所へ戻って洗顔諸々をするつもり。

 ……二度手間ではないかと思うが、しかし朝はまずアレをしないとどうにも目が覚めない。そして目が覚めなければ何百回と繰り返した朝の支度だろうとミスをしてしまう。

 だからアヤベは起床後はまず顔を洗う行程から始めることにしているのだ。

 

 制服に袖を通し襟元を正して。

 いつも通りのルーティンの、最初の一歩を滞りなく進められてることに、アヤベは密かに満足感のようなものを感じて───

 

 

「……これ。リラの方の制服じゃない」

 

 

 ……どうやら、まだ頭は寝ぼけているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 制服を選び直して着直して、洗面所へとトンボ返りする。

 またアヤリを起こさない程度の水量を意識して水を出し、もう一度だけあくびを。

 アヤリがマヤノトップガンやヒシミラクルに勧められて買ったという洗顔料を手につけて泡立てつつ、鏡で寝癖の位置を確認する。

 それから丁寧に顔を洗っていき、それが済んだら今度は櫛を取り出す。

 一般的な女子高生……例えば生徒会副会長のエアグルーヴなんかは、洗顔の後にメイクもしていくらしいが、アヤベとアヤリは特にメイクはしないタイプなのでそのための時間も道具も必要ない。

 コメカミあたりの乱れてる髪を整え、頭頂部のハネている髪を櫛で黙らせていく。

 整え終えたら、今度は置かれていた折り畳みスツールを広げて座り、櫛を別の専用の物に取り替えて尻尾の手入れをしていく。

 幼少期からアヤリの分も手入れしてやることが多かったためか、その手付きは慣れており淀み無いものであった。

 

「…………」

 

 尻尾についていた埃を払いながら、膝に乗せたスマホを点ける。未だに寝坊助なアヤリと違って、時計の針はいつも通り真面目に働いている。

 一般的なトレセン学園生の朝食の時間までは、もう十五分ほどしかない。

 

「…………」

 

 少し手を早める。

 朝の身支度は入念かつ早急に。きっとこの後、もう自分が使える時間はないだろうから。

 尻尾の手入れを終えて一息つくと、アヤベは櫛を置いたまま、スツールを置いたまま洗面所を再び後にした。

 アドマイヤベガが起きてからこの間、約十二分。

 彼女の朝の支度はこれで終わった。

 

 女子高生としてはかなり早い方だが、彼女の中での『姉』としては少し遅い。

 

 ほんの少し反省しそうになって、いや元はと言えばあの娘がいつまで経っても時間通りに起きないからなんじゃないかと引っ掛かりつつ、それでもやっぱりもっと時間を縮められたかと思いながらアドマイヤリラの元に行く。

 アヤリはまたまたヨダレを垂らしながら、

 

「うへへ……食べた……食べきりましたよぉ……契約したまんま四日でぇ……弊社すごいでしょう……。えへへ……もう食べられないよぉ……」

 

 相変わらず謎の寝言を発している。

 腕をどことなくネットで有名な『コロンビア』のような形にし、片足も毛布からはみ出させているその姿は、お世辞にも眠り姫とは程遠い。

 もし彼女を尊敬していたり好いているような……それこそメイショウドトウやマヤノトップガンなんかが見れば一発で幻滅するような姿だろう。

 

 ……まぁ、アヤベの場合は姉としてそんな姿は見慣れているし、そんなところも全部ひっくるめて大切な妹と見ているのだが。

 幼稚園の先生になったような気分でベッドの高さに合わせて中腰になり、もう一度アヤリの頬を優しく叩く。

 

 

「リラ。ほら、いい加減に起きなさい」

 

「んんっ、やめてくださいよぉ……ちゃんと仕事は果たして……え?当初の契約では三日だった?いやその、そこは不手際で少し……一日ぐらい多めに見てくれませんか……?ほらその、お姉ちゃんもそうだそうだと言ってて……」

 

 

 アヤベははため息を吐いて、頬をグリグリと指で突いてみる。……アヤリの頬はモチモチで、マシュマロのようだった。

 

 

「いつまで妙な夢見てるのよ。早く起きなさいってば、

 私まで遅れるでしょ」

 

「うう、いじわるぅ……一日ぐらい許して……え?……お姉ちゃんを差し出せば?今回は許してくれる??」

 

 

 ピクリと、アヤベのウマ耳が揺れた。なんだか夢が変な方向(前からだが)に向かいだした。

 

 

「お、お姉ちゃんがドレス姿でうまぴょい伝説を踊ってくれたら許すって……!?そ、そんなのダメに決まってるじゃん……!し、しかもそのドレス、袖ないし、太股も……!あーダメダメ、エッチすぎますぅ……!」

 

「なにその男子中学生みたいな基準……」

 

「え、お姉ちゃん……?私は良いからって……で、でも……。ぐぎぎ……でもこの営業は達成しないと会社がぁ……オペラオーちゃんやドトウちゃんトップロードさんの生活がぁ……な、泣いてバショクを斬るしか……?」

 

「…………」

 

 

 む、とアヤベの頬が平時の一割増しぐらいで膨らんだ。

 よくわからないが、どうもアヤリの夢はなにやら自分を売る方向で話が進みかけているらしい。

 

 ……少し気に入らない。いや、自分を売ろうとしていることにではない。むしろ自分を犠牲にして妹が助かるなら、こんな自分などいくらでも差し出すつもりだ。

 

 だが、そのお陰で助かるウマ娘の中にドトウやトップロードはともかく、オペラオーがいることがなんだか気に入らない。

 アヤリの中で……たとえドトウとトップロードをプラスしてのものだとしても、オペラオーと自分とを天秤にかけてオペラオーがやや優勢になっているというのが、なんとなく気に入らなかった。

 少し考えた後……アヤベはなにかを決断した顔になる。意味もないのになんとなく周りを気にする素振りをしてから、軽く咳払いをしつつアヤリのウマ耳に顔を近づけた。

 そして、

 

 

「……リラ。あなた、姉よりもオペラオーを取るっていうの?」

 

 

 ぽそぽそと耳元で囁き、夢への介入を試みた。

 効果は覿面だったようで、アヤリは一瞬で顔を強張らせる。

 

「う……そ、そんなこと言わないでよお姉ちゃあん……わ、私だって代われるなら私がやるんだけど……あ、相手はどうしてもお姉ちゃんが良いって……」

 

「……オペラオーにでもやらせればいいじゃない。あなたが上手く口八丁で誤魔化してよ」

 

「できるかなぁ……?で、でもお姉ちゃんのためだし……や、やってみるしかないかぁ……むにゃむにゃ……」

 

 よし。

 アヤベは後ろ手で密かにガッツポーズを作った。

 勝った。友達としての情よりも、姉妹としての情の方が勝った。

 

「あ、あのう……うまぴょい伝説を踊るウマ娘ですが……やっぱりオペラオーちゃんの方が……むにゃ、良いんじゃないでしょうか……!?お、オペラオーちゃんの方がこういうのは上手いですし……適任ですし……!」

 

(そう、それでいいのよ)

 

「……え?一番綺麗なのはお姉ちゃん?い、いえそれは確かにそうですけど、それとこれとは別というか……。……きっと美しいよ?そ、そんなのあなたと話すまでもないというか……うまぴょい伝説を踊るお姉ちゃんなんて約束された美しさですけどぉ……」

 

 なにやら歯軋りしているような表情を浮かべるアヤリ。

 そして、

 

 

「……お姉ちゃんがあのドレスでうまぴょい伝説を踊る姿を見たくないか?そ、それはぁ……見たいに決まってます、けど……。はい……はい、はい……うん……わかりました。……じゃあお姉ちゃん。……ごめん、うまぴょい伝説踊って?」

 

「丸め込まれてるじゃないのよ」

 

「お゛ぶう゛ぅ゛っ!!??」

 

 

 めでたく姉妹の情によって敗北したあたりで、アヤベは思わず握り拳をアヤリのお腹に振り下ろした。

 メキョッと良い音が鳴った。寝耳に水ならぬ寝腹に握り拳が来て、女の子が出してはいけない声と共にアヤリの意識は急速に覚醒を促された。

 

 

「げほぉっ、うえぼっ……て、てきしゅうっ!?このかいごーが嗅ぎ付けられた!?どこから!?うげん後方!?さんじの方向!?弾幕薄いよっ!?」

 

 

 陸に上がった魚のように跳ねながら目を白黒させるアヤリ。

 だが、数秒経ってここが姉妹の部屋であること、そして目の前にドレスなどではなく制服を着たアヤベがいるのに気づくと……途端に白黒の目を丸くさせた。

 

「あ、あれっ……??ここは??私がさっきまで営業してたエーテルブラックナイトの使者は??この営業を成功させないと宇宙の法則が乱れるんじゃあ……??」

 

「本当になんの夢を見てたのよあなた……」

 

 あまりにアホすぎる発言に怒りが急速に引っ込み代わりに呆れが出てきた。

 

「……まぁ、これで目も覚めたでしょ。ほら、早く支度しなさい」

 

「……あっ、さっきまでのって夢かぁ……。あー良かった……あんなドレスでうまぴょい伝説を踊るお姉ちゃんはいなかったんだね……。……ていうか、うぷっ、なんかやたらとお腹が痛いんだけど……?」

 

「知らないわよ。そのエーテルブラックナイトの使者から殴られたんじゃないの?」

 

「一戦交えた覚えはないんだけどなぁ……?へ、変な寝方したのかな……」

 

 不思議そうに言っていたが、その直後にアドマイヤリラは大きな大きなあくびをした。

 

「ふわぁ……まぁいいや。寝直そ……おやすみ……」

 

 丸くしていた目を急速に閉じると、アヤリは映像を逆再生したようにベッドで横になる。

 ……どうやらアヤベの制裁で急速に覚醒こそしたが、脳はまだ半分以上おねむらしい。

 

「やめなさい。ほら、早く顔洗って着替えなさい。朝食の時間までもう十分しかないわよ」

 

 アヤリの腕を掴んでお芋のようにベッドから引っこ抜く。

「ふえぇーー」とか言って引っこ抜かれたアヤリは、足が非常に覚束無いながらもなんとか立ち上がった。

 そのままアヤリを引っ張り洗面所へと連れていく。寝ぼけてるというのもあるだろうが、なにより姉のことを信頼しきっているのか彼女は抵抗もせず引っ張られていった。

 そのまま慣れた手付きでアヤベはアヤリをスツールへと座らせると、

 

 

「ほら。まずは顔を洗いなさい。水はもう出てるから」

 

「あーい……」

 

「洗顔料はそこにあるから」

 

「うい……」

 

 

 さながら床屋での一幕のようである。

 バシャバシャとノロマな動きで顔を洗う妹の後ろで、アヤベは自分も使った寝癖直しウォーターを妹の髪にかけ櫛で整えていく。

 

「……あらいおわった」

 

「ん。はいタオル」

 

「ん~……」

 

 リラが洗い終わると同時に、アヤベは櫛をタオルに持ち変えてそれをアヤリに渡し、そしてすぐに尻尾用の櫛を別で持つというかなり器用なことをしていた。

 ゴシゴシと顔を拭いていくアヤリの後ろで、彼女の尻尾を細心の注意を払いつつ、速やかに手入れしていくアヤベ。

 その手付きや手早さは、もはや一種のプロフェッショナル、熟練の仕立て職人のようだった。

 

 

「……よし。こんなものかしら。……スッキリした?」

 

「すっきりー……した」

 

「……まだ水滴が残ってるじゃないのもう……タオル貸しなさい」

 

「ふえんっ。……うえー、おねえちゃんにタオル盗られた……ふがもっ」

 

「これで拭き終わって……はいっ、次はこっち来なさい」

 

「んゆぅ……」

 

 

 妹の手を引いて、今度は(間違えて着てしまい脱いだ時から丁寧に畳んでおいた)制服の前へと連れてくる。

 

 

「はいリラ、バンザイしなさい。バンザイ」

 

「ばんざーい……」

 

「よい、しょっと」

 

「ふもごっ……。うへへ、ぬげたぁ」

 

「はい制服」

 

「ふがもっ」

 

「悪いけどリボンは自分で留めなさいよ。はいスカートはこっち」

 

「もがもが……うんん……ありあとおねえちゃん……ふわぁ~……」

 

 

 何度目かの大きなあくび。……朝が弱いにも程があるさっきまでの動きだが。

 しかし、大体このあたりでアヤリも本格的に目覚めてきて、受け答えもカタチになってくるはずである。

 ───実際に、あくびを終えたアヤリが口をモニュモニュとさせて、それから数秒ほど経つと。

 

 突如、ピコンとスイッチが入ったようにアヤリは目を見開いた。

 

 

「んー……うんん……んんっ!?うわーーっ、朝だーーっ!不肖アドマイヤリラっ、たった今目覚めたザムライですよーっと!!」

 

 

 アドマイヤリラはその場で勢い良くジャンプをした。その拍子にまだ上手く履けていなかったスカート(とスパッツ)の穴からシュルン!と元気良く尻尾が出てくる。

 

「あさあさあさっ!今日も良い天気っ!絶好のオペラオーちゃんのオペラ日和っ!お姉ちゃんもおはようっ!」

 

 瞳の中に星を輝かせ、何かしらのモードが切り替わったように騒がしくなり始める。目が覚めたのだと一瞬でわかる仕草。

 それを見てアヤベは呆れたように腰に手を当てた。

 ……ここまでが、アドマイヤリラの朝なのだ。

 

「おはよう。一応まだ朝ではあるんだからあまり大きな声を出すのはやめなさい。……あと、オペラオーのオペラ日和なんてものはこの世に存在しないから」

 

「あっはははは!!さすがお姉ちゃん!!今日もナイスツッコミ!!」

 

 朝に非常に弱くて、遅寝遅起き。

 眠いときは子犬のようにコテンと眠ってしまうくせに、一度目覚めれば子犬のようにキャンキャンと疲れ知らずではしゃいでいくのだ。

 

 ……そんなアドマイヤリラのエンジンがかかるまで、彼女を介護してやる。

 それが昔から変わらない、アドマイヤベガの朝の役目なのだ。

 

 

「おお!?なんだか知らないけど顔がスッキリしてるし制服ももう着られてる!」

 

「そりゃあ、私が着させたからね」

 

「さっすがお姉ちゃん!いつもありがとっ!」

 

「もう……将来一人暮らしすることになったらどうするのよ……」

 

 

 ジト目になってボヤくアヤベ。……ちなみにこのボヤきも、なんだかんだで何十回目ぐらいである。

 

 

「さてさーてっ!それでは朝ごっはん~♪……って!もう朝ご飯の時間まで五分もないじゃん!?」

 

「誰のせいでそうなってると思ってるのよ……」

 

「こうしちゃいられないよ!ほらお姉ちゃんっ、早く行こっ!朝ごはん食べなきゃイクサはできないよっ!」

 

「ちょっと待ちなさいリラっ。あなたまだ髪の毛結べてないでしょ。それに耳カバーもっ」

 

 

 言うや否や、絶賛育ち盛り真っ盛りのアヤリは部屋を飛び出した。その後ろを、アヤベはスピードを合わせながら追従していく。

 追従しながら耳カバーを急いで被せ、マフラーのようになびく髪の毛を器用に結んでいく。

 

 道中、何人かのウマ娘とすれ違ったが……彼女らは一様に「なんだまたあの姉妹か」というような温かい目をしていた。

 

 そして髪も結び終わって───今度こそアヤリの朝の支度も完了した辺りで、彼女はアドマイヤベガの方を振り返ると。

 

 今までと変わりないように、にぱっと笑った。

 

 

「じゃあ、今日も一日頑張ろっか!お姉ちゃん!」

 

 

 その笑顔を見て。

 

 ようやくアヤベの方のエンジンも、掛かったような気がした。

 

 

「……今日は、せめて昨日よりは苦労をかけないでよ」

 

「えへへっ、善処しますっ!」

 

「善処じゃなくて……もう」

 

「さぁて!今日の朝食はなにかな~♪美味しそうなのあったらお姉ちゃんにもあげるからさっ!」

 

「……別にいいわよ。あなたの分はあなたが食べなさい」

 

 

 

 姉妹の朝は、こうして始まる。

 

 

 

 

 

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