Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
───旧L社支部情報部門───
「ほいここは情報部門〜。ただの通り道やで紹介はちょい待ってな〜。」
相変わらず呑気な口ぶりで案内するチェシャ。
それから...
「なんでもない日バンザイ!」
「なんでもない日バンザイ!」
「一体誰の?」
「君のに決まってるだろ!」
「それだったら君だってそうじゃないか!」
「「ハッハッハッハ!」」
この部屋の真ん中で堂々とロングテーブルに腰掛け、意味の分からない言葉を叫びながら茶を飲んでいる二人。
片方はくたびれた紳士服のような格好で、片方は私服としては派手でパーティーにしては地味な色合いをした格好。
〈.........〉
「あの...あ、あれは...?あれも、そ、その例のチーフ、なんですか?」
「ロボトミーコーポレーションN社支部の妖精かなんかやろ。見えん見えん。アリスちゃん行ったらあかんでうちとおてて繋ごか。」
「バカにしないで。私、最低限の落ち着きはあるんだから...」
「そっちやなくて。」
「なんでもない日...何もないのにパーティーしてるの?あら...いい匂い。」
「そっちや!そっち!」
〈......大変そうだなぁ。〉
「じゃあ見てないで手伝ったらどうなんですかね?」
〈いやそれはちょっと...〉
「その通りです。管理人様のお手を煩わせるまでもありません。」
「...?あぁだめだめ!席がないじゃないか、座っちゃだめだよ。招待状もないくせに。」
「席ならたくさんあるじゃない。一つぐらい...い、痛いっ...!痛いわ兵隊さん!腕を引っ張らないで!」
〈ちょっと強引じゃない?〉
「言っても聞かぬ愚か者にはこれが適切です。いやむしろ慈悲深い対応まであるでしょう。行きましょう管理人様。」
〈えっ、あ...うん。〉
「案内するのうちなんやけど。」
「今のうちに慣れとけ。あれはあーいうヤツだ。」
「またね!帽子屋さん!もう一人のうさぎさん!」
〈もう変なあだ名つけてる...〉
───旧L社支部安全部門───
緑色の暖光だけが灯る部屋だった。
入った瞬間、むせ返るような煙の匂いが肺に入り込む。
「相変わらず副流煙やっとるなぁ。」
視界がぼやけるような濃い藍煙の中を歩いていくと、それの発生源にやってきた。
その人物は物憂げな目つきでファイルの中身を見ては何かを書き込み閉じたら別のファイルを引っ張り出して同じことを繰り返していた。
「......」
「話聞いとる思うけど、こちらリンバス・カンパニーの人らや。名前は知っとるよな?さすがに資料見とるはずやもんな。同じL繋がりで仲良くしたってや〜。ほら自己紹介、自己紹介。」
その人物は一つ手に持っていたタバコを吸い込むと、アルファベットのYの形をした煙が出た。
「なぜやないわ。他の奴ら話聞かへんのわかっとるやろ。一人ぐらいちゃんと話せるやつおらんと不安にさせてまうがな......酒臭っ!何飲んどんねんお前!」
「ロボトミーコーポレーションの勤務体制って、一体どうなってるんですか?酒、タバコ、あと話によればエンケファリンも摂取してるって...」
「こっち見ないでよ。さすがに私のとこにも仕事中に酒飲むような人は───」
またアリスが固まった。
「...?スノウ?」
固まったアリスをアリスが持ち上げて上下に振っている。
時折、以前のことについて尋ねると固まる頻度が増えてきた気がする。
気のせいだろうか...ただ忘れたものを掘り起こそうとしているだけならいいんだけど。
「......いなかった、はず。」
「なんだそりゃ。つってもまあ、そんなわけわかんねぇ奴が居たら覚えてるよな、フツー。」
「あと揺らさないで。」
「スノウ!良かったわ気がついたのね!」
「まあこんな感じ。愉快やろ?あ、こっちの子は例の新人ちゃんやで、リンバス・カンパニーとの契約終わっても残ってるでな。もっと仲良くしたって。」
興味を持ったようにアリスを抱えるアリスを一瞥すると、再びアルファベットの煙を吐く。
W、A、U...
「『お・だ』か。」
「......?...あっ。『お前は誰だ』...です。」
「なんやこの二段階認証。ワンクッション挟む必要あった?」
何人かの囚人たちが目を逸らしたような気がする。
ただアリスは嬉しそうに、花が咲くように笑うと頭を下げた。
「私、アリスです!そしてこっちはスノウドロップ!」
「......聞いていた話と違うようだが。」
「この子が勝手に言っとるだけや。ま、このちんまい珍しい施術受け取る子も同じ名前やしちょうどええんやな...ッタァ゙!?!」
へらへらと笑いながらアリスと小さいアリスを交互に指さしていたチェシャの指が小さいアリスの牙がびっしり生えた口の中に消えた。
「あ待ってアカンアカンアカン指なくなってまうちょマジマジエンコつめたみたいんなってまぁだだだだた!!」
「いじわるするからよ!これに懲りたらスノウには優しくしてあげる事ね。」
〈...なんか、アリス楽しそうだね。〉
「ふふ、そうですね〜。いつも賑やかで楽しそうな方ですけどね。」
〈あ、いや、囚人の方。〉
「うぅむ...誤った名で呼ぶのさ言語道断ではあるが...だが...現に、どちらのことを指しているのか上手く区別が付かぬのは今後の活動としても悩ましい障害ではあるまいか?」
「例うるならば戦中や非常時、本来呼びかけし方とは違われし方が反応する可能性もあり。それが切羽詰まりしシチュエイシュンならばいかがなるや。」
「そ・と・そ・と*1だろ。」
〈アリスは...〉
「ブルルル...!グガルルルル...!」
「ホンマ!ホンマアカン!!取れる取れる取れるぅぅ!!!」
「あはっ、いいわスノウ!やっちゃいなさい!」
〈...まだかかりそうだね。結局、この人の名前聞けてないし...〉
「どうします?案内する、なんて言ってた人間があのザマですけど。」
「トバム。」
〈え?〉
「自己紹介なんてどうでもいい。する必要も無いじゃないか。はち切れた蕾が撒き散らす匂いに比べたら...全部...器用に手招いて小魚たちを優しく口に誘導してやる方がよっぽど...」
「......しっかりキマってやがんな?」
「どうなってるんですかロボトミー・コーポレーションは...」
イシュメールは目眩がしたかのように頭を抑えていた。
それでも視線の先の人物は煙を吐き出しながら手に持っていた書類を処理していた。
「そなたもまた...翼を望みしや?」
「あったかもね、そんなこと。でももういらないのかもね。光る子鰐の尻尾だったかもしれないし、ちぎれやすいブリキの爪だったかも。」
「個人が重んじし感情は幾多枝分かれせり...されど末端が不要と問われればそれもまた否と答えれり。」
「な...なんか、仲良くなってませんか?」
「ひい...ひい......助かった...ギリ繋がっとる...こんなもん舐めときゃ治るよな...?いやぁすまんすまん、話はしとるか?いやまあそいつが自分から話すわけもあらへんか。しゃあないしうちが───」
「ふう...話してある。必要最低限。」
「...それホンマ?」
「嘘は......はあ、つく理由がない。」
明らかにうんざりとした様子で息をついては手に持っていたタバコを吸い込んだ。
「チェーちゃん嫌われてるの?まあ納得だね。文句のつけようもない。」
「こっちのアリスちゃん可愛くないんやけど。いやいやまさか、うちらも結構長くやってきとるんやで?それこそうちら、結構初期の職員で......なぁ?」
「いいや。青虫とドングリのようなものだね。」
「どんだけうちの事嫌いやねんお前!」
〈仲悪い場合の例えだったんだ...〉
「はーもうやっとれんわ。みんなかて副流煙で燻製なりたい訳やないやろ?ほなもう次行こか。さっきのやかましい奴らんとこ。」
すっかりへそを曲げたように...やけに子供っぽく頬を膨らませていた。
子供よりも子供らしい振る舞い。あれが...チェシャなのか?
確かにバスにいた時も変なノリや意味の分からないふざけ方をしていたけど...少しだけ違う気がした。
───旧L社支部情報部門───
「...んぁ?誰もおれへんやん。」
さっき通りがかった場所は墓場みたいな静寂に包まれていて、でもかすかに残った紅茶と砂糖の甘い香りだけがさっきの痕跡を伝えてきていた。
「作業でも入ったか?んー...まあええか。全部見せるつもりやけど、全員と話させたら初日にしちゃカロリー高すぎやろし。」
「カロリー?私、太りにくい体質なの。」
「そういう意味やないんよ。比喩とかわからん?」
相変わらずのアリスにチェシャが深くため息をつく。
掴みどころのないアリスに四苦八苦しているのが目に取れて、なんだか気の毒に見えた。
「情報部門のチーフはハートン言うて...あの帽子かぶっとったヤツ。覚えやすいよな?ハットのハートンなんつって。」
〈...〉
「「「...」」」
前言撤回。もっと苦しんで然るべきだと思う。
「ごめんて。んでもう一人はマーチな。でも誕生日は四月らしいで。」
〈ねえ最後の情報いる?〉
「何を言うか管理人殿!その者の人となりを知るのは何よりも大事なことであろう!」
「人となり知ってどうしようってんだ。マトモに話せるツラじゃなかったろ。」
「うぐ...そ、それはぁ〜......」
〈ドンキホーテはせめて擁護してあげようよ...〉
「どのような意図を持った発言なのだそれは?」
「ふと思ったんですけど...チェシャさん、ロボトミー・コーポレーションって、こんなに人が少ないんですか?事務職員とはいくつかすれ違ってますけど...翼の支部にしては...」
イシュメールから投げかけられた疑問にチェシャは数秒固まってから思い出したように手のひらに拳を落とした。
「L社ってエネルギー生産の会社やけど、実態はアブノーマリティっちゅうバケモノのご機嫌取りでエネルギー出しとんのよ。」
囚人の何人かは露骨に『知ってる』とでも言いたげな表情をしていた。
でもきっと、当時の社外の人間からしたら想像もできなかったことなんじゃないのかな。
「この支部でもエネルギーは作っとる。せやけどメインは別。」
「別?」
「おう。アブノーマリティの生成と実験。それから本社や他支部への出荷やな。」
「...げん...アブノーマリティを、生成?」
「はいそれ以上は特異点に関わるからだめ〜。ま、作業に入るとしてもアリスちゃんだけやし、リンバス・カンパニーの人ら契約書通り、
もしもの時...幻想体が脱走した時?
「それ、私たちいる?」
「いるいる!人手不足極めとるもん!鎮圧係おらへんもん!」
「猫かぶりすぎでしょ。どの口が言って...」
「初対面の毛玉にここまで言われる筋合いないんやけど。うちが言えたことやないのはわかるけど、ちょい図々しいなぁ。」
「あ...」
この空間では私たちが一方的にチェシャのことを知っているだけだった。
忘れていたそれを思い出した時のアリスの目はどこか...迷子の子供のような孤独感が滲んでいた気がする。
「施・案は終わりか?まだ続くならさっさとしろ。頭・切されたくないならな。」
苛立っているような声をしていたけど、口に咥えているタバコはただ火がついているだけで吸われていなかった。
「あ、まだ下があるわ。ほな行こ行こ。」
「......」
パッとここ数日で見慣れたへらへらとした顔でエレベーターのボタンを押すチェシャから離れた場所にアリスは座っていた。
そしてそれを、良秀が持ち上げた。
「ちょ、何!?」
「あ・き・た。」
「『歩けないようならきっちり抱えておいた方が良さそうだな?』良秀さん、優しいんですね。」
「......違う。略してない。あまりにも退屈でコイツを持ってるほうがインスピレーションが働くだけだ。」
「隠す必要はないと思いますよ?すごく立派で───」
「ド・割。」
「...ご、ごめんなさい。」