アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~ 作:トマリ
アドマイヤリラのヒミツ②
・実は、『アヤリ』という略称は自然についたものではなく、幼少期に親から『アヤベ』と呼ばれていたアドマイヤベガが羨ましくて自分で考案し布教していったものである。
アドマイヤベガのヒミツ②
・実は、幼少期の頃から妹のことは『リラ』と呼んでおり、妹が『アヤリ』の愛称を考案し広めていく様をリアルタイムで見ていたが、今さら変えるのも違和感があるので引き続き『リラ』と呼んでいる。
───これはまだ私、アドマイヤベガとその妹であるアドマイヤリラが、高等部に上がったばかりの頃の話。
「ねぇお姉ちゃん、今日ホラー映画の上映会やらない?」
時刻も夕方を過ぎ、寮に戻ってきたときのこと。
その日の授業で出た課題をこなしていた私に、妹である少女のアドマイヤリラ───通称アヤリは(まぁ私は『リラ』と呼んでいるが)出し抜けにそう提案してきた。
……本当に突然だった。机の上で踊らせていたペンの尻尾がピタ、と止まる。
「……なに? 藪から棒に」
私が慎重に問いかけると、リラは「よくぞ聞いてくれたよ!」とポケットからスマホを取り出して起動する。電源をつけるとノータイムでそれまで見ていたのであろう画面が映し出された。
あーもうこの娘……スマホにはロックをかけなさいって前からずっと言ってるのに……。いい加減「めんどくさいから」で誤魔化させずちゃんと設定させないと……。
「ほらコレ! 見てよお姉ちゃん!」
私の心配も知らずに、リラは無防備過ぎるスマホにとある画面を映し私に手渡してくる。課題の手を止めてスマホを見てみるとそれは……とあるウマスタグラムの投稿のようだった。
その投稿では……綺麗な芦毛の髪に赤いリボンと黒い耳カバーを着けたウマ娘が、何やら店で購入した直後らしき映画のビデオを持っている写真があった。
……私には、全く見覚えのないウマ娘、および写真だった。
「……なにこれ?」
「なにって……見たらわかるでしょ? このアカウントの新しい投稿だよ」
「……誰?」
「え……えぇーーっ!? お姉ちゃん知らないのーっ!?」
純粋な疑問を持った私に妹は目を見開き、まるで黒板のようにスマホの画面を叩く。
「『Curren』だよっ!? ウマスタグラムで有名なっ、フォロワー3000万人の自撮りの女神様! こないだトレセン学園にも転入してきてたじゃん!!」
「カレン……?」
『Curren』という文字列はおろか『カレン』という発音にすら心当たりはなかった。
改めて言うが、私は全く知らないウマ娘である。
「えぇ~……今時Currenを知らないだなんて信じられない……お姉ちゃんおっくれてる~!」
本当に信じられなさそうにリラは言った。
「……遅れてて悪かったわね」
「ほんとだよー。……んまぁ無理もないかー、お姉ちゃんSNSとかオシャレ全般には興味ないもんねー」
つまらなさそうに唇を尖らせるリラ。……本当のこととはいえ、そういう言われ方をされると少しカチンと来た。
なんとなく反発心のようなもので、私は『Curren』とやらのウマスタグラムを再び覗いてみる。
先のビデオの投稿には『今日はこのホラー映画を見てみます♪』という文が添えられており、なにやら3万4753……ウマいね?という記録があった。
「……すごい人、なのね」
ウマスタグラムをやっていないので評価の基準はわからないのだが……普通に考えてこのウマいねをした一人一人がアカウントを持っている独立した人間なのだとすれば……そのまま3万人もの人間からこの『Curren』の投稿は支持されたということになる。それも言ってしまえば、ただ映画を見るという報告だけで。
……なるほど。
こんな彼女の領域までいくのには並大抵の努力では足りないのだろうということは、なんとなく私にもわかった。
「はぁ~……にしても改めて見ると、やっぱりCurrenってホントかわいいし尊い~! あー、一度でいいから会ってみたいな~話してみたいな~!」
「……この間トレセン学園に転入してきたんなら、会おうと思えば会えるんじゃないの?」
「なっ!? そっ、そんな恐れ多いことっ!!」
大袈裟と言える程にリラは腕を振った。
「こんな私ごときがCurrenと話せる資格なんてあるわけないしっ! 何話したらいいかわかんないしっ! それにっ、Currenは投稿数と更新の頻度に反比例してプライベートが全く見えないっていうのも魅力の一つなんだから! 直接会って話しちゃったら魅力が減少しちゃうかもなの~! お姉ちゃん全然わかってない~!」
「いや、知らないけど……」
会いたいのに会いたくないというめんどくさいオタクと化し始めているリラに若干引いてしまう。
……基本的にパーソナルスペースの概念が無く天真爛漫でグイグイと他人に詰めていく彼女がこんな反応をするだなんて。
……なんだか面白くない。……先ほど認めたばかりだが、やっぱりCurrenはそんなにすごいのだろうか?
「はぁー……Currenもこの栗東寮にいるって噂だけどさ……同室の人羨ましいな~……。Currenと一緒の空間にいられたり、一緒にご飯食べられたり、一緒に眠れたりするなんて~……」
「……そう」
「朝はCurrenに起こしてもらえて、尻尾のブラッシングやお風呂上がりに髪を乾かすのも一緒にできたりとか……あー! 私もやってみたかったかも~……!」
「…………」
そこまで言ったところで、ようやくリラは口数少なめになってしまった私に気づいたようだった。
「……あっ! でももちろんっ、私にとってはお姉ちゃんと同室なのが一番だよ!? お姉ちゃん以外と過ごすのなんて嫌だし、お姉ちゃんとの同室も誰にも譲らないしっ! だから寮に入ったときも真っ先にお姉ちゃんと同室になったんだし! 夜お姉ちゃんと一緒にご飯を食べるのもお姉ちゃんをお世話するのも、この世界ではみーんな私の特権なんだから♪」
「……別に何も言ってないわよ。それに、お世話されてるのは基本あなたじゃないの」
……たまにこうやって見透かされたような反応を妹にされるのが腹立たしい。自分はそこまでわかりやすいというタイプではないはずなのだけど。
とりあえずそこで一先ずCurrenへの興味を無くした私は、スマホを妹に返却する。
「……で、このCurrenさんの投稿がどうしたの?」
「えーっと……あれ、これ元々なんの話だっけ?」
「なんでホラー映画を見るのかって話」
「あ、そうだった。……いやー、理由だけいえば単純だけどさ……Currenがホラー映画を見るっていうから、この機会に私も見てみようかなーって思って!」
「本当に単純ね……別に勝手に見ればいいじゃないの。必要なら私は席を外しとくから」
「えーなんでよー!? お姉ちゃんも一緒に見ようよー!!
「なんで私まで……」
「なんで私がホラー映画一人で見なきゃいけないの!? お姉ちゃん私がホラーあんまり得意じゃないの知ってるでしょ!?」
「知ってるけど……じゃあなんでホラー映画見ようとしてるのよ……」
「だってCurrenがやるって言ってるんだもーん! 推しと同じことしたいんだもーん! 推し声優が布団乾燥機を買ったら布団乾燥機全体の売上がなんとなく上がる的なアレだよー!」
「なんのたとえよそれ……。本当にめんどくさいオタクになってるわねあなた……」
まさかリラがCurrenが絡むとここまでになるとは知らなかった。……正直面倒なことこの上ないが……しかし一度◯◯するということを決めたリラを説き伏せることは中々難しい。
目を離して暴走されても困るし……ならば近くで見ていた方がまだマシか、と思い直した。……リラ関係でこれまでに五回くらいは下した気がする判断である。
「はぁ……わかったわよ」
渋々私が頷くとリラは「やったー!」と大きく喜んだ。
「でも、なんの映画を見る気なの? あまりに怖すぎるのは私も無理だからね」
「ふっふん、そこは大丈夫だよお姉ちゃん! ちゃんと事前に『Currenのホラー映画ランキングTop10』の投稿見といたから!たとえば……Currenによると、9位のこれなんかはホラー映画苦手な人でも大丈夫らしいから!」
画像検索で掘り出された9位の映画のパッケージの画像を見るが……なにやら殺人鬼役のメイクがやたらとリアル調だし、持っている凶器もカナヅチという微妙に現実感ありそうなものだ。
正直普通に怖そうな匂いがプンプンする。本当に大丈夫なのだろうか……?
「Currenが言ってるんだから間違いないって!大丈夫!」
「あなた……その思考かなり危険よ」
「いーから! ほら、今日事前にTSU◯AYAに行って借りてきといたし! お風呂上がったら一緒に見よっ♪」
「……わかったわよ」
妹が「ようし!」とにぱっと笑ったところで私は話は終わったと判断しシャーペンを持ち直した。
妹は学生カバンを適当に部屋の隅に放ってベッドに寝転がると、そのまま鼻唄を歌いながらウマスタグラムの投稿を漁る作業に戻ったようだった。
「……リラ。私とあなたのクラスは同じだから、今私がやっている課題はあなたにも出ているはずなのだけれど?」
「え? あぁ……お姉ちゃん、明日の朝いつも通りにお願い」
「常連みたいに頼んでも写させないから。たまには自分の力でやりなさい」
……時々この娘はこのまま社会に出て大丈夫なのだろうかと不安になることがある……。
……まぁ、一応字は綺麗に書いておいてあげよう。
晩ご飯と入浴を終え、時計の針がだいたい十一時を過ぎる。
……突然だが、この世には絶対に信用してはいけない言葉が三つある。
一つ目は関西人の『行けたら行く』。
二つ目は友人の『全然勉強してない』。
───そして三つ目は、ホラー映画好きの『これはそれほど怖くないから!』だ。
『ウボアアアアアアアア!!』
「ひぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!?」
『……死にやがれ』
「いいいぃぃぃぃ! カナヅチが真っ赤に染まってるー!?」
『ああ……右足がぁ……! 逃げてぇダーリン……!』
「ちょっ、さっきから叩くSEがやたらと生々しいんだけど!? どこで録音したのよこの音ー!?」
(うるさ……)
待ち焦がれていたはずの上映会はすっかり阿鼻叫喚(約一名)の地獄絵図となっていた。
……ビデオ再生前のアドマイヤリラは、
『ふっふんお姉ちゃん! 怖くなったら私に抱きついてきてもいいからね! むしろウェルカムカモーンだよ!』
なんてドヤ顔しながらベッドの上に人が一人入れるぐらいのスペースを開けて隣に座っていたが……上映三十分ほどでもうこの有り様だった。
妹はさながら外国人のリアクション動画のように映画の演出の一つ一つに驚いている。私はほとんど動いていないのに妹との距離はいつの間にかゼロになっており、さながらコアラのようにリラは私の首に手を回してしがみついていた。
……これだけ怖がってくれれば、製作した側もさぞ本望だろう。
すごくうるさいが。
『い、イヤだぁ……! 俺はまだ死にたかねぇよぉ……!』
「うおわああああっ!? なに今の内臓!? 作り物に見えなかったんだけど!?」
「……ぐっ。ちょっと……首が若干絞まってるから……」
『……これで六人目』
「ふわあああああああっ!! 新たな死体がーーーっ!!」
「ぐえっ」
ポチャン
「ぎゃーーっ!! カナヅチが井戸に落ちたーーーっ!?」
「いや、今のは怖がる要素無かったでしょ……。ていうかちょっと……本格的に首が絞まってきてるから、一旦っ、離れて……」ジタバタ
ポチッ
「あ」
ブオオオオオオオオオオ!!
「ひぃぃいやあああああああっ!!? ちょっ、ちょお姉ちゃん!! ホラー映画鑑賞中にいきなり布団乾燥機のスイッチ入れないでよぉ!?」
「……部屋が暗いから、手元がよくわからなかったのよ」
ブオオオオオオオオオオ!!
「わかったから早く止めてぇ!! 今の私にはその音すらチェンソーの起動音みたいに聞こえるんだからぁ!!」
……隣の部屋のウマ娘たちには、後日謝罪しに行こうと思っている。
とはいえ、台詞だけ切り取ればさも妹だけがビビりまくっているように思えるが……映画自体のクオリティは普通に高かった。
そりゃさすがに名作中の名作には劣るだろうが……『見えないことによる演出』や『観客の意識の裏をかくこと』が非常に上手い。妹があまりに怖がるので相対的に冷静に振る舞えているが、私も所々で肩を震わせてしまっている。
こんな代物がTop10の第9位とは……その『Curren』とやらのホラー映画に対するお眼鏡はかなり厳しいらしい。ランキング1位はどれほどの映画だったのだろう……気になるような見たくないような。
もし仮に、なにかの間違いでそんなCurrenと同室になっていたとしたら、毎夜そんな映画を見せられていたかもしれないと考えると……少し背筋が冷たくなる……。
「ギャアアアアアア!! ダーリンの内臓がカナヅチに潰される音がーー!! ……なんかもうムカつくねこれ!? いつまで良いようにやられてんのよこんなヤツさっさと返り討ちにしてよぉ!!」
ちなみに映画終盤辺りのリラは恐怖を通り越してもはや怒りを覚え始めていた。
たぶん『ウマ娘の感情の推移について』という研究テーマを持っている人がいれば最高のサンプルになったと思う。
「……じゃ、寝るわよリラ。おやすみ」
「……お、おやすみ」
(妹と隣の部屋の住人にとって)恐怖でしかなかった映画の鑑賞が終わったあと。
いつもの快活さが嘘のように縮こまってしまったリラを適度になだめつつも、明日も早いので私たちはそれぞれ眠ることになった。
……私は極力、電気はしっかり消して眠る派なのだが、リラが
『後生ですから、今日だけは明かりをつけてくださいーっ! カナヅチが追ってくるんですー!!』
とあまりに泣きつくのでやむなく明かりはつけて眠ることになった。……本当に、なんでこの程度の耐性でホラー映画を見ようと思ったのだろうか……。
まぁ、明かりはついていようがいまいが別に良いのだけれど。布団さえフワフワなら、私に文句はない。
……ちなみに言うまでもないだろうけど、こんな時でも寝る前の布団乾燥機はしっかり使わせてもらった。
ブオオオオオオオオオオ!!
『うおおおおおおっ!!? なになにポルターガイスト!? チェンソー!? ジェイソンがジェイケーを切りに来た!?』
相変わらず妹が音に怯えたが、使用中はひたすら抱き締め大人しくさせるということで手を打った。
悪いけど、ここは譲れない。
まぁそれはさておいて。
ホラー映画であんなに(妹が)絶叫することになったのは予想外だったが、ともかく明日も学校はある。早いとこ寝た方がいいだろう。
「……ちゃん。ね……ちゃん」
そんなことを考えながら睡魔が来るまで目を閉じて大人しくしていたとき。突然何者かの小さな声らしきものが聞こえてきた。
ホラー映画を見た直後なのもあって一瞬幽霊かとも思ったが、耳を澄ませばなんてことはない、それはすぐ隣から聞こえていた。
「お姉ちゃん……ねぇお姉ちゃあん……まだ起きてる?」
薄目で確認してみると、声の主はやはり妹のリラだった。
ベッドの上で体をこっちの方に向けて、捨てられた子犬のように震えた声でこちらに呼び掛けている。
……正直可愛かったのと、さっきCurrenを知らなかったことを『遅れてる』と散々煽られた恨みもあったので、私はしばし無視を決め込んでみた。
寝返りのフリをしてさりげなく背中も向けてみる。
「ねぇ、お姉ちゃんってばぁ……。瞼を閉じたらあのカナヅチの音が聞こえるんだけどぉ……助けてよぉ……」
(それは大変ね。どれだけトラウマになってるのよ)
「あと不意打ちで放たれた布団乾燥機の音も……」
(それは知らない)
「お姉ちゃん返事してって……。ねぇお姉ちゃん? え、嘘。もう寝ちゃったのお姉ちゃん!?」
慌てたように呼び掛けるリラ。周りに配慮したのか音量こそ小さめだが……いよいよ泣き出す寸前みたいな声になり始める。
……さすがにそろそろ返事をしてやった方がいいか……?いや、それともここはお灸を据えてやるためにももう少し引っ張るべきか。
(……ん?)
なんてことを思っていると、突然モゾモゾと、なにやら布が擦れるような音がした。と同時に、身に纏っていたフワフワの毛布が独りでに動き始める。
まさか本物のポルターガイストでも起きたか、と思いながら動かしていた体勢を再び妹のいる方向へと戻すと、
「お姉ちゃあん……」
「っ!?」
そこにはいつの間にやら自分の布団を抜け出して、半泣きで私の布団に入り込もうとしているリラの姿があった。
私より少し声質が高い子供みたいな声なのも相まって、下手なホラー映画のワンシーンと言われても信用できそうだった。
「ちょっとリラっ、なにしてるのっ!?」
「うう……やっぱりお姉ちゃん起きてるんじゃん~……! 眠れないんだよぉ~! お布団入れて~! 一緒に寝ようよ~!」
返事も聞かずそのまま布団に潜り込んでくる。フワフワでホカホカな空気に満たされていた毛布の中に急速に外の空気が混ざり始めた。
「ちょっ、寒くなるじゃないのっ」
「いいじゃんいいじゃん~! お姉ちゃんは可愛い妹とフワフワのお布団どっちが大事なの!?」
「フワフワのお布団」
「即答しないでよっ! ほらお姉ちゃんもうちょいそっち寄って!」
問答無用
モゾモゾモゾと毛布の中で私たちの体が蠢く。
「もうお姉ちゃん枕が小さい~!まだ寄ってよ~!」
「本来一人用なんだから当たり前でしょっ。あなたこそスペース取りすぎよ」
しばらくギャアギャアと姉妹で言い合っていたが……一分ほど経つとやがて諸々折り合いをつけてスペースを確保し合う。
陣地の奪い合いがようやく落ち着くと、リラはまるで温泉に浸かったカピバラのような顔をしていた。
「あー……さっすが布団乾燥機……。やっぱこれだねぇ♪ お姉ちゃんと、お姉ちゃんのお布団あったか~い♪」
「もう……」
少し冷えた脚を私の脚に絡ませてくる。
……冷たいしやめてほしいのだけれど、布団乾燥機の成果を褒められると……そしてコロコロと笑う妹を見ていると、不思議とどうでもよくなってしまった。
妹への不満など、姉はため息一つでだいたい飲み込めるのだ。
「……これに懲りたら、もうホラー映画はほどほどにしなさいよ。いくらCurrenが見てたからって」
「うん……そうする。ありがとう、お姉ちゃん」
姉妹二人、布団の中で見つめ合う。
……本当に、鏡を見ているかと思うほどソックリな顔。それでいて性格は正反対。
血を分けた、私の大切な妹。
「……なんだか、懐かしいねぇ」
ふと、妹が目を細めて言った。
「……なにが?」
「子供の頃。こんな風にお姉ちゃんとよく一緒に寝たなぁって」
「……そうだったっけ?」
「そうだったよぉ!」
忘れちゃったの?と頬を膨らませるリラ。
……さっきまであんなにしおらしくなっていたくせに、もう大分回復してきたらしい。
「お姉ちゃんのお布団っていつもフワフワで暖かったからさぁ、冬の日とかしょっちゅう潜り込んでて……」
「……あぁ、そうだったかもね」
言及されたことで脳に刻まれていたタグが反応したのか、次第に記憶が呼び起こされていく。
「ずぅっと潜り込んで来てたわよね。『そんなにあったかい布団がいいなら、布団乾燥機を貸してあげるから自分の布団にも使いなさいよ』ていくら言っても、『めんどくさいし二度手間だから』て聞かなくて……」
「えへへ……だってあったかい布団も良かったけど、なによりお姉ちゃんと一緒に寝たかったんだもん」
「ほんっと子供の頃から変わってないわね……。まだお母さんと一緒に寝てたときだって……あなたがどうしても私の隣で寝たいって泣きつくから、私、リラ、お母さん、の並びで川の字になってたからね……。普通は私、お母さん、リラ、の並びになるはずなのに……」
「ふふっ……そうだったかも」
「小学生の頃だって、初めて姉妹で部屋と二段ベッドを与えられた時なんか、あなた『私が上のベッドがいい!』て散々喚いてたくせに、結局いざ寝始めたら下の私がいるベッドの方に来るんだから……」
「あれ……そんなこと……あったかなぁ……?」
「……あったわよ。忘れたの?」
「えへへ……あれは、若気……至りの、お姉ちゃんに迷惑かけた、黒歴史、だか、ら……」
言葉は最後まで続かなかった。
突然電池を引っこ抜かれたように、リラは急速に瞼を閉じてしまった。
二拍ほど経ってから、やがて「すー……すー……」と規則正しい寝息を立て始める。……どうやら、今日は色々とお疲れになったことで、彼女はもう寝てしまったらしい。
……私は、思わず呆れてしまった。
「……ほんと、子供の頃からずっとそう」
ずり落ちかけていた毛布をかけ直してやる。
「私の布団に来るまでは『眠れない』、『寂しい』て喚いてるくせに……一度潜り込んだらすぐに寝ちゃうんだから」
当時から触り続けていた可愛い妹の髪の毛を、私はまた優しく撫でた。
そのまま、私もいつの間にか寝てしまったらしい。
……ちなみに、翌日ニヤニヤしっぱなしだった妹からの情報なので信憑性は低いが……あの後先に目覚めた妹によると、私は寝ている間に彼女の首に手を回してコアラのようにしがみついていたらしい。
……案外、私も人のことは言えないか。
妹さんが生きているのに伴って、正史と比べてキャラの関係性など若干変わっています。
RTTT3話でのアヤベさんが辛すぎて、こんな幼少期があったアヤベさんがいてもいいじゃない、という思いも乗せて書きました(時系列は現代ですが)。