アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~ 作:トマリ
5/4に◯◯部分を修正しました。
(この世界線の)アドマイヤベガのヒミツ①
・実は、『覇王ズセクステット』では『覇王ズクインテット』の時と比べて常識人成分が強まっている(イロモノ枠が更に一人増えているため)
アドマイヤリラのヒミツ①
・実は、妹的な存在が欲しいと子供の頃から思っており、後輩であるオペラオーとドトウをその位置に据えようかと密かに画策している。
アドマイヤベガの妹が無事にデビューした日から、約一週間後。
同時に、あの食堂でのアヤベさんと妹さんのカツによるカツサンド事件(激ウマギャグ)の約一週間前。
栗東寮のとある一室に、そのメンバーたちは集合していた。
テイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロード、ハルウララ、そして部屋の主であるアドマイヤベガとその妹であるアドマイヤリラ。
同期の中でもなにかと一緒にいることが多い者たちであり、まだデビューしたてのアヤリと主戦場が違うハルウララを除いた四人は、トゥインクルシリーズ内で現在進行形で目を離せぬ競り合いをしている。
また、少し前のファン感謝祭での『黄金世代』との綱引き勝負においては、息が合っているんだか合ってないんだかよくわからない妙な連携力を見せたのは記憶に新しい。
そうした一件から、自主的に、もしくは他の生徒たちからは───俗に『覇王ズセクステット』と呼ばれることもある六人である。
「じゃあ皆、準備はいいね……?」
そんな(非公式)グループである覇王ズセクステットを束ねる(非公認)リーダー格であるテイエムオペラオーが周りを見渡しながら言う。
五人のウマ娘たちが一様に頷いたのを確認すると、彼女はお茶が注がれたコップを高々に掲げた。
「ではこれよりっ! 改めて、アヤベさんの妹であるアヤリさんがボクたちと同じトゥインクルシリーズの舞台へと上がり、更にそこで初白星を上げたことを祝しての、かんぱーい!!」
『かんぱーい!!』
オペラオーの声と共に、カチャンとグラス同士がぶつかった。
メンバーが一通りお茶を飲んだ後。
「じゃあ、行きますねー?」とミトンを装着したナリタトップロードが、ちゃぶ台の上にある鍋の蓋を取った。
その瞬間に、ほわぁと健康的な白い煙が天井へと上る。同時に嗅ぐだけで満腹になれそうな良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「おお~……! 美味しそ~!」
一週間前と同じ『本日の主役』というタスキを付けたアドマイヤリラが目を輝かせる。
煙の出所は部屋の中心にある鍋。そして匂いの出所は、中でグツグツと煮られているおでんだった。
「ほんとに美味しそうです! おでんにしたのは正解でしたね~! ほら、もう手前のジャガイモなんかすごく美味しそうですし、ニンジンも……美味しそうで、大根も……えっと、すごく美味しそうです!」
「ほんとだー! うっらら~♪ 全部美味しそうだよねー!」
「はわわ~こんなに大人数でおでんを食べるのって、私初めてかもしれません~……!」
そんなことを言って笑い合う覇王ズセクステット。
この部屋は本来二人での使用を前提とされているので、六人も集まるとさすがに狭く感じてしまうのだが、そんなことは露ほども気になっていないようだった。
この『アドマイヤリラの勝利を祝したおでんパーティー』は、元々はオペラオーが企画したものである。
昨日の昼休みにオペラオーが提案し、それにアヤリが賛同し、アヤベが「さすがにそれは難しくないか」と反論し、オペラオーが「無理を通してこその覇王さ!」と押し通し、アヤリが「そう!オペラオーちゃんの言う通り!」と賛同し、トップロードが「いいですね!私も協力します!」と後押しし、アヤベが「ちょっとトップロードさんまで……」と困惑し、アヤリが「むー! お姉ちゃんは可愛い妹の勝利を祝いたくないの!?」と怒り、アヤベが「それは……祝いたいけど」と怯み、オペラオーが「では決まりだ!」と押し切ったことにより開催された。
そうして寮長に許可を取っておでん用の鍋を持ち込み、具はメンバー全員で買いに行った。
それなりに大変で手間もかかったが……この面々の笑顔が見られたならその時点で、今回のおでんパーティーの元は取れたと言えるかもしれない。むしろ手間がかかったからこそ、その分の達成感や喜びもひとしおと言ったところか。
「それではアヤベさん! 頼んだよ!」
「……わかったわよ」
なにはともあれ。
開催の音頭と鍋のご開帳が終われば、あとは食物を求める獣たちによる具材の争奪戦となる……はずだったのだが。そこはアヤベが事前に待ったをかけていた。
ウマ娘の筋力で具の取り合いをすれば何かしらの悲劇が起きるのは目に見えているので、アヤベが代表して彼女らに具材を均等に振り分ける係(焼き肉で言うところの焼く係)を引き受けたのだ。
このメンバーの中では一番しっかりしているだろう、ということで他の者たちからも反対は出なかった。
かくして、おでんパーティーにおいて最も便利で強力な『お玉』もアヤベさんに持たされている。……つまり、今この局面においては彼女が一番権力を持っているということである。これで他のメンバーの粗相もある程度は抑制できるであろう。
……だが、権力を持つということは、それだけ面倒事も押し付けられるようになるというわけで。
「さぁアヤベさんタマゴを! このボクにタマゴを恵みたまえ! さぁ早く!」
「あっ、オペラオーちゃんズルい! お姉ちゃん私からだよ!? タマゴを最初に食べるのは主役の私なんだから!!」
「……別に普通に取れば一人一個は必ず行き渡るから、そう急かさなくていいでしょ。ちょっと待ってなさい」
「わ~いタマゴタマゴ~!」
「ウララさん、あんまりはしゃがないで。一応隣の部屋の迷惑にもなるから……」
「あのー、すいませんアヤベさん、私の位置からじゃ遠いので、ちょっとソレ取ってくれませんか? えっと……あの、なんでしたっけ……その、『おでんくん』の主役のヤツの……」
「……もち巾着?」
「そうそれです! ありがとうございます!」
「お姉ちゃんタ~マ~ゴ~!!」
「さぁアヤベさん早くボクにタマゴを!!」
「待ちなさいって言ってるでしょ。なに、あなたたちはタマゴに取り憑かれてるの?」
「わかってないなぁアヤベさん! タマゴが無いおでんなんて、目の描かれてない竜のようなものなのさ!」
「そうだよお姉ちゃん! そんなの味気ないにも程がある代物なんだよ!」
「そう! タマゴという目を描かれることによって、初めておでんという名の竜は空へと飛び立つのさ!」
「ああ……! これこそまさに画竜点睛ってヤツだねオペラオーちゃん!」
「まさにその通りさ! ふふん、わかってきたねアヤリさん! ボクに追従してくれること、非常に嬉しく思うよ!」
「当然!どこまでも着いていきまっせ覇王様!」
『はーはっはっはっ!
あーはっはっはっ!』
「ああもう……リラったらまた変なノリを覚えて……! オペラオーもいい加減に……!」
「こ、今度こそジャガイモを……っ!? ふ、ふえぇぇ~すいません~!! ごめんなさいごめんなさい、先程から何度もジャガイモを掴み損ねてつゆに落としてしまってすみません~~!! ああっもうジャガイモがつゆの中で粉々に~……」
「……ドトウは、私が予め取ってたのをあげるから、落ち込まないの」
「ドトウちゃんのドジは慣れたものだしいいよ~。ねぇオペラオーちゃん、タマゴ来るまで暇だから山手線ゲームしない?」
「いいね! では最初のお題は『美しいウマ娘(ボクには及ばない)』で……」
「……食事中に遊ばないの。あとオペラオーはもう喋らないで」
「なぜボクにだけそれほどの処罰を!? 今回のボクは仕掛けられた側だというのに!!」
「やったー! 大根崩さずに掴めたよー!それじゃあっ、いただきま───」
「ちょっと待ちなさいウララさんっ。いくらウマ娘でも、さすがにそのサイズの大根を一口でいったら火傷するから……!」
「あのーすいませんアヤベさんまたなんですが……相変わらず遠いのでそこのコンニャク取ってくれませんか?」
「……はい」
「ありがとうございます!」
「お姉ちゃんタマゴまだ~?」
「…………」
現代の聖徳太子と化してきたアドマイヤベガは、一度自分を落ち着かせるように息を吐いた。
さすがにふざけ過ぎたかとアヤリは若干不安になる。
しかし……
「……お玉、もう一つ寄越しなさい」
アヤベさんはボソリとそう言うと、トップロードが持ってきた二つ目のお玉を持って二刀流となる。
そしてカッと目から火花を走らせた。
次の瞬間、覇王たちの皿にはいつの間にか各々が希望した食べ物が投げ込まれていた。お玉二刀流は、端から見ればお好み焼きでも作るときのような滑稽なサマだったのだが……周囲が二重の意味で口を挟む暇もないままに、アドマイヤベガはそれらを巧みに、無駄なく、効率よく動かしていく。
そして十秒後。
まるで消失マジックでもした後のように鍋からは具材がゴソッと消えており、代わりに覇王たちの皿にはジャガイモやら大根やらニンジンやらがバランスよく取り分けられていた。……ご丁寧にタマゴも一つずつ平等に。
オペラオーたちが目を丸くする中、アドマイヤベガは静かにお玉を鍋の横に置くと、お茶を一口飲んでから自分の箸を持つ。
「……とりあえず、最初はそれでいいでしょ。追加したい分があったら、また言いなさい」
『おお~……!』
明らかに常人以上の運動をこなしながらいつものクールビューティーな態度で話すアヤベさん。
その様は『頼りになる』とか『姉』を通り越して、もはや『オカン』だった。覇王たちから一斉に拍手が上がったのも止む無しであろう。
「さっすがお姉ちゃん! すごい手際だね~!」
「……何年弟たちと誰かさんの姉をやってきたと思ってるのよ。もう慣れたものだわ」
「いやはや、いつもお世話になっております~」
そういえば可愛い弟たちは元気にしてるかなぁ?というアヤリの台詞に「どうでしょうね」と答えたところで、アヤベは軽く首を振って手を合わせた。それを合図だと受け取り、アヤリやオペラオーたちも会話を止め大人しく手を合わせる。
そうして『いただきまーす!』という声が部屋に響き、本格的におでんパーティーは始まった。
パーティーが始まってから二十分余り。
育ち盛りのウマ娘が六人もいること、おでんそのものの美味しさ、そして何より気心の知れた者たちとワイワイ食べているという条件が重なり、おでんはどんどん彼女らのお腹に消えていった。
部屋にはおでんの匂いが充満し、盛り上がりに呼応するように室温も上がっている。
始めは競うように食べていた彼女らも、後半戦に入って一先ずの目ぼしいものは味わえたことで、最近のレース事情や先のテストについてなどの雑談に興じる余裕も生まれていた。
「そういえばオペラオーちゃん、この間のテストは大丈夫だったの?」
「テスト……? あぁ、それは心配無用さアヤリさん。この間のテストは、無事に教室でボクを求める夕日と会うことができたよ。あれは有意義な時間だったさ!」
「……それ、要するに赤点取って追試で夕方まで時間取られたってことなんじゃないの?」
「そうとも言うねアヤベさん!」
「……そうとしか言わないわよ」
「あれだったら、私がオペラオーちゃんに勉強教えようか?ふふん、『先輩』だし、まだ中等部の内容は覚えてるから……」
「やめときなさいリラ。オペラオーに必要以上に関わってもロクなことにならないから」
「えー? オペラオーちゃんと騒ぐの楽しいのにー……」
「もっと別のことに楽しみを見出してちょうだい……」
「いいことじゃないですかアヤベさん、妹さんとオペラオーちゃんが仲良いって!」
「私にとっては頭痛の種にしかならないんだけど……」
「まるで同い年みたいに息もピッタリですし!」
「なおさら問題よ……」
本当に頭が痛そうにするアドマイヤベガに、ナリタトップロードは苦笑いする。
元々テイエムオペラオーとアドマイヤベガの繋がりは、去年の皐月賞にオペラオーが一方的に彼女をライバル認定したことで始まったものだ。そこからアヤベを通じてアヤリとも繋がりができたのだが……。
姉の思いと裏腹にアヤリとオペラオーはかなりウマが合ったらしく、姉を除けば頻繁に一緒にいるウマ娘となっていた。
なのでアヤリはオペラオーのことを基本的には『楽しいウマ娘』と認識しており、姉にももっとオペラオーの良さを知って欲しいと思っている。そんな事情から、最近の彼女らの関係性は、オペラオーと関わりたくないと嫌がるアヤベをアヤリがいいからいいからと引っ張ってオペラオーに付き合わせる、というような形になっているのだ。
それはつまり、以前まで……アヤリとオペラオーが知り合いでなかった頃と比べれば、アヤベとオペラオーの関わりは以前よりは深くなっており、お互いの人となりを知る機会も増えているはずなのだが……。しかし、やはりどうしてもアヤベはオペラオーのことが苦手なようだった。たとえ『妹の一推しウマ娘』という条件があったとしても。
……いや、だからこそだろうか。今のアヤベにとってオペラオーには、前々からのノリの合わなさに加え、今は『可愛い妹に妙なことを教える』という要素がプラスされているのだから。
……なんというか、ままならない事柄である。
妹のお陰で前よりオペラオーとの関係が強くなったのだが、その妹の存在によってオペラオーへの苦手意識もより強まっているとは。
(……まぁ、なんだかんだでアヤベさん、私が見る限りでは『妹に変なことを教える』のを嫌っている反面、『妹の良き友達になってくれている』という点においてはオペラオーちゃんに感謝してそうなんですけど)
ちょっと、別の世界線より複雑な関係になっているような気はするけれど。アヤリの存在がオペラオーとアヤベを繋いでくれていること。そこに関してはきっと良いことなのだろう。
なんてことを思いながらトプロはコンニャクを口に運んだ。
そんな感じの一幕を挟みながら、しばらくノホホンと平和な時間が流れていた。
そんな中のこと。
場の空気が動いたのは、おでんの鍋もそろそろ底をつき始め、「もう食べれません~」とドトウがギブアップし始めた時だった。
「そういえばボク、ずっとアヤリさんに聞きたいと思っていたことがあるのだけれど」
二個目のタマゴを食べてから、オペラオーがふと思い出したようにアドマイヤベガの妹の方を向いた。
「はむっ……ん? どうしたのオペラオーちゃん?」
二・五個目のタマゴを食べながら(本日の主役権限でねだりまくり、姉のを半分こしてもらえた)アヤリが首をかしげる。
なにやら大事そうな話が始まったので、他のメンバーたちもオペラオーへと視線を集める。そんな視線にも動じた様子はなく、オペラオーは一度咳払いして「レースに参加したからには、これは聞いておかないとね……」と言った。
「ズバリ、アヤリさんはどんな目標を持ち、何を目指してトゥインクルシリーズに臨むのか、ということだ!」
トゥインクルシリーズ。
その単語に、それまで弛緩していた場の空気が一気に張り詰めたような気がした。
……当然も当然だろう。
今、現在進行形でテイエムオペラオーたちと鎬を削っているアドマイヤベガ。昨年の日本ダービーでオペラオーとトプロを打ち砕き、確かな実力を持っているウマ娘。
アヤリはそんな彼女の妹であり、姉に匹敵するほどの才能を秘めているのだ。しかも本格化ももう迎えているし、能力もまだまだ伸び代がある。
彼女が目指す指針によっては、この先オペラオーたちの強力なライバルとして現れるのは想像に難くない。
その確認の意も込めての質問なのだろう。
『…………』
全員の視線が、オペラオーからアドマイヤリラへそのままスライドする。
いつも奥手なドトウはおろか、姉であるアヤベすらも無言で見つめてくる中。
アドマイヤベガの妹であるアドマイヤリラは、不適に笑った。
五人のウマ娘たちの懸念と───期待が籠ったような眼差しを、彼女は、
「───そりゃ、頂点だよ」
彼女は、一切裏切らなかった。
「レースに臨むウマ娘がトゥインクルシリーズで望むのなんて、頂点や勝利以外ありえないでしょ? 私だって例外じゃない。やるからには勝利してみせる。オペラオーちゃんも、ドトウちゃんも、トップロードさんも……戦う機会は少ないだろうけどウララちゃんも。手加減する気はないし、されるつもりもない。みーんな真っ向から倒して、私は頂点へ行きたい」
それはさながら……いや、明らかな宣戦布告だった。
一年遅れての『挑戦者』の登場を、オペラオーたちは無言で受け止めている。
だがそこでアヤリは───ふいに目を少しだけ伏せさせた。
「だけど、オペラオーちゃんやトップロードさんたちよりも、まず誰よりも真っ先に倒したい相手がいる。……この人を倒さない限り、私は頂点には行けないし……行きたくない」
『先輩』のウマ娘たちを前にした宣戦布告。
アドマイヤリラはその最後の対象として、他と明確に区切る形で呼び掛けた。
「───お姉ちゃん」
アドマイヤベガの肩が、ピクリと動いた。
それを把握しながら、アドマイヤリラは目線を上げて彼女の顔を射貫いた。
「まずは何よりも、お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんに勝つ。それもGⅢやGⅡなんかじゃない、GIの大舞台で。……オペラオーちゃんたちには最悪負けてもいいけど───いや負けるつもりはないけど───お姉ちゃんにだけは、負けられない。……それが私の、譲れない、一番の目標。」
───ついに、言った。
妹から姉への宣誓。
それは明確に彼女らが、『ただ仲の良い姉妹』だけではいられなくなることを示していた。
それでも、彼女は言った。
憧れるだけじゃない。
いつまでも、背中にひっついたままではいられない。
姉に勝ちたい。
姉を超えたい。
そう思ったからである。
妹の宣誓から、たっぷりと十秒ほどが過ぎた後。
言葉をゆっくりと咀嚼し飲み込み終えたように、アドマイヤベガは彼女の方を向いた。
空中でぶつかり、絡まり合う姉妹の視線。
やがてアドマイヤベガは、ふうと息を吐いた。
「───やっと、この日が来たのね」
ボソリと発せられた台詞。
その言葉にどれほどの感情が含まれていたのかは……きっと、本人にしかわからないのだろう。
アドマイヤベガは、最愛の妹の顔を正面から見据えて、言った。
「受けて立つわ」
それだけで充分だった。
妹が挑戦し、姉が受けた。
言葉にしてしまえば、たったそれだけのこと。
だがそこに込められた想いは、言葉以上のものがあった。
「…………っ!」
背筋に電流が走ったような、興奮を抑えきれないような表情を、アドマイヤリラは作っていた。姉から見えない位置で「……やった」と拳を握りしめる。
幼少期からの夢。
『姉と同じ舞台に立つ』という扉の前に、ようやくアドマイヤリラは立つことができたのだ。
「……約束だよ、お姉ちゃん」
「……えぇ。約束」
お互いに頷き合いながら、握手でもするように二人は手を近づけさせる。
───だが、その手がぶつかり合う前に。
パチパチパチパチ
空気が読めないような、一つの拍手が割り込んできた。
音源を辿ってみると……やはりというか、その主は、
「はーっはっはっ! いやーめでたい! 本当にめでたいことだよ!」
王冠を被った世紀末覇王こと、テイエムオペラオーだった。
我に返ったような表情を見せるアヤリに対して、オペラオーはいつも通りの大仰な芝居がかった口調で続ける。
「二人だけの世界に入り込んでいるところ悪いけど……こんなめでたいことはボクにも祝わせて欲しいな! まさかアヤベさんだけでなく、その妹であるアヤリさんまでボクたちの舞台に来てくれるだなんて! この世紀末覇王の舞台においては、共演者は多ければ多いほど良いからね! ああ、アヤリさんが演じる役割も今のうちに決めておかなくては……!」
そう。口調こそいつも通りだったが。
その瞳は……レース中のように、好敵手を見つけたときのようにギラギラと輝いていた。
二人だけで盛り上がるなと、ボクも混ぜろよと語っているように。
「えぇ、私もオペラオーちゃんと同じ意見です! 私もアヤリちゃんと戦えるのをずっと前から楽しみにしていましたから!」
次に声を上げたのはナリタトップロードだった。
フリフリピコピコと揺れる尻尾と耳を見るに、言葉は紛れもない本心なのだろう。
だが同時に。
「でも……私だって負けませんよ。私も、色んな人の夢や想い、そして私自身の望みも背負っていますので!」
やはりその瞳には……オペラオーと同じ輝きがあった。
……どうやらアヤリの宣誓は、彼女らの中にある理性に歓喜を与えると同時に、その奥にあるウマ娘の本能を仄かに燃えたぎらせてしまったらしい。
「わっ……私もっ! ……アヤリさんのことも、オペラオーさんやアヤベさん、トップロードさんと同じように憧れの対象で……わ、私なんかがおこがましいかもしれませんが……それでもっ、私もアヤリさんには勝ちたい、でしゅっ! ……あう、か、噛んでしまいました……」
「うっらら~♪ アヤリちゃん気合い十分だね~! わたしだって、ぜったい負けないからー!」
日頃はアヤリに可愛がってもらっている立場のドトウやハルウララも、彼女の言葉には真っ向から反抗してみせる。
その光景に、アヤリは一瞬ポカンとしてしまっていたが、すぐにさっきよりも笑みを濃くした。
(……そう。これだよ、これ)
実感する。
ようやく立つことができたのだ。
一年前。
姉よりもデビューが遅れてしまったせいで立つことができず、客席から羨望の眼差しで見ることしかできなかった。
姉が立つ舞台と、そんな姉と同等以上のライバルたちがひしめいているこのレースの世界に。
ようやくアドマイヤリラは足を踏み入れ、同期たちからも明確に『ライバル』としてロックオンされたのだ。
ウマ娘としての血が騒ぎ、鼓動が早くなったのを感じた。
「さぁ! それではこのボクの劇場へと参戦してくれた妹さんへ、ボクからの餞別だ! アヤベさん、そこに浮かんでいるタマゴをアヤリさんの皿へ!」
「え、いいの!? やったー! オペラオーちゃんありがとー!」
「入れるのは私なの……? それにリラももうタマゴ三個目じゃない、さすがに食べ過ぎよ」
「いいんですー! どうせ走ればチャラなんだからー!」
「あっ、そ、それでは私のタマゴもアヤリさんに~……ふぇぇ~!? た、タマゴが粉々になってしまいました~!?」
「あのーすいませんアヤベさん、そこのちくわ取ってもらっていいですか?」
「……はい」
「やった~! ジャガイモ崩さずに掴めたよ~!」
「はーっはっはっはっ!」
「あーっはっはっはっ!」
「あーもうそこの二人うるさい!」
覇王ズセクステットのパーティーは、まだまだ始まったばかりである。
ここまで盛り上げておいてなんですが、事前に断っておきますがあくまでこのシリーズは『妹さんのいる世界線の日々』がテーマなので、レース回やレース描写は極力書かないつもりです(書いたことないし)。悪しからず。