<オリ章作成中につき現在更新停止中>Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
張り切っちゃいました
ミルカラはたぶん次に出します
ラ・マンチャランドと書かれた大きな看板が弱々しい電球の光を明滅させながら、後ろの観覧車が軋んだ音を立ててゆっくり回る。
「サンチョよ...この観覧車を見ていると、昔の戦争を思い出さないか?」
「...風車のように巨大で、無数の腕を持つ家門の血鬼たちのことを言っているのですか。」
「そうだ。あの巨体と一戦を交えることが、どれほど胸躍る出来事であったか...」
「油断して遠く飛ばされたあなたを助けるのには苦労しました。」
「そんな君が...今や吾の後ろではなく、前に立つのだな。」
「...」
『!』
観覧車の支柱に打ち付けられたドンキホーテが手を振りかざすと、上を回っていたゴンドラが揺れて、三つ四つと観覧車から離れ、落ちてくる。
『み、みんな避けて!それか防いで!!』
あまりにも雑すぎる指示だけど、囚人たちが全員、各々の方法でやり過ごすと、落ちたゴンドラからは血鬼や血袋が溢れ出した。
「こんなところにまで、閉じ込められていたのか。」
「閉じ込められていたのか、閉じこもったかは知らないけどね。それで...やれる?」
「『ドンキホーテに乗り越えられない苦難は無かった』...であろう?今回も...同じである。」
いつの間にかドンキホーテは、靴こそ履いていなかったけど、いつものように身の丈ほどの槍を持っていた。
その目はサンチョと同じように赤く、ドンキホーテのように輝いていた。
『手伝うよ。今回も、これからも。君には仲間がいるから。』
「...それは......頼もしい限りであるな、管理人。」
『君の代わりに歩むことは出来ないけど、君の前を照らして、歩けるように整えることなら出来るから。だから、いつでも頼って。』
「...ならば、早速一つ。」
ダンテの言葉を聞いたドンキホーテは、おもむろに私を持ち上げた。
「えっなに?」
「父上は当人とこの者に任せて欲しい。その代わり、そなたの護衛や血鬼と血袋たちの対処はそなたたちに頼みたいのだ。」
『わかった。』
「いや私なんにも言って......わかった!分かったよちくしょう!やりゃいいんでしょ!?」
私の返事に満足気な顔をしたドンキホーテは私を下ろして、そのまま駆け出した。
私も軽く伸びをして踏み込み、ドンキホーテに追い付く。
阻むように落ちてくるゴンドラを避け、邪魔するように這い出てきた血袋が後ろから飛んできたガス銛によって弾け、黒紫の影に切り刻まれる。
不意にあそこのドンキホーテと目が合ったような気がしたあと、杭が突き刺さっているのにも構わず、柱に手を添え、体を引き抜こうとしていた。
その振動が観覧車に伝わり、全てのゴンドラが一気に落ちてくる。
ただ、今回は後ろのダンテたちの方に落ちていった。
私たちが目の前に辿り着いたと同時に、電球の切れかかった看板が落ちてきて、張り付けられていたドンキホーテが杭を貫通するように抜け落ちる。
重力を感じさせないような緩慢な速度でゆっくり降りたその姿は、かすかに暖かい枝の光を内側から発していた。
「久しぶりに地に足が着いたな。」
「あなたともあろう方が...未だに責任から逃れられないのですか!あれほど自由であったあなたが...!」
「サンチョ、君は吾に、どこへ逃げろというのだ。」
感情的に声を上げるサンチョを拒絶するように俯くドンキホーテの足首には、血を吸い、赤く染まる茨がまとわりつき、観覧車の支柱に繋がれていた。
「戦争しかない天秤を傾け、血でこの場所を創造したが家族に幸せは訪れなかった。夢を見たにもかかわらず、杭を打たれた心臓と濃い血香だけが残った吾を見ろ!サンチョ!」
引き抜く際に溢れた血が、死人のような真っ白な手のひらの中に集まっていく。
「吾はドン・キホーテ...ラ・マンチャランドの、ドン・キホーテだ...!」
名乗り上げというには悲痛な感情で満ちた声と共に、血が嵐のように吹き荒れる。
それと同時に、ドン・キホーテの背後に赤い血溜まりが浮かび上がると、そこからは鋭く小さな槍が無数に飛び出した。
「吾が逃げる場所など無い。家族の飢え、渇き、苦しみを全て受け持ってこそが父としての役目だからだ。彼らへ血を持って贖罪し、苦痛を持って安らぎを与える吾にどこへ行けと言うのだ、サンチョ。」
私はそれを避けたけど、ドンキホーテは槍を弾きながらそのままドン・キホーテに肉薄する。
「...そうです。あなたが逃げたことはありませんでした。ただ一歩、道を踏み外しただけで。病にかかったままの運命だとしても。息が詰まるような渇きの中でも、愛について考えていらっしゃいましたね。そして死にゆく私に愛を与えようとして...」
血のマントでランスを受け止められたドンキホーテの後ろからも、槍が飛び出す。
ドンキホーテの背中を突き刺す直前に、数瞬早く茨で受け止められた。
あれの対処を任されたのは分かったけど、心臓に悪いからやめてくれないかな。
ドンキホーテは悲痛な面持ちに表情を歪ませて、血のマントを破くと同時に、ドン・キホーテの放った血の波に押し流される。
「また......私の心臓が、鼓動するようにしてくださりました...」
体で気持ち程度のクッションとして受け止めたドンキホーテは、槍の持ち手を杖のようにして立ち上がる。
「あの時の冒険は、無謀で不恰好でしたが...」
ドンキホーテが呼吸を整える時間を稼ぐために、周囲の太く成長した茨を背後から襲わせるけど、振り返ることすらせず、血の剣によって斬り伏せられた。
「それでも、比べようもないほどに胸が高鳴る日々でした。」
ドンキホーテの槍に茨が巻き付く。
いや、槍だけじゃなく、持ち手もドンキホーテの手を縛り付けるように巻き付き、ドンキホーテの血を吸い、より赤く、より鋭く育っていく。
「私は、同じところを回っていたとしても...それでも、そのまま走り続けたいのです。」
「...この治せない病と、血で繋がった父にまで逆らってか?血に逆らうことなど、出来ぬというのに。」
ドン・キホーテはその手に持った剣を構え、軽く振り下ろす。
二人して槍と茨で防御するけど、槍は体を守りきれなくて血を流し、茨も豆腐みたいに切り裂かれてそのまま出血。
軽く慣らすような動作だったくせに、地面まで抉れてるんだけど?
「諦めてはならないと、何度も仰っていたでは無いですか...!例えそれが無謀な夢だったとしても、諦めなければいつか必ずと言っていたのはあなたではありませんか...!」
「サンチョ...終わってしまった夢に、どうしてお前の手が届きようか。蛆が湧き、腐り果て、血に塗れた...その手で。」
ドンキホーテが手に力を込める度に茨がくい込んで、血を吸いあげる。
対するドン・キホーテが手を掲げると、血で出来た馬...メリーゴーランドの木馬が四つ現れ、こちらへ飛んでくる。
咄嗟にドンキホーテに巻き付いていた茨を広げて一つを受け止めるも、残り三つは私の分だったらしい。
一つ目を防ぎ、二つ目をすんでのところで防ぎ、わかりやすく限界を伝えるように茨が弾けた。
人が乗ることなんて微塵も想像していないような刺々しいデザインの木馬が私の脳みそをぶちまける直前で、真っ直ぐ、槍が飛び、木馬はかろうじて逸れて行った。
「父上であろうと、私の友に手は出させ...がひゅっ...!」
「お前はまだ、夢から覚めきれていないのだな。吾々に朋が現れることは無い。赤い目の病人と結ばれた縁などやがてすぐ、血に染まるだろうから。」
ドン・キホーテは素手になったドンキホーテの首を掴み、持ち上げていた。
「言っていたでは...ない、ですか......フィクサー、は...弱きを、たすけ...つよきを...!」
「...吾が子ながらに、哀れだな。」
「育児放棄の次は虐待か!?本当に終わってるなお前!」
少しでも注意を向けるために煽って茨を伸ばすけど、ドン・キホーテに触れると同時にびちゃびちゃ音を立てて地面に溶け落ちた。
「うわぁ...無いわぁお前...」
「脆い、脆いな。はは...サンチョ、身の丈に合わぬ願いはお前の破滅を早めるだけであるぞ。」
「じきに終わってしまうとしても...私は...!」
「...話にならぬな。」
呆気なく溶け落ちた血を集めたドン・キホーテは、掴んだままのドンキを観覧車の支柱に投げ、手のひらを縫いつけるように血の槍が突き刺さる。
「ぐッ...!この、程度ッ...ぐあぁッ!!」
引き抜こうと槍を掴んだ手も、小さな血の杭に固定された。
「暫しそこで頭を冷やすが良い。吾は...お前の朋とやらと、一戦まみえてみよう。」
苦痛に顔を歪めるドンキを見ないように言い放ったドン・キホーテは私へ向き直り、手を握り込んだ。
顔を伏せているせいで、その目は見えない。
「親なら子供の夢を応援してやるものじゃないの。こんな風に引き止めて、毒親もいい所なんだけど。」
「吾は...二度目の落馬を経験し、次は首の骨を折るよりも早く、サンチョをあの木製の馬の背より降ろそうとしているだけだ。」
「だからそれが毒だって言ってるでしょうが!」
「過ぎた夢こそが毒だ。肉体を蝕む猛毒だ。サンチョはそれが分かっておらぬだけなのだ。」
ドン・キホーテの背後に目をやれば、ドンキホーテは肉が引き剥がれることも厭わずに、釘から手を引き抜こうとしている最中だった。
「そのような情けない仮初の馬に乗って、お前たちはどこへ行こうと言うのだ。次の一歩では壊れ、投げ出されるかも知れぬというのに、その頼りない足取りで繰り返すつもりか?」
「行けるところまで行くよ。壊れたなら、その時にまた直せばいいだけだから。一度転んだだけで投げ出して諦めた誰かさんとは違って...ねッ!」
茨を腕のように使ってドンキホーテが使っていた槍を持ち上げ、振る。
「見る影も無く弾け飛んだ、夢だった残骸を掻き集めてか?辛うじて偽りの冒険から抜け出したとて...どうやって落馬の痛みを忘れることができようか。」
血のマントで受け流したドン・キホーテは辺りに散らばった血を集めると、巨大な一つの球を作り上げた。
「せめてもの敬意を示してやろう。」
ゆっくり腕を振り下ろし、球を落とそうとしたタイミングで、球が弾けた。
弾けた球があったであろう中心を血の槍が真っ直ぐ飛んでいくのが見えて、ここに向かって走ってくるドンキホーテも見えた。
「何が敬意だ!血鬼としての幸せも、人間としての幸せも中途半端なところで動いてた半端者が偉そうにすんな!」
茨を数本使って、弓矢のように槍を引き絞り、放つ。
不愉快そうに眉を顰めてそれを避けたドン・キホーテの後ろで、槍の持ち主が、持ち手に指を引っ掛けるように掴み取った。
そこから飛びのこうとするドン・キホーテの足に今ある全ての茨を巻き付けて数秒動きを遅らせれば、そのままドン・キホーテの胸は貫かれた。
「...!」
「...父上、様...どうか、お赦しください...!私は、ここで止まりたくないのです...!」
目尻に薄らと涙を浮かべていたドンキホーテは、震えた手で槍を深く押し込む。
「.........お前も...」
少し驚愕の表情を浮かべたドン・キホーテは、口の端から血を流しながら、また俯く。
「...お前も、吾に赦しを求めるのだな。」
悲しいとも虚しいとも取れるその言葉を皮切りに、私とドンキホーテの真下から尖った血液が飛び出して串刺しになった。
「サンチョ...昔のお前であったならば、これしきのことに手傷を負うことはなかっただろう。理想を掲げ叫び続けた結果はどうだ?共存を雲に描き家族へ苦痛を強いた結果は?」
ドン・キホーテが血を集めると、ぽっかりと胸に開いていた穴が血肉で埋まる。
「全ては狂人の戯言であったのだよ、サンチョ。」
「ッ...いいえ...!決して...絵空事などでは...!」
「...お前に、家族の苦痛を与えるつもりは無い。故に...もう走るのは、やめるがよい。」
聞き分けのない子供を諭すような優しい声色で、ドン・キホーテは再び血の球を作り上げる。
それから私たちの後ろへ視線をやる。
それに釣られるように私も横目で振り返ると、よほど苦戦したらしく傷だらけの囚人たちがいた。
「サンチョよ...こんなにも脆弱な者たちと、一体どんな冒険に出ようというのだ。」
ドン・キホーテの顔は、いつからか、老人のように皺が入り、痩せこけていた。
そのまま振り下ろそうとした腕を...茨で、止める。
自分の血で作ったそれらは細く短く、少しでも身動ぎすれば千切れそうなものなのに、どういう訳か止まった。
「はあ...はあ...ぅ、げほっ...!さっきから...起こってもない未来のことを...分かったふうに言いやがって...!ドンキの、冒険がどんなに困難で...いつか終わってしまうとしても...終わりを決めるのは、お前じゃないだろ...!」
「アリス...殿...」
「親なら...子供のこと、信じてやれよ...!応援してやれって...!」
私が一方的に語りかけた言葉に、ドン・キホーテは何も反応しなかった。
聞いていたのかも怪しいぐらいの無反応の後、淀んだ瞳を揺らめかせて茨を引きちぎり、腕を下ろした。
合図を受け取った球は、緩慢な動きでこっちへ迫ってくる。
「ドンキ...ホーテ...!!」
血反吐を吐きながら叫び、時間稼ぎの最中に私とドンキホーテの流れた血によって作られた茨が、ドンキホーテを貫いていた杭を破壊し、そのまま包み込んだ。
「...後は、任せた...!」
らしくもないことを言っちゃって。
そのまま、私の意識は迫り来る血に押し流された。
目を覚ました時。
まだ、血生臭い場所にいた。
「あ、起きましたか?すごく頑張ってましたね。」
直後に聞こえたのは、バスの中と変わらない飄々とした声。
「...そういうお前は余裕そう...じゃないね。その腕大丈夫?」
「あ、これですか?これは折れてますね。」
変な方向に二回三回と折れ曲がった腕を面白そうに眺める血まみれのホンル。
それ以外にも囚人たちは居たけど...そのどれもがとても話せるような状態じゃなかったり、死んでいた。
私はどうやら、あのまま血に流されて、後ろの囚人たちの方にまで来たらしい。
「ダンテ様の言う通り、血鬼たちの相手をしていたんですけどね、意外と数が多くて苦戦しちゃいました。」
呑気だなこいつ。
私が流されてきたであろう方向に目をやると、二人のドンキホーテが対峙していた。
片や折れて欠けた槍を杖にして何とか立って、片やダンテを守るように立つそれを悲しそうに見ていた。
ドン・キホーテは再び手を掲げると、その手の平へ血が集まり、鋭い槍が生まれる。
「残念だな。お前が作ってくれた槍は、ここまで粗末じゃなかったのに。だが、お前の脆い...とても脆い時計を壊すには十分だ。」
『...』
「やばい...!ダンテ...んべっ!」
誤差程度でも、盾になるために走り出そうとしたところで、一歩目から盛大に転んだ。
足元を見ると、私の穴が空いた腹からは細長い内臓がこぼれていて、それを踏んで転んだらしい。
「アリスさんだめですよお腹に穴空いてるんですから。安静にしていないと。」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
折れていない腕で私を引き寄せるホンルに噛み付くように吠えるけど、緩む気配は無い。
「大丈夫ですよ。」
「...は?」
「ドンキホーテさんならきっと、大丈夫です。」
意味の無い根拠へ噛み付く前に、ドン・キホーテの手の平から槍が射出された。
『......やっぱり...ダメだったんだろうか...』
折れ、諦めたように項垂れるダンテ。
きっとあれは、ダンテの頭を貫いたあと、その勢いのまま後ろの私たちまで肉塊に変えるんだろうね。
いつもと違う、はっきりとした死の匂い。
『...!』
それが、血の槍と共に霧散した。
「諦める時間は...」
ぼろぼろになったドンキホーテがダンテの前に立ちはだかり、槍を受け止めていた。
「そなたが...決めると言ったでは、ないか...」
いつも無鉄砲に突撃して遠くにあった背中が、今は私たちを守るために、私たちのすぐ側にある。
ドンキホーテはついに槍を弾き落とした。
「かつて吾を守った背で他人を守っているのは残念だが...その槍を防ぐのは感心だ。しかしサンチョよ、これからどうするつもりだ。もう吾を止める余力など、残っていないはずだが。」
「戦い続けるつもりです。まだ、終わっていないから。」
「...吾がここでお前の冒険を終わらせずとも、病はいつか、お前を馬から引きずり落とすだろう。」
「分かっています。それでも...誰かにとっては演劇のように見えるとしても...目的地に辿り着かないとしても...私の行きたい方向へ...そうして物語が続くのなら...」
「それが私の、あなたの夢になるでしょう。」
その言葉は、ドン・キホーテの淀んだ瞳に微かな光を灯した。
『道は私が照らしてあげる。だから行ってもいいんだ。君が行きたい方向へ。』
「...征ってくるぞ。」
ダンテに背中を押されたドンキホーテは、そのまま揺らぎない足取りで歩みを進め、止まる。
「...サンチョ...俺...良いアイデアが、浮かんだ...」
「今度はまた...なんですか...」
「ここには、吾らを止めてくれるバリがいないから...どちらの言葉が正しいか確認するにはやはり、この方法しか思い浮かばないな。」
ドン・キホーテは静かに佇む。
「吾と共に...槍をぶつけるのだ。吾の後ろには家族がいる。吾には家族のために晩餐を開き続ける慣性が残っている。ラ・マンチャランドという回転木馬はその場を回るだけだが、その速度によって簡単には止められないのだよ。」
ドンキホーテにも、彼が何を言いたいのか分かったらしく手が震えた。
「しかし吾が持つ天性と責任の重さを打ち破ることが出来たのなら...それは、君の夢の方がより強いということではないか。君の夢の強さ、強大さを...吾に、見せておくれ...」
「相変わらず...子供っぽいですね。」
「子供っぽいほど面白いと...言ったではないか...」
「......は、あっ...」
昔のようなため息も、今は震えて、かすれていた。
「我が名は...キホーテ!ドンキホーテ!この槍で、幼稚で荒唐無稽な夢を...終わらせん!」
ドン・キホーテは槍を生み出し高く飛び上がって、ドンキホーテ目掛けて落ちていく。
「私はサンチョ!この槍で、膿み腐った怠惰な夢を終わらせてみせます!」
そしてドンキホーテ...サンチョもまた、落ちてくるドン・キホーテを迎え撃つように飛び上がる。
二人の槍がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃波がこちらにまで飛んできて、それはラ・マンチャランドに差していた雲すらも跳ね除け、二人の後ろには真っ白な月が現れた。
「夢に至ることが出来なくても...!」
サンチョの夢を試すように、ドン・キホーテの槍がサンチョの槍を押す。
「至れる時まで...!」
サンチョの槍が燃えるように赤熱し、ドン・キホーテの槍を押し返す。
「私は最後まで...!」
炎のような熱さは、いつの間にか黄金の枝に近い黄金色の光となって、槍に帯びる。
「いや...我は!最後まで駆け抜けて征きまする!!」
完全にドン・キホーテの槍を押し退けると、サンチョの槍は、ドン・キホーテを貫いた。
ラ・マンチャランドが崩れていき...最終的には、何も無いまっさらな広場が戻ってきた。
ごくわずかな時間で時計を回してくれたみたいで、囚人たちの負傷はある程度まで回復していた。
それから...
「あ...あぁ...ドンキホーテ様...」
固い土の上に倒れるドン・キホーテと、それを泣きそうな顔で見つめるサンチョ。
「...キホーテ...」
「!」
「ドンキ...ホーテよ...本当、なんだな...君の夢は...冒険は...ずっと、続いていたのだな...」
諦観に包まれた言葉だけど、どこか楽しげだった。
「吾の残した靴を履いて...残らず全て、話しておくれ...都市の空で、君の夢がどれほど、輝いていたのかを...」
「...いえ......私たちの、夢です。」
夢が受け継がれたことに、満足そうにドン・キホーテは目を閉じた。
「我が名は...キホーテ!正義のフィクサー、ドン・キホーテ!」
その宣言を終えたドンキホーテの手からは鉄の槍が落ち、からんと音を立てる。
「うわあぁぁん...ドンキホーテ様ぁ...うわああぁ......」
ドンキホーテの涙を流すように、赤い雨が降る。
朝日に照らされて、ドンキホーテは靴を履き...それは、ぴったりとドンキホーテにはまった。
「当人は...この旅路の中で...13人の家族と、出会ったのだ...幾多もの悪を懲らしめ、正義の行いをし...一瞬たりとも諦めなかったのだ...」
ドンキホーテは、自身の膝で眠る白髪の血鬼に語る。
「そしてついに...あなたの夢を理解したが故に...これからも、その高く遠い夢へ向かって、冒険するのである。」
血鬼は何も言わず、黙ってドンキホーテの話を聞いていた。
「もう一度挨拶してしんぜよう...」
白髪の血鬼は何も言わなかった。
何も言わず、ただ満足そうに呼吸の音を止めただけだった。