アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~   作:トマリ

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アドマイヤリラのヒミツ③
・実は、小学二年生の頃『自分のプロフィール』的な自己紹介の紙の『尊敬する人』の欄の部分に迷いなく姉の名前を書いたことがある。


アドマイヤベガのヒミツ③
・実は、小学二年生の頃、妹の『尊敬する人』の欄に自分の名前を勝手に書かれ、しかもそれをクラス全員の前で発表されたことがある(事前に知らされず)。





妹と『デート』とぱかプチ

 

 ライブドアモール、という施設がある。

 

 それは、トレセン学園の最寄りにあるショッピングモールである。確か築三十年ほど。このあたりにあるのでは最も大きいものだったはずだ。

 トレセンの近くにあるだけあって、蹄鉄などのウマ娘用品はもちろんのこと、食料品や衣服類などありとあらゆる物が高水準で揃っている。その品揃えの多さたるや、『なにか足りないものがあれば、あるかわからなくてもとりあえずここへ行く』というウマ娘も少なくないほど。

 特に(事前予約など面倒な手続きは必要になるとはいえ)ここの衣服コーナーは『勝負服の修繕』なども請け負っており、まさにウマ娘御用達の施設なのである。

 あまりの便利さに『トレセンに通うウマ娘は卒業するまでに必ず一回はこのショッピングモールの世話になる』という武勇伝まで語られるほどだ。

 

 そんなショッピングモールにて。

 

 

 

「ねぇねぇトレーナーさん! 次はなに見に行く!? ほらっ、早く来てってばぁ!」

 

「ちょ、アドマイヤリラっ、そんなに引っ張らないでって……!」

 

 

 なぜか現在、トレーナーはアドマイヤベガの妹であるアドマイヤリラと買い物……いや、『デート』をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日ほど前。

 トレーナーが、いつものようにトレーナー室で仕事をしていた時の事だ。

 突然トレーナー室の扉が激しくノックされたかと思うと、トレーナーが返事をする間もなく一人のウマ娘が入ってきた。

 

 

「ちょっとトレーナーさんどういうこと!?」

 

 

 怒ったように言いながらやってきたのは、彼の愛バの一人であるアドマイヤリラこと、アヤリだった。今日も耳メンコの位置ぐらいしか見分ける術がない、姉とそっくりな顔が綺麗である。

 

「どっ……どういうことって、どういうこと?」

 

 あまりに突然すぎた来訪者にトレーナーは驚きながらも、タイピングをやめて質問し返す。

 トレーナーとしては本当にどういうことか聞きたかったのだが、アヤリは「ふーん、あくまでとぼけるんだぁ?」と目を細めた。

 そうして訳がわからないままでいるトレーナーに、さながら探偵のようにビシィ!と指を突きつける。

 

 

「委員長のトップロードさんから聞いたよっ!! こないだの休みの日、トレーナーさんがお姉ちゃんと一緒にウマ娘用品店に買い物に行ったのを見たって!!」

 

「ウマ娘用品店……ああ、確かに行ったかも」

 

 

 アヤリの言葉で記憶のタグが反応する。

 確かにこないだの土曜日。アドマイヤベガから『シューズの買い換えに付き合って欲しい』と言われて了承し、トレーナーは一緒に近場のウマ娘用品店へと向かった。

 ……だが、それだけである。本当にシューズを買いに行っただけだし、その後寄り道もしていないし、やましいこともしていない(しようとしたらアヤベに蹴り飛ばされる)。

 なのでアドマイヤリラがこんなに怒る理由など無いはずなのだが……。

 

「くぅ……油断してた……。さすがお姉ちゃんだよ……! こういう細かいところでコツコツとトレーナーさんとのポイントを稼いでくんだから……!」

 

 ……無いはずなのだが、何故かアヤリはボソボソと口の中で呟いている。全然聞こえないなとトレーナーが思っていると、その対応すらも面白くなかったのかアヤリはハリセンボンのように頬を膨らませた。

 

「む~~……!! ずーるーいーー!! お姉ちゃんとお出かけしたんだったら私ともお出かけしてよ~~!!」

 

「いやだから……お出かけじゃなくてただの買い物だから……」

 

「買い物でもずるいよーー!! 私だってトレーナーさんと買い物に行きたいーー!!」

 

「えぇ……そ、そんなこと言われても……」

 

「行ってくれないと、明日から三ヶ月間ぶっ続けて『絶不調』になってやるんだからぁ!!」

 

「それは困るね……」

 

 トレーナーは困惑するばかりだったが、その後もアヤリはギャアギャアと騒ぎ続けた。そうして仕方なくトレーナーが折れる形になり、さっそく明日の放課後あたりにアヤリも同じくウマ娘用品の買い換えにいくことになったのだった。

 

 

 ……普段は『いつもの光景』として流しているが、平時からこんなワガママお転婆娘であるアヤリの世話をこなしているアドマイヤベガは、何気に物凄いことをしているのではないだろうか、とトレーナーは思った。今度何か奢ろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさーん!これどう!?」

 

「ん? ああ……いいんじゃない?」

 

「じゃあこっちとどっちが良い!?」

 

「えぇっと……どっちも似合ってるよ」

 

「むー! トレーナーさん何か適当に答えてない!?」

 

「……一応確認なんだけど、僕らレース用品買いに来たんだよね?なんで服屋コーナーにいるの僕ら?」

 

 

 というわけで、アドマイヤリラとトレーナーがライブドアモールにお出かけをしているという現在に繋がるわけなのだが。

 なぜわざわざアヤベと一緒に行ったウマ娘用品店ではなく、このライブドアモールを選んだのかという理由だが。

 それはトレーナーが同じことを質問したときのアドマイヤリラ曰く、

 

 

『だって、お姉ちゃんと同じところに行ったって意味ないじゃん! それじゃあお姉ちゃんとのデートの焼き直しになっちゃうし!」

 

『デートて。焼き直して』

 

 

 トレーナーは思わず苦笑いしてしまった。

 ……なんだか知らない間に、アドマイヤベガとの『買い物』が随分とんでもない出来事へと昇華させられているようだ。

 ……『デート』など、アヤベが聞いたらどんな顔をするのだろうか……。興味はないことも……いや、やはり怖い。できれば見たくない。

 

「ほら寄り道ばっかりしてないでっ。元はシューズとか蹄鉄とか諸々を見に来たんでしょ。早いとこ買って帰るよ」

 

「うえーん待ってよー! もうちょい色んなとこ行こうよトレーナーさーん!せっかくのデートなのにー!」

 

「デートじゃなくて買い出しだって」

 

 悪寒を感じたのを誤魔化す意味合いも込めて、

 トレーナーは次の服を選んでいたアドマイヤリラの後ろ襟を引っ掴んでドラ猫のように引っ張っていく。

 アヤリはまだ文句を言っていたが……その気になれば振り払えるのを大人しく引っ張られてるあたり本気で抵抗するつもりはないらしい。

 一応は彼女の姉と同じように、『買い物』だけして帰るつもりではあるようだ。

 

 

 ……この感じだと、数日前にトレーナー室で姉を『ズルい』と言っていたのも、きっと全部本心で言っていたわけではなく、半分くらいはその場のノリで言っていたのだろう。お転婆な口調のせいでわかりにくいが、彼女は彼女でちゃんと姉のことを気遣っているし、足並みだって合わせられるはずだ。

 にもかかわらず、何故か最近……今回のようにその足並みが狂うことがある。

 

 一体なんでなのだろう……?

 

 気にはなるが……まぁ、所詮は姉妹間の問題なのだから部外者が考えても仕方ないか、とトレーナーは結論付けた。

 

 

(あと他にも……こんなにも『デート』を連呼するなんて……いやそりゃ年頃とはいえ構わず言いすぎだなぁ……。こんなんじゃ社会に出てから誰彼なしに誤解させまくっちゃうぞ……いい加減『大人をからかうのはやめなさい』て注意しないとな……)

 

 

 ……トレーナー業も楽ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、無事に三階のウマ娘用品コーナーでシューズと蹄鉄を買った帰り道。

 三階から入り口の一階に戻る道中にて。

 

「走り続~けよ~♪ どんな未来でも~違うから~♪」

 

 あれだけ不満をこぼしていながらも、結局『トレーナーと買い物をした』ことそのものが楽しかったのか、買い終えた頃にはアドマイヤリラは小さく歌を歌いながら歩いていた。本人のメロディに合わせて揺れる袋の中で蹄鉄がジャラジャラと音を立てている。

 

 

(なんというか本当……単純というか、なんというか)

 

 

 そんな彼女の隣を、トレーナーは薄く笑いながら歩いていた。

 あのアドマイヤベガが、しょっちゅう困らされたりため息を吐いたりしながらもなんやかんやでアドマイヤリラの世話を焼いてしまう理由がわかったような気がする。

 

 もちろん、アヤリへの不満が無いわけではない。すごく振り回されるし。

 

 しかし……本当に幼い子供のように、笑いたいときに笑い、泣きたいときに泣き、怒りたいときに怒り、ワガママを言いたいときにワガママを言う彼女。

 

 その時その時、一瞬一瞬をガムシャラに元気一杯に過ごしているような彼女を間近で見ていると……いつしかこっちの気持ちまで晴れやかになり、ついつい不満を飲み込んで世話を焼きたくなってしまう。

 

 

 そういうなにか不思議な魅力が、アドマイヤリラにはあった。

 これがなんだかんだで彼女が愛される理由なのかもしれない。

 

 

「……ん?」

 

 

 なーんてことを再認識しながら歩いていたとき。二階までエスカレーターで降りてきたあたりでふと横の方を向くと、トレーナーはあるものを見つけた。

 ……それがよほど凄いものだったのか、「うおっ」と驚いたように彼は足を止めてしまった。

 

「ちょっ……ととっ! どうしたの、トレーナーさん?」

 

それに気づかず一階へのエスカレーターを下りかけていたアヤリが慌てたように戻ってくる。アヤリはまだトレーナーが気づいたものに気づいていないのか、キョトンとした顔をしていた。

 

「あれ、ほらっ、見てみて」

 

 視線の先にある広場の一角をトレーナーは指差してみる。

 首をかしげながらその指の先を追ったアドマイヤリラは───その瞬間に目を見開いた。

 

 

「うわぁ……!!」

 

 

 思わずと言ったように彼女は声を上げた。その瞳に一気に星が輝き始める。

 鼻息が荒くなり、傍目にも今の彼女が興奮しているのだということがわかった。

 

 アヤリをそこまで高揚させた、視線の先にあったものの正体は───

 

 

 

「おっ……お姉ちゃんのぱかぷちだぁ~……!!」

 

 

 

 今日新発売されたらしきぱかプチだった。───より正確に言うと、そこにあったのは『期待の二つ星(ジェミニ)セット』と銘打たれた、大量に積まれたアヤベとアヤリのペアぱかプチだった。

 たまにあるような、二つのぬいぐるみの腕部分が縫い糸で繋げられており、並んで座らせるタイプのぱかぷちである。

 それがこの売場の一角を大きく占めていた。ご丁寧に『期待の二つ星セット』の看板の近くには『これを買ってアドマイヤ姉妹を君の家に招待しよう!』みたいな吹き出しが添えられている。

 

「すごいね……こんなにたくさん売られてるなんて」

 

 仮にも担当なので、もちろんトレーナーもこの商品の存在は知っていた。だが、まさかここまで『目玉商品』のようにプッシュされているとは思っていなかった。

 

「すごーい! すっご~い……!!」

 

 ナリタトップロードみたいな語彙力になりながら矢のようにアヤリは売場へ駆け寄っていく。……さすがに今回の寄り道は咎める気にはなれなかった。

 ウマ娘のスピードで売場まで向かったアヤリの背中になんとか追い付く。

 

 

「そういえば、いつぞやこんな企画も受けたような気がする……! へぇ~! もう商品化してたんだ~!」

 

 

 うわっ、柔らかっ、とか言いながらぱかプチの一つ(二つ)を持ち上げると、アヤリは楽しそうにふにふにと触っていた。

 その顔は、本当に嬉しそうというか、まさに新しいオモチャを見つけた子供のようで。先日にあれほど姉に『ズルい』と怒っていたにも関わらずそのぱかぷちを見ると真っ先に駆け寄ってしまうところが、先のトレーナーの考察を証明しているようでもあった。

 ともかく、喜んでいるアヤリを見てるとついついトレーナーの顔にも笑みがこぼれてしまう。

 

 

「ああ……可愛い……!」

 

「ほんとだね……! ぱかプチ全部に言えるけど、よくできてるよ」

 

「うん……! しかもこれの場合は耳メンコの位置ぐらいしか目立った違いが無いから作るのも簡単そう~!! 製作側にも優しいね!!」

 

「どうした急に。やめなさいそういうこと言うの」

 

 

 レジの所にいた店員がギョッとした顔でこちらを見るのでトレーナーは慌ててすいませんと頭を下げた。

 が、そんなのも気にした様子はなくアヤリはぱかぷちの観察を続ける。

 

「……あ、でも一応の違いはあるみたい。私の方が少し口角が上で頬が赤っぽくて、お姉ちゃんの方は若干つり目になってる。へぇー……やっぱり世間からはこういうイメージなんだぁ……」

 

 呟くように言いながらぱかプチの脚を持って可動域を確かめたりしている。

 ……正直に言うと、見つけた本人であるトレーナーもまさかここまで食いつくとは思わなかった。いやそりゃ、世間からはアイドルだのアスリートだのと言われるウマ娘も結局は年頃の少女であるし、年頃の少女にとって『自分(もしくは身内)をモチーフとした商品が出る』のは非常に喜ばしいことだろうが……。

 

 

「そんなに喜ぶんだったら、先に言ってくれれば良かったのに」

 

「え?」

 

「僕はトレーナーだから、先に製作側に言っとけば担当が商品化されたときにサンプルをもらうこともできたんだけど……」

 

 

 彼の一人目の担当ウマ娘であるアドマイヤベガが、あまりそういう商品類には興味が無いタイプだったため、ついアドマイヤリラも同じようなタイプかと思ってしまっていた。

 こんなことならもっとしっかり話し合っておけば良かったと、トレーナーは少し後悔しかけたのだが───

 

 

「なっ、なんてこと言うのトレーナーさんっ!!」

 

「えっ」

 

 

 何故か彼の発言を聞き終える前に、アヤリは怒ったように声を張り上げた。

 混乱するトレーナーに、彼女は肩を掴みかからん勢いで詰め寄ってくる。

 

 

「製作の方々と、そしてお姉ちゃんが協力して作ってくれたものを無料で手に入れようとするだなんてっ、なんてマネをっ!!」

 

「え、あ……ご、ごめん……?」

 

 

 トレーナーとしては一応善意で言っていたので、予想外の反応に目をパチクりとさせてしまう。

 

 

「それじゃダメだよっ!! 自分が好きなものはちゃんとお金を払って自分で手に入れないと!! 抜け道を使って無料で手に入れようだなんてファン失格だよ!?」

 

「あ、そ、それはそうかもしれないけど……。て、ていうか僕はファンじゃなくてトレーナーなんだけど……」

 

「いいわけしていいわけっ!?」

 

「す、すいませんっ!!」

 

 

 目の奥で炎が燃えているような幻覚まで見えそうなアヤリに、トレーナーは完全に気圧されてしまった。ま、まぁ、確かに言ってることは一理あるかもしれないが……目がマジである。

 トレーナーが頭を下げると一先ず気が済んだのか、アヤリはふんすと息を吐きながらぱかプチを抱き締める。

 

 

「というわけなのでっ、このぱかプチはここで妹が責任もってしっかり自腹で購入しますっ!」

 

「う、うん……ご自由にどうぞ……」

 

 

 トレーナーの言葉に頷きながら手の中のぱかプチを撫でるアヤリ。すると、ファンとしての怒りで中断されていたさっきまでの喜びが戻ってきたのか、彼女はまたにぱっと頬を緩ませた。

 ……本当に表情筋が忙しい娘だ。

 

 

「えへへっ……! 部屋に帰ったら、これも私の秘蔵の『お姉ちゃんコレクション』に加えよっと♪ また一個賑やかになったねぇ♪」

 

「え……なに、『お姉ちゃんコレクション』って……?」

 

 

 ……仮にも一年付き添ったが初耳なのだが。

 

 

「えーっ!? トレーナーさんったら私の『お姉ちゃんコレクション』知らないのー!?」

 

「むしろ他人の秘蔵コレクションを知ってたらそれはそれで問題だと思うけど……」

 

「しょうがないなぁ……」

 

 

 その後アヤリから教えられた話によると……どうやら実は彼女は一年前……アヤベがトゥインクルシリーズでデビューして名が売れ始めたあたりから、アヤベに関するグッズを収集し続けていたらしい。

 今回のようなぱかプチはもちろん、ブロマイドや缶バッジ、更にはアヤベが表紙を飾った雑誌など……グッズが出れば必ず(自腹で)購入しに行っているらしい。

 そうして集めた物は全てあの姉妹共用の部屋の自分の机の中(本人曰く「収納術」)などに保管しており、それが通称『お姉ちゃんコレクション』となっているのだとか……。

 

 ……ちなみに『秘蔵』と銘打ってはいるが、そのコレクションの存在は姉本人にも公表しているらしく、たまに引き出しの端からそのアヤベグッズの一部がはみ出したりしている度に、アヤベさんが何とも言えない顔をしながら直しているらしい。

 

「そ、そんなことを……してたの……?」

 

 若干引き気味にトレーナーが訊くと、アヤリはむしろ誇らしげに胸を張った。

 

 

「もちろんだよっ! グッズも一つの物につきちゃんと四個くらい買ってるし♪ えっとね、保存用、布教用、布教用、布教用で……」

 

「ほぼ布教する気しかない……な、なんでそこまで……?」

 

「決まってるじゃん!」

 

 

 思わず額に手を当てかけたトレーナーに───アヤリは何故かその場でくるっと一回転してから言った。

 

 

「だって、他のファンの人たちはお姉ちゃんがデビューした一年前から推しだしたんだろうけど───私は子供の頃からお姉ちゃんのことがずっと好きだった、謂わばファン第一号なのでっ!! お姉ちゃんの魅力を皆に知って欲しいって思ってるのは、他ならぬ私なんだよっ!!」

 

 

 アドマイヤリラは、そう言ってにぱっと笑ったのだった。

 

 ……そのあまりにも単純な、真っ直ぐな理由に。

 引き気味だったトレーナーは、つい毒気を抜かれたような気持ちになった。

 

 

 そこにあったのが───あまりにも純粋な、『好意』と、『憧れ』だったから。

 

 

 

「……そっか。アドマイヤリラは本当に、アヤベさんのことが大好きなんだね」

 

「もちろんっ! そりゃあ、今は口うるさかったり越えるべき目標だったり、れんあ……のライバルだったりと色々あるけど……まずなによりもっ、私の自慢のお姉ちゃんだしっ!」

 

「……そっか」

 

 

 この台詞を、アヤベに聞かせてあげられないのが残念だった。……いやきっと、姉がいないからこそここまで大胆なことが言えているのだろうが。

 それでも、自分ごときの耳に届かせるには勿体無い台詞とさえ、トレーナーは思った。

 

 ……いつか、それとなくアヤベにも教えてあげようか。

 

 そう考えながら、トレーナーはアドマイヤリラと笑い合いながらレジへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーとアドマイヤリラがぱかプチの売場を離れてから、一時間ほど経った後。

 一人のウマ娘が、この売場で足を止めた。

 

 

 そのウマ娘は、トレセン学園の制服を着ていた。クールそうな雰囲気を纏っており、大きな耳の右側だけに青色っぽい耳メンコをつけている。

 

 

「…………」

 

 

 元々、彼女は無くなりかけているテーピングを買い足しに来ただけであり、そして既に買い終えたためもうこのショッピングモールに用はなかった。

 時間も有限であるし、本来は余計なものを見ず早くトレセンに帰るべきである。

 

 しかしそのウマ娘は……ついつい吸い寄せられるように、ぱかぷちの前へとやってきてしまった。

 あくび混じりにレジの所へいた店員が、

 

「あれ……?さっき来たお客さんと同じ……?」

 

と怪訝そうな顔になる。

 それを無視しながら、ウマ娘は『期待の二つ星セット』のぱかプチを持ち上げた。

 

 

 姉妹が仲良く手を繋いでいるデザインのぱかプチを見て、そのウマ娘は珍しく口角を上げた。

 

 

「……可愛い」

 

 

 誰にも聞こえないほどの小声で呟き───アドマイヤリラの方のぱかプチの頭を軽く撫でると、そのウマ娘は迷うこと無くぱかプチをレジへと持っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、とある姉妹の部屋に四人姉妹のぱかプチが飾られることになったのは、また別の話である。

 

 

 

 

 

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