一文字隼人、オタクに優しいギャルみたいな奴だよね。 作:よよよーよ・だーだだ
K.Kオーグの一件がひと段落したあと。
復調した本郷と再会したあーしは、真っ先に言うべきことを言った。
「お嬢さんには取り返しのつかないことをした。すまないっ、謝るっ!」
そうやってあーしは、本郷へ思いっきり頭を下げる。
……もしもあのときあーしがもっと早く立ち直っていれば、あるいはそもそもSHOCKERの手先なんかにならなければあのお嬢さん、緑川ルリ子は死ななくても済んだはずなのだ。
そしてそんな彼女の死を受けて、心の底から打ちひしがれて悲しみに震えていたあの本郷の姿。たとえ緑川ルリ子の人となりを知らなくとも、彼女が本郷にとってどういう存在だったかなんてすぐにわかる。
そのことを思うと、あーしはどうしてもあーし自身を許せなかった。『
だけどそんなあーしを、本郷は恨まなかった。
「いいや、君のせいじゃない。ぼくの非力が原因だ。だから自分を責めないでくれ、一文字君」
……本郷、アンタ、マジでイイヤツだな。このあーしですらほんの一瞬だけときめいちまったじゃあねーか。重度のコミュ障って聞いてるけど、そこを治せば結構モテるんじゃねーの? ま、そういう器用な真似が出来ないからこそ、こういう奴なんだろーけど。
つい感心してしまったあーしに、今度は本郷の方から質問してきた。
「ぼくはルリ子さんの遺志を継いでSHOCKERと戦い続ける。一文字君、君はどうするんだ?」
……戦い続ける、か。あーしは答えた。
「あーしの本業はペンとシャッターだ。真実の剣ってやつで悪を暴きたくてさ」
仮面ライダー第2号としての力で身を守りつつ、ジャーナリズムの力で悪事を暴いて敵の力を削いでゆく。一度は絶望して心も折れてしまったけれど、やっぱりあーしにはそれしか出来ないみたいだ。
ま、つまり、こっちも本郷と似たよーなもんだな。あーしはあーしのやり方で悪と戦う、だから本郷は本郷のやり方でやればいい。
「あーしは好きに生きたい。『好きかどうか』があーしの行動基準。本郷、アンタのことは嫌いじゃあない、が……」
そう言いながら、あーしは本郷の背後に控えている連中へちらと目をやった。
「『アンタの後ろにいる連中』に利用されるのはあんまり好きじゃあないんだよな」
本郷の背後に停まっているのは、黒いハイエース。偽装されているがあれは政府の秘密機関の密偵、おそらくはSHOCKER担当の“掃除当番”だろう。
本郷を支援しているのは、この国の政府だ。SHOCKERから脱走した改造人間オーグメントである本郷猛に対し、政府の連中がアンチ・ショッカー同盟として後方支援していることはあーしも気づいてた。
悪の秘密結社SHOCKER、世界を裏から操るその影響力は絶大だ。本郷猛が昆虫型オーグメントの最高傑作バッタオーグだとしても、たった独りでSHOCKERみたいな怪物とやり合えるほど現実は甘くない。
あーしもオトナだからそーいう『オトナの事情』ってやつは理解するし、お役人ってのも一枚岩じゃあない。児童福祉司であることに命を懸けたミユキチがそうだったように、ジャーナリストとして弱者ビジネスを取材した中でだって、制度や法律の矛盾で雁字搦めに縛られながらそれでもなんとかして人々を救おうと戦ってる人たちとたくさん出会ってきた。そんなことはわかってんだ。
だけど、いやだからこそ、社会の隙間にある問題や矛盾はそのまま手つかずで放置されてきた。今こうしてSHOCKERみたいな悪党が野放しでのさばっていているのだって、そういう世の中に蔓延る不条理や理不尽を放っておいた政治や社会の責任だ。そのことを思えば、政府の連中とつるむのなんて到底受け入れられない。そもそもあーし、昔から群れるの嫌いだしな。
そういう自身のスタンスをはっきり表明しつつ、あーしは自分のバイクへとまたがった。
「バイクは孤独を楽しめる、そこがイイ。だからSHOCKERと戦うのも一人でやらせてもらう」
訣別とも取れるあーしの宣言。だけど、本郷は「……わかった」と素直に受け入れてくれた。そんな、どこまでも誠実な本郷猛に、あーしは別れを告げる。
「じゃーな、本郷」
そしてあーしはスターターをキックして、サイクロン号を走らせた。
……とまあ、別れたつもりだったんだが。
「本郷の奴、一人で行っちゃうんだもんな……」
SHOCKERのアジトめがけてサイクロンをブッ飛ばす本郷猛、その姿を陰から見送りながらあーしは独り言ちた。
「お嬢さんの命が代償、か……」
……本郷の目的はお嬢さん、緑川ルリ子の敵討ちだろうか。いいや違う、本郷はそういう奴じゃない。アイツは緑川ルリ子の死の一因であるはずのあーしを恨まなかったし、それに『ルリ子さんの遺志を継ぐ』とも言った。アイツはドのつくコミュ障だけど正直者だから、この言葉にもきっとウソは無いだろう。
緑川ルリ子の遺志、それはきっと彼女の兄であるSHOCKER上級幹部構成員にして大幹部、緑川イチローを止めることだ。
だけどSHOCKERの大幹部でもある緑川イチローは、あーしが知る限りでは最強クラスのアルティメットオーグメント。本郷が真正面から敵う相手なんかじゃあない。
それに緑川イチローの科学力は、本郷を改造した緑川博士のそれをも超えている。イチローの方こそ、本郷がやって来るのを手ぐすね引いて待ち構えていることだろう。このまま本郷が一人で向かえば、きっとイチローに到達する前に袋叩きにされてしまう。
本郷は頭のイイヤツだ。あーしですら感じられるこのひたすらイヤな風、きっとアイツだって感じ取っているはず。
……なのにどうしてなんだよ、本郷。
なんでアンタはまだ戦うんだ?
本郷をバッタオーグに改造して一連の抗争劇へ巻き込んだ緑川博士も、その戦いをここまで導いた緑川ルリ子ももはやこの世にはいない。政府の連中の言うことだって、無理して従う必要なんか無い。もういい、もう沢山だ、もう本郷は充分に戦った。これからは本郷だって、あーしみたいに好きに生きたっていいじゃないか。
「あーしみたいに、か……」
そこまで考えて、あーしは自分のことを振り返る。
……あーしはあーしのやり方で。そうは言ったけれど、これが本当に“あーしらしいやり方”なのか? 敵を前にしてバックレようとしてる、この今の姿が。
夢で再会したミユキチは、あーしのことを『ヒーロー』と言ってくれた。緑川ルリ子もあーしのことを『ライダーになって』と想いを込めて大切な真紅のマフラーを託してくれた。
そんな二人の気持ちをふいにしようとしている、この今の姿が『あーしらしい』って?
「……スッキリ、しねーよな」
そーだよな、ミユキチ、お嬢さん。
あーしはマフラーを締め直して自身のバイク、サイクロン号へまたがり発進した。向かう先はイヤな風が吹いている先、SHOCKER大幹部のアジト。
そしてあーしがやっと駆けつけたとき、案の定、仮面ライダー:本郷猛は窮地に陥っていた。
「…………ッ!」
本郷が今戦っている場所はSHOCKERの拠点へ続く一本道の長いトンネル、相手にしている敵は緑川イチローが差し向けたバッタオーグの量産タイプだ。数は十数体、こいつらの正式なコードネームは大量発生型相変異バッタオーグ。SHOCKER謹製の仮面ライダー、いうなれば『ショッカーライダー』ってところか。
昆虫学者によれば黒いバッタは群れで行動し、凶暴な性質を持つという。空を覆い尽くすほどのイナゴの大群が食い荒らしてゆく
そんなショッカーライダーどもに取り囲まれ、機関銃で蜂の巣にされ、寄ってたかって袋叩きにされている仮面ライダー:本郷猛。今は何とか耐え凌いでいるけれどそろそろスーツもマスクも限界だ、これでは緑川イチローのところに辿り着くよりも先に倒されてしまうだろう。
――させっかよっ!
あーしは、本郷に
そしてすぐさまあーしは、地に伏せていた本郷へ腕を伸ばす。
「乗れ、本郷ッ!」
本郷の身体を引っ張り、サイクロンの後部へと拾い上げる。まずは態勢の立て直しだ。即座にサイクロン号を最高速度でブッ飛ばし、追い縋るショッカーライダーどもから出来るかぎりの距離を稼いでゆく。
風を切って疾走するその最中、後部席に乗った本郷があーしに訊ねた。
「一文字君、なぜ……!?」
どうして助けに来たんだ、そう問い質さんばかりの本郷猛。
……ったく、無粋なこと聞くんじゃねーし。本郷の疑問に答えない代わりに、あーしはこう言ってやった。
「本郷、あーしは心を決めたッ! つるむのは嫌いだ、だけど『好きになることにした』っ! ゴチャゴチャ考えるのはスッキリしねーしな!」
うん、言いたいことをショージキに言うのはやっぱり気分がイイな! そんなあーしの背に身を預けながら、本郷もぽつりと呟く。
「……二人でダブルライダーか」
ああ。これで心スッキリだ!
仮面ライダー第1号である本郷猛と、第2号であるあーし。二人の仮面ライダーはトンネルの先、闇の奥へと全力全開で突っ走ってゆく。
その矢先、仕掛けられた罠がまたしても作動した。
巻き起こる、壮絶な大爆発。
炸裂したのはTNT爆薬。SHOCKERの奴ら、トンネルのあちこちに爆弾を仕掛けていやがった。連鎖反応を起こすかのように次々と爆発してゆく爆薬、それらの相乗効果が引き起こす猛烈な爆風。
「どわァッ!?」
猛スピードで吹っ飛ばされ、バランスを崩したサイクロンから転げ落ちた本郷とあーしは咄嗟に受け身で体を庇った。
「
爆発が収まった頃合いを見計らい、あーしは隣の本郷の無事を確かめる。うんオーケー、無事だ。続いて、燃え盛るトンネルの炎を前にしながら、思ったことを口にする。
「っぶねー、この
ったく、そんな広くもないトンネルでバカスカ
「……だいじょーぶか、本郷?」
そんなあーしに、本郷はこれまたえらく申し訳なさそうな声でぼそっと答えた。
「……すまない、一文字君」
……あちゃあ、相変わらずカテーなあ。
コミュ障特有の強い警戒心から来る、なかなかこっち側へと歩み寄ってこないこの感じ。それも優しさなのはわかるし、紳士的なのも嫌いじゃあないが、ここまで来ると水臭いってゆーか正直どーかと思うわ。
だからあーしは言った。
「謝るとこじゃねーし。そこは『ありがとう』っしょ?」
あーしに言われた本郷はハッとしたように顔を上げ、しばらく考え込んでから訂正した。
「……ありがとう、一文字君」
いーや、まだまだだね。今のアンタなら、もうちょっと踏み込んでもイイんだ。あーしはまたもや言ってやった。
「『
あーしからの徹底したダメ出しを受けて、ようやく距離感が掴めてきたらしい本郷も今度はすぐに改めた。
「わかった、一文字」
……イイネ、やっとイイ感じになった。ようやく満足したあーしはマスクの下で笑みながら、真正面へと向き直る。
遠くから聞こえてくるのは、けたたましいバイクの排気音の群れ。振り切られたはずのSHOCKERの殺し屋どもが、ようやくウチらに追い付いてきやがったらしい。
迫る脅威を目前にしながら、あーしは本郷へ告げた。
「さて、おいでなすったな……やろう、本郷!」
本郷も威勢よく応える。
「ああ、やろう、一文字!」
そしてあーしと本郷、二人の仮面ライダーはファイティングポーズを同時に構え、迫る敵たちを迎え撃つ。敵は迫る地獄の軍団、ショッカーライダーだ。
「だアァッ!」
「トオォッ!」
群がるショッカーライダーどもへ炸裂する、ダブルライダーによる必殺の
本郷とあーし、ウチらは無敵のダブルライダーだ。量産型バッタモンのショッカーライダーなんかが束で掛かってこようが、到底負ける気はしない。
迫り来るショッカーライダーどもをばったばったと薙ぎ倒し、あっという間に片付けたあーしと本郷。大勝利の余韻、その満足感に浸りながら隣を見たあーしは、ぶったまげた。
――本郷の奴、黙祷を捧げてる……!?
自分たちで仕掛けた爆薬による大爆発の大炎上に巻き込まれ、ついに引導を渡されたショッカーライダー軍団。地獄の劫火に焼かれてゆくその死に様を前にして、本郷猛はなんと顔を伏せて祈っていたのだ。
……SHOCKERに操られていた頃、あーしは仮面ライダーとしての本郷の戦いぶりを小耳に挟んでいた。クモオーグ、コウモリオーグ、ハチオーグ、本郷によって倒されたSHOCKERの上級幹部構成員たち。
あーしもあんまり
『絶望した個人を救い人類を幸福へと導く、アイの秘密結社』、そう嘯くSHOCKER。だがそんな連中による幸福探しの実態は、個人のエゴを果てしなく増幅して悪の道へと走らせる堕落の道だ。その中でも上級幹部構成員に成り上がるような奴らがくたばるのは自業自得、同情の余地なんて欠片も無い。あーしはそう思ってた。
だけどこの男、本郷猛にとっては違うらしい。
たとえ相手が敵、それもとんでもない悪党のヒトデナシだったとしても、本郷はその
あるいは、先に屠ってしまったオーグメントたちだって、ホントは殺したくなんて無かったのかもしれない。それでもどうしても分かり合えず暴力に頼るしか無くて、殺してしまったあとはいつもこうして死を悼んでいたのかもしれない。
同時にあーしは自分自身を省みる。改造人間バッタオーグとしての力へ酔い痴れてSHOCKERから良いように利用されたあーしと、決してそうはならなかった本郷。洗脳されていたか否かってのもあるけれど、そんなこと以上の本質的な差が今まさに、この本郷の態度に表れているような気がした。
……アンタ、ホントに優しい奴だね、本郷。
あーしも本郷に倣ってショッカーライダー、いいや、これまで奪ってきた命総てについて弔うことにした。顔を伏せて、黙祷を捧げる。
「……ヨシっ」
気持ちをスッキリさせたところでマフラーを締め直し、あーしは本郷に告げた。
「さあ、行こう、本郷」
その言葉に本郷も気分を切り替える。
「ああ、行こう、一文字」
そして二人で向かうは今回のラスボス。SHOCKER上級幹部構成員の最筆頭である大幹部、緑川イチローの玉座だ。
……あのヤローには、あーしも洗脳されて手駒として利用された借りがある。受けた借りは倍にして返してやらなくっちゃあな。
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