アドマイヤベガIF ~もしも妹さんが生きていたら~ 作:トマリ
金曜日の放課後。
学生にとっては五日間の勉学から解放され、日々に一先ずの区切りを付けられるようになる時である。
「……っふ、くぅ~……!」
その心境は、アドマイヤベガの妹であるアドマイヤリラことアヤリにももちろん適応されていた。
彼女は教室の中で思い切り伸びをする。六時間目に眠っていたからか、背骨と胸骨がパキパキと音を立てた。
一通り体をほぐすと、さてまず何をしようかと辺りを見渡す。
「トプロいいんちょー! ノート写させて~!」
「最後にちょっとだけ起きたけど、今日習った範囲が小テストとして出るなんて聞いてないよー!!」
「もう、仕方ないですね! ちゃんと起きていなきゃダメですよ?」
『うおおいいんちょー……!!』
教室の隅のあたりで彼女の尊敬する学級委員長であるナリタトップロードと、そのクラスメイトの会話が聞こえてくる。
え、とアヤリは思わず目を見開いた。……自分は授業終わりまでキッチリ寝ていたため気づかなかった。そんなことを教師は言っていたのか。
「ねぇお姉ちゃーん、さっきのノート写させて~!」
これはさすがに自分もウカウカとしてられない。
アヤリは学級委員長の代わりに、自分よりもノートまとめが上手く字も綺麗な世界一頼れる姉に頼むことにした。
……ついでに、『後ろの席にいたんだから、そんな大事な話してたんなら起こしてくれてもよかったじゃん』と文句を言おうとしたのだが───
「……あれ?」
振り返ったのに、何故か自分と瓜二つの姉の姿は無かった。自分のと違って落書き一つ無い綺麗な机があるだけである。
……バッグなどはそのまま置かれているのを見るに、どこかに行っただけかと思われるが……。
「ねぇ、お姉ちゃんどこに行ったか知らない?」
なんとなく気になったので通りすがったクラスメイトに事情を聞いてみる。
「あれ? アドマイヤベガさんなんでまだここに……ってなんだ、あなた妹さんの方か」
「そうだよ! もう~、姉妹で耳カバーの位置が逆だっていつも言ってるでしょ?」
「いや、他人の耳カバーの位置なんて案外覚えてないものだよ……。まぁともかく、お姉さんならさっきの授業終わりに先生に職員室まで呼び出されてたよ?」
「えっなにそれ。お姉ちゃん何かやらかしたの!?お姉ちゃんがそんなのありえないんだけど!?」
「ちょっ、落ち着いてって。別に大した用事じゃないみたいだよ?ただの先生の手伝いとかそんなのみたい」
「なーんだ……」
ホッと一安心する。
もし自分が寝ている間に姉に変なことが起きていたら悔やんでも悔やみきれない。面倒なことが起きていないようでよかった。
「ふわぁ~……」
安心したからか大口のあくびがもれる。
……もう一眠りしようか。今日は自分もアヤベもトレーニングは休みだ。ゆっくりしてても罰は当たらない。
アヤベもおそらくすぐに戻ってくる。授業中ならともかく、一緒に寮へ帰るときはさすがに起こしてもらえるだろう。
そう思いながらアヤリは机を枕にして再び寝ようと思ったが───
「あのっ、す、すみませ~ん!!」
その前に聞き覚えのある声にウマ耳がピコピコと動いた。ん?と顔を上げて声がした方を向いてみる。
すると教室の入り口のところに、やはり見知ったウマ娘が立っているのが見えた。
「あれ、ドトウちゃんじゃん」
睡眠に入りかけていた体を引き摺りながら入り口まで行ってみる。……仮にも上級生の教室に来たからか、ドトウはいつにもまして不安そうな顔をしていた。
「やっほードトウちゃん! どうしたの? ドトウちゃんがこのクラスに来るの珍しいね?それもオペラオーちゃんを連れず単品で」
「あ、アヤリさん!」
そんな状態だったからか、ドトウは見知ったアヤリの顔を見つけると一気に表情を明るくさせた。
……そういう反応をされるとアヤリは悪い気はしない。まったく可愛い後輩、および可愛い妹分的な存在の少女だ。
「どうしたの? 何か用?」
「それがですねぇ、アヤベさんに……きゃっ!?」
そして事情を話そうとドトウが一歩前に出ようとしたとき。足をもつれさせたのか、彼女は思いっきり前の方へ倒れ込んできた。
すなわち、アヤリのお腹の部分へと。
「お゛お゛う゛っ!?」
可愛い妹分からの不意打ち突進をモロに喰らい、アヤリは思わず女の子が出してはいけない声を出してしまった。
身長の関係で、ドトウの胸がそのままアヤリのお腹に当たる形になる。おそらく普通に触れば柔らかいのであろうソレは、しかし勢いを付けてぶつけられればただの鈍器だった。
昼食を消化している最中の胃を直接攻撃されたような感覚。お腹がそのまま凹んだような錯覚を覚えそうだった。
「はっ、はわわわわわ~~!!ごめんなさいアヤリさんっ!!だ、大丈夫ですかぁ!?」
「お゛お゛……だ、だいじょうぶだよドトウちゃ……。せっ、先輩たるものっ、可愛い後輩の一人や二人は、ちゃんとっ、(物理的に)支えられないと……ゲホッ、ねっ♪」
プルプルと震えながらもドトウを心配させまいと片手でサムズアップをしてみせるアヤリ。……いつものにぱっとした笑みが、今は台風に吹かれる直前の灯火のように見えた。
「よ、よかったですぅ~……。本当にごめんなさい……私っていつもドジばっかしてしまってぇ……この間もアヤベさんにぶつかってしまいましたし……」
「ド、ドトウ、ちゃん……悔やむのはいいけど、今は後にしてくれないかなっ? そのままの体勢でいられるとっ、私もちょっとキツイっていうか……そ、そろそろ腸が……」
「ああっ、すみません~! 今すぐ退きます~!!」
アヤリの顔からは着実に生気がなくなりかけていた。この小説のジャンルがバトルモノであったなら喀血していたかもしれない。
ドトウという名の重りが除けられると、アヤリは呆れたように、
「けほっ、けほっ……ドトウちゃん、また私が知らない間に腕を……いや、胸を上げたね……」
「あ、あうう……ご、ごめんなさいごめんなさい~……」
本当に腹が凹んでないか確認してから、アヤリはまた数回咳をした。
そういえば、以前姉であるアヤベもこんな風にドトウにぶつかられたことがあるらしいが……その時の彼女は自分と違ってまるで動じていなかったらしい。
改めて体幹強すぎないか、ウチの姉。
「けほっ……まぁいいや。それでどうしたのドトウちゃん? さっきお姉ちゃんの名前言いかけてなかった?」
「あ、そうでしたっ!」
ともかく、眠気も一瞬で覚めて回復したアヤリが再度問うと、ドトウは思い出したようにスカートのポケットに手を入れた。
そこから取り出したのは、姉が愛用していた青っぽいハンカチである。
「これ、こないだ私がアヤベさんから借りてたものなんです。洗濯が終わったので、こうして返しにきたんですけどぉ……」
「へー、そんなことしてたんだお姉ちゃん。でもちょっとタイミング悪かったねぇ───」
アヤリは先ほどクラスメイトから聞いたことをそのままドトウに伝える。
「あ、そ、そうだったんですか!」
「どうする?あれだったら、私からお姉ちゃんに渡しとこうか?」
「いっ、いえいえ! アヤリさんに悪いですし……それにこういうのって、やっぱり直接返してお礼を伝えてこそだと思いますので~……」
「おっ、良い心掛けだねドトウちゃん~! 私大事だと思うよそういうの!」
「わぷっ」
偉い偉い♪ とドトウの頭を撫でてやるアヤリ。ふ、普通のことですよ~とドトウは困ったように言ったが、撫でられること自体には目を閉じて満更でもなさそうな表情をしていた。
そんな姉かデジタルが見ていたら密かに尊んでいそうな光景が数秒ほど続いた後、
「そっ、それでは私は職員室に行ってきます~。お騒がせしました~……」
「はーい。もし入れ違いになったようならLINE入れとくね~!」
一礼した後、ドトウは背中を向けて職員室へ向かおうとする。
それをアヤリはばいば~い♪ と手を振って見送る───
───見送るはず、だった、の、だが。
……一旦話が終わって落ち着く時間ができたからだろうか。ふとさっきまでのやり取りでアヤリに引っ掛かる部分があった。
「…………」
アヤリは改めて自分の体に手を当ててみる。
お腹には、まだあの感触が残っていた。……さながらハンマーのようにぶつけられた、ドトウのあの暴力的な膨らみの感触が。
その感触と照らし合わせるように、アヤリはペタペタと自分の胸を触ってみた。
……そして、改めて思った。
(……いややっぱりおかしいって! プールの授業やら入浴やらで見慣れてたつもりではあったけど、改めてぶつけられるとやっぱおかしいよあの大きさ!! 何を食べたらあんな風になるの!?)
なんというか……これでも一応アヤリは女の子であるので、オシャレなど見た目諸々への関心はある。
前々から気にはなっていたのだが……改めてドトウに『女』としての差を突きつけられたような、そんな気がしていたのだ。
(くそう……これでも私密かに自信はあったのに……! お母さんとお姉ちゃんに似たお陰でスタイルもSRのハズなのに……! ドトウちゃんめ……この体型を維持するのに私がどれだけ苦労してると……! 最近私の方は体重がちょっと増えてきちゃってるのに……)
体重が増えたのは間食のしすぎd……あくまで前より筋肉が増えたからだし、その恨みをドトウにぶつけるのはどう考えてもお門違いなのだが……ともかくあの突進によって、アヤリが密かにドトウに拗らせていた、出るとこが出過ぎな体型へのコンプレックスが刺激されてしまったようだった。
(……ちょっと、仕返しがしたい)
ピコン、と耳が動く。
元々アヤリはイタズラ好きでもある。これまでにもドトウに軽くイタズラをしかけたり、『オペラオー劇場』に飛び入り参加して、戸惑っているドトウをオペラオーと一緒に盛り上げたりしていた。
あくまでそれと同じ感じの、ささやかな仕返しをしたいと思った。
(なにか面白そうなのはないかな……)
そう考えていたとき、ふとアヤリの頭の横で豆電球が開発された。
「───ぷっ。くくっ……!」
「? アヤリさん、どうしましたかぁ?」
「い、いや、くふふっ───なんでもないよ。無事お姉ちゃんに会えるといいねっ」
「は、はいっ。アヤリさんありがとうございますぅ~」
また丁寧にお辞儀をし、ドトウがアヤリに背を向けたのを確認すると、彼女は顔に滲んでいた笑みを引っ込めて「あ、あ」と軽く発声練習をした。
そして心の中で三秒数えてから口を開く。
『───ドトウ、何をしているの?』
アヤリは───姉の声質を極限まで真似てそう言った。
……しかしそれは、『真似』と言うにはあまりにも完成度が高いものだった。
まるで同じ声優が出している声のような……もし何かしらの機械で測定していれば、『96%の確率で一致』ぐらいの結果は叩き出していたほどだろう。
……そんなのに、背を向けていたドトウが引っ掛からないわけはなく。
「あ、あれ? 今アヤベさんの声がしたような……?」
アヤベさんは職員室にいるはずなのに、とハテナマークを浮かべながらドトウは振り返った。
しかし、彼女の背後にいるのは(笑みを堪え不思議そうな顔を装った)アヤリだけであり、当然アドマイヤベガはいない。
「ん? どうかしたのドトウちゃん?」
「さっきアヤベさんの声がしたような気がしたんですが……。いえ……き、気のせいでしょうか……?」
ハテナマークを大きくしながらまた背を向けるドトウ。
次の瞬間、
『───こっちよ、ドトウ。どこを見てるの』
「あ、えぇ? アヤベさん??」
その場でまたコマのように回転したドトウだが……やはりアヤベはいない。
「な、なんでですかぁ~? なんでアヤベさんの声が……」
「声? 私には何も聞こえないけど? 一体どうしたのドトウちゃん」
ケロッとした顔でシレっと言うアヤリ。
「あ、あれ~……? この声が聞こえるのは私だけ……? 幻聴……? で、でも確かに……」
「きっ……気のせいなんじゃないの?」
「そ、そうなんでしょうか……」
ドトウが再び背を向ける。
『───気のせいなわけないでしょドトウ。私はちゃんとここにいるわ』
「は、はれれ~~?? また聞こえました~!?」
「……ぶふっ……!」
予想以上にドトウのリアクションがよかったせいで、アヤリは笑いを堪えるのが困難になり顔を下げた。
「い、一体どこにいるんですかぁアヤベさん~!?」
「えっ……ククッ、お姉ちゃんがここにいるの? 私には全然わからないけど……」
「そ、そんなことはないですよ~! 確かに姿は見当たりませんけど、声は確かに……!」
「へ、変ね~お姉ちゃんの声なら私が聞き逃すハズないのに~」
顔が笑っていることを隠すため、アヤリはドトウに背中を向けた。
「そ、それとも私の幻聴なんでしょうか……」
『幻聴じゃないわ、ドトウ』
「あ、あー! また聞こえました~!」
『ブフッ……こ、声が大きいわ、ドトウ』
「あ、ごめんなさい……や、やっぱりアヤベさんなんですね? い、一体どこに~?」
『ドトウ、残念ながら私はここにはいないわ。私を探しても無駄よ』
「えぇ~!? じゃ、じゃあなんでアヤベさんの声が~?」
『……実はね、私は今、テレパシーであなたの脳内に直接話しかけているのよ』
「えっ……えぇぇ~~!? アヤベさんって超能力者だったんですかぁ!?」
「ふふっ……!」
アヤベ(アヤリ)の声を疑う様子もなくドトウは信じた。
……せめてもう少し疑ったらどうなのだろうか。これが詐欺の電話でなくてよかった。
『そうよ。皆にも、妹にも内緒にしていたのだけれど』
「い、いつからそんなことができるようになったんですかぁ?」
『去年の練習中にふとお腹が空いてしまった時があってね、道端に落ちてたキノコを拾い食いしたらできるようになったわ』
「おっ、落ちてるものを食べたらダメですよアヤベさん~!」
「くふっ……!」
自分ででっち上げたことながら、『落ちてるものを食べたらダメだ』と今まで注意されたこともないことをドトウに注意されている姉の姿を、そして実際に姉がキノコを拾い食いしている様をアヤリはつい想像してしまった。
ちなみに、さっきから一人で騒ぐドトウの声が耳に入ったのか、クラスメイトの何人かが「どうしたの?」とやって来たが、アヤリは唇に人差し指を立てて必死に制止した。
『かなり修行したわ。でもお陰で今はこんな風にいつでも誰かと話せるの』
「は、はわわ~~……アヤベさんすごいですぅ~……!」
『さてドトウ、話は聞かせてもらったけど、あなた私に用があるそうね』
「あっそうなんですぅ! このハンカチをアヤベさんに返却したくて~!」
『悪いけど、それは後よドトウ。突然だけど、あなた今すぐファミチキを買ってきなさい』
「えぇ!? ほ、本当に突然ですぅ!?」
『ブフッ……あ、あなたにしか頼めないの』
「な、なんでファミチキを……?」
『実は今、オペラオーと「永久なるオペラオー劇場六時間コース」のリハーサルをやっているのだけど、さすがに体力が限界になってきてね……今すぐなにか食べないと力が出ないの』
「へぇぇ!? あ、アヤベさんとオペラオーさんのオペラですかぁ!? それは楽しみです~!!」
『そういうことなの。だから頼まれてくれないかしら?』
「は、はいぃ~! まだ状況はよくわかりませんが、わかりました~!」
『いい? ちゃんとあなたの自腹で買ってくるのよ。そこの可愛い可愛い妹に借りたらタダじゃ済まさないから。……お金だけに』
「わ、わかりました~! えぇっと、こないだ自販機に千円札を食べられたばっかりですけどぉ……はい、ちゃんとファミチキを買えるお金はありますぅ!」
『なら、早く行ってくるのよ!』
「わ、わかりましたぁ!!」
ふんす、とアホ毛を伸ばして口を結ぶドトウ。そのまま行き先を職員室から近場のファミリーマートへと変更していざ走り出さんとして───
「───ブツブツと一人で何を言ってるの? ドトウ」
その瞬間に職員室の用事を終えて戻ってきていた本物のアドマイヤベガに声をかけられた。
テレパシー(笑)との会話に夢中になっていたドトウは、彼女の接近に気づいていなかった。
「あ、え……えぇ~~!? あ、あ、アヤベさんが二人~~!!?」
走り出そうとした瞬間の衝撃にドトウは出鼻を挫かれた形になり、そのまま昭和のアニメみたいに派手にずっこけた。
「ちょっと大丈夫?」とアドマイヤベガが駆け寄り、アヤリは思い切り肩を震わせた。
倒れたドトウは肉体的な衝撃と精神的な混乱によって目を回しながら、
「な、なんでアヤベさんここにぃ……? アヤベさんって、さっきまで私にテレパシーで話しかけていたんじゃ……」
「?? ドトウ、何の話をしているの? 私はテレパシーなんて使えないけど……」
「ええぇぇ~~!? あ、アヤベさん超能力者じゃないんですかぁ!? じゃ、じゃあさっきまでの話は一体??」
「さっきまでの話って?」
「アヤベさんがキノコを拾い食いしたっていう……」
「はぁ?? 何その話??」
そこまで彼女が話したところで、さっきまで小刻みに体を震わせていたアヤリが「あーもう無理だ!」と叫んでから大笑いし始めた。
腹を抱えるほどに爆笑しながら、ぺたん座りとなっているドトウにのし掛かるように抱きつく。
「あーもうードトウちゃん可愛いーー! 健気で純粋すぎーー! もう一生そのまんまでいてねドトウちゃん!!」
「ふぇっ?」
小さく呟きながらも大人しく(というよりは為す術なく)抱かれるドトウ。それを良いことにアヤリは彼女に頬擦りまでし始める。
「は、はえぇぇ……? 私もうなにがなんだか……」
「……大丈夫よドトウ。事情は知らないけど、あなたはたぶん何も悪くないわ……」
妹の態度から察したのか、アドマイヤベガは額を抑えながらため息を吐いた。
「あなたねぇ……ドトウをからかうのはほどほどにしなさいって何度も……」
「だってドトウちゃん可愛いんだもーん! 純粋で天然で良い娘なんだもーん!」
「あなたがやってるのはその純粋な娘を弄んでることなのよ……」
ため息を吐くアドマイヤベガ。
妹のイタズラ癖は彼女も知っている。どうも後輩相手には特に発揮されやすいらしいアヤリのイタズラ癖にアヤベは頭を痛めていたのだろう。
だが、おそらく今この場において彼女以上に頭を痛めているのはドトウだった。
なにせ、彼女はまだ先ほどのテレパシーが嘘だというネタバラシをされていないのだ。まだ本当にアドマイヤベガが二人いるのだと思い込んでいる。
なので───いつも渦を巻いている目を更に回して、脳を混乱させまくった彼女の思考は、普段ならば導き出せたであろう答えとは全く違う方向へと舵を切ってしまった。
「あっ……そ、そういうことだったんですかぁ……!」
「……ドトウ?」
「アヤベさんって、テレパシーだけじゃなくて分身の術も使うことができたんですね!!」
アヤベは「ダメだこりゃ」という顔をし、アヤリは再び吹き出した。
ちなみにその後、アヤリはアヤベのアイアンクローでキッチリ制裁され、更にファミチキもドトウに奢ることになった。