一文字隼人、オタクに優しいギャルみたいな奴だよね。 作:よよよーよ・だーだだ
「ごぶッ!!」
「がはアッ!!」
本気を出したSHOCKER上級幹部構成員の実力に、敢え無く弾き飛ばされてしまうあーしと本郷のダブルライダー。
SHOCKER上級幹部構成員の最筆頭にして、史上最強の昆虫型アルティメットオーグメントである緑川イチロー。そんなアイツを出し抜いてそのイカレた野望を頓挫させるところまで追い込んだのはよかったのだが、そこからつい調子に乗って挑発したのが良くなかったね。
「アンタの『ハビタット計画』、これでしばらくムリだな!」
そんなあーしの軽口を耳にした緑川イチロー。その表情は相も変わらず平坦で無感情で、如何にも悟ったみたいないつものいけ好かない覚者の顔つきだったが、実際のところヤツも今度ばかりはヤベー勢いでマジギレしていたらしい。
「……おまえたちを甘く見ていた。せめてもの詫びだ、本気で相手してやる……『変身』」
緑川イチローが変身した完全体チョウオーグ、その実力はバッタオーグの遥か上をゆく圧倒的なものだった。
掌底、足払い、カウンター。蝶々よりも軽やかに舞い踊りながら攻撃を繰り出すチョウオーグの動きに、ウチらはまったくついてゆけなかった。それに蝶のオーグメントだってのにあんなパワフルなの、反則だろ。仮に真正面から殴り合いしても敵うわけねーわ。
チョウオーグ本人の弁によれば、奴は体内のプラーナ、つまりエネルギーの量がケタ違いに多いらしい。本気を出したチョウオーグは無敵のダブルライダーでも苦戦する、マジモンのバケモンだった。
「ぜー、はー、ぜー、はー……」
思いっきりブッ飛ばされたあーしたちは、先ほど壊した玉座の陰へ逃げ込んでマスクを外して一息入れた。
マスクを着装し直すまでのあいだ、ほんのちょっとインターバルだ。本郷を見ると、マスクの口許から夥しい量の吐血が溢れていた。あーしも同じだ、少しでいいから休まないと体が持たねー。
「ふぅー……っ!」
メットを外すとともに髪から跳ねる滝のような汗の滴と、むせ返るほどに沸き立つ体温の湯気。鼓動は破裂しそうだし、体温もバチクソ上がってるのを感じる。
このスーツ、動きやすいし変身してるあいだはあまり気にならないんだけど、こうして一度気を緩めるとクッソ蒸れててクソ暑いんだよな。全身汗だくでメイクもどろどろ、こんなんスッピン以下だ、人前には到底晒せんわ。
そんなヒドい状態のまま、あーしは本郷に愚痴った。
「エネルギー源の玉座、ブッ壊してやったってのに、アイツかなりつえーな……」
「ああ、強いな……流石イチローさんだ」
「……で、勝ち目はあんの?」
言外に『あるわけねーよそんなもん』と自虐を込めたつもりだったけど、そんなあーしに本郷はしれっと答えた。
「ある」
……は? あるの??
「ああ。ある」
なら先に言えし! チョウオーグよりも先にオマエからハッ倒すぞ、本郷!
そんなブチギレ寸前の表情で睨みつけたあーしに、本郷は至極申し訳なさそうに不器用な微笑みを浮かべていたけれど、やがてこう言った。
「ルリ子さんの遺言だ。そのために“なにがなんでも”イチローさんのマスクを剥がしたい。頼めるか、一文字?」
そう語る本郷の目つきは、マジモンのマジだった。
『チョウオーグのマスクを剥がす』。たしかに、あーしを含む改造人間オーグメントたちの暴力性はマスクによって引き出されたものだ。もしもそれが出来たら、あのドチャクソ強いチョウオーグだって無力化できるかもな。
ただ、本郷にはどうもそれだけの意味ってわけでもなさそうだった。その瞳に灯っているのは希望の光。本郷にとって『チョウオーグのマスクを剥がす』ことは単に暴力でブッ倒すための手段なんかじゃあない、文字通りモノホンの勝算であるらしいとあーしは直感した。
……あーはいはい、わかりましたよ。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ。半ばヤケクソ気味になりながら、あーしは答えた。
「“なにがなんでも”、やってやんよ……!」
休憩は終わりだ。自身のマスクを着け直して立ち上がるあーしに、本郷も続く。
「ああ。“なにがなんでも”、だ……!」
それから始まる、第二ラウンド。
あーしと本郷は同時に駆け出し、二人で力を合わせてチョウオーグへとタックルを仕掛けた。無論チョウオーグの奴にはあっさり弾き飛ばされてしまうのだけれど、今度は勝手が違ったようだ。
「……しつこいっ!」
明らかに苛立った呟きをこぼすチョウオーグ。よく見てみれば、ヤツも肩で息をしているのにあーしは気づいた。間違いない、チョウオーグも消耗しているのだ。いくらアルティメットオーグメントでも、生き物である限りは疲れる。つまりは倒せる、ってことだ。
明らかにへばってきたチョウオーグへ、あーしは諦めずに掴みかかった。
「なにがなんでも……ッ!」
「小賢しいッ!」
途端あーしの腕の中で響く、グシャッという感触。
なかなかいいところまでいったつもりだったんだ。しかし、あとヒトオシ、というところでチョウオーグにカウンターを仕掛けられ、あーしは両腕をへし折られてしまった。
「ぐあァァッ!」
腕を折られた激痛であーしが床を転げ回ってる中、戦いは本郷とチョウオーグの一騎打ちになった。チョウオーグは息を切らしながら本郷に怒鳴り散らした。
「組織の壊滅と復讐が目的ならおれに委ねろッ、SHOCKERも含めてすべての人間をハビタット世界で救済してやる……それが、妹の……父や、母の……家族を奪った不条理への仇討ちにもなろう……ッ!」
そんなチョウオーグに、本郷も息も絶え絶えで吼える。
「あなたの家族は誰もそんなこと誰も望んでないッ、あなた一人の思い込みだッ!」
そう語りかけるマスク越しの本郷の声はひどく潤んでいて、仮面で隠したその下で熱い涙を流しながら泣き叫ぶ本郷の顔が目に浮かんでくるようだった。
「おまえごときに、何がわかるッ!?」
「少しはわかる……ッ!」
とにかく突き放し振り払おうとするチョウオーグと、それでもなんとか食らいつこうとする本郷猛、互いに汗だくの血まみれになって掴み合い、転げまわり、自分の想いをぶつけ合う。そこにはバッタのような逞しい跳躍も、蝶のような優雅な舞いも、改造人間オーグメントとしての超人バトルすらない。
こんなのはまさに泥仕合。ただ二人の男が体一つでぶつかり合うだけの、血反吐を吐き合うような壮絶な死闘だった。
「諦めろ本郷、すべてはムダなことだぞ!」
「ちがうっ、人生の総てにムダなことなんか無いッ……今だ、一文字っ!」
よしきたっ! 本郷の呼び声に応え、あーしは跳んだ。
「任せな、本郷ォッ!!」
……あーしの腕は今、肘が砕かれて使えない。だから文字通り『頭を使う』ことにした。
思いっきり首を持ち上げて、脊椎に渾身の力を込めて額をチョウオーグの顔面へ振り下ろす。あーしが不良だった頃からたまーに使ってた喧嘩殺法ヘッドクラッシャー、つまりは頭突きである。
「うらァアッッッ!!!!」
あーしが不意に繰り出したそれを、本郷に抑え込まれた今のチョウオーグは避け切れなかった。
「ッ……!?」
炸裂する金属音。
衝撃に耐えかねたあーしの、そしてチョウオーグのマスクが真っ二つに割れた。
本郷猛の目論見通りにマスクを破壊されて力を失い、怯えるように後ずさるチョウオーグ。だけど本郷はそんな彼に殴りかかるわけでもなく、むしろいつものような正直な態度で寄り添い、語りかけた。
「……ルリ子さんの“ねがい”だ」
そして本郷は、自身が外したマスクをチョウオーグへと被せた。
……本郷から渡されたマスクの下でSHOCKER大幹部チョウオーグ、いいや緑川イチローが果たして何を見たのか。傍から見ていただけのあーしにはわからない。
ただ、そのあとにマスクを外した緑川イチローの表情は、これまでにないほどスッキリ晴れ晴れとしたものだった。まるで、随分と長いあいだ背負い続けていた重い荷物を下ろすことがようやく赦されたかのような、まあそんな感じ。
本郷が問いかける。
「……話せたか?」
「……ああ、本郷。礼を言う」
そう答える緑川イチローを前にして、本郷はなんとも嬉しそうだった。
……ま、そりゃそーだろーなとあーしも思う。不本意ながらに巻き込まれた戦いの中で数多くの敵たちと出会い、数多くのものを失いながら、数多くの命を奪ってしまってきた仮面ライダー本郷猛。その悲しみをずっと背負ってきた本郷だけど、今度こそは相手の命を奪うことなく悪事を食い止めることが出来たんだもんな。
その本郷の想いやりに心を救われた緑川イチローは、破壊された玉座へ力無く腰掛けて呟いた。
「ルリ子が信じた人間を、おれも信じてみることにするよ……」
そうやって緑川イチローは満足げに微笑みながら力尽き、泡へと溶けて消えていった。
……そして自らのプラーナを使い果たし、生命の限界を超えた仮面ライダー:本郷猛も、また。
「本郷……っ!」
すぐさま駆け寄ろうとするあーしだけれど、本郷はにいつもみたいに優しく笑むだけだった。その口元は、こう言っていた。
「あとを頼む、一文字……」
その言葉を最後に、本郷の命の灯もついに燃え尽きた。死に間際とは思えないほど穏やかに微笑んだまま、泡となって消えてゆく本郷猛。その光景を前にして、あーしは思わず声を張り上げる。
「本郷――――……ッ!!」
……仮面ライダー、本郷猛。風のように生き、風と共に戦い抜いたその男は、その最期まで風に吹かれて消えていってしまった。
激闘の果ての結末を前に、あーしの口から思わず“本音”がこぼれ落ちてしまった。
「なんだよ……また独りじゃんか……」
せっかく、また誰かとつるむのを好きになれたと思ったのに。
もともとあーしは一匹狼、独りになるのは慣れっこだ。涙なんかはもちろん出なかった。もう泣かないってミユキチと約束したもんな。
……けどさ。
このときだけはなんだか無性に寂しくて、そしてどうしようもなく切なく思ったのだ。
本郷が散ってからしばらく経ったある日。
かつて本郷猛や緑川ルリ子とアンチ・ショッカー同盟を組んでいた政府の連中が、今度はあーしに接触してきた。
「かねてから本郷から頼まれていた。自分が消えたあとも一文字、君に仮面ライダーを名乗り続けて欲しいそうだ」
本郷のヤツ、そんなことを言ってたのか。
……ったく、本郷のバカヤロー。アンタやっぱり最初から死ぬ気だったのか。だいたいミユキチといい緑川ルリ子といい本郷といい、どいつもこいつも勝手すぎる。なんでいつもそーやって、あーしに何か押しつけながら独りにしやがるんだ。
ちょっとしんみりしているあーしに、政府の男は言った。
「彼の意志を継いでみないか、一文字?」
そんな政府からの提案について、あーしはあーしなりに考えたね。
……政府の連中、口先では『本郷の意志』とかなんとか言ってるが、ヤツらの損得を考えてみても改造人間オーグメントであるあーしを野放しにしておきたくはないだろう。きっと、いいや間違いなく自分たちの管理下に置いておきたいだろうし、あるいはSHOCKER対策のためにぜひとも利用したいと思ってるはずだ。口先ではキレーゴトを言いつつ、腹の底ではそういうセッコい考えがあるだろうことまで見透かせるから、あーしは政府の連中を心から信用はしない。
だけれども。
「……オーケー、わかった」
結局、あーしは政府の連中と手を組むことに決めた。政府の
政府の男によればSHOCKERの脅威はいよいよ手に負えなくなってきていて、今や昆虫型を超えた新型オーグメント:コブラオーグなんてのまで現れてるらしい。そんなヤバいSHOCKERと戦い続けるってんなら、やっぱりお巡りさんたちと繋がりは持っておきたいよな。
……で、さっそく頼みなんだけど。あーしは言った。
「サイクロン号とスーツ、それからマスク。新しい装備品一式が欲しいな。サイクロン号は吹っ飛ばしちまったし、今のスーツとマスクもボロボロ、何より毎回蒸れて汗だくになるのがイヤなんだよな。汗臭いんだよアレ、なんとかならねーか?」
「……ああ、善処しよう」
よろしく頼むぜっ。
それからあーしは、一度ほどいてしまった赤いマフラーを再び結び直した。緑川ルリ子から与えられた願い、本郷猛から託された魂。あーしはそれら全てを受け継ぐことに決めた。これで、そしてこれからもあーしは仮面ライダーだ。
……うん。これで、多少は心スッキリだ。ついでに、政府の男にこうも言ってやった。
「
……孤高のロンリーヒーロー、確かにクールでイケてるしカッコいいよな。だけど世の中、誰もひとりきりでは生きられない。少しは世間と折り合いつけなきゃな、でないとSHOCKERの連中と同じになってしまう。
それに『SHOCKERみたいな悪党がのさばったのが政治や社会の責任』だってんなら、それはそんな世の中の一員であるあーしの責任でもあるってことだ。そこのケツを持ってこそ『スッキリしたオトナの在り方』って奴だなと、近頃のあーしは思うワケよ。
けどまあ一応、クギを刺しとく。
「カンチガイすんなよっ、これはお嬢さんと本郷のためだ。別にアンタらと馴れ合うわけじゃねーからなっ!」
「……そうか」
あーしの意志表明を、“おやっさん”も苦笑いしながら尊重してくれたのだった。
次回、最終回。
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