Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
森を包む暗闇は私たちが外を目指す度に深く、より重く沈んでいく。いや、私たちはこの外に向かっているのだろうか。でも今は、走るしか無かった。
もう今や、足元しか見えていない。時折誰かに背中を押され、前方の足音についていくしかなかった。
後ろからは相変わらず、あの小鳥であろう生き物のくちばしが開閉する肉々しい音が聞こえてくる。
「ふふ、こうしてると、大湖でのことを思い出しますね〜。皆さん覚えてますか?ほら、エンジンが壊れて...」
「ねえ今その話必要だった!?噛むよ!?」
「なに道連れにしようとしとんの?」
「ねえ、まだ着かないの〜...?もう、十分は走ってる気が...」
「黙って走れ雑踏共が!!」
「この速度が維持されるものと仮定するならおおよそ三分半前後でこの森を抜けるでしょう。」
「いいね、ラストスパートかけちゃう?」
「ま、マラソンじゃ、ないんです、から...!」
「デスマラソンやな。」
「なんですかデスマラソンって!!げほっ!ごほっ!」
「ナイスツッコミ。うちの事務所こおへん?ツッコミ担当にしたるわ。」
「ツッコミ担当ってなに...ぅげほっ!!」
「ダンテ!シンクルが貶められそう!」
〈緊張感無いな...〉
「管理人殿!!足元にご注意くだされ!!!!」
〈え?あしも...うわっ!?〉
なにかに躓いた。
後ろにいたらしいドンキホーテに支えられて再び走り出した。なんだったのか、と確認する暇もなく背後の暗闇に溶けて行った。
〈た、助かったよ。〉
「これしき当然のことである!!ただどうしてもお礼をしたいというのならだな、都市に戻った時にすこぉしばかり、すこぉし......贅沢は言わぬゆえ、三段ほどのアイスクリィムを...」
「自分たちがアイツらのおやつにされそうな状況でよく言えるね!?」
「うぐぬ...!も、もちろん冗談ではないか。当然の行いに見返りを求めるなどフィクサーの風上にもおけぬからな!!」
「見返り求めてやるんがフィクサーなんやけどな。」
「チェーちゃんシッ!黙ってて!」
緊張感の無いやり取りの中走り続けていると、ようやく出口が見えてきた。
暗闇の中に一つの光が差し込んで......あれ?
...みんな、出口を通り過ぎてないか?だって...すぐそこに...
「テメェ死にてぇのか!!」
怒声とともに首を掴まれ引き寄せられると同時に、目の前で見えていた光が閉じた。
血と肉が混ざった生臭い臭い。
それが、あの大きな鳥の口臭だと気付くまでに数瞬の間があった。
「デカブツ!こいつ運べ!」
体を襲う浮遊感。受け止められる感覚。視界が高くなり、上下に揺れる。
先程よりも、森は明るかった。
小鳥にフルスイングしたヒースクリフと、大きな鳥に槍を突き刺していたドンキホーテも走ってきた。
「如何されたのであるか管理人殿!!突然立ち止まったかと思えばふらふらと火に飛び込む虫のようであったぞ!?」
〈...〉
前方にいたグレゴールが傷ついた顔をしている気がした。
「ハナっからこうしときゃよかったな?尻尾巻いて逃げる必要なかったじゃねぇか。」
「誰の尻尾が巻いてるって?」
「テメエにゃ言ってねぇよ!比喩だ比喩!」
「管理人様、ご無事ですか。」
〈...うん。ありがとう。〉
「じきにこの森を抜けます。最後まで油断なさらないように。」
〈...走ってるのはムルソーだけどね?〉
後ろからはまだ追ってきていたけど、さっきよりは遅かった。
視線を前にやると、光が見えた。あの怪しい光じゃない、暖かい太陽の光だった。
───どこかの花畑───
森を抜けると、花畑...いや、もはや平原のような花が一面に咲き誇る広い場所に出た。
赤と白の花が覆い尽くすどこか幻想的な光景と...
「ぅ...」
「...うぷっ...」
真っ青な顔をしたロージャとシンクレア。
〈...どこに青くなる要素があったの?〉
「ち、ちが...」
「ここに放り出された瞬間から青ざめていた軟弱な囚人というだけです。思慮頂く必要はありません。」
〈......いきなり知らない場所に放り投げられたら普通青ざめないかな?〉
「そ、そういうことじゃ...ありません。」
「......ふう...なんとか落ち着いてきた...今の、ムルもわかったよね?」
「はい。」
「.........えっと...はいだけ?」
「心臓を含む全ての内臓が反転し頭頂部から指先までの全ての血液が逆流するような違和感。」
前と全く同じことを答えた。
「む、ムルソー君の体や安穏なる...?」
「問題無い。」
〈それで、えっと...どこで目を覚ましたの?〉
私の問いかけに、私と一緒にいなかった囚人たちの視線が同じ方向に向いた。
まるで、その方向を見ればすぐに分かる、とでもいいたげな...
〈...あそこ?〉
視線の方向...遠くにある巨大な樹を指さすと見ていた囚人たちの大半が頷いた。
〈だよね。〉
うん、ひと目でわかった。
「なんて言えばいいんだろうな...いかにも『ここまで来たらなにかありますよ』って顔してるよな。あの樹。その何かってのがろくでもない可能性があるってだけが心配だけど。」
「ゴキのおっちゃん略しておっちゃんは何をぶつくさ言うとるん?」
「...二回目だな?さすがに俺も一言......略してるか?今の。」
「細かいこと気にしとるとハゲるぞ。」
「はげ...」
またグレゴールの心が折れる音がした気がする。
「...なあ旦那、俺はまだ余裕あるよな?まだハゲって歳でもないし...な?大丈夫だよな?」
〈私に言わないでよ...ハゲるものがないんだから...〉
「ねえ、とりあえずあそこ行かない?くだらない話をしてないでさ。」
「くだらなくなんか...」
「くだらねぇだろ。」
「......」
「ふっ。は・げ。」
「い、今のは...!え、えっと...『中途半端より思い切りがある方が可愛げがある』...です!」
「いやいいんだ...そうやってフォローされると、余計惨めになるんだからな。」
「そうなの?じゃあ思いっきり毟っていい?」
「それは違うんじゃないかなぁ。」
「緊張感無い集団やなぁ...危機感足りとらんとちゃう?どないな事あっても即対応できるようにせなな〜。」
「......爪の手入れしながら言われても、説得力にかけるんだけど。」
「お?なんや?やるか?」
「はぁ?勝てないから絶対嫌だけど?」
〈喧嘩腰なのに弱腰なんだ...〉
「ほ、本当に二人って、仲がいいんですね。今までも個人の知り合いと顔を合わせたことはありましたけどそのどれもがどこか緊迫した空気で...なんだか二人は、安心できる、というか。」
「ええこと言うやんひよこ君。」
「ひよこ君!?」
「言・妙。ぴいぴい喚くとこがそっくりじゃないか。」
「ひ、ひよこ...」
「早くにわとりになってね。その方が食べるところ多いから。」
「慰めるならちゃんと慰めてください!」
〈...馴染んでるなぁ、チェシャ。〉
まるで長い間このリンバス・カンパニーに...メフィストフェレスにいたような馴染み具合だった。
軽薄でからかうような態度とは裏腹に、線引きをしている。囚人たちの触れてはならない箇所は避けている気がした。
小さく見えていた樹もだんだんと大きくなって......
〈...え?〉
大きく......いや、大きすぎじゃないか?
K社のビルよりもずっと大きい。見上げると首が痛くなる。
でも見上げた先に開いた鮮やかな...でもどこか儚い薄紅色の花をもっと見たいと思ってしまう。
いや、それよりも...
〈あの樹の...洞に、なにかある。〉
「え?なにかってなんですか?......えっと...この、地獄の底まで繋がっていそうな深い穴が?」
イシュメールが正気を疑う目で見てくるけど事実だから仕方なかった。
「ひとたび入らば出られまじ深さなれど。」
「管理人様...疲労の限界に達したのですね。管理人様の貧弱さを考えれば仕方の無いことです。少しの休息を取りましょう。」
〈......違うもん...〉
「でもさでもさ、こんなのどかな景色都市じゃ絶対見られないんだから、今のうちに堪能しない?ね?」
「...ま、手がかりなんざこれっぽっちもねぇってのに騒ぎまくるだけ無駄か。行く時んなったら起こせ。」
ヒースクリフに至っては完全に昼寝の姿勢に入った。
口々に休み始めた囚人たち。
...でも確かに、ずっと歩くか走るかしていたせいで思い出したように疲労が滲んできた。
〈わかった。少しの間休憩にしよう。ゆっくり休んで。〉
私がこう言ったところでもう遅いんだろうけど。