アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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相変わらず前回の投稿から非常に遅れてしまい誠に申し訳ありません。少しいつもの話より長めになってしまっています。
また、今回で二回目のファン感謝祭の話となっていますが、あまり細かいことは気にしない方向でお願いします。


今回は、事前にヴィブロスのファン感謝祭のイベントを見ておいた方が良いかもしれません。





スーパー妹大戦

 

 

 2XXX年。その日、その時、その時間。

 トレセン学園にて、とある『祭り』が起きようとしていた。

 

 それはトレセン学園丸ごと飲み込むほどの莫大なもの。

 幾多の者たちによる、血湧き肉踊る───いや、妹湧き妹踊る大決戦……!

 

 

 そう、

 

 

「『俺の私の妹選手権』……!ついにこの日が来たぁ!!今日こそっ、私がトレセン学園最強の妹だと証明してみせるよっ!!」

 

「リラ。すごく恥ずかしいから仁王立ちでバカなことを叫ばないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の私の妹選手権。

 それは、トレセン学園のファン感謝祭において不定期に開催される競技だ。

 多種多様な個性を持つトレセン学園のウマ娘たち。その中でも『妹』という個性を持ったウマ娘ばかりを集めて、誰がナンバーワン妹となるかを競うというシンプルな競技である。競技と言ったら競技である。

 妹たちの妹たちによる妹たちのための、妹で妹を洗うこの決戦を勝ち抜くために、トレセン学園の妹ウマ娘たちは日々キバを研いでいるのだ……。

 

 

「ふっふっふ……ふふふのふ……!ついにこの日が来たよ!『俺の私の妹選手権』……!今日こそっ、私がトレセン学園最強の妹だと証明してみせるっ!!」

 

「ねぇリラ、そんな恥ずかしいこと二回も言わないで欲しいんだけど」

 

「ああ心配しないでお姉ちゃん。さっきのはタイトルコール的なアレだから。物語的にはノーカンだよ」

 

「タイトルコール……?物語……?」

 

 アドマイヤリラの訳のわからない言い分に、彼女の姉であるアドマイヤベガは幾多のハテナマークを浮かべていた。

 しかしアドマイヤリラは「まぁそれよりもさっ!」とそれを華麗に無視し、

 

「今日は私が待ちに待ったファン感謝祭!『俺の私の妹選手権』の日っ!!絶対勝って、トレセン学園ナンバーワン妹の称号を手に入れてやるんだからっ!!見ててよお姉ちゃん!!」

 

「……あんまり見たいと思うものではないのだけれど」

 

 瞳をメラメラと燃やすアヤリに対しアヤベは呆れたようにため息を吐いた。

 

「……大体なんなのよその競技……というか、競技なの……?一応数年ほどトレセンにいるけど、ファン感謝祭にそんな競技あったなんて初耳よ」

 

「初耳だろうが既耳だろうがどうでも良いよ!この大会の優勝者にはナンバーワン妹の称号と共に、駅前のケーキ屋さんバイキングチケット二枚(姉妹限定)がもらえるからね!!なんとしても買って、お姉ちゃんと一緒に行くんだから!!」

 

「ケーキ屋さん……ああ、あの。」

 

 アヤベが脳内で検索すると一つの店が思い出される。

 確かウマ娘が店長をしているそれなりに大きなケーキ屋だ。数十年前からオープンしており、トレセンにおける祝い事などでも時折注文されることがある。

 

 ウマ娘といえども女の子。そして女の子は基本甘いものが好き。よってウマ娘たちにとっても機会があるなら是非行きたい店なのだ。バイキングなら尚更である。

 アヤリ自身も、用事などで駅前を通る度にヨダレを垂らしながら見つめていた(そしてその度にアヤベに襟を引っ張られた)。

 それを踏まえて会場を見回してみれば、アヤリだけでなく他の妹ウマ娘たちも『あそこのキャロットケーキすっごく美味しいもんねー!!』とか『妹よー!私をスイーツ店に連れてってー!』『合点シスター!』とか言い合っている。

 ……なるほど。これはアヤリがやる気を出すのもわからなくはない。

 ……いやしかし、確かアヤリは二週間ぐらい前に『い、いや~私も更に筋肉がついたかな~。あっはっはっ、また体重が増えちゃったよ~』とひきつった笑みを浮かべながら体重計に乗っていたような……。まだ懲りてないのかまだ食う気なのかこの妹は。

 

 ……とまぁ色々と思うことはあるが、

 

「……はぁ。……自信満々なのは良いけど、勝算はあるのリラ?ライバルとかは大丈夫なの?」

 

 ここまで来た以上、今さら出走取り消しはできないだろうしアヤリも満足しないだろうということで、一先ずアヤベは場の流れに従うことにした。いざとなれば自分が強制退場させればいいし。

 

「ふっふっふ……大丈夫だってお姉ちゃん。敵を知り己を知れば百戦危うからず……敵戦力の把握も抜かりは無いよ」

 

 アヤベの言葉に答えながら、アヤリは懐から謎の装置を取り出すと、不敵な笑みを浮かべながら装着した。何やら片眼鏡のような形状をしており、眼鏡で言うテンプル(耳に掛ける)部分を、ニンゲンならば右耳がある箇所に謎の原理でくっ付けて固定している。

 アヤリがカンペ無しで『敵を知り己を知れば百戦危うからず』を言えたことに半分本気で驚きながら、

 

「……リラ、その装置は?」

 

「え?なにって……スカウターだけど?」

 

「そこはもうちょっと濁しなさいよ……それこそシネマガンとか……」

 

 アヤベの顔が一気にバカらしいものになる。

 

「うーんと……なんかね、今朝に親切なウマ娘さんがくれたんだよ!名前は確か……あぐねすたきおん、さんだったかな?なんとねっ、『後で運用データさえ取らせてもらえればお代は結構だよ』だって!太っ腹だよねー!!」

 

「そうね。とりあえずこの大会が終わったら私はタキオンさんと話をするから」

 

 一瞬で氷点下まで声の温度を下げるアヤベ。その目は、さながら不埒なニンゲンから子猫を守る親猫のソレだった。

 ……が、そんなことも構わずアヤリは右目の前に掛かっている緑色のレンズ部分のスイッチを入れた。……姉の心妹知らずである。

 

「ではさっそくこのスカウターを使って……ここにいるウマ娘たちの戦闘力を測定していくよ!」

 

「戦闘力ってなによ……」

 

 呆れるアヤベを余所に、装置は前方にいる妹ウマ娘の一人を自動でロックオンすると、二秒ほど『ジーー……』と機械音を響かせた後に『ピピピピピピ』という電子音と共にディスプレイ上にデジタル数字を映し出していく。

 

「お、結果が出た。あのウマ娘はっと……妹力、たったの480か……。ふっ、まだまだだねあの娘」

 

「突然謎の単位を出さないで欲しいんだけど……。なによ『妹力』って……」

 

「なにって……対象の妹ウマ娘が持っている『妹としての強さ』を数値にしたものだけど。……えっ、お姉ちゃん知らないの!?」

 

「知らなくても人生に何の影響も及ぼさなさそうな数値ね」

 

 本気で驚いたような顔をするアヤリに、アヤベはもはや呆れを通り越して『もう勝手にしてくれ』というような表情になっていた。

 

「はー、お姉ちゃんおっくれてるなぁ……。ちなみに目安としては、妹力100の妹が『授業中に寝てたら起こしてもらえる』ぐらい、妹力500は『ワガママを五割ぐらいの確率で聞いてもらえる』、妹力1000は『何かあったらすぐに守ってもらえる』って感じだね」

 

「全然基準がわからないんだけど……」

 

「むむっ?あっちにいるウマ娘はと……妹力3970!まずまずの数値だね……!」

 

「随分インフレが早いわね」

 

「『雪見だいふく二個もらえる』ぐらいの妹力だよ……!油断ならない……!」

 

「そう。強そうね」

 

 完全にアヤベが投げ槍な対応になりだした時。

 

 突如、アヤリが装着していたスカウターが目覚まし時計のようなけたたましい音を立て始めた。

 

「むむむむっ?」

 

「ちょっ、なによこの音。壊れたんじゃないの?」

 

「いや違うよ……!これはっ、画面端からの凄まじい妹力反応……!?妹力5000……7000……10000!?10000といえば、『公共の場で「お姉ちゃん大好き」と言っても邪険にされない』ほどの妹力……!!そこからまだ上がるっ!?妹力12000……17000……20000……24000……!!」

 

 上昇し続ける数値を冷や汗を垂らしながら読み上げ続けるアヤリ。意識が数字に向いているからか、その時スカウター本体がバチリと音を立てたのにも気づいていないようだった。

 

「……待ちなさいリラ。その装置もしかしてそのまま」

 

「ちょっと黙っててお姉ちゃん!このままだと数値が30000まで行きそうで───」

 

 その瞬間、明らかにスカウターから火花が散った。数値を読み上げるのに必死なアヤリはそれに気づいていない。

 

「っ!」

 

 迷う暇もなくアヤベは妹の元に駆け寄ると、どんな原理でくっ付いてるかもわからないスカウターを無理やり剥ぎ取って、思い切り投げ上げた。

 その一秒後に、数値上昇の負荷に耐えられなくなったスカウターは爆発を起こし、きたねぇ花火となった。

 爆発と飛び散る破片に驚いたのか「うわぁ!?」とアヤリが腰を抜かし、周りのウマ娘たちもなんだなんだと視線を向けてくる。

 

「え、あっ……ば、爆発……?そ、装置が過負荷に耐えられなかったの……?」

 

「そうでしょうね……危なかったわよ本当に……!ちゃんと言うこと聞きなさいよリラ……!」

 

 周りのウマ娘たちに目で『なんでもないです』と告げてから、アヤベはアヤリに外傷がないか確かめていく。

 

 

「う……うわあぁぁぁ~~……!あ、あのまま着けてたら失明待った無しだったよぉ~~……!ありがとうお姉ちゃあん……!……あっ、お、お姉ちゃんはケガとか無い!?」

 

「私は大丈夫。……あなたにも怪我が無かったのなら一先ずは良かったわ。……後でタキオンさんとはしっかり話しておく必要があるけど」

 

 

 どこか笑ってない気がする目をしながら、アヤベはアヤリを安心させるように頭を撫でてやる。ついでに髪に降りかかった破片も払ってやっていた。

 一瞬でも失明の危機が迫ったのは中々に堪えていたらしく、姉の手の感触にアヤリは「んみゅぅ……」と安心したように目を細めていた。

 目を細めながらも、アヤリは顎に手を当て考える。

 

 

「……にしても、あのスカウターが反応してたウマ娘は一体……?あの流れなら間違いなく妹力は30000を越えてただろうし……あれほどの妹力を持つウマ娘なんて、私の知る限りじゃ……ま、まさかあの妹ウマ娘がここに……?」

 

「ふふん、そのまさかだよアヤリさん♪」

 

「その声はっ!?」

 

 

 バッ!とオノマトペが出そうなほど勢い良く振り返るアヤリ。……その勢いのせいで妹の頭に乗せていた手が振り払われてアドマイヤベガが少し……ほんの少し、悲しそうな顔をしていたのだが誰も気づかなかったようだった。

 

 ともかく、そんなアヤリの視線の先にいたのは、

 

 

「どうも~♡ちょー盛り上がってるねこの会場~!」

 

「ヴィブロスさん……!やっぱりあなただったんだ……!」

 

 

 太陽のような笑みを浮かべた甘え上手なウマ娘……ヴィブロスが横ピースをしていた。

 

「……それに、ヴィルシーナさんまで」

 

「ごきげんよう」

 

 次いでのアヤベの言葉通り、ヴィブロスの隣には彼女の姉であるヴィルシーナもいた。

 

 最近目覚ましい活躍を見せている、通称『ヴ三姉妹』……その内の落ち着いてクールな長女と天真爛漫な末妹という、アドマイヤ姉妹と似た組み合わせの二人が揃っていた。

 

 先のアドマイヤベガの言葉を受けて、女王様ことヴィルシーナはその場でお淑やかに一礼する。

 

「お久しぶりですね、『期待の二つ星(ジェミニ)』のお二方。今日も仲睦まじいようで」

 

「……ヴィルシーナさんこそ。今日もヴィブロスさんと仲が良いようだけど、どうしてここに?」

 

『でっへへへ仲睦まじいだなんて~♪そんなことありますよぉ~♪』と引っ付いてくるアヤリを適当にあしらいながら、アヤベが問い掛ける。

『えっへへへでしょでしょ~♡今日も私たち仲良いもんね~♡』とくっ付くヴィブロスににこやかに笑い返しながら、ヴィルシーナは「あら、そんなの決まってるじゃないですか」と指を立てた。

 

「この妹決定戦に、私のかわいいかわいいヴィブロスが出場するからですよ。この会場にいるウマ娘たちの中で一番かわいい妹はヴィブロスとシュヴァルで、優勝はこの二人に決まってますから」

 

「もう~♡お姉ちゃん気が早いってば~♡」

 

「ふふっ、そんなことないわよヴィブロス」

 

「…………」

 

「そういうわけで、二人の晴れ舞台はどれも見逃すわけにはいきませんので」

 

「……そう」

 

 ……錯覚だろうか。

 心なしか『一番かわいい妹』のあたりから、アドマイヤベガの眉がピクリと動いたような気配がする。ヴィルシーナに向ける目も、なんだかいつもより鋭くなったような……。

 

 それを知ってか知らずか、続けてヴィルシーナは小首を傾げる。

 

 

「ですが、意外ですね」

 

「……なにがですか?」

 

「アドマイヤリラさんはともかく、まさかアドマイヤベガさんも来ているだなんて。こういう大会には興味が無いかと思っていましたが」

 

「……興味はないわよ。私はリラの付き添いで来ただけ」

 

「そうですか。でしたら、別にヴィブロスが勝っても問題はありませんね?」

 

「……えぇ、そうね。……ただ」

 

「はい?」

 

「……勝てたらの話だけど」

 

「…………」

 

 

 ……なんだか空気が重い。

 導火線に火が付いたような、そんな雰囲気がある。もしもこの話のジャンルがバトルモノであったなら、二人の背後には竜と虎のイメージ図が見えていたかもしれない。

 

 だが、そんな風に火花を散らす姉たちとは対称的に、

 

 

「えっ……ほ、ホントにヴィブロスさんも出るの……?」

 

「そういうことだよっ!今日はよろしくねアヤリさん♡」

 

「そ、そんな……!ヴィブロスさん、今年は妹力のチャージに集中して、来年から本格参戦だって噂で……!だ、だから私も優勝を確実視してたのに……!」

 

「えへへ~、実はそのチャージが早めに終わったの!お姉ちゃんやシュヴァちのお陰かなっ?だから今年から参加することにしたんだ~!」

 

「こ、こんなの予想外すぎるよぉ……!さ、さすがにヴィブロスさんを相手にするのは……妹力30000て……!私だって25000が限界なのに……!」

 

「むっふっふ~。まだまだ、瞬間的に出せる力はこんなものじゃないけどねっ!」

 

「なん……だと……!?」

 

 

 妹たちの間では既に格付けが決まりかけているようだった。

 屈託無く笑うヴィブロスに対してアヤリはじりじりと後退りしている。

 どうにも緊張感が無くなってきて、アヤベは思わずアヤリの肩元に寄った。

 

「……ちょっとリラ、さっきまでの自信はどこにいったのよ」

 

「だ、だってさお姉ちゃん……メジロアルダンさんやドゥラメンテさんとかならむしろ望むところだったけど、ヴィブロスさんはちょっと想定外というか大物過ぎるというか……私には荷が重すぎるというか……」

 

「え~?私からしたらアヤリさんだって強敵だと思うけどな~?」

 

「言われてるわよ、リラ」

 

「いや違うよお姉ちゃん……!あれは自分に絶対の自信があるが故……強者の余裕ってヤツ……!現に妹力では大差をつけられてるし……!」

 

「まぁでもでも~!優勝は譲らないけどねっ!なんたって、私は一番綺麗なお姉ちゃんたちの妹なんだもん!」

 

「……言われてるわよ、リラ」

 

「いやぁその……『一番綺麗なお姉ちゃん』の部分には審議を入れたいけど、ヴィブロスさんが優勝するだろうなっていうのは、いやもう全くもっておっしゃる通りでございますと言うか……」

 

「もはや誰よあなた……」

 

 ペタンと耳を垂らしながら汗を拭うアヤリ(どこに発汗する要素があったのだろうか)。彼女にしては珍しく、いつになく弱気弱腰になっているようである。

 ……これはアレだろうか。ヴィブロスの妹力とやらが桁外れなのもそうなのだろうが……アヤリもなまじ妹力が高いだけに、彼女との実力差を正確に把握できてしまったとか、そういうアレなのだろうか……。

 

 ……今回の俺の私の妹選手権、なにやら荒れそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アドマイヤベガの困惑やら不安やら諸々を含んだ状態で、『俺の私の妹選手権』は始まることになった。

 そしてまぁ……なんというか……。

 

 

『さてそれではどんどん行きましょう!Bブロック二回戦!対戦妹はステージへどうぞ!』

 

 

「ふっふっふっ……また会ったねアヤリさん♡」

 

「ぐぐっ……ま、まさかもうヴィブロスさんと当たることになるなんて……!」

 

 

 ハンカチを噛み締めるような表情で言うアヤリ(手元にハンカチはないが)。

 ……世の中は起きてほしくないことほど率先して起こるもの。妹決定戦において、アヤリは二戦目で早くもヴィブロスと戦うことになってしまった。

 

「大丈夫よヴィブロス。肩の力を抜いて、いつも通りにね」

 

「おっけー!ちゃんと見ててねお姉ちゃん!」

 

 ヴィルシーナの声に笑顔で答えるヴィブロス。一回戦目の『妹福笑い』を余裕で制したのもあって、今の彼女はノリに乗っているようだった。

 ……対するアヤリはというと。

 

「あ、あのさお姉ちゃん……今からでも棄権しちゃダメかな……?あ、足首に矢を受けてしまって……」

 

「しっかりしなさいよ。一回戦のフクキタルさんとの『妹じゃんけん』でもちゃんと戦えてたでしょ」

 

「で、でも……あれは客席の皆に被害をもたらしまくっての辛勝だったし……」

 

 さながらリングロープにもたれるボクサーとセコンドのような感じで二人は会話していた。相変わらずアヤリの怯えは続いているらしく、脚は生まれたての子鹿状態である。

 ……本当に、まさかこんな序盤で相対してしまうとは。いっそ準決勝や決勝で当たればアヤリも腹を括れただろうが……。

 ヴィルシーナの視線を感じながら、アヤベはなんとか可愛い妹を奮起させる。

 

「……私とケーキバイキングに行きたいんでしょう?なら頑張りなさい。私はあなたがヴィブロスさんに劣ってるとは思ってないから」

 

「うう……頑張るぅ……こ、この戦いに勝ったら私ショートケーキとモンブランをお腹いっぱい食べるんだから……」

 

 怯えと姉とのバイキングを天秤にかけてギリギリの所で持ちこたえたらしく、トボトボとステージの真ん中へ向かうアヤリ。

 そうしてステージにヴィブロスとアドマイヤリラが揃い、客席からは大きな歓声が上がった。

 

 ……ちなみにアヤリ本人の自信とは反対に、観客たちのアヤリの評価は実はそれなりに高かったりする。

 今回初出場のアドマイヤリラ。彼女が姉のアドマイヤベガと仲睦まじい姉妹であるのは周知の事実であり、そして以前のG1レースにおいて白熱の『姉妹対決』を演じたのも有名である。

 そんな彼女であれば、もしかすれば優勝候補のヴィブロスや、あの伝説のカワイイウマ娘を倒せる……まさにダークホースなのではないか、と仄かに期待されていたのだ。

 

 そんなことは露知らずステージに立つアヤリを確認してから、実況席にいるウマ娘は近くに置かれたペットボトルで軽く喉を潤してからマイクを握り直す。

 

 

『それではBブロック二回戦!対戦カードはヴィブロス選手VSアドマイヤリラ選手!いきなりの大物カードだぁ!では、そんな二人の対決テーマは……ずばり、「姉を想う気持ち」ですっ!』

 

 

 実況から発表されたテーマに会場がややザワザワとする。ヴィブロスやアヤリも興味深そうに目を丸くしていた。

 

 

『姉妹と言えば、どうしても姉の方が妹を助けているというイメージが強いでしょう!甘やかしちゃダメだ……自立させなきゃ……と思いながらも、姉はついつい妹の世話を焼いてしまう生き物!……ですが、妹だって姉を想う気持ちは負けないはずです!不意に伝えられる感謝の気持ちや、無邪気に自分を慕ってくれる姿に心を打たれる姉は多いことでしょう!』

 

 

 ……心当たりがいくつもあったのか、ステージの外のヴィルシーナは何度も頷いており、アヤベも無言で目を閉じていた。

 

 

『というわけで今回は、そんな姉への気持ちを妹に告白してもらいます!伝える内容はどんなものでもオーケー!より観客に絶叫を上げた方が勝利です!ではまずは、先攻のヴィブロスさんから!』

 

「えぇ~私から~!?なんだか公開告白みたいで恥ずかしいんだけどな~♡」

 

 

 猫口になりながら両の人差し指を突き合わせるヴィブロス。……この仕草の時点で客席の一部から絶叫が上がっていた。

 その方向に軽くウインクをしてから、ヴィブロスはステージ外のヴィルシーナへと向き直り……更に数秒ほど遠くへと視線を向けた。

 ……もしかすると、もう一人の姉であるシュヴァルグランがいるであろう方向を見ていたのだろうか?

 

 

「……あのね、お姉ちゃん。その……私、いつもは照れくさくって言えないんだけどね……」

 

 

 ヴィブロスはモジモジとしたかと思うと、ウルウルとした目で上目遣いのようにヴィルシーナを見つめる。ちなみにこの時点で客席のとあるピンク髪のウマ娘が「う゛っ」と汚ねぇ声を上げながら尊死していたのだが誰も気にしていなかった。

 

 

「お姉ちゃんっ、いつも私のおねだり聞いてくれてありがとう!おねだりも聞いてくれて一緒にデートもしてくれるお姉ちゃんのことが、私は一番優しいと思ってるし一番尊敬してる!だからね、改めて言わせて……?」

 

 

 そこでヴィブロスは一度胸に手を当てて深呼吸をする。その間、会場は水を打ったように静まり返っていた。

 

 

「お姉ちゃん……大好きだよっ♡」

 

 

 ───瞬間

 

 

「きゃあああああああっ!!」

 

「ヴィブロスさ……いや、ヴィブロスちゃんかわいいいいい!!」

 

「尊い……尊いよぉ……!」

 

「どけっ!!俺はお姉ちゃんだぞ!!」

 

 

 客席から会場が割れんばかりの絶叫と拍車が鳴り響く。下手なライブ会場よりも盛り上がっているかもしれない。

 実況のウマ娘も目がハートマークになるのを堪えているような表情をしながら、

 

 

『ヴィブロス選手、これは王道の姉への感謝の気持ちだぁ!!なんと尊いのでしょう!!まさに完璧で究極の妹!!我が妹ながら誇らし……あっ私一人っ子なんだった。……ん゛ん゛っ!!ともかく、ただ今絶叫の声量を集計していきます!!』

 

 

 一瞬実況のウマ娘までもがヴィブロスの領域に巻き込まれかけ……そしてその瞬間にヴィルシーナが真顔で睨んでいることに気づいて冷や汗を滴しながらマイクを握り直した。

 そうしてヴィブロスのポイントが記録されていき、彼女も『えっへへ、ありがと~♡』と客席に手を振っていく中(更に絶叫が上がっていた)……当のアヤリはというと。

 

「なるほど……。ここで目を潤ませて……脚運びは滑らかに……んで首の角度はこれぐらい……なるほど。さすがは妹力30000以上のヴィブロスさん……勉強になりますわぁ……」

 

「メモの体勢に入ってるんじゃないわよ……」

 

 いつの間にか取り出していたメモ帳(アヤベのとお揃い)に夢中でペンを走らせていた。……ある意味戦いから最も程遠い有り様で、アヤベは思わず額に手を当てる。まぁ、そうしないと恐怖を誤魔化せないというのもあるかもしれないが……。

 ちなみに、後ろから覗いたアヤリの字は精神状態もあってか物凄く汚かった。『き』と『さ』はまだしも『し』と『て』の判別もつかない。たぶん彼女本人以外に判読できないだろう。

 

 

『さて!集計にやや時間がかかってしまいましたが……次はいよいよアドマイヤリラさんの番です!』

 

「っ、うう……」

 

 

 そして案の定というか、実況の声が自分に向くとアヤリはビクリと肩を震わせる。……まるで歯医者で自分の番が来た子供のようだった。

 

 

『今回初出場のアドマイヤリラさんは、はたして絶対王者のヴィブロスさんにどう立ち向かうのか!?注目です!!では、アドマイヤリラさんのターン、スタートですっ!!』

 

 

 マイクの音声が響く中で無意識的にアヤリはメモ帳とペンを取り落としてしまう。

 その後も当然ながら、完全に意気消沈しているアヤリは動くことができない。無言の時間が二十秒ほど続くと、やがて会場も

 

 

「アヤリさんどうした?」

 

「緊張してる?」

 

「ああ……もうこの時点で可愛い……」

 

 

 とざわざわとし始めた。

 一向に動けない彼女を見かねたのか、アヤベはステージの端から手を伸ばしてメモ帳とペンを然り気無く回収しつつ、

 

「リラ。……リラ、しっかりしなさい」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 アヤベの呼び掛けにアヤリは観客や実況の人にバレない程度に首を向けた。

 

 

「や、やっぱり無理だよお姉ちゃん……!ヴィブロスさんには絶対勝てないってぇ……」

 

「リラ……」

 

「甘え方とか、愛嬌とか、ヴィブロスさんは『妹』として何もかもが完璧で究極すぎるんだよ……。この人に比べたら、私のなんてただの妹ごっこで……」

 

「……いや。ごっこも何もあなたと私はDNA的に(れっき)とした姉妹だけど」

 

「わ、私なんて、お姉ちゃんにいつも迷惑かけてばっかりで……。この間もお姉ちゃんと半分こしたはずのアイス二つとも食べちゃったし……」

 

「そんなことは…………あるけど。ていうか、あれ食べたのやっぱりあなただったのね。せめてちゃんと言いなさいよ」

 

 

 思わずマジレスを挟んでしまいつつも、アヤベは小さく息を吐いた。

 

 ……これは、十数年彼女の姉でい続けたからこそわかることだが。

 

 天真爛漫なアドマイヤリラは、意外と打たれ弱い。

 

 いつも怖いもの知らずで自由奔放に周りをぐいぐいと引っ張っていくアヤリ。感情の全てを常に100%出力しているのではないかと思うほどニコニコしている彼女だが───いや、むしろ本当に全てを出力している故か───その分落ち込むときは目一杯落ち込んでしまう。

 良くも悪くもテンションやセンスで動いている場面が多いので、同じシチュエーションでも周りの状況などによって反応が大きく変わってしまうのだ。

 

 大胆なようでいて意外と根は繊細。そんな娘なのだ、アドマイヤリラというウマ娘は。

 

 そんなアヤリを上手く立ち直らせるには、誰かが隣でメンタルを癒してやるしかない。

 では、この場で最も彼女のメンタルに作用できるウマ娘はというと……。

 

 

「……しっかりしなさい、リラ」

 

 

 アドマイヤリラの姉であるアドマイヤベガが、小さいながらもよく通る声で彼女に言った。

 

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「戦う前から諦めるなんて、あなたらしくないわよ」

 

「で、でもっ……!実際ヴィブロスさんの力は圧倒的で……!私じゃとてもあの領域には……」

 

「……なんで比べようとしてるのよ」

 

「え?」

 

 

 諭すように、アヤベは告げていった。

 

 

「そりゃ、あなたとヴィブロスさんは違うもの。妹力がどうとか関係ない。ヴィブロスさんにはヴィブロスさんの、あなたにはあなたの良さがある。肩肘張る必要はないのよ」

 

「お姉ちゃん……」

 

 

『競うな。持ち味を活かせ』と言うような語りに、アヤリの動悸は次第に落ち着いていく。アヤベの声音は揺り篭の中にいる子供にかけるような、優しいものだった。

 

「……それに」

 

 そこでアヤベは少しだけ言葉を詰まらせアヤリから目を逸らしたが……それでも意を決したように、ハッキリと言った。

 

 

「どのみち勝っても負けても……私の中では、あなたが一番可愛い妹なんだから」

 

 

 それがウマ耳に届いた瞬間。

 アドマイヤリラの揺れていた瞳が、強い熱を持った。

 

 

「お姉ちゃん……!」

 

「……だから、とにかくやれるだけはやりなさい」

 

「うんっ……!」

 

 

 さすがに恥ずかしくなってきたか最後には目を伏せてしまったが、そんな姉の『激励』に妹は強く頷く。

 ……いつの間にか、その表情はすっかり明るいものになっていた。

 

(……やっぱり)

 

 それをチラりと見て、心の中でアヤベはため息を吐く。

 

 ……さっきまであんなに怯えていたくせに。自分が言葉を掛けるだけで、彼女はすぐに自信を取り戻す。

 

 やっぱり───この娘はなんて単純で、そしてなんて可愛い妹なのだろうか。

 

 思わず後方腕組みをしそうになるアヤベの前で、アヤリはアヤリで胸に手を当てて小さく深呼吸をする。

 

 

「そうだ……うん、そうだったんだね。今日の私はちょっと、焦り過ぎてたんだ」

 

『あのー……アヤリさん?』

 

「ごめんなさい実況さん黙ってて今良いシーンだから。……そうだよ、ヴィブロスさんや他の妹ウマ娘がどれだけすごいかなんて関係ないんだ。私だってあの努力の日々を乗り越えてきたんだしっ!妹力だってあんなに磨いてきたんだから!」

 

「……えぇ、そうね」

 

 

 一瞬『あなたそんなことしてた?』とアヤベは返しそうになったが、ここで冷静になっては負けだと思いなんとか耐えた。

 そんな彼女の努力を余所に、アヤリはいつも通りにぱっと笑った。

 

 

「そう!だって私は、あのお姉ちゃんの妹なんだからっ!ただいつも通りの私をぶつければ良かったんだ!」

 

 

 明鏡止水、虚心坦懐。

 ただ前だけを見据えるアドマイヤリラの瞳には、もうさっきまでの曇りはなかった。そして彼女の決意が固まったと同時に、彼女の回りに何か……水色のオーラのようなものが渦巻き始める。

 そのオーラは……言うなれば、『妹力』の奔流であろうか。溢れ出るオーラによって、近くの景色が歪んでいる錯覚すら覚えそうになった。

 地鳴りのような圧まで響かせ始めるアヤリを見て、対面に佇んでいたヴィブロスは口許に手を当てる。

 

「……えへ。やっぱり、アヤリさんは強敵だよ。この土壇場で更に進化してくるなんてねっ♪」

 

 先程よりも格段に上昇したアヤリの妹力を何かしらで感じ取ったのか、不敵な笑みを浮かべている。対してアヤリも同じような笑みで応じた。

 

 

「ふっ……待たせたねヴィブロスさん。こいつがお望みのフルパワーだよ……!もはや今の私に迷いは無い……ただ全力でぶつかるだけだよ!」

 

「どこからでも来るがいいよアヤリさんっ!」

 

 

 ……会場の彼方で、雷が落ちた音がする。今度こそ、この二人の背後にも竜と虎のイメージ図が見えた気がした。

 完全に、二人のボルテージは最高潮にまで上がっている。

 

 そして今、アドマイヤリラの目がカッと見開かれ───

 

 

「いくぞおおおおっ!!これが私のっ、姉を想う気持───」

 

 

『ブブーーーーーっ!!』

 

 

 ───見開かれた、その瞬間。

 アヤリの声の代わりに会場に鳴り響いたのは、けたたましいホイッスルの音だった。

 

 ほぇ?とアヤリが音のした方……実況のウマ娘がいる方向を見てみると、そこにいる実況のウマ娘は口にホイッスルを咥えており……手にはマイクの代わりに赤色の旗が掲げられていた。

 

 赤色。競技における赤色。

 何かしら予感がしたのか、アドマイヤベガの尻尾が波打った。

 

 ……そして実況のウマ娘はホイッスルを口から離すと、赤色の旗をアヤリに突き付け……

 

 

『失格!!この勝負、アドマイヤリラさんは失格ですっ!!』

 

「あんですとーーーっ!!??」

 

 

 耳と尻尾が彼方へ飛んで行きそうなほどの勢いでアヤリは驚愕した。

 外野にいたアヤベはもちろん、ヴィブロスやヴィルシーナまでもポカンとしている。

 

 

「どっ、どうしてですかっ!?私の戦いはこれからだってところだったんですけど!?」

 

『アドマイヤリラさん……あなたはターンが回ってから行動に移すまで時間を掛けすぎました!時間切れによる不戦敗です!!私は途中で警告しようとしましたのに……!』

 

 

 突然の新たな概念の追加に詰め寄ったアドマイヤリラは驚愕の一言である。

 

 

「時間切れぇ!?そんなぁ!?じ、時間制限アリって、そんなルールあったっけ!?」

 

『少ない時間で確実に、迅速に自らの魅力を伝えるのも、妹には必要不可欠のテクニックですから!!言われなくてもわかっていなくては!!』

 

「うそぉぉ!?ていうかこういう覚醒シーンの時って時間止まってる判定じゃないのぉ!?」

 

 

 アヤリは完全に初耳だったが、観客たちは実況のウマ娘の台詞にウンウンと頷いていた。

 ……どうやら、彼らの間では共通認識だったらしい……。

 

 ……その後もアドマイヤリラは『もう覚悟完了したから』とか『ここからページ増やして巻頭カラー飾るとこだから』とか『勝つさ』とか必死に弁明していたが……残念ながら実況の判定が覆ることはなかった。

 

 

『というわけで、アドマイヤリラさんは不戦敗!勝者のヴィブロスさんはBブロック準々決勝へと進むことになりますっ!!』

 

「わーいっ♡なんだかよくわからないけどやったー♡みんなありがとねーっ♡」

 

 

 ワァァァァァ!!と優勝候補が無事(?)勝ち抜いたことに歓声が上がる。

 その声を耳と背に受けながら……アドマイヤリラは最初とは違う意味で、トボトボと歩いてきた。

 

「……ただいま、お姉ちゃん」

 

「……えぇ。おかえり」

 

 さっきまでの水色が全て塗り替えられたような黒色のオーラを纏いながら戻ってきたアヤリには、さすがのアヤベも言葉が見つからないようだった。

 

 ……一応アヤベも長いこと説得タイムを取ってしまった手前、責任の一端を感じているのだろう。

 そんな二人を気の毒に思ったのか、同じく戻ってきたウィブロスの頭を『えらいえらい』と撫でていたヴィルシーナが苦笑しながら、

 

 

「まぁその……今回の勝負は、ドローということにしておきましょうか?決着はまた別の機会にということで……」

 

「……いえ。負けは負けよ。素直に認めるわヴィルシーナさん。ルールの理解も、勝負の内だから。何より今は……」

 

「うぅぅぇぇぇん……!ごめんねお姉ちゃあん……!負けちゃってぇ……!」

 

 

 諸々の感情が決壊したのか、軽く涙ぐみながらアヤリがアヤベの胸に飛び込んでくる。その頭を軽く撫でながらアヤベは首で『ね』と示した。

 

「……まぁ、そのようですね」

 

 ……泣く妹を宥める難しさはヴィルシーナも理解しているのか、薄く笑いながらヴィブロスを連れて次の準備のために移動し始める。

 

 

「ん~でもなんか損した気分だな~。あの時のアヤリさんと戦ったら良い勝負ができたと思うんだけど……」

 

「確かに……ヴィブロスに勝るとも劣らない妹力だったものね」

 

 

 そんな会話をしながら去っていく二人を、アヤベは素直に見送った。

 

 ……というか、シレッとヴィルシーナさんも『妹力』の単位共有してるのか、とは口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……というわけで、しばらくアヤベはアヤリを宥めていたのだが。

 

 

「……落ち着いた?」

 

「うん!ちょっと泣いたらすっきりしちゃったよ!」

 

 

『しばらく』とは言ったものの、アヤベが慰め始めてからたった数分でアヤリはケロッとしていた。

 まぁ元々それほど本気で泣いていたわけではないのだろうが……いやしかしそれでも早過ぎであろう。

 

「……はぁ。本当に単純ね、あなた」

 

『なんだかたくさん頑張ったらお腹空いちゃった』とアヤリが言うので、もうファンとの交流は充分してたしこの後出場するような競技も無いしで、アヤベは(『あなた二戦しかやってないじゃないの』という言葉を飲み込みつつ)アヤリを連れて一足先に引き上げ始めていた。

 そんな中でアヤベはため息混じりに言ったのだが……当のアヤリは呑気に鼻唄を歌っている。

 

「だってぇ~。妹決定戦には負けちゃったけど……そもそも考えてみれば、もう聞きたいことは聞けてたもんねぇ♪」

 

「聞きたいこと?」

 

 アヤベが首を傾げると、アヤリは自分のウマ耳に手を添えてピン!と伸ばしてみせる。

 

 

「お姉ちゃんがちゃんと私を『一番かわいい妹』だと思ってくれてるってわかったもんねぇ♪そこは収穫だったかな~!試合に負けて勝負に勝ったってヤツ?」

 

 

 すっかりいつも通り。

『ルンルン』というオノマトペが浮かんでいそうなほどににこやかに笑うアヤリ。それで競技中の自分の言葉を思い出し、アヤベは照れ隠しをするように腕を組む。

 

「……別に、普通のことでしょ。ある程度妹をかわいいと思ってなきゃ、『姉』なんてやってられないわ」

 

「んもぉ~!素直じゃないなぁお姉ちゃんは!」

 

 うりうりと頬を突いてくるアヤリに「やめて」と答えつつも……何故か今になって、アヤベはほんの少しだけ惜しく思っていた。

 

「…………」

 

 会場の方を振り返る。響いてくる声によると……どうやら会場ではもうすぐ決勝戦が始まるところらしい。

 

 ……初めは、訳のわからない大会だと思っていたけれど。

 

 

 いつの間にか、アヤベはあの決勝戦のリングにアドマイヤリラが立っていればいいのに、と思ってしま───

 

 

「にしても、惜しかったなぁ」

 

 

 ───いかけたあたりで妹の声が聞こえアドマイヤベガは僅かに肩を跳ねさせてしまった。

 

「……なにが?」

 

 まさか心を読まれたか、という動揺を隠しながらアヤリの方を向くと、彼女もまた姉に倣ったように会場へ視線をやっていた。

 

「だってさぁー、結局試合としては私のメンタルがまだまだだったってことだけど……出るからにはやっぱり優勝したかったなーって……優勝賞品のケーキバイキングチケットももらえなかったし……」

 

 後頭部に両手を当てながらぶーたれるアヤリ。自分のバカな思考を察知されたわけではなかったらしいとアヤベは一安心する。

 そうして再び前を向いて歩き始めると、

 

「あーっ!やっぱり悔しいよー!優勝したかったよー!覚醒シーンも満足にできないこんな創作物(世の中)じゃポイズンだよもう……!」

 

 いつしか悔しさがぶり返してしまったらしく、アヤリがぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。そんな妹にため息を吐きながら……アヤベは今度はどう慰めたものかと脳内で言葉を組み立てようとした。

 

 

 その時だった。

 

 

 ポン、と。

 

 

 アドマイヤベガの肩に、突然誰かの手が置かれた。

 彼女らの前からやってきた者の、すれ違い様のことだった。

 

 

「っ!?」

 

 

 敵襲か、とアヤベは軽く肩を押さえながら件の相手へ素早く視線を飛ばす。

 肩に手を置く以上のことはしなかったらしく相手は既に……会場の方へ歩いていっているようだった。

 ヒトガタのシルエットに耳と尻尾が生えているあたり、ウマ娘らしい。

 

 その背をアドマイヤベガが捉える。

 

 

 ……瞬間、強張っていたアドマイヤベガの瞳が、ポカンとしたように丸くなった。

 

 

「お姉ちゃん?どうしたの?」

 

 

 一瞬のことだったので、アヤリはその存在に気づかなかったようだった。

 

 その問いには答えず……アドマイヤベガはしばらく、固定されたように『そのウマ娘』の背を見つめ続けていた。

 

 だがやがて……ふっと表情を柔らかくさせると、また会場から去る足取りを再開させた。

 

 

「ぅえぇっ!?ちょ、お姉ちゃん!?」

 

 

 なにがなんだかという声音のアドマイヤリラ。だが彼女は姉が見つけたウマ娘を確認するよりも、一先ず姉の背中を追う方を優先したようだった。

 

 

「ど、どうしたのお姉ちゃん?何かあったの?」

 

「……いえ。別に何もないわよ。……それよりもリラ」

 

「なぁに?」

 

「……帰り、あのケーキ屋さんに寄りましょうか。一つくらいなら買ってあげるわよ、ケーキ」

 

「本当!?本当に良いの!?やったーー!!じゃあさっショートケーキ一緒に食べようよっ!あ、でもモンブランも良いかも!お姉ちゃんはなに食べたい!?」

 

「なんでもいいわよ、あなたと同じ物で。……それと」

 

「ん?なぁに?」

 

「『俺の私の妹選手権』のことだけどね」

 

 

 頬をほころばせながら食べたいケーキの名前を上げていくアヤリの隣で……アヤベはもう一度だけ、さっきのウマ娘の方へ片眼だけを向ける。

 

 

 

「あなたの仇は、取ってくれるみたいよ」

 

 

 

 ───肩に手を置いてきたウマ娘。

 

 黒と赤色の勝負服を着た、『カワイイ』ウマ娘の背を見ながら、アドマイヤベガは口角を上げたのだった。

 

 

 

 

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